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22話 サクヤ・テンロウ 中編

第22話です。よろしくお願いします! 日刊ランキング入りしました。ありがとうございます。

 「聞いたか? 鎮圧軍が、反乱軍とヘカート王国の兵に挟撃ちされて、壊滅したらしいぞ! 奴ら、ヘカートのグズどもと内通していたらしい! この混乱に乗じて我が国土を切り取るつもりだぞ」


 「クロジシ共め、何を考えておるのだ。このままでは切り取るどころか、国が乗っ取られてしまうのではないか?」


 今や、この噂で王宮は大変な騒ぎになっております。いよいよ混沌としてきました。国王陛下の名の下、反乱鎮圧軍として第一陣が華々しく出立していきましたが、隣国のヘカート王国の軍と挟撃にい、壊滅、奔走とのことです。


 ヘカート王国は、ビゼンノ国との諍いが絶えない隣国でございます。ここ数年は目立った動きはなかったのですが、虎視眈々とビゼンノ国の領土を狙っていたのでした。


 そこへ、今回の反乱の盟主であるクロジシが王位簒奪の暁には、領土を割譲するとして引き入れたのでは無いかと目されております。


 ヘカート王国の参戦により、当初優勢と思われていた形勢は一気に形勢逆転されてしまいました。


 その後は、数で上回っている反乱軍に攻勢に出ることができず、備える事しかできなかった王国軍は、王都に守備を固めるべく兵を配置し、王都で迎え撃つ事にしたのです。ついに、王都が決戦の舞台となりました。


 その後は、積み木を崩すかの様なものでした。親国王派の貴族が裏切り、王都の門を解錠、なだれ込んだ反乱軍にあっという間に王城に包囲、籠城戦を強いられることになるのです。


 「サクヤ、本当にすまなかった。このような事になるとは……。お前の好きにさせてやるべきだったのだな。私達は、このまま城で最後まで役目を全うする。お前はなんとしても逃げ延びてくれ」


 「サクヤ……、これで最後になるやもしれません。良く顔を見せて。あぁ……、愛しの娘。どうか月女神ヘルザ様のご加護を。何が遇っても生き延びるのです」


 「いやぁぁっ! お父様、お母様! コウガっ! 嫌ですっ! 皆一緒にっ!」


 「お前たち、サクヤを頼んだぞ! 行けぃっ!」


 今まさに、城壁が破られんとなると、家族は私だけを数名の家臣に預け、城から脱出させたのです。父、母、弟は、貴族としての役目を全うするため城へ残り、最後の時まで戦うと言うのです。

 

 私も残ろうと必死に抵抗しましたが、引き摺られるようにして、抜け道から城を後にするのでした。


 涙が前も見えなくなるほどに溢れ、なぜ私には家族を守る力もないのか、あのまま訓練をしていたら、と後悔を胸に抱えて逃亡することになってしまったのです。


 城を抜けだした後は、私達の他にも落ち延びた人々がいたようで、合流すべく逃亡生活をしながらの生活でした。


 聞こえてくる話では、城は落ち、国王は討ち取られた。現在は、落ち延びたであろう第一王子を筆頭に、親国王派であっためぼしい逃亡者を探しているとのことでした。


 逃亡生活は過酷を極め、食うや食わずやの生活で私の体はどんどんと弱っていきました。そんな生活のある日、逃げ延びた第一王子や他の方々と合流し、船で別の大陸まで逃亡する運びとなったのです。


 ビゼンノ国は、国土の東を海に面しており、陸路よりは、生きて脱げ仰せる可能性の高いとのこと。国の最東端に位置する港から、私達は脱出することになったのです。


 「必ずやこの国を我が手に取り戻す! 今は雌伏の時、ノーザンスト大陸に渡り、必ずや再起を果たしてみせよう!」


 こうして王子の演説のもと、集まった人々の乗った船は、東に航路を取り、ノーザンスト大陸を目指したのでした。


 その長い船旅で、元々満足に食事も取れていなかった私は体を壊してしまいます。更に船は航路を見失い遭難しかけ、食料も乏しく、海の魔物にも襲われる始末。大変過酷な航海となりました。

 

 そうして、私は海の呪いに侵されてしまうのです。


 やっとの思いで、ノーザンスト大陸、ウィンフル王国と言う国に到着した私達一行を待っていたのは更なる困難でした。長い航海による海の呪いに侵された者も多く、金銭も心もとなく、満足に食事や宿も取れない日々、私の体も節々が痛み、歩くのも辛いという状態になっておりました


 「こんな物! この俺が口にできるはずもないであろう! 宿にも泊まれぬ、食事も満足にとれぬとは! 話が違うではないか!」


 このような状態でも、王子は相も変わらずでございました。王子は優先的に食事をとっており、他のものは満足に水も飲めていないというのに。


 そうして王子はある決断をしました。


「今残っている中で、動けない者を奴隷商にでも売り払えばよいではないか? どうせ海の呪いに侵されておるものは助からんのだし、呪いを移されてもかなわんからな」


 王子は、海の呪いに侵された者、私達には指一本触れることはなかったのですが、どうやら切り捨てることにしたようです。


 皆、疲労困憊、誰も王子と取り巻きに反論できず、奴隷の仕入れに来ていた、ヴァレリーなるヴィクトル王国の奴隷商に売られたのでした。


 幸か不幸か、非常に衰弱していたのと、海の呪いを恐れてか、奴隷商人による商品としてのチェックもされず商館で寝たきりで過ごすのでした。


 幾日か過ぎ、意識薄弱の私は馬車に乗せられ運ばれます。気づけば、私を買おうとされているという方の前に立たさおりました。


 黒髪黒目、まるでお伽話に出てくる、異世界の来訪者のような出で立ち。優しそうな顔。そして、私はふらふらとその方の後を付いて行ったのです。


 気づけば、奴隷である私をベッドに寝かせ、初めて飲む飲み物や、食事を与え甲斐甲斐しく看病をしてくださりました。お蔭様で意識がはっきりとしてまいりました。


 私を買われたご主人様は、マヒロ様と言うお名前を教えて下さいました。

 

 なんと海の呪いを解呪してくださるとおっしゃるではありませんか! 私は……、まだ生きられるのですね。


 ある日、出かけていったご主人様が急に目の前に現れたではありませんか! 大変驚きました。伺うと、異世界の来訪者というのです。私は信じられず、訝しげに見つめてしまいます。

 

 「それは……、真でございますか?」


 問いかけた所、困った顔で思案していらっしゃいましたが、私を異世界に連れていくとおっしゃり、肩に触れられたかと思えば、一瞬で見たことのない場所へ! 


 困惑する私に、初めて見る全く濁りのないガラスの戸から見たこともないような風景を見せてくれました! なんてことでしょう! 思わずその光景を夢中で眺めてしまいました。 


 気がつけば、最初の宿におります! 一体何がおこったのでございましょうか!? ご主人様に、このことは誰にも言わないように、と口止めされます。もちろん、口止めされなくても誰にも申し上げるつもりはありません! ご安心下さいませ! 


 あぁ、ご主人様が、建国の祖と同じ異世界の来訪者、お伽話に出てくる憧れの方々と同じ……。

 

 お祖父様との思い出が脳裏を駆け巡っていきます、涙があふれてくる、止められない。全てを失った私をご主人様の元へ遣わせてくれたのですね。月女神ヘルザ様は、私の事をお見捨てにならなかったのです。私は泣きながら、祈りを捧げました。


 それからというものは、ご主人様はルドラアトルの事をあまりにも理解されていらっしゃらなかったので、色々とご説明させていただきました。


 今まで誰にも騙されたりせず、ご無事で何よりでございます。何やら、お世話をしてくださるご友人がいらっしゃったとか。体調が良くなったらこの危ういご主人様を、私がお世話して差し上げなくては!


 ご主人様は、聞いたことの無い、ユニークスキルを2つもお持ちでした。スキル数が少ないと嘆いていいらっしゃいましたが、スキルの解説をして頂き、恐るべき力を秘めていると私は確信致しました。


 その後も、いろいろとご説明させていただきました。


 私は、命をお救いいただいた御恩を返すのと同時に、この優しくも、どこか抜けた所のあるご主人様にお仕えして、お世話をさせて頂き、ご主人様の、いずれ為すであろう偉業を一番近くから見ていたいと決意するのです。


 一通り、話し終えた後、私の体調を心配して頂き、お礼を言って頂けました。そして私は、こう答えました。


 「とんでもございません。私は、ご主人様の奴隷で、この命を救い上げて頂きました。その優しいご主人様に身命を賭して尽くしてまいりたいと思います。ですので、これくらいなんともございません。来訪者であるご主人様とこうして巡り会えたのも、月女神ヘルザ様のご意思。そう、これは神の恩寵なのです。ですからご主人様、これから末永く、この命尽きるまで、どうぞ、よしなにお願い致します」


 ビゼンノ国で、嫁入りの際にする所作で頭をお下げするのでした。

お読み頂きありがとうございますっ!評価・ブクマなど励みにさせていただいています!ありがとうございます!

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