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第二話

砂塵が舞っていた。

大地は眠り、生きとし生ける者全てが地に伏すその闇の中、二人は立っていた。


一人は、若い男だ。

金髪碧眼の輝くような美貌。

神の祝福を一身に受けたかのような、彫像のような美しさを誇る美青年。

華美な装飾の施された鎧を纏い、造形物であるかのような美貌を憎しみに滾らせ直剣を正眼に構える。



「漸く見つけたぞ!悪鬼め!」


青年の視線の先にあるのは、悪鬼――リザードマン。

華やかさが立つ青年とは対照的に、その身に纏うは赤茶色のボロ布一枚。

全身が暗緑色の鱗に覆われ、その顔立ちは爬虫類そのもの。

青年より頭二つは飛び出ていよう巨体に、はち切れんばかりの筋肉がその異さを助長する。



「・・・クカ、漸くか人間」



リザードマンは、そういうとその両手に武器を取り出す。

両の手に一瞬光が満ちたかと同時に現れるは、巨大な――あまりにも巨大すぎる大鉈。

ただの大鉈ではない。

それは、ドワーフにより鍛えられた鋼鉄の大鉈。

幾多の強者の血を喰らい、その身に濃密な怨恨と呪詛を纏わせた呪物。

全てを喰らい尽くす、暴虐の化身。


それを振るう者もまた同じ。

好戦的なリザードマンの中においても一際血を好む戦闘民族キシュガル。その中においてなお鬼神と謳われた狂戦士、血濡れのダラン。


暴虐の体現たる彼に屠られた戦士達は数知れず。

法国の英雄リューイ。

異端者ガドルカノフ。

魔人グリマール。

地竜グリド。


そして――救世主アノス。


幾多の力ある者達を滅ぼしてきた、破壊の化身。それがダラン。

災厄を撒き散らすものも、希望を与えるものも、何も関係なく。



彼は、ずっと追っていた。

祖国を滅ぼした、暴虐を。

必ず滅してくれると、憎しみを糧に剣を振るい続けた。


彼は、ずっと待っていた。

種が芽吹くその時を。

きっと、彼が強者として自分の前に立ちふさがるだろうと確信して。

喰らいがいのある時になるまで待っていた。



そして――時が来た。


遂に、それは来た。

憎悪を胸に、心地よい殺気を発し。


ダランは歓喜に震えた。

そうだ。

こうでなければ。


憎しみを糧に戦う。

それは、実に素晴らしい。


自身の全てを、たった一つの目的の為に捧げるからだ。

その一瞬の煌めきは、至極の酒ですら霞んでしまう。



素晴らしい戦いになることをダランは直感し、喜びに打ち震えた。





さあ――――戦おう。










「っと・・・こんなもんかねえ」




打ち込んでいた手を休め、一息つく。

俺はあまり早く打ち込むことができない。

精々千文字打てば、もうそれで一休止だ。大体が夜に打ち込むので、もうそれで一日が終わってしまうことも珍しくない。


上書き保存を選択し、保存が終了したらパソコンをスリープに。

それから背伸びを一つ。



「ん~~ん。っふああぁぁぁ」



大学は始まったばかりだが、意外に忙しい。

まさかいきなりレポートの提出があるとは思わなんだ。

適当に選んだ法学部、もしかしたら意外に大変かもしれない。


今は怪我をしているからバイトもできないし、家にいるから特に不自由はないけど、治った後は苦労するかもしれない。


それにしても――と、俺は弟のことを思い出す。


あの脳筋が、まさか小説を書き出すとは全く予想外だった。

そしてその書いた内容も予想外だった。

しかもあんなものをよく投稿する気になったものだ。

俺だったら絶対に発狂してるね。


ああ、そういえばリビングで書いていたというのも驚きだ。

家族がいるんだから、あんなところで書いていて恥ずかしくないのだろうか。

全く、俺ならば発狂――って、もう二度目かこれ。


全く、最近は繰り返しが多くて嫌になる。





・・・む。そういえば弟はパソコンを持っていなかった気がする。

そもそも一日中部活漬けだものな。

土日も毎日家にいないし。

ならば、パソコンがないのも当然か。


時計を見る。

時刻は夜11時。そろそろ寝たほうがいいだろうか。

そう思っていると、いきなりバタンとドアが開く。


「なあ兄貴!ちょっとこれみてくれよ!」


「・・・取り敢えずさ、ノックしろっていつも言ってんじゃん」



現れたのは、わが弟翔太。

毎回入る前にノックをしろと言っているのに、全く改める気のないナイスガイ。


「それよりさ!これ見てくれって!」


そういって手渡されたのは、数枚の紙。



そう、ただの紙――だと信じたい。



「・・・これは?」



「俺の新作!見てくれよ兄貴!」


弟は自身満々と言った様子でドヤ顔をする。

頼むからその自身を勉学に向けて欲しい。


「どれどれ・・・」


まあ、見てくれというのだから断る理由もない。

俺は文字に目をやり――――







目にはいいたのは草原。

どこまでも続いている。


「ひゃっは――!!異世界トリップきたころえ!!」


ピンポーン!


ん?


「異世界点いおめでとうございます!!あなたはこれで勇者のなあかいりです!」



「よっしゃ!」



「ということで、あなたには転移特典がつきます」


「やったぜ!」


「それでは、異世界をたっぷりと楽しんでくださいね」


綺麗な金髪のネーチャンの姿が消える。






「・・・翔太」



「ん?何だ兄貴!」



・・・どうすればいいのだろうか。

一体、どこから突っ込んでいいのか分からない。



「まずさ、翔太はどんな話しにしたいのさ」


「どんなって・・・う~ん、リアルから来た人がチートな勇者になって、ハーレム作ってうはうはになる話し?」


「何故疑問形なのか気になるけど・・・まずはそういう発想を辞めた方がいいと思う。」


そういうと、弟は呆れたような表情をする。


「はあ?何言ってんのさ兄貴は。神様転生が今の主流だろ!?」


・・・なんでさ。



「・・・なんでさ」



ああ、つい思ったままの言ってしまった。



「あれから俺も調べたり、話しを聞いたんだよ!そしたらやっぱりネット小説って殆ど神様転生かチートかTSかだろ!?そんでハーレム作って奴隷買って惚れさせるんじゃないの?」



・・・どうしてこうも妙に的確な所を突くのだろうか我が弟は。



「いや、決してそんなことは――――」


「だってよ!一番でかい小説家に○ろうのランキングにあるのって、皆そんなのばっかりだぜ!ってことはそういうのが一番人気あるんだろ!?」



「ま・・・まあ落ち着けよ翔太」



まずい。

これは実にまずい。

誰もが陥りやすい典型的な罠に嵌ってしまっているぞ翔太!!



「まず○ろうはな、企業が運営しているからシステムが充実しているんだよ。基本無料だから人が集まりやすい。それも、経済力のない学生がな。そうなると、だ。主流となるのは若い学生達。書き手も、読み手もな。だから・・・まあ、俺の主観だけどさ、【安意】な作品が多くなって、しかもそれが好まれるようになるわけさ。」



弟は、良く分からないと言った顔をする。


「安意って、何がさ。」


「だから、さっき翔太が言ったような、転生、チート、TSだよ。手軽で誰もが食いつきやすいジャンルだから、皆が同じような作品を作る。その結果が無限のシュミラークルさ。作品は永遠に使いまわし続けられるってわけ。原典の絶対化が消え、似たようなものが再構成され続けるのさ。」



・・・意味がわからないという顔をしないでくれ弟よ。



「・・・つまり、なんなの?」



「ん~、ようはさ、皆が似たようなことをするから、ジャンルとして使い古されているわけさ。ご都合主義の権化としても名高いしね。」



「?」



「転生も、チートもTSも、実際には有り得ないだろ?楽して強くなろうったって、現実にはそんなわけがないし、性別だって易々とは変えられない。社会的な風聞もあるしね。転生なんてなおさらじゃないか。だから、翔太が書いているようなのは、ただの妄想だって叩かれるんだよそれが、ご都合主義の一例」



本当はそれ以前に、その文章について突っ込みたいところだが、取り敢えずは内容を指摘した。

弟には、俺が一時嵌ってしまった泥沼から一刻も早く抜け出して欲しい。



「・・・兄貴さ」



心底困ったように弟が言葉を発する。

なんだ。まだ納得がいかないのか?



「日本語喋ってくれよ」




・・・ああ、小説家の神様。

この哀れな弟に、理解力を与えたまえ。




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