4話 貨幣価値がよくわからない
第4話です。よろしくお願いします。
「すいません。先ほどのお話を聞かせていただいていたのですが、少々よろしいですか?」
声のする方へ顔を向ければ、爽やかスマイルの金髪碧眼のイケメンがいた。白のカッターシャツのような上着に、綿の黒いパンツに革のブーツ。歳は20代半ば位だろうか、高級そうな外套を羽織っている。整った見栄えだ。どことなく気品がある。
「すいません。先ほどギルドでゲーガス商会の方とやりあってるのを聞いていましてね、コショウをお持ちだとか? よろしければ少しお話させていただけませんか? 私は行商をやっています、ロランと言う者です」
行商のロランと名乗る男は優雅に頭を下げる。先程のゲーガスと違って随分物腰が柔らかい。
「はぁ、コショウを買ってもらえるとかでしょうか?」
「コショウの話も含めて商談させていただけませんか? ここではなんですので、どこか落ち着ける所でいかがでしょうか?」
うーん。どうしょうか。だいぶ穏和な雰囲気だし話聞いて見るくらいはいいかもしれない。コショウを持て余してどうしようかといった所だったから渡りに船か。
「わかりました、マヒロと言います。これから商人ギルドに登録しようと思っていた駆け出しです」
「よかった。では、私がを知っている店があるのですがそちらでいかがですか?」
店なども知らないので首を縦に振りロランさんの後に付いて行く。
♢♦♢
ロランさんに案内された店はこじんまりとした酒場兼食事処のようだ。日が暮れてくると冒険者達などに人気の店だとのこと。
「いきなり声をかけて驚かせてしまいましたかね?」
ロランさんがエールを俺の分まで頼んでくれた。お金が無いと言ったらおごってくるれるそうだ。ビールとは違い少し酸っぱいのか?あまり酒は飲まないのでよくわからないが。
「いえ、正直ギルドで売れなかったのでどうしようかと思ってた所なんで渡りに船ですよ。それにしてもギルドってどこもあんな感じなんですかね?」
「それがですね、あまり声を大にしては言えないのですが、このピエタの町の商人ギルドとゲーガス商会はつながりが深くて」
聞いた話はこうだ。ゲーガス商会はこのピエタの町を収める領主に多額の賄賂を渡しており、この町で商売をするにあたって便宜を図ってもらっているそうだ。更に自分の子飼いの人間を商人ギルドに潜り込ませこの街でほぼ独擅状態で商売をしていると。貴族などいるのだから封建制度なのだろう。癒着し放題だな。この領主が収める領地は税率も高く、なかなか暮らしにくいとのこと。賄賂などを贈れる一部の人間で冨を独占しているのだそうだ。まあ、封建制度ならどこも多かれ少なかれ同じだと思うが。そう考えればギルドの建物以外に特に大きな建物などなかったような気もするな。
「なるほど〜。この町ではゲーガス商会に逆らえばギルドなどから横槍が入って商売を邪魔されたりという訳ですか。それじゃあこのコショウはこの町だと売れないのか。だからあんな態度だった訳か」
「ええ。ゲーガス商会の会頭はやりたい放題してますよ。私も行商の合間に立ち寄ったのでギルドで相場など確認したのですがめちゃくちゃでしたね」
そんな有様なのによくこの町に住んでる人達は我慢できるな。
「領主やゲーガス商会などは、領民や住人を生かさず殺さずといったとこでしょうか。他にもっと酷い領地などもありますよ」
ロランさんが行商で入った先の領地ではもっとひどい所もあるらしい。この国大丈夫なのか?国なのかわかんないけれども。まあ1部の人間が冨を独占するのはどこの世界でも変わらないのだろうか。恐るべきゼロサムゲームだ。
「それでですね、先ほどのコショウ拝見してもいいですか?」
コショウを1瓶テーブルに置きロランさんが手に取る。他の瓶はスーパーの袋に入れて持ってきている。
「なるほど。素晴らしいですね。これは貴族などが欲しがるでしょう。よろしければ1瓶、銀貨5枚で売っていただけないでしょうか?」
銀貨5枚か、いい値段な気がする。貨幣価値がよく分からないが。商売人失格だが素直に聞いてみるか。どうせコショウなどいくらでも買って来れるのだ。この段階で少し損をした所で、この先のことを考えれば誤差だろう。
「この国の貨幣価値がよくわからないので、少し教えてくれませんか? それ込みで1瓶、銀貨5枚で売りますよ」
「なるほど、別の大陸から来られたのですか? この大陸では統一通貨が使われているのですよ」
おぉう……そうだったのか。聞いたところによると、銅貨10枚で大銅貨1枚、大銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚、金貨10枚で白金貨1枚だそうな。更に、白金貨100枚で緑金貨1枚、と呼ばれる物もあるとか。白金貨以上は大商いなど、国の取引などでしか使われないらしい。
大体4人家族が金貨2枚ほどあれば1月位生活できるのだそうだ。おっちゃんの売っていた露天の串焼きが銅貨5枚だったから、銅貨=100円、大銅貨=1,000円、銀貨=10,000円、金貨=100,000円てところか。おおよそこんな感じで考えておこう。
「如何ですか? 大体把握されたと思うのですが、このコショウは貴族相手におそらく金貨1枚前後で売れると思うのです。この綺麗な細工された瓶。これはまさに異国の品なのでしょう。こぞって欲しがりますよ」
まあ異国といえば異国か。此方にはそこまでの加工技術は無いのだろうか? と言うか、ミル機能など理解しているのだろうか。
「ロランさん、実はこの品は異国の大変高い技術で作られてましてね、ここをひねってみてください」
開封済みの1瓶使ってミルって見せると、おおっ! と驚いていた。
「素晴らしい技術ですね。正直、初めてみましたよ。これなら金貨1枚以上は確実ですよ。先ほど銀貨5枚と言いましたがこれなら是非、銀貨7枚でお願いできませんか?」
おお、ミルって値段が上がった。ロランさんはいい人そうだし、この値段でいいかな。それにしても貴族に金貨1枚以上で売れるとか随分正直に教えてくれるな。
「それはですね、マヒロさんが10瓶あるとおっしゃっていたんのですが、私は実はまだあるのではないかと思ってまして、それになかったとしてもこんなに素晴らしい商品をお持ちの方と繋がりができるのは大変素晴らしいことですからね。たった1回の取引で不誠実に接して次の機会を逃すなど商人ではありませんよ」
なるほど。まあ、誠実に接してくれる人には此方も誠実にしていきたいなとは思うしな。人にされて嫌なことは人にするなってな。在庫も無いわけでは無いというか、いくらでも仕入れられるしな。
「ロランさんのおっしゃるとおり、在庫はまだありますよ。俺としても誠実に付き合ってくれると助かります」
ロランさんはなるほどなるほどと、頷きながら笑顔を此方に向ける。
「そこでですね、少々相談がありまして……」
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