29話 第一次訓練を開始する!
第29話です。よろしくお願いします! ※誤字修正いれました。
「お前のは何者だ! 言ってみろ!」
「えぇ……、マヒロ・アサヒナで、」
「ちがう! あたしは、お前たち2人がしっかりと魔物と戦えるように心を鬼することに決めた! いいか? この訓練に生き残れたその時! 貴様らは始めて冒険者となる!! それまでは貴様らは! ゴブリンの糞同然の存在だ!!」
訓練場で待っていたフランカさん。「これより訓練を開始する」と、開始早々直立不動で立つように言われ、ついに地獄の訓練が幕を開けたのだった。
「第一次訓練を開始する! 走れ! 倒れるまで走れ!!」
「あ、あの、何処をどのくらい走れば良いのでしょうか?」
「誰が口を開いていいと言った! 貴様らはあたしが走れと言ったら倒れるまで走れ! 分かったか!! 分かったらさっさと行動しろ!!」
ひぃ……、とサクヤは早くも涙目である。一体どこでフランカさんのスイッチが入ってしまったというのか。訓練は始まったばかり。第一次訓練というからにはまだ二次、三次があるのだろうか。とりあえず言われたとおりに走るしか無い。
戦闘訓練や、冒険者としての訓練をお願いしたはずなのになぜこうなってしまったのか。
♢♦♢
「どうした! もうへばったのか! 所詮貴様の根性などその程度の物だ!! もう走れんのか!! 貴様のような根性なしは冒険者ではなくゴブリンの糞がお似合いだ!!」
走る、走る、へばる、倒れる、叱咤され立ち上がる。俺たちは何も考えられなくなるほど叱咤されながらひたすらに走り続ける。汗が流れ落ちる。サクヤは泣きながら走っている。一体俺達はどうなってしまうのか。
「よーし止まれ! 足元の武器を拾え! 訓練用の武器だ! 喜べ! 従来の物より倍の重さにしてある! 今からあたしが良いと言うまで素振りをしろ!」
足元においてある槍を拾う。振る、振る、槍なのに素振りしても意味があるのか無いのかわからないが振る、腕が上がらなくなる、罵倒される、よろよろと振る、決して休んではいけない。
「今日はこの辺で終わりだ! 明日もみっちりやるからな! 覚悟しておけ!」
去っていくフランカさん。終わった……のか……? 一体なぜこうなってしまったのか。立ち上がることすらままならぬ。
「サクヤ、大丈夫か……」
「は、はぃ、もう、体が動きません……」
明日の訓練に俺達は耐えられるだろうか。
♢♦♢
「走れ! 走れ! 走れ! またへばったのか小娘! そんなことで主人を守るだのよく言えたものだ!! 貴様など糞の役にもたたんぞ!!」
翌日も開始早々走りだす。体力が回復していない。サクヤは早くも泣きながら走っている。サクヤ、泣くと体力を無駄に失うぞ。
その日も、体力を絞り尽くし、気力を絞り尽くし、体のなかの何もかも絞り尽くし乗り切った。体中が痛い。
「やってますね〜。こんばんは! フランカさんにみっちり訓練されてるみたいですね〜」
訓練終了後、へばって倒れていた俺達の元にローラさんがやってきた。あの、思ってた訓練と違うんですが……。
「そうですね、フランカさんは熱心な方ですからね! それに破格の報酬を出してくれているので、全力でマヒロさん達を鍛えてくれてるのでしょう。それに面倒見が良くて優しい人ですから、心を鬼にしているんだと思いますよ!」
「そうですか……、限界までは耐えて頑張ろうと思いますが……。体がついてくるかどうか……」
「それなら安心してください! フランカさんが馴染みの引退した冒険者に声を掛けて、助っ人教官が来るみたいです! それが回復魔法を使える方だそうで!」
回復魔法……、普段ならすごいと感心するのだろうが……このタイミングだと歓迎できない。
「だからマヒロさんも、サクヤさんもがんばってくださいね!」
♢♦♢
「喜べ! 今日は新たにお前たちを可愛がってくれる教官を紹介する! クレールだ! 彼女は回復魔法持ちだ! 貴様らが情けなく這いつくばっても何度でも起こしてやるから覚悟しておけ!」
紹介された新任教官はクレールさん。赤茶の髪、細目、小柄な体格の優しそうな人だ。回復魔法とか優しいイメージだから使い手も優しい人になるのだろうか。
「私がクレールだ! 良いかゴブリンの糞ども! 回復魔法があるからと甘えるな! 私の使命は這いつくばったゴブリンの糞のケツを蹴りあげることだ!!」
おぉ……、もう出来上がっていらっしゃる。少しでも慈悲が差し伸べられるかと思った俺が馬鹿だった。サクヤは安定の涙目である。
ここ数日の訓練により、俺達の体はボロボロ。ゾンビ状態である。このままでは訓練にならないと、好意で参加してくれたそうな。ちなみに2児の母だそうだ。
「ー□ー□ーーー□ー癒せ! 癒やしの光!」
優しい光が俺とサクヤを包む。これが回復魔法なのか! 魔法をかけてもらうと、体の節々を蝕んでいた痛みが癒やされる。これぞまさに魔法!
「良かったなお前たち! これで手加減無しの本気の訓練が受けられるのだ! 嬉しいか! 嬉しいならさっさと走れ!!」
手加減してたのかよ……。叱咤を浴びて走りだす。走る、走る、へばる、走る、倒れる、回復魔法、立ち上がる、走りだす。
もう何をしているのかよくわからなくなってきた……。
お読み頂きありがとうございます!