第七十八話 体操
朝――
りゅうとラテっちが起きあがり、ベットを降りて洗面台で顔を洗う。
この後、二人には恒例行事があった。
ボンズが起き、二人は彼の足元に顔を擦り付ける。
「おひょーふにふに」
「おはよう、ボンズ。スリスリ」
「はい、二人ともおはよう」
りゅうとラテっちはお気に入りの者でも物でも朝に顔をスリスリ擦り付けるのが日課だった。
無論、ギルドメンバー全員がお気に入り。
今度はパチの方へ――
「パチ、おはよー」
「おひょー」
「ラテっち、『おはよう』って云えてないわよ。ちゃんと起きないと。はい、あごタプタプ」
「あぶぶぶ」
式さん――
「にゃんにゃん、おはよー」
「ついに『式』の一文字もなくなったな……。まぁ、おはよう」
「かまってースリスリ」
「は?」
「かまえよー。ぼくらと遊ぼうぜ」
「……朝食食べた後なら……」
「絶対だぞ!」
「はいはい」
壱殿――
「いちどの、おはよー」
「壱殿ー、おは……寝たのか?」
壱殿は無造作にベットから起き上がるも、帽子もサングラスもしたままで、少しよろけていた。
「いちどの、だっこして」
「ん……おチビちゃん。朝から元気だな」
――と、壱殿がラテっちを抱き上げると。
「あー、おさけくちゃーい」
「……む。そうか?」
「むふふ、おっさけくちゃーい。わーい」
ラテっちが壱殿から飛び降り、りゅうと部屋を後にした。
優作――
「ゆーさく、おはよー」
「おはよー」
「はい、おはようございます」
だが、優作はこの後の恒例行事に一抹の不安を抱えていた。
「それじゃ、いつもの体操しようぜ!」
「たいそー!」
「はい、それでは外へ出ましょうね」
宿屋の前にて――
「それじゃ、腕を大きく上げて背伸びの運動から――」
「ぷーにぷにロック! ぷーにぷにロック!」
「いぇい! いぇい!」
なぜか体操にならない。
ラテっちは腕と首を上下に激しく振り、りゅうに至ってはツイストのようなものを踊っている。
「ようなもの」と表現したのは、足に両腕、首に至るまで左右に振ってはいるが、全てがバラバラに動いており、奇妙かつ器用に踊っている。
そして、なぜかこの踊りを見ていると符力を少しだけ吸い取られている感覚に襲われるのだ。
「ふー、今日もいい運動をした」
「つぎはあさごはんでちゅ」
二人は「わーい」と喜びながらその場を後にするが優作の心中はいささか不安であった。
「自分の教え方が悪いのだろうか……それにしても、ボンズさんも壱さんも、よく勉強を教えているな……」
今日もまだコロシアムで闘いが繰り広げられているが、観戦しないボンズらは正直少し暇を持て余していた。
壱殿が迎え酒を飲む。
子どもたちはジュース。
「朝からお酒なんか飲んで……子どもの教育に悪いわよ」
「パチよ、貴様から『教育』という言葉が出るとは意外だったぞ」
「うるさいよ」
「それにしても、のんびりしながら話をするなんて、まるでオフ会みたいですね」
「ほほう、では云い出した者に質問だ。そういえば、優作は酒を飲める歳なのか?」
「優作は十代だよ」
ボンズが横から口を挟む。
「そうなんです。まだ飲酒はできません」
「そうだったのか。その口調からワシとさほど変わらん歳かと思ったぞ」
「それじゃ、壱殿は何歳なんだ?」
「おっと、大人の歳など聞かぬほうがよい」
「最初に聞いたのアンタだろうが!!」
――――
「全く……それにしても、オフ会か……つか、こうやって話し合う機会はあまりなかったから、色々話したいな」
ボンズの意見に、パチが思わぬ提案をしてきた。
「ねぇねぇ、それじゃあさ、現実にいた時のことを含めて実際にあった怪談噺でもしない?」
「――怪談??」