23話 サクヤ・テンロウ 後編
第23話です!よろしくお願いします!
私はご主人様に、大変、大事にして頂いております。
常に体調を気遣い、海の呪いを解呪して頂くばかりでなく、異世界、ニホンの食事など、エイヨウというものが沢山含まれているという食べ物などを与えてくださり、日に日に体の調子がよくなってまいりました。
その日は、ご主人様がニホンで御用事があるとのことなので、ご一緒させて頂きたかったのですが、ニホンには獣人がいないからと、私はお留守番になりました。他の国にはいるのでしょうか?
ご主人様が、オカユを用意して下さり、頂こうとした所、なにやら見慣れぬ赤い樹の実が。これは何でしょうか? 美味しく、体に良いと勧められましたので、口に含むと……これはっ!
「ひゃうぅぅ……ご主人様っ……すっぱいです! ものすごくすっぱいですっ!」
尻尾の毛が逆立つほどの酸っぱさです! なんですかこれはっ! ウメボシという体に良い食べ物だそうです。うぅ……、なんという恐ろしい食べ物でしょう。あれ……? ウメボシの事を思い出すとなぜか唾液が……。
ご主人様のお部屋には、ルドラアトルでも限られた国しか所有していないという、映像のアーティファクトがあるでは御座いませんかっ!
なんでもテレビと呼ばれているらしく、この国ではだれもが手に入れられるとか。ニホンすごいですっ! 色々な色彩の映像が流れる様はとても綺麗で言葉が分からなくても、何時間でも見ていられます! しばらく夢中になって見続けてしまいました!
その後、ご主人様が部屋の掃除をなさるというので、私が奴隷としてさせていただこうと思ったのです。
本当はテレビをまだみていたかったのですが、何かお役にたたなければいけませんよね!
お優しい方ですから、私がテレビに興味を示してしまったら、ご自身で片付けてしまうだろうと思い、テレビに全く興味が無い振りをして、掃除させていただこうと進言したのですが、体調などを考慮していただき、今回は渋々、お言葉に甘えさせていただきました。本当に渋々でございます。
その日、私は世界をこの目にするのです。
ご主人様が、映像のアーティファクトを何やら操作すると、そこにはこの異世界のあらゆる場所の映像が、幻想的な音楽と一緒に流れてきました。
あまりの光景に思わず感嘆の声を上げてしまうほどです! なんて色とりどり! 色々な生き物! 綺麗な景色! ご主人様は優しく私の質問に答えてくれました。
この異世界には、魔物はいないとおっしゃられていましたが、らいおんと言う魔物を初め、少数ですが存在するようですね。
幼いころに、お祖父様が話してくれた事、交わした約束、叶えたかった夢を思いだし、涙が溢れてきてしまいます。
「うぐぅ、うぅぅ……、すごいですっ……。この世界はこんなにも広いのですね」
「そうだね。この世界にも綺麗な景色はたくさあるけど、きっと、ルドラアトルにもこれに負けないくらい綺麗な景色があるんじゃない?」
いつの日か、私もこの様な素晴らしい光景を自分の目で見てみたいと思いご主人様に聞いてみました。
「そうですよね。こんな素晴らしい景色を、私も、いつかこの瞳に映せるのでしょうか」
「うん。きっと見れるよ。この世界の景色も、ルドラアトルの景色もね」
ご主人様は優しく、私の涙を拭って下さいました。何故か、鼻も拭われたのですが何故でございましょうか?
♢♦♢
それからの日々は、私にとっては少し恥ずかしいというか……、ドキドキすると申しますか……、そんな日々でございます。ご主人様は私の耳と尻尾を大層気に入られたようで、優しくなでて下さるようになりました。
天狼族は、尻尾を伴侶となる異性にしか触れさせないのですが、思い切ってご主人様にならと、ご自由になでていただいております。はしたないと思われていないでしょうか? 後々は責任をとっていただくしか……。
更には、私に、新しい服を買い与えてくださいました。随分と久しぶりの買い物だったので、少々時間が掛かってしまいお待たせしてしまいましたが、笑顔でつきあってくださり沢山の服を買っていただきました。やはり買い物は楽しいですね!
ご主人様は、ビゼンノ国の建国の祖、ゲンイチロウ様と同郷かもしれないとおっしゃっており、いつか私を、故郷に連れて行ってくださるとお約束してくださいました。叶うことがあればいいのですが。お父様、お母様、弟は無事でしょうか……。
ニホンには、ぱそこんという、知識のアーティファクトが有る様なのです。この世界の情報をいつでも引きだせるのだと。途方も無いくらいの情報が収められているそうです。まるで神の叡智を収めた書庫の様な。
こんなものを扱えるなんて! 流石ご主人様で御座いますっ!
なんと! ご主人様が、私に刀をスキルでお作りくださるというのではありませんか! 神の叡智の収めた書庫から、参考にする刀の映像を探してくださるというので、ご主人様に促されその一旦を覗かせていただいたところ、
……きゃっ! ご主人様! なんてものを!
「映像のアーティファクトで女性の胸を見ていらっしゃるなんて、ご主人様は発情されていらっしゃるのですか?」
顔が赤くなってしまいました。ご主人様は発情されている様なので、他の女性に気をつけておかねばなりませんねっ!
♢♦♢
ご主人様がっ、スキルを発動して倒れてしまわれましたっ! あぁ、どうすれば、なにか良からぬことがあって倒れてしまったのでは? このまま目を開けなかったりしたら……、どうすればよいのでしょうっ! 私を一人にしないでくださいませっ! 月女神ヘルザ様! ご主人様をお守りくださいませっ!
このまま取り乱していては行けないと思い、深呼吸。取り敢えずは、ご主人様を横にして差し上げなくては。
しばらく心配しながら見守っていると、何事も無く起き上がり飄々としているご主人様。ただの魔力の枯渇でよかった。ほっと致しました。ご主人様! もっと体をご自愛下さい!
ご主人様より下賜された刀、なんと美しいのでしょう。こんなにも素晴らしい刀を私は見たことがございません。至る所に桜の花弁があしらわれ、相当の業物だという事が一目見ただけで分かってしまう様な刀。
こんなにも素晴らしい品を私の様な未熟者に持たせても良いのでしょうか?
「サクヤのために作ったんだし、サクヤもお伽話の冒険者の様な冒険をこれからするんだから、良い武器は持っておかないと」
あぁ……。私の心中、いつしか靄がかかっていたような、そんな気が致します。それが今、たった今、貴方様のお言葉により、強い風に吹き飛ばされて行ったような気持ちでございます
また涙が溢れて来る。私は、いつからこんなにも泣き虫な娘になってしまったのでしょう。
そうなのですね。今までの全てが、貴方様に繋がっていたかのように想えます。
「ご主人様……、なんと申し上げればよろしいのか、言葉も出てきません。ただ、今までの辛いことが全て、貴方様に巡り逢うためにあったのだと言われても私は納得してしまいそうです」
幼い頃に描いた夢と約束は、これからは、この優しきご主人様と一緒に。
その後、何故かお礼を言われ、これからご主人様に仇なす者をこの刀で叩ききると誓いました。ご主人様は泣いている私を、ぐりぐりとなでて慰めてくださいました。嬉しいのですが、子供の様に扱うのはおやめくださいっ!
これから、ますますご主人様に尽くしていかなくては! がんばって沢山お世話をさせていただきますねっ!
♢♦♢
「サクヤ、ご飯なにがいい?」
「ご主人様のくださるものは何でも美味しいので、何でも構いません。それより、この世界を巡る映像は、他の物はないのでしょうか?」
サクヤは、今日もテレビに夢中だね~。ネットで新しいネイチャー系の映画探してポチっとかないと。うちの姫がご所望だ。
サクヤは今日もマイペースだね。
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