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呪われし者の英雄譚  作者: 桐条京介
7章 決戦
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 レイホルンの各町から協力を約束されたゼロの女王ミルシャは、自身こそがレイホルンの正統な後継者であり、魔物国は認めないと大々的に表明した。

 第一王位継承者となった王女コンスタンテが、継承権を放棄するのも合わせて発表された。ゼロ側に組していた有力貴族は、潔い決断だと支持をした。

 王位継承の準備が整ったとして、ミルシャはゼロの国名をレイホルンへ変更。同時に、祖国解放を掲げて魔物国へ改めて宣戦布告した。

 魔物国の王であるイルヴォラスは国名へ固執せず、上等だと応じる。睨み合いを続けていた戦線へ、残存する兵力を惜しげもなく投入した。

 魔物の支配をよしとする悪しき者や権力を求める貴族が、人間でありながらイルヴォラス側についた。その中には、ランジスの元領主で王妃の弟もいた。

 そうした事情もあり、ミルシャは今回の件を魔物の仕業と断言。すでに亡きゲルツ元国王やファナリアは被害者だとした。責任をすべて敵側へ押し付けたのである。

 勝利すればミルシャの発表こそが正しくなる。戦争とは、そういうものだった。

 各町に協力してもらえても、各個撃破されてしまっては意味がない。そこで女王ミルシャは、戦力をすべてランジスに集結させた。

 食料や財産なども運ばせ、住民も含めた大移動を指示した。兵士の家族を、人質にされないための処置でもあった。

 本陣を、ランジスとシュレールの中間にあるコーウェル台地に展開。守り易く、攻め難いというマオルクスの助言に従った。

 周囲の制止を振り切って、女王ミルシャ自らも参戦。総大将として本陣に座る。

 護衛として騎士団長のマオルクスが側に控える。他にも亡命してきた騎士たちで構成された親衛隊が女王の身を守る。

 ともに訓練した兵士同士で敵味方とならずに済んだのもあって、ゼロ改めレイホルン軍の士気は凄まじかった。

 魔物に組しているのが欲望に支配された人間だけなので、遠慮をする必要もない。

 闇が深くなれば夜目のきく魔物が有利になる。朝日が昇ると同時に、レイホルン軍は全面攻撃を開始する。

「皆さんの命を私に預けてください。祖国を魔物から取り戻すために、全軍進めっ!」

 女王ミルシャの号令を受けて、隊を預かった者たちがそれぞれの部隊に行動を命じる。

 元は同じ軍隊に所属していた軍人。足並みをきちんと揃え、敵に突撃する。

 戦場にレイホルンの名と、新たな女王陛下の名を叫ぶ声が響く。

 一対一で戦えば魔物が有利も、そんなのはレイホルン側も承知済みだ。

 一部隊で数匹を相手にするような感じで、回復を最優先にして慎重に戦闘を進める。

 兵士たちに勇気を与えるのは、恐怖の騎士として名を知られていたラースリッドの役目だった。

 敵だと恐怖の象徴でしかないが、味方になれば、呪われずに魔剣を扱えるラースほど頼もしい存在はいない。

 先頭に立ち、魔剣ヴェルゾを構える。鞘から引き抜いた魔剣の声が頭の中に響く。

「もはや贅沢は言わん。魔族相手でも構わぬから、早く我に血を捧げよ。それが貴様の使命だ」

「わかってるよ。大切な人を守るために、君の力を使わせてもらうからね」

「……何も言うまい。我の所有者は貴様だ。呪いが効かぬ以上、貴様の好きにするがよい。ただし、呪いが効くようになったら、今度は我が好き勝手にやらせてもらうぞ」

 魔剣にだけ見える角度で、にっこりと笑う。

 敵陣を正面に見据え、真顔に戻ったラースは大きく剣を掲げる。

「フフ。もう私が、代わりに名乗りを上げる必要はなさそうね」

 側に控えているセエラが笑った。いつかの一件以来、ジドーとは口をきいてないみたいだが、二人とも私情を抜きにしてラースを助けてくれる。

 小さく頷いてから、ラースは大きく口を開いた。

「僕の名前はラースリッド! レイホルンに君臨する女王陛下の剣だ! 敬愛する女王陛下の前に立ち塞がるというのなら、手にする魔剣ヴェルゾで斬らせてもらう!」

 叫ぶと同時に、大きく剣を振るう。

 ラースの放った黒い大波は、強烈な先制攻撃となって敵軍を飲み込む。

 魔剣を使われるのは承知済みの敵軍は盾などを用意していたが、まるで玩具のように砕け散る。

「おおう。いつ見ても、とんでもねえ威力だな。俺らも負けてられねえぜ。なあ、セエラ」

 機嫌を窺うように、横目でジドーがセエラを見る。

 完全無視のセエラは視線を向けることすらせずに、兵士たちをサポートする魔法の詠唱を開始した。

「……はあ。しょうがねえ。この鬱憤は、魔物どもを相手に晴らさせてもらうとするか」

 相変わらずラースの部隊は、傭兵が中心だった。

 魔剣を使った効果的な攻撃をするには、自由な戦いに慣れている傭兵の方がいいというマオルクスの判断だった。

「見ろよ。ジドーの旦那、また失恋のエネルギーで戦うつもりだぜ。戦場じゃ無敵のバーサーカーも、女を相手にすると連戦連敗だな」

「うるせえよ!」

 ジドーが一喝したところで、傭兵たちは懲りない。数多くの戦いをともに経験して、すっかり仲良くなってるみたいだった。

 暇さえあれば傭兵連中と飲み歩いてる。いつだったか、ジドーが豪快に笑いながら教えてくれた。元が暴れ者だったのもあり、色々と気が合うのかもしれない。

 そんなジドーが副隊長をしてるおかげなのか、傭兵が中心の部隊でもラース隊は非常によくまとまっていた。

「おら、さっさと行くぞ。ラースがこじ開けてくれた敵軍の穴に突っ込めェ!」

「おうよ! ジドーの旦那が突っ込める穴は、そこしかねえもんな!」

 下品なジョークに笑いながらも、傭兵たちは勇猛果敢に突進する。相手が魔物であろうと、臆するような雰囲気は微塵もない。

「本当に下品なんだから……」

 遠ざかるジドーの背中を見つめながら、セエラがポツリと呟いた。

「……ジドーも反省してるみたいだよ」

「わかってるから、心配しなくても大丈夫よ。私とジドーの仲よりも、部隊のことを考えてちょうだい。ラースは隊長なんだから」

 確かにそのとおりだった。戦線を徐々に、本陣のあるコーウェル台地へと移動させるのも、騎士団長のマオルクスから与えられた使命のひとつだ。

 コーウェル台地に戦力を集中させているレイホルン軍は、そこで一気に勝敗を決するつもりなのだ。

「突撃した傭兵たちの指揮はジドーに任せて、僕は苦戦してそうな部隊を助けるよ」

 直接戦闘に参加しても魔剣ヴェルゾは絶大な力を発揮してくれるが、大規模戦闘では遠距離から衝撃波を放つ方が勝利に役立つ。

 これまでの経験で自身の役割を理解しつつあるラースは、味方部隊を横から襲撃しようとしてる敵を見つければ、させるものかと黒い大波を命中させた。

 ラースを直接狙う魔物がきても、魔剣ヴェルゾを振るって難なく撃退する。

「いかに魔物といえど、雑魚に等しき連中が我を滅ぼせると思うな!」

 頭の中で咆えまくってはいるが、ヴェルゾの声はラースにしか聞こえない。

 うるさいとは思わなかった。不意を突かれたりすれば、そのヴェルゾの声で助けられるからだ。

「ラース! そろそろ部隊を後退させるわよ」

「わかった。ジドーたちにも合図を出して!」

 部隊の参謀役も担うセエラに従い、部隊に一時的な撤退を命じる。本気で逃げるわけではない。事前に打ち合わせていた作戦のひとつだった。

 ある程度交戦したところで兵を引けば、魔物たちが追ってくると推測した。ただでさえこの場にいる軍勢を比較すれば、敵の方が個々の実力は上なのだ。

 対人間との戦争であれば、偵察部隊がこちらの状況を常に確認する。しかし地力で勝る魔物軍は、細かい作戦を組み立てたりしない。あくまでもメインは力押しだった。

 敵軍に残ってる人間で、イルヴォラスや魔物の幹部に作戦を立案できそうな度胸のある者はいない。予想どおりに、魔物は退却する人間たちを得意げに追いかけだした。

「あとは適当に交戦しながら、徐々に後退していくだけね。半日もせずに、コーウェル台地へ到着すると思うわ」

 セエラの言葉に頷く。一連の事件を終わらせる最後の戦いが近づきつつあった。


 血気盛んにコーウェル台地へ押し寄せてきた魔物の軍勢を、陣を張って待ちわびていたレイホルン軍の主力部隊が次々と討ち取っていく。

 およそ綿密な作戦など練ってない魔物軍を、一網打尽にできそうな勢いだった。

 広大なコーウェル台地まで、敵を誘導してきたラースたちも、とりあえず安堵する。

「作戦は成功ね。レイホルン軍が、魔物たちを圧倒しているわ」

 ラースの側で監視兼参謀を務めてくれているセエラが、戦況を確認しながら目を細めた。

 そのうちに突撃していたジドーら傭兵部隊も、ラースのところへ戻ってくる。

「今、戻ったぜ。こっちの損害は怪我人がちょいくらいだ。死者はでてねえ」

 名誉を重んじる騎士とは違い、傭兵たちは自身の命と金を重んじる。

 そうでなければ、常に前線へと送られる仕事で生き残れるはずがなかった。

 ダメージを負えばすぐに離脱し、他の邪魔にならないようにする。

 生き残るためのチームワークが自然と発生し、訓練したわけでもないのに驚きの連携を見せることすらある。

 そのたびに驚かされてきたラースだけに、魔物の軍勢へ突撃しておきながら死者が出なかったという状況も当たり前に受け止めた。

「お疲れ様。この分なら――」

 そこまでラースが言ったところで、兵士のひとりが顔面を青ざめさせながらやってきた。

「で、伝令ですっ! 魔物たちが本陣を急襲! 女王陛下が狙われております!」

「またかよ! にしても、急襲ってのはどういうこった!」

 ジドーが、伝令役としてラースの隊まで来た兵士に聞いた。

「どうやら、今日の決戦に向けて、飛べる魔物が海を越えてきたみたいです」

「海を!? 他の大陸に兵を隠しておいて、最初から本陣を挟撃するつもりだったというの?」

 普段は冷静なセエラでさえ、驚きを見せる。

「……考えたわね。空から状況を確認できれば、どこを戦場にしてるのかわかるわ。魔物は細かい作戦を練らないと判断したのは、間違いだったかもしれないわね」

「今はそんなこと言ってる場合じゃねえだろ! ミルシャが――女王陛下が討ち取られたら負けだ。急いで助けにいかねえと!」

「……いや、そう簡単にはいかないみたいだよ」

 セエラとジドーの会話に、ラースが割り込んだ。

 見つめる正面の空間に、先ほどから歪みが発生している。

 ぐにゃりと折れ曲がるような感じになったあと、一匹の魔物が姿を現した。

「こいつは……」

 見た瞬間に、ジドーが声を上げる。

「知ってるの?」ラースが聞いた。

「ああ。この魔物はイルヴォラスって奴だ。敵の親玉だよ」

 ラースがセエラを連れてミルシャ救出へ向かってる間、ジドーはマオルクスらとともに魔物の軍勢を引き付けておいてくれた。

 作戦は上手くいき、王城にいたイルヴォラスを上手く戦場へおびきだせた。その際に、姿を見ていたのだろう。

「何もねえところから、いきなり現れたりしやがんだ。こいつのせいで、マオルクスの爺さんも結構な被害を食らったと嘆いてやがった」

 場に緊張が走る。ピリピリした空気で肌が切り裂けそうだ。

 対峙してるだけでわかる。これまでラースが倒してきた魔物たちとは格が違う。

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