短編(♀×♀)
……最近気づいたことがある。
私の親友あっちゃんの口癖は、「かわいい」だ。
「美星はかわいいね」
くしで必死に髪をとかしていた私を見て、彼女は開口一番にそういった。
私は多少うんざりしながら、
「おはよう」
とだけ返す。
彼女はそんな私を見て、「かわいいよ」と再び言うのだ。
……その日は、少しピリピリしていた。
いつの間にか「止まって」いた目覚まし時計のせいで、私は朝の支度もままならないまま家を出た。
……お陰で髪はボサボサ。おなかも少し減っている。――というか、私、今どんな感じなんだろ?
おかしくなってない?
ちらりと横を見ると、あっちゃんはもう自分の席に戻っていて……でも、私の方を見ていた。
……さっきは少し悪かったかな……とも思ったけど、せっかく目があったので、
「――(だいじょうぶ?)」
と口だけを動かして、先程から気になっていた箇所を見せてみる。
なのにあっちゃんは、
「(――かわいいよ)」
と笑顔で、同じ言葉ばかりを繰り返すのだ。
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最近……気づいた……ようなことがある。
確信はないのだけれど、あっちゃんの「かわいい」は、少し、ずれているような気がする。
先日、こんなことがあった。
放課後。
どこかブラついていこうといった私たちは、ゲームセンターを訪れた。
すると、何やら妙なものが目についた。
それは、元は熊だかパンダだかだろう造形に、意図のよくわからない玉虫色で彩られた謎の物体。
見た目ははっきり言って悪い。
が、大きさといい、フカフカしてそうな生地といい……妙に、抱き心地は良さそうに見えた。
…………抱き心地だけは。
それからの数十分、とくに語るべきことはない。
しいていうなら、長く――辛い戦いだったと言えよう。
ようやく手に入れた玉虫色のクマ(?)は、やはり不細工で――しかし肌触りも抱き心地も、思った以上によかった。
せっかく手に入れた玉虫クマだ。
存分にその抱き心地を堪能してやろうと、しっかり、両腕に抱きしめてやる。
――と、そこへひょこひょことあっちゃんが現れた。
それまでどこにいっていたのか、右手に景品を入れる袋がぶら下がっていた。
そして――開口一番に、
「かわいいね」
といったのだ。
「…………」
正直、信じられないものを見てしまった気分だ。
まぁ……しかし……
見た目は悪くとも、必死になってようやく手に入れたブツだ。
勝手に気に入られ、「ほしい」などと親友に言われたら困る。
……私は、心持ちブツを背中に隠すようにした。
なぜか彼女は、景品の入っているだろう袋を探り出した。
そして、
「あげる」
と、私の頭の上に何かを置いた。
さらに彼女は袋から、
「お揃いの」
と――――手のひらに収まるサイズの、
青色が強い「玉虫クマ」の人形を見せてきた。
私の頭にのせられていたのは、ピンク色が強いものだった。
「…………」
正直、彼女の「かわいい」はただの口癖だと思っていた。
でも、「これ」をカワイイトイウノナラ……
私は左脇に巨大玉虫クマ、
右手に貰った手乗り玉虫クマを抱えた状態で、
ただ呆然と、
親友のズレタ美的感覚というものに圧倒されていた。
じっと見ていると――何を思ったのか、彼女はにこりと笑みを浮かべて、
「やっぱり……美星はかわいいよ」
と――いつものように。
私は、
ほんのちょっぴり、
この親友を嫌いになってしまうかもしれない。