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呪われし者の英雄譚  作者: 桐条京介
6章 女王の救出
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 城外で待機しているレイホルンの騎士が言っていたとおり、王妃のファナリアたちがミルシャを捕らわれてた部屋から連れ出してくれたみたいだった。

 理由はいまだ不明なままだが、助かったことに変わりはない。

「ラースっ!」

 駆け寄ってくるなり、ミルシャが抱きついてきた。

「助けに来てくれると信じてたわ」

 キスまでされそうな勢いだったが、側にいるセエラがコホンと咳払いをして制した。

 セエラのすぐ後ろには、居心地悪そうな王女のコンスタンテがいる。一方の王妃ファナリアは、どことなく偉そうだ。二人に共通してるのは、両者ともに王族とは思えない服装をしている点だった。

「あの……王妃様と王女様……ですよね? どうしてそんな、みすぼらしい服装なんですか?」

 ラースが質問をした瞬間にミルシャが吹き出す。同時に王妃はムっとした表情を見せた。

「魔物どものせいに決まっているだろう」

 ファナリアが吐き捨てるように言ったあとで、自分たちの服は魔物に没収されたのだとコンスタンテが教えてくれた。

 納得するのではなく、ラースはさらに首を傾げた。

「魔物に支配されても、国主と結婚させられれば、王妃様は王妃様のままですよね。粗末な扱いをされるのが不思議で……」

「フン。奴――イルヴォラスは、わらわに好意など抱いておらぬ。妃にしたがったのは、単純に面白そうだからであろう。どこまでも気に食わぬ魔物よ」

 ファナリアの言葉を受けて、ようやくラースも状況を理解する。

「なるほど。人間と同じように暮らしたいから、ではなかったんですね。国を奪ったのも、そうした理由かと思ってました」

「お前の考えたとおりの理由なら、同盟を求めてくるであろう。奴らの狙いは、最初から侵略じゃ」

「わかっているのに、ランジスを見捨てたのね」

 ミルシャの皮肉にも、王妃は顔色ひとつ変えない。

「奴らがランジスを手に入れて満足している間に、軍備を整えるつもりであった。魔物どもと正面から戦うには、色々とやるべきことがある」

「だからといって!」ミルシャが声を荒げる。「ランジスの人々を見捨ててもいい理由にはならないわ!」

「……わらわは国王代理ぞ。わずかな町の住民よりも、国全体の民のことを考えねばならぬ。ランジスの町を守ろうとした結果、王都が支配されたらどうするのだ。より多くの被害が出るであろう。お前も女王になったのであれば、青臭い考えは捨てることだ」

 何も言い返せないのか、黙り込んだミルシャが悔しそうに俯いた。

 ならばと、再びラースが口を開く。

「大丈夫だよ、ミルシャはそのままで。青臭い考えを実行するために、僕たちがいるんだ。同じ状況になったら、ランジスを救った上で、王都もしっかり守ればいいよ」

 あっさりと言ってのけたラースに、ファナリアやコンスタンテがきょとんとする。

 穏やかな笑みを見せるセエラや騎士たちの側で、女王のミルシャが喜びを爆発させる。

「ありがとう、ラースリッド。貴方のおかげで、迷いはなくなったわ。そうよね。私らしさを失ったら駄目よ。皆の力を借りないと何もできない女王だけど、理想を現実にするための努力だけは決して怠らないわ!」

「だからといって、あまり何回もさらわれないでほしいわ」

 力強く宣言したばかりのミルシャに、セエラが結構な毒舌ツッコミを入れた。

「そ、それは、その……申し訳ないわ。今回は、陽動だと見抜けたなかったし……」

「フフ、冗談よ。こうして合流できたのだから、あとは――」

「――簡単に逃げられると思うか?」

 誰かの声がしたと思ったら、ラースたちの近くにある壁の一部が粉々になった。

 破壊された壁の奥から、一匹の魔物が歩いてくる。

「イルヴォラス同様、デーモンタイプのモンスターじゃな。魔物の区別はつかぬが、確か幹部の一匹だったはず」

「これはこれは。王妃様に顔を覚えていただけて光栄だ。お礼をしてやろう」

 出現したばかりの魔物のスピードは速かった。一瞬にしてファナリアの背後へ回り込むと、勢いよく吹き飛ばした。

 背中から壁にぶつかり、大きな物音を立てた王妃が床に崩れ落ちる。

「お母様っ!」

 駆け寄ろうとしたコンスタンテの前に、例の魔物が立ち塞がる。

「邪魔をするな。王妃に仕置きをしてやらなければならんからな」

 邪悪に笑った魔物が、拳をコンスタンテの腹部にめりこませる。

 多大なダメージを受けたコンスタンテは、口から泡を吹いて白目を剥く。こちらもやはり一瞬の出来事だった。

「速い……」

 呟くセエラの側で、ラースが剣を構える。守るために、背中でミルシャを隠す。

「ほう。それが、我らの同胞を次々と殺してくれた魔剣か。よもや人間ごときに扱えるとは思わなかったぞ」

 名前も知らない魔物の眼光が鋭く光る。どうやら次の標的はラースのようだ。

「我は魔族のガギュル。せいぜい楽しませてもらうぞ。魔剣の主よ」

 これまで倒してきたデーモンタイプの魔物と同じく、爪を伸ばして武器にする。背についた羽を広げ、自慢げに一本角を揺らす。

 床に倒れて呻き声を上げている王妃ではないが、ラースにも以前倒した魔物との見分けはつかない。だからといって、同じくらいの実力と勝手に判断するのは危険だ。

 慎重に間合いを詰める。さほど広くない地下室。床にはダメージを受けたファナリアやコンスタンテがいる。無秩序に衝撃波を放つわけにもいかない。

 どうすべきか考えてる間に、敵の顔が眼前にあった。いつ接近されたのか、わからなかった。

「ラースっ!」

 なんとか敵の動きが見えていたらしいセエラが、ナイフを投げてガギュルを牽制してくれる。

 ナイフで爪を払う際にできる一瞬の間のおかげで、ラースは後ろに下がって再び距離を取る。

 ミルシャをより奥へ移動させ、二名の騎士に守ってほしいとお願いする。作戦前に騎士団長のマオルクスにも言われたとおり、何より優先すべきは自国の女王陛下の安全だった。

 二名の騎士が頷くのを見てから、残りの騎士たちと一緒にガギュルとの戦闘に臨む。

 魔剣を持つラースが先頭に立つ。騎士たちは、左右からガギュルを挟撃するために移動する。

 セエラが魔法の詠唱を開始する。属性を持たないラースには効果がなくとも、騎士たちには身体能力を上昇させる魔法が効く。

「ククク。人数で勝るからといって、簡単には勝てんよ。貴様らもよく知ってるだろう」

 宙に舞い、ラースの攻撃を回避したガギュルが笑う。飛ばれてしまうと、剣が届かない。

 安全地帯へ移動したようにも見えるが、騎士たちと違ってラースが持っているのは魔剣だ。

 敵が空中にいるのであれば、床で倒れているファナリアたちを巻き込むこともない。遠慮なしに、魔剣を振るって衝撃波を放つ。

「ム。さすがは魔剣。斬るだけではなく、飛び道具にもなるか」

 素早く降下して、ガギュルが衝撃波を回避する。かなりの速度だったのだが、敵のスピードはそれ以上だった。

 簡単には、攻撃を命中させられそうになかった。どちらも動かずに様子を見守っていると、セエラの詠唱が完成する。

 サポート魔法で騎士たちの身体能力を上昇させたあと、すぐに他の魔法の詠唱を開始する。恐らく次は火球などの攻撃魔法だろう。

「魔法か。我らには使えぬが、厄介なのは知っている。どうやら、魔剣の所有者以外の連中をレベルアップさせたみたいだな。どれ」

 ガギュルがラースではなく、騎士のひとりに爪で斬りかかる。研ぎ澄まされた剣のごとき切れ味に、受け止めた騎士の剣が軋む。

「ぐ、う……!」

「そら、もっと頑張れ。さもなくば、貴様の身体が真っ二つになってしまうぞ」

 歯を食いしばる騎士と違い、攻め手のガギュルは余裕たっぷりだ。

 魔物と人間では、こんなにも身体能力に差があるのか。驚くも、感心してなどいられない。町の住民だったラースと違い、訓練に励んできた騎士が魔法の援助を受けてもなお、力でガギュルに敵わないのだ。

 一対一では絶対に不利だ。騎士が攻撃を受け止めている間に、ラースたちでガギュルを討つしかない。

「でやあぁあああ!」

 騎士道がどうのとは言ってられないので、容赦なく背後から敵に斬りかかる。致命傷を与えられなくとも、素早い動きをするのに必要な羽はなんとかしておきたかった。

「甘いわ。剣の威力は最高でも、貴様の腕はまだまだみたいだな。どうして魔剣を扱えてるのかが、不思議でならん」

 片手で騎士への攻撃を継続しながら、もう片方の手で魔剣ヴェルゾを受け止めた。それだけでも、ガギュルがこれまで倒してきた魔物と別格なのがわかる。

「この程度で終わりではないだろう? もっと我を楽しませてみろ!」

 放たれた蹴りを、まともに食らう。剣を持ったまま、ラースはミルシャたちがいる場所まで吹き飛ばされた。

 もの凄い衝撃だった。幸いにして痛みはあまり感じないが、全身が少し痺れている。

「とんでもない強さみたいだね。ミルシャ、君は今のうちに城から脱出するんだ」

 偶然にもミルシャの近くへ来られたので、ラースは魔物へ聞かれないように小声で言った。合わせて、城外で亡命を願うレイホルンの騎士たちが待ってるのも教える。

「あれだけの騎士たちに守ってもらえば、多分だけど無事にランジスまで帰れる。僕たちはあとで追いつくから、まずはミルシャだけでも……」

「嫌よ」

 ラースの言葉を最後まで聞こうともせずに、ミルシャが言った。

「私の理想を実現するために力を貸してくれるんでしょ? だったら、あの程度の魔物くらい、なんとかしなさいっ!」

 一瞬だけポカンとしたあとで、ラースは笑った。なんだか、とてもおかしかった。

 感情の振れ幅が少ない。ミルシャは属性を持たないラースについてそう説明したが、こんなに嬉しくなったりもできる。

 属性がなくたって、人間らしく生きていける。立ち上がったラースは、ミルシャにお礼を言った。

「僕、頑張るよ。ミルシャの剣として、君の理想を阻むものを、全部粉々に破壊してみせる……!」

 改めて魔剣ヴェルゾを構える。

「我は本来、人を守る剣ではないのだがな。まあ、よい。我の所有者が、あの程度の魔物に後れを取るようでは困る。少しだけアドバイスをしてやろう」

「うん。ありがとう」

 戸惑うのではなく、素直に感謝した。

「我がお前の体を自在に操れたのなら、苦労はせずに済むのだがな。呪う人間の選択を間違えたばかりに……。ふう、今さら嘆いても始まらん。いいか、我の衝撃波は連続で放つことができる。重ねて打つこともな。それを上手く利用しろ」

 急にブツブツ言いだしたラースを、ミルシャや護衛中の騎士たちが心配していた。

 なので、まず最初に「ヴェルゾからアドバイスを貰えたよ」と説明した。

 そのあとで意識を集中させる。前方を確認すれば、床に倒れていたファナリアとコンスタンテを、ひとりの騎士が両肩に担いで救出してる最中だった。

 彼女らを巻き添えにする心配をしなくていいのなら、全力で衝撃波を放てる。ラースは戦闘中のセエラたちに、急いで逃げるように通告した。

 視界に映るのが魔族のガギュルだけになったところで、ラースは受けたアドバイスどおりに衝撃波を発生させる。

 十字に振った剣の軌道と同じ形で、黒い大波が敵を丸ごと飲み込もうとする。

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