第八十五話 感染⑥
一方そのころ――
別の空間に飛ばされたりゅう、壱、式の三人は、赤レンガの建物の目の前に立っていた。
その建物は中に入ると、とても広く天井はガラス製のアーチ型の屋根。
そして、改札と時刻表があった。
つまりここは――駅。
「まるでイギリスのロンドン駅を彷彿させる光景だ……懐かしい」
「壱殿は外国に行ったことあるのか?」
りゅうが目を輝かせて問う
「昔な」
「いいなー!」
すると改札にはNPCが駅員の姿で立っている。
りゅうがテクテクと向かったので、壱も式も後を追うように向かった。
「列車に乗れるのか??」
りゅうがワクワクしながら聞くと、NPCは「勿論です。列車の中にワクチンがありますので、ご乗車下さい」と答えた。
「列車の……中? つまり、列車がフィールドのようなものなのか?」
式の質問に無言で答えるNPC。
「……取り合えず、乗ってみるしかなさそうだな」
「だな」
壱と式の会話に喜ぶりゅう。
「列車かぁ~ラテっちがいたら喜ぶだろうな~」
「喜ぶのはいいがチビッ子。目的だけは忘れんでくれよ」
「おう! ボンズを助けるんだ!!」
時刻表も全て0:00:00と表示されており、三人は一先ず列車に向かうことにした。
駅内には二十か所もの駅構内に続く入り口があり、それぞれの入り口に入ると十両編成の列車が二列に並んでいる。
つまり、この駅は四十列もの列車を収納した巨大な建造物であり、そして列車全てがゾーンに包まれていた。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……乗り込むか」
壱の声掛けに応じ、式とりゅうは最後尾の車両に乗り込んだ。
大きな汽笛の音と共に、列車は発進した。
駅から出発すると、列車はどんどん加速していく。その速度に比例してりゅうのテンションも上がっていった。
「すげー! 景色がゆっくり流れているみたいだ……あっ、隣の列車も発進したぞ!! かっこいいなぁ!!」
列車は見渡す限り何列にも連なっている。時間が経つにつれ縦にも、横にも並んでいる列車の塊のようになっていた。
「ところで喜んでいるところ悪いんだけど、ワクチンは探さなくてもいいのか?」
式がりゅうにツッコミをいれる。
「大丈夫だ。少なくともこの車両の中には無い。ワシの眼に映らないのだからな」
「オッサン。そんなこともできるのか」
「まぁな」
「役に立たない説明好きのオッサンじゃなかったんだな」
「窓から降ろすぞ爆弾魔……まぁよい。早速行動開始といくか」
「どうするんだ??」
りゅうの質問に、質問で返す壱。
「ところでチビッ子――『斬鉄』はできるか?」
「ざんてつ? あぁ『また、つまらぬものを……』ってやつだな!」
「ま……まぁ、それでいい。鉄を斬ることは可能か?」
「鉄なんて斬ったことはないぞ」
「もし鉄を斬ることが可能なら、車両の連結をぶった斬る。後ろの車両から探して、なければ斬る。その方が他のプレイヤーも含めて探す範囲が狭まる。プレイヤーが助かる確率は上がるだろう」
「おぉ、頭いいな壱殿。やってみるよ」
早速りゅうは車両連結部に立つと、刀を抜いてまるで包丁で豆腐でも切るかの如く鉄を斬った。
「――流石」
一番後方の車両は連結が外れたことにより進みが遅くなり、どんどんと離れていった。
――その瞬間。
三人は同時に連結部から次の車両に飛び込んだ。
連結部側の扉からボロボロの日本刀が数本刺しこんできたのだ。
扉が開かれると「兜」と呼ばれる落ち武者の魔物が刀を武器に集団で襲い掛かるアンデットの一種であるこの魔物は集団戦法に優れている。
その集団から漏れ出した殺気をりゅう、壱、式は見逃さなかった。
そして、魔物を目の前にしても壱は自分の役目を忘れていなかった。
「右側の座席、前方から弐番目の座席の下に何かある! 探ってくれ!」
「よし、チビッ子! ここはオレがこいつらを吹き飛ばす!! 見つけてくれ!」
式が落ち武者たちの眼前に仁王立し両手に起爆の準備を整えた。
「まかせろ! お茶碗、左! おはし、右! こっちだな!! …………注射器があったぞ!!」
早速一本見つけた。順調な滑り出しだ。
「よくやった! 喰らえ、ドラ爆!!」
爆弾で落ち武者共を吹き飛ばすまではよかった。すると爆発の勢いで列車ごと右に傾いてしまったのだ。
「な……! マジかよ!」
――、一瞬。ほんの一瞬だが、時間がゆっくり流れる。
「まただ……この感触。絶望の時以来の妙な感触が……」
「今だ式! 爆弾を逆方向へ投げろ!!」
「あ……あぁ、わかった!!」
壱の声に反応し、爆風で傾いた列車が元に戻る。
「……危なかったぜ。ところで今の感触は一体……」
「式、ここでは爆弾での攻撃は車両ごと吹き飛ばしてしまう。直接攻撃以外、ここでは使えないようだぞ」
話が意図なく逸れてしまったが、今は壱の云う通りであり、これはすなわち自分の能力はここでは意味がないことを示していた。
つまり、戦力はりゅうしかいないことも――
「南の構成であったのなら終わっていただろうな」
その時――
「助けてくれー!!」
叫び声が頭上から降り注ぐ。
三人が急いで車両を飛び出し屋根に上ると、先ほど予想していた通り南構成のパーティーが無数の兜に襲われていた。
「屋根にこんなにいやがるとは……どうする」
「もちろんたすける!!」
りゅうが魔物の群れに突進し、とてつもない勢いで斬り割いていく。
ところが、列車がガタンと揺れたせいで、りゅうは頭の重みで後ろに転び、そのままコロコロと転がってしまった。
「あーれー!」
「チビッ子ーーー!!!」
「ガキンチョー!! 遊んでいるようにしか見えないぞー!!」
「とーめーてー!!」
りゅうの転がる先には兜が刀を振りかぶって待ち構えていた。
「ヤバイ!」
式が車両が吹き飛ぶのを覚悟で爆弾を放とうとした瞬間――
兜の身体に無数の線が浮かび上がる――そして、線の通り細切れになった。
兜を斬ったプレイヤーもまた、後ろに大量の落ち武者を抱えているが、全く動揺を見せず、転がるりゅうを受け止めてくれた。
「ふー、とまった」
りゅうがそのプレイヤーを見上げる。
「おっちゃん、ありがとな!!」
「いいってことよ。それより小僧、ここは敵が多い。いっちょ、オイラと一緒に闘わねぇか?」
「おう!! いいぞ!!」
「そうこなくちゃな」
その男とは、壱が見て唖然とする。
「貴様は……首天秤の半次郎!!」
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