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7話 紛うことなき城塞都市

第7話です。よろしくお願いします。

 「マヒロさん、見えてきましたよ。あれがグラヴィーナです」


 俺たち旅の一行は、グラヴィーナにほど近い、丘のような場所を進んでいた。御者席に顔を出し、指し示された方へ目をやると、見下ろすような景色の中に街が見えてきた。なんとまあ、すごい。言葉だけ知っていたが、紛うことなき城塞都市ってやつだ。高さ5メートルくらいの壁がぐるりと街全体を取り囲んでいる。石材で建てられているのだろうか? 俺から見て右手の方に見える川を街に引き込んでおり、川の水を利用した水堀が陽の光を浴び、キラキラと輝いて見える。どれだけの期間をかけたらこれだけの物ができるのか感心してしまう。現代日本では考えられない都市建設計画だな。魔物に生活圏が脅かされるこの世界ならば当たり前なんだろうが。ぽけ〜と口を開けて見入ってしまった。


 「すごいですねロランさん! 大きな街だ!」


 「グラヴィーナはダンジョンもありますし、ヴィクトル王国でも指折りの大きな街なのですよ。さあ、もう一息ですね。着いたら街をご案内しましょう」


 ロランさんは馬車の速度を上げる。ゴブリンの襲撃があった日からここまでは、トラブルもなく順調な道程だった。国境越えも、ロランさんが関所の様な小さな砦で、少し手続きをしただけですんなり入国できたのだ。ここ数日で、だいぶロランさんとも打ち解けてきた。もはや友達と言っていいと思う。異世界初の友人だ。日本での友人は1人だけいたのだが、いなくなってしまったからな。そう考えると、ロランさんが唯一の友人かもしれない。友人関係などは築くのは難しいのに、壊れるときは一瞬だからな。できるだけ大切にしようと思う。命の恩人でもあるしな。


 日も中頃を差してきた頃、やっとグラヴィーナの城門に到着した。あっという間の2泊3日、人生初の馬車旅だった。街へ続く入り口には人の列ができていた。街に入る人の列だろうか? 街に入る際には簡単な手続きがあるらしいが、特に何もしなくていいと言われているので、大人しく幌馬車の中から顔だけ出して辺りをキョロキョロと観察していた。


 

♢♦♢



 大体、30分位待ったとこで、ようやくグラヴィーナに入ることができた! ロランさんから、カードサイズのプレートを渡され無くさないように持っていてくれと言われた。これが滞在証になるらしい。


 俺達が通った門は、西門だったらしく門を潜ると、馬車などが行き来できるようなロータリーのようになっていた。街の建物に目をやれば、レンガ造りの建物が多く、非常に調和のとれた街並みだった。


 ロランさんの説明によると、グラヴィーナは4つの区画に分かれていて、ここ西区画は鍛冶や建設、モノ造りに携わる人々が工房等をかまえる職人区画、南はこの街の住民が住む居住区画この中の1画は貴族街らしい。東には商業区画がある。そして北は、お待ちかねのダンジョン! そして、歓楽街! 冒険者向や旅人向けの宿等がある歓楽区画となってるらしい。ダンジョンもあれだけど歓楽街も魅力的だよね。夜の街。ちなみに貴族街には近づかないようにと注意された。


 「マヒロさん、ひとまずは私の懇意にしている宿に行きましょう。マヒロさんの泊まれるとこを確保しないといけませんからね。もちろんお代は私が出しておきますから」


 爽やかスマイルのロランさんが、歓楽区画にある宿に案内してくれるようだ。流石に宿代まで出してもらうのは気が引けるな。コショウの取引が終わったらお金は返そう。あまり借りすぎるのはまずいからな。


 「わかりました。宿代はひとまずお借りしますが、後で必ず払いますからね」


 「いいんですよ? 私がしたくてやっていることなのですから。気にしないでください」


 「いやいや、タダより高いものはないといいますからね」


 「ほう、中々に確信を突く言葉ですね。ですが、私達は友人ではないですか。なにか困ったことがあれば助け合うのが当たり前ですよ。だから気にしないでください」


 どうやらロランさんの中でも友人までグレードアップしてたみたいだ。これで俺の友情は一方通行じゃなくなったな。ただ、ロランさんの笑顔の裏に何かあるような気がしてならない。考えすぎだろうか? 


 「そう言って貰えると嬉しいですが、早く自分の分は自分で稼げるよにならないとまずいですからね」


 「それもそうですね。ただ何かあれば言ってくださいね。力になりますから」


 しばらくすると、ロランさんの案内してくれる宿が見えてきた。馬車を止め、降りて宿を見上げると、3階建ての立派な宿だった。宿泊代がお高そうな宿だな。ロランさんはお金持ちなのか? 冒険者パーティーのボントスさん達とはここでお別れだ。別れの挨拶をするとさっさと行ってしまった。旅の仲間だというのに随分あっさりとしたお別れだな。冒険者というのはこういうものなのだろうか。寂しい。


 宿の1階は食堂のようだ。ロランさんが宿泊の手配を済ませてくれて、鍵を渡してくれた。部屋は3階の一番奥の部屋だそうだ。


 「それでは、私はこのまま積み荷を卸して来ますので、マヒロさんはお疲れでしょうから部屋でゆっくりなさっててください。夕食の時間に部屋に、お呼びに伺いますので」


 わかりましたと頷くとロランさんと別れて部屋に向かう。おお、いい部屋だな。ちょっとしたビジネスホテルみたいだな。なんとこの宿にはシャワーがあるらしい。俺は家で風呂はいるから別に使わないけどね。それでも、この文明レベルでシャワーとか、アンバランスな気がするな。


 ベッドにごろんと寝転がり、これからの予定を立てる。まずはコショウの取引でお金を手に入れないとな。そのお金でこの世界の服を買おう。街の人と比べると明らかにおれの服装は浮いてるからな。それと図書館に行って色々調べないとな。ダンジョンにも行ってみたいが、俺の戦闘能力で行っても自殺しに行くようなもんだろ。ゴブリンに押し倒されるくらいだからな。興味本位でいくのはやめておこう。宿はしばらくここでいいだろう。綺麗だしな。お金に関してはロランさんと、なにか取引をして稼げばなんとかなるだろう。後は、日本でも稼げる方法も考えないとな。せっかく行き来できるんだから。


 思ったよりも俺は疲れていたらしい。目を閉じると、すっと意識を手放し、深い眠りについていた。



♢♦♢


 明かり取りの窓から差し込む朝日を浴びて、だんだんと意識が覚醒していく。


 「知らない天井だ」


 1度は言ってみたいセリフベスト10に入るセリフを言いながら目を開け体を起こす。え? 朝日? あれからずっと寝てたみたいだ。あ、ロランさんと夕食の約束してたな。完全に寝過ごしたな。後で謝らないと。


 スマホを取り出し時間を確認するとAM6時を回った所だ。旅の間、ロランさんに聞いた所、この世界も24時間らしい。ちなみに、1ヶ月30日で、10日ごとに前月、中月、後月と呼び、年12ヶ月360日で、1年の終わりに5日間の降臨の月と言う期間があり、5日間お祭り騒ぎをして祝うのだそうだ。なんでも昔に神様が降臨したとかしないとか。


 喉が渇いたので、水でも貰いに行こうかと部屋を出ようとした所でコンコンとノックの音。


 「マヒロさん、起きてらっしゃいますか?」


 ロランさんのようだ。ハイと返事をしながら扉を開ける。

 

 「おはようございます。昨夜は疲れて眠ってしまったみたいで、夕食誘ってくれたのにすっぽかしてすいませんでした」


 「いえいえ、部屋に伺ったのですがお返事がなかったので。馬車移動で疲れていたのでしょう。それより、お腹は空いてませんか? 朝食の用意ができているのようなので、行きましょうか」


 そういえば、夕食を食べ損ない、ここ数日の食事は日本から持ってきたおにぎりだけだったことを思い出すと、急にお腹が減ってきた。ロランさんについて1階に降りると、用意ができていたようだ。席について頂きます、朝食をぱくつく。メニューは白パンにスープ、肉の燻製、味はお察し。全体的に食材の味がメインだ。香辛料少ないね。旅の間ロランさんたちは硬そうな黒パンを食べていたから、それしか無いのかと思っていたが、白パンあるんだね。


 あまりにもお腹が空いていたので、毒などを警戒するのを忘れていた。普通に食べちゃったよ。まあ、ロランさんは信用できそうだしいまさらな話だな。やろうと思えば、毒とかじゃなくて武力行使もできただろうしな。朝食もスープとパンをお替わりして満足したところでテーブルを綺麗にしてもらった。食後に紅茶のような何かを入れてもらう。うん。飲んだ感じこれ紅茶だな。


 「朝食も終わりましたし、そろそろ商談といきましょうか」


 紅茶に口をつけたところでお仕事の話だ。ロランさんは俺がぐーすか寝ている間に、荷物を卸したりとお仕事を片付けてきていたらしい。


 「わかりました。コショウとってきますんで、ちょっと待っててください」


 席を立ち、コショウを取りに部屋に向かう。


お読み頂きありがとうございますっ!

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