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呪われし者の英雄譚  作者: 桐条京介
3章 反逆者の汚名
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 独立したばかりの王国、ゼロの初代女王ミルシャがレイホルンの王都へ出発して数日後。謁見の間に集まった面々に激震が走った。その中には、ラースリッドもいた。

 レイホルンから送りつけられてきた書状に、ミルシャが反逆行為を働いたとあった。王妃へ危害を加えようとし、牢へ捕らえたとも。

「奴ら……舐めた真似をしおる……!」

 マオルクスが、レイホルンからの書状を握り潰した。怒りが全身から滲み出ている。

「腹が立つ出来事があったんだろ。女王が我慢できなかったんだからよ」

 ジドーの言葉に、ラースが反論する。

「ミルシャが――女王陛下がそんな真似をするなんて、僕には思えないよ」

「ウム。ラースの言うとおりだ。事の真偽はどうでもよく、ミルシャ様を反逆者にするのが狙いだったのだろう。もうひとつの書状を見ればわかる」

 握り潰してない書状を、マオルクスが場にいる全員へ読み聞かせた。

 ゼロが忠誠の証を示せば、今回の件を不問にしてミルシャを解放する。頭を下げればいいだけなら簡単だが、レイホルンの要求は違った。

 愚行を働いた謝罪として金銭を求められた。必要な金額も、記載されている。マオルクスが口にした瞬間、ラースたちは揃って絶句した。

「そんな金額、ランジスの町しかないゼロに用意できるはずがないわ。確信犯ね」

 そう言ったのはセエラだ。出会った当初とは違い、マントもフードもつけていない。動きやすそうな恰好で、素顔を晒していた。

 セエラの言葉に、書状を呼んでいるマオルクスが苦々しさ全開で同意する。

「だろうな。提示した金額を払えぬ場合は、報復を行うと書いてある。侵略すると宣言してるも同然だ。真の目的は属国にするのではなく、侵略しての占領なのであろう」

 ミルシャが属国となるのを了承したともあったが、その点については誰も責めなかった。ゼロを取り巻く状況を考えれば、一国だけでなんとかなるとは思えない。周辺諸国だけではなく、撃退した魔物どもだって再び攻めてくる可能性がある。

「返答を待つ期限もほとんどない。これはもう宣戦布告と受け取ってよいだろう」

 書状を読み終えたマオルクスの側で、ジドーが右手の拳を左手に叩きつける。

「くそっ! 勝手に見捨てておきながら、町を守ったらこの扱いかよ。本気で頭にきたぜ!」

「落ち着きなさいよ。貴方が憤ったところで、事態は好転しないわ。それに……これが貴族のやり方よ。私たちの女王様が変わり種だっただけ」

 セエラの瞳に憎悪の炎が宿る。以前に、貴族からされた仕打ちを思い出しているのだ。

 どうすべきか周囲がザワつく中、マオルクスが重い口を開いた。

「ラースリッド、お主に頼みがある」

「僕に……ですか?」

「ウム。単身で王都へ乗り込み、女王陛下の――ミルシャ様の状況を確認してほしい。戦争が避けられぬのであれば、魔剣の力を使ってでも救出してくれ」

 レイホルン側に戦争をする意思があるなら、こちらがいくら譲歩しても無駄。ならばミルシャを救い出した上で、不利な決戦へ臨もうというのだ。

 血気盛んなジドーは、真っ先にマオルクスの提案に同意した。

「ふざけた連中に従う道理はねえ! こうなりゃ、徹底的にやってやるぜ」

 騎士たちから稽古をつけてもらった期間は短くとも、もとが暴れ者で腕力もあるジドーはすぐに戦闘能力を上達させた。大きな斧を片手で軽々と扱い、振り回す様は狂戦士みたいだった。

「その元気は、実際に戦争が始まるまでとっておきなさい。まずは、ラースがどうするかよ」

 セエラが目で意思確認をしてくる。ラースの気持ちは、最初から決まっていた。大切な女性が、捕らえられたままでいるなんて耐えられない。

「僕……やります。レイホルンの王都へ行って、ミルシャを助け出してきます」

 さすがだぜと盛り上がるジドーの隣で、セエラがラースに王都の場所を知ってるのか聞いてきた。

 ラースは言葉に詰まった。ランジスへ来て以降、町の外に出た経験がないからだ。

「知らないみたいね。それに貴方、馬には乗れるの? 徒歩で王都を目指したりしたら、到着する前に期限がきてしまうわよ」

 改めてラースは言葉を失った。ミルシャを助けたい気持ちは強いのに、いきなり手詰まりになった。

「ラースひとりでは無理そうだから、私も同行するわ。構わないわよね?」

 セエラが驚きの提案をした。承諾を求められたマオルクスは、もちろんだと頷く。

「危険な任務になるが、ラースもセエラもやってくれるか?」

「はいっ! セエラさん、よろしくお願いします」

 頭を下げたラースに、セエラは「こちらこそ」とかすかに微笑んだ。


 道中はマオルクスの馬を使わせてもらった。手綱を握るのはセエラだ。ラースは彼女の腰に両手を回して、振り落とされないようにしっかり捕まっている。

 衣服越しとはいえ、女性の肌に触れる経験がないラースは必要以上にドキドキした。恥ずかしさから腕の力が自然に緩み、そのたびにセエラからもっと強くしがみつきなさいと叱責された。

「それにしても、さすが元騎士団長の馬ね。スピードも乗り心地も抜群だわ」

 レイホルンの関係者に見つからないよう、道から離れたところをルートに選んだが、マオルクスの愛馬は臆したりせずに茂みの中も突っ切ってくれる。

「本当だね。でも……セエラさんはよかったの? 僕と一緒に来てくれて助かったけど……」

「……以前なら嫌がったわね。これも、あの女王らしからぬ女王様のせいだわ。一ヶ月も一緒に過ごしてないけど、王族とは思えない行動の数々に驚かされてばかり。次第にこう考えるようになったわ。彼女みたいな女王様は、一体どんな国を作るのだろうと。もしかしたら、期待してるのかもしれないわね。だから、助けてあげたいのよ。フフ、変かしら」

「全然、変じゃないよ。ありがとう、セエラさん」

「感謝する気持ちがあるのなら、そろそろさん付けはやめてもらえるかしら。なんだか、くすぐったいのよ」

「え? じゃ、じゃあ……セエラ……?」

「フフ。女性の名前を呼び捨てにするだけで緊張するなんて、ラースはやっぱり純情なのね」

 からかうように言われたラースは顔を赤くする。黙ってセエラの背中を見つめてると変な気分になりそうなので、周辺の景色を見てみようと顔を上げた。直後に視界へ飛び込んできたのは、威圧感たっぷりに存在するレイホルンの王城だった。

 王都シュレールの郊外にある大木に、セエラが馬を繋ぐ。誰にも見つかりそうにない場所を慎重に選んだ。

「別行動を余儀なくされた場合は、ここを落ち合う場所にしましょう」

 ラースが頷くのを確認したあと、セエラが先頭に立って歩き始めた。王都を守る衛兵がラースやセエラの顔を知ってるとは思えない。二人は堂々と入口から王都へ入ろうと決めた。

 衛兵の前で、ラースとセエラは恋人同士で旅をしてると告げた。規制されたりはしてないので、拍子抜けするほど簡単に王都へ入れた。

 王都を歩きながら、セエラが小声で、まずは情報を集めましょうと言ってきた。反対する理由もないので、ラースは頷いて承諾する。

 顔を一切隠さないラースの隣で、何故かセエラは出会った際の恰好をした。マントをつけてフードをかぶり、簡単には顔を確認できないようにしたのだ。

「……以前に王都へいたことがあるのよ。知り合いに見つかったりしたら、厄介な事態になるかもしれないわ」

 顔を隠した理由を、やはり小声でセエラが説明してくれた。納得したラースが今度は先頭を歩き、さりげなく住民に何かニュースはないかと尋ねる。言葉に詰まったりすれば、すぐにセエラが助け舟を出してくれる。

 フードを被ったセエラを訝しげに見ながらも、人のよさそうな太った中年女性は王都で最近噂されてる話を教えてくれた。

「何やら、国への反逆者を捕らえたらしいの。それが聞いて驚きよ。なんと、恥知らずな妾の子だって言うじゃない。恩を仇で返すとはこのことよね」

 まくしたてる中年女性の言葉に、ラースは複雑な気持ちになった。ミルシャの境遇は教えてもらったが、こんなにも酷いとは予想していなかった。呪われた子だと町中から虐げられてきたラースと、ほとんど変わりないのだ。同行中のセエラも、フードの下で腹立たしそうにしてるのがわかる。

 中年女性の話を聞き終えたあと、その場を離れて他の人に噂話を知ってるか尋ねてみる。今度は五十代くらいの細身の男性だ。最初は渋っていたが、セエラが素顔を見せると、人が変わったように知ってることをペラペラ喋り出した。

「牢に捕らわれた妾の娘の話だろ。王都にいる奴なら、全員が知ってるんじゃないかな。顔だけはいいから、殺すくらいなら住民に使わせてほしいよな」

 使うの意味がわからないラースが首を傾げる隣で、セエラが嫌悪感を露わにした。話を切り上げてさっさと立ち去ろうとするも、向けた背中に男性が声をかけてくる。

「話だけ聞いて立ち去るのはないだろ。せっかくだから、そこで一杯飲もうぜ。隣のガキは放っておいてさ」

「……お生憎様ね。私には、そのガキの方が、貴方よりもずっと魅力的に映るの」

 振り返った男性の前で、セエラはわざとらしくラースの腕に自分の手を回した。身体を押しつけられ、やわらかな感触が伝わる。ドキドキしすぎて、何が起こってるのかわからなくなった。

 男性を蔑むような視線を送ったあと、セエラは「行きましょう」と手を引っ張った。ラースはされるがままだった。

「ラースはあんな下品な男に……なりそうもないわね。女性に腕を組まれたくらいで、ゆでだこみたいな顔色になってるもの」

 セエラがクスっと笑った。衣服の上からではよくわからなかったが、上半身の双丘は結構なボリュームがあった。あとでジドーあたりに教えたら、全力で悔しがりそうだ。

「さて。これまでの話で、女王様は地下牢に捕らわれてるのが判明したわ」

 ラースから離れたセエラが、小さな声で話しかけてきた。名残惜しいなどと思ってる余裕はない。王都へ来た最大の目的は、捕らわれの女王ミルシャの救出だ。

「どうしようか? 魔剣で城門を破壊したりしたら、とんでもない騒ぎになっちゃうよね」

 ラースの発言に、セエラが苦笑する。

「ジドーじゃないのだから、過激な提案は駄目よ。脱出時ならともかく、侵入の時点で騒ぎを起こせば、王女様の救出は困難になるわ。定石どおり、忍び込むのが一番みたいね」

「忍び込むの? 僕、あまり身軽じゃないんだけど……」

「大丈夫よ。私がサポートするから。侵入経路についても、当てがあるわ」

 頼りになりまくりだ。改めて、セエラが同行してくれてよかったと思う。ラースひとりだったなら、今頃は途方に暮れていたはずだ。

「王都の下を流れる水路なら、地下へ繋がってるはずよ。多少のにおいは我慢しなさい」

 ミルシャを無事に助け出せれば、すぐにでも王都を脱出しなければならない。宿屋で部屋をとっても無駄になる。休憩もなしに、ラースとセエラは水路からの地下牢侵入を決める。

「水路へ続く道には防護柵があるのだけど、一部が脆くなってるの。私が滞在していた頃と、変わりなければね」

 誰かに見つからないようこっそりと移動し、セエラの言う防護柵の脆い部分を探す。

 時間をかけるまでもなく、簡単に見つかった。セエラの記憶にある状態のまま、防護柵が放置されていたからだ。

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