26話 昏倒するゴブリン
第26話です。よろしくお願いします!
とうとうダンジョンに足を踏み込んだ。この1歩は小さいが、我々とっては大きな1歩なのである!
「これがダンジョン……。思ってたより通路は広いですね。それに、先ほどよりも明るくなっている様な気がします」
サクヤの言うとおり、洞窟のような通路は、幅10mを超えており、高さも5m以上あるのではないだろうか?
壁も、先程よりもぼんやり光っており見通しが悪いといったことはない。なんという不思議空間! 壁の土を削ると、普通の土だ。削れた分は光を放たなくなっている。
「ダンジョンの壁は、削れたりするとダンジョンとしての機能を無くし、発光しなくなると聞いたことが御座います。ある程度まで掘ると、どうやっても掘れなくなるとも」
なるほどね。よく分かったよ。不思議空間てことだね。
通路を進むとすぐに大きな空間にでる。通路が3方に別れて伸びているのがみえる。何処に進もうか! ワクワクしてきたぜ!
「取り敢えずは小手調べとして、1階層をウロウロしてみようか。地図もあるし出口もすぐわかるしね。魔物を倒せるかが心配だよ」
「ふふふ、きっと大丈夫で御座います! どんなダンジョンでも1階層はゴブリンなどの弱い魔物しかでないと言われてますので、大人ならば、武器があれば問題なく倒せるはずなので、ご主人様ならば何も心配いりません!」
そうなの? ゴブリンすごい怖かったけど。軽いトラウマなんだよね。まぁ、サクヤがいるからなんとかなるよね? 最悪転移で逃げればいいしね。前も同じこと思ったような気がするな。
「さぁ! 参りましょう! 私とご主人様の冒険が始まるのです!」
尻尾を振りながら俺の手を引くサクヤ。情けなくなんて無いんだから! 男は女の尻にしかれるものなのである。
取り敢えず、一番左にある通路を進む。下階層を目指してないから適当だ。しばらく進むと、なにか聞こえる……?
人の騒ぐような声が聞こえてきた。少し行った先の角を曲がった所で戦闘が起こっているようだ。
「戦闘してるみたいだね。通りすぎてもう少し進もうか」
はい! とサクヤの返答を聞き、直進すると、サクヤが手で歩みを制す。ん? なにか見える……、やつだ。緑の肌をしたヤツがいる。
「ご主人様! ゴブリンです。戦闘準備を! 数は2体です!」
ダンジョン内での初めてのエンカウント! イメージを固める。
「武具創生っ!」
手掌が光を放ち、光が収束すれば、手には2mほどのなんの変哲もない槍。何の木かは分からないが、木製の柄に槍頭は剣状、突くこともでき、斬りつける事もできる槍を創生する。
ここしばらくは、スキルの検証を行っていたのだ。その結果、シンプルなものならさほど魔力を使わない事がわかったので、投げても使える、使い捨て出来る槍を作り出せるようになったのだ。
ゆっくりとした歩みから徐々に速度をあげ、ギャギャと大きく口を開けトップスピードで走り寄ってくる! 体が強張る、緊張でつま先に力が入る。
落ち着け、よく見ればそんなに足は早くない。ただ走ってきているだけだ。1匹が先行し、もう1匹はやや遅れている。
「私が参ります!」
サクヤもゴブリンに向かい走る、刀の間合を見極め接敵。
リズム良く体を動かし、右足を前に力強く踏み込む、左手を鞘、右手を柄に添え。慣性を殺しきれず踏み込んだ足が地滑る。
引き絞っていた体を解き放つ。腰から肩、腕へと運動エネルギーが伝わる。びゅっという音ともに剣閃が走る!
振り払われた刀で、いとも簡単にゴブリンの首をおとした! 恐ろしい娘! そのまま後追い来ていたゴブリンに向かって、跳ねるように右上段から刀を振り下ろす! ゴッと言う音が響いてきた。昏倒するゴブリン。
「ふぅ、実践は随分と久ぶりだったのですが、うまく体が動いてくれました! さぁ、ご主人様! 1匹は峰打って生かしてありますので、止めをお刺し下さい!」
えぇ!? なにこれ!? すごすぎる! 時代劇で見たような刀捌きとは違うが、圧倒的ではないか。見惚れてしまうほどの洗練された動きだった!
「何もしてないのに止めだけってなんか気が引けるね」
「私も幼いころに魂の階位を上げるために、お祖父様が弱らせた魔物を倒させて頂いたことがありますので、皆通る道です」
見惚れる程の美貌、まるで花が咲いたような華やかな笑顔。何時間でも見ていられそうだ。足元に泡吹いた緑の昏倒したゴブリンがいなければ。なんというカップリング。
「よし、止め刺させてもらうよ」
ゴブリンに近づく、ピクピク泡吹いてる。槍を両手で握りこむ。緊張で息が詰まるな。ぐいっとやってしまおう。ぐいっとだ。
行きを吸い込んで、腹筋に力を込めるように短く吐き出すと同時に槍を突き出す。
穂先で皮を押し込む感覚、ぶつりと何かが敗れたような気がした。慌てて槍を引く。
うはぁぁぁ〜、相手の痛みを想像してしまって思い切り突けなかった。
「ご主人様! まだ息をしております! 一思いにおやりになって下さいませ!」
なんたるスパルタ! ちょっとまってね。頑張るから。深呼吸を繰り返し、もたもたしていると、サクヤが「失礼致します」と、後ろから槍を握っている手に手を重ねてくれる。温かいなと、温もりを感じた瞬間、ぐいっ。
うわぁぁぁ! ザクっという感覚と共に胸を一突き。次第に動かなくなっていくゴブリン。なんということだ! 初めてを奪われたっ! は!? 落ち着け。取り乱してしまった!
止めを指すと、すっと何か体に入ってきたようなきがする。変な感覚だ。
「何か、体に入り込んできた気がするんだけど? これが魂の階位が上がるって感覚?」
「良かった! 階位が上がったのですね! おめでとうございます! 恐らくそうだと思いますが、人によって感じ方は違うそうなのです」
「そっか、なんか変な感覚だね」
「ふふ、私も初めは思いました。そのうち気にならなくなりますよ。それに、弱い魔物を倒しても階位が上がらなくなります」
俺は今レベルアップしたのか! 早いとこ魔物を倒すことになれないとな。躊躇して命取りなんてことになったら目も当てられないからな。
「サクヤ、もう何回か止めを刺させてもらっても良い? 魔物を殺す感覚になれないと戦うどころの話じゃないからね」
「かしこまりました! それでは先に進みましょう!」
楽しそうだね。顔が活き活きとしてますよ。頼もしい。
サクヤの刀術はやはりスキルの恩恵があるからあんなにも鋭いのだろうか? そう思うのも、おれが戦闘の初心者ってのもあるのだろうけれども。初心者と言うか、初陣だったからな。頑張って足を引っ張らないようにしないと。
「それにしても、サクヤはすごいね」
「ご主人様より賜ったこの素晴らしい刀のお陰で御座います! やはり私にはもったいないくらいの業物です! それに、私はスキルの恩恵をうけておりますので」
刀の切れ味は良いみたいだね。よかったよかった。習得しているスキルの武器を扱うと、スキルの恩恵により体をどう動かせばいいか分かるみたいだ。
後は体がイメージした動きについてくるかどうか。階位を上げると身体能力も上がるらしく、高レベルのスキルを持ち階位を上げている者はもっと強いらしい。
すげぇなスキル。俺も槍スキルが欲しいものだ。スキルは鍛錬を積みめば、殆どの場合、取得することができるらしい。鍛錬とかやだな。
いきなり覚醒しないものだろうか? 目覚めよ! 俺の眠っている力よ!
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