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第七十七話 探検

 

 思いがけなく宝の地図を手に入れ、テンションの上がるりゅうとラテっち。

 余りに嬉しそうなので、念のためボンズは地図を手に入れた際にGM(ゲームマスター)から受けた説明チャットを教えておくことにした。

「といっても、大したものではないぞ。お金が多少入るくらいらしい。他のプレイヤーもほとんど参加していない。代わりにコロシアムで観戦しているくらいだしな。それでも行くのか?」

「うん! いきまちゅ!!」

「地図を見ながら探検、楽しそうだ!!」

 どうやら二人は宝箱の中身には興味はないらしく、むしろ地図の方に関心があり、地図を見ながら探検がしたいようだ。


「おやつを買い込まなくちゃ! そうだ、なぁなぁボンズ。今日はぼくたちだけで探検に行きたい!」

 りゅうが意外なことを云いだした。いつもはボンズの傍に居たがる二人だけに、周りの大人たちは少し驚いた。 

「たんけんでちゅ! ねぇねぇ、わたちがリーダーでもいい?」

「いいよ、ラテっち」

「わーい!」

「りゅう君は大人ですね」

 優作は感心して、りゅうの頭をなでる。

「えへへ」

「みんなはおるすばんね」

「え……? ねぇ、ラテっち。ボンズは?」

 パチの問いに、

「ボンズにはお弁当を作ってもらうんだ」

「ばんごはんもでちゅ! かえったらたべるの~」

『だから、ボンズもおるすばんね』


 ――ギクッ!


 パチと壱殿は不安げにボンズを見る。

「わかったよ。いってらっしゃい」

 意外にも、ボンズは平然としていた。

「それじゃ、お弁当を作るけど、おにぎりとサンドイッチと、どちらがいい?」


『サンドイッチ!』


「はいはい。玉子サンドとハムサンドでいいな。カラシは少し多めか」

「さすがボンズ。わかっているな」4

「でちゅでちゅ」

「それじゃ、おやつを買いに行っている間に作っておくから、二人とも準備しておいで」

『はーい』


 おこずかいをもらい、二人は出かける。

 ボンズは台所へ向かう。実にありふれた光景に思える。――が。


「おかしい」

「えぇ」

「何がだ? 二人そろって暗い顔しやがって」

「式さんと優作は知らないかもしれないけど、ボンズのあの子らに対する過保護っぷりったら、もう異常よ」

「うむ」

「まさか、さっきも笑顔で送りだす準備をしているじゃないですか。お弁当だって進んで作ってくれているんだし」

「だよな。考えすぎなんだよ、お前ら」

「それじゃ二人とも、台所を覗きにいってらっしゃい」

「なんで?」

「いいから」

「それじゃ行くか優作。おい、壱。お前はいいのか」

「……ワシは見たくない」

「おかしなヤツら。まぁいい。ちょっくら行ってくるか」

「ボンズさん。きっとおいしいサンドイッチをつくっているんでしょうね」


 式さんと優作が台所へ向かう。

 二人が覗くと、なぜか薄暗かった。


 タタタタタタタタタタタタタタタタタタッ


「……なんの音だ」

「包丁……の音?」


 台所の奥へと足を運ぶ二人。――そこで見た光景は。


「ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ……」


 無表情のまま、大量のキャベツを独り言を云いながら千切りし続けるボンズの姿だった。


 慌ててその場から逃げ出す式さんと優作。


「お、おい! アレ、アレなんだ!? アレ、ヤバイって!! マジ、ヤバイって!!」

「怖いです! 見てはいけないもの見てしまいました!! トラウマです!!」

 青ざめて逃げ帰った二人に対して、「でしょ」――と、パチが当然の結果だと言わんばかりに答える。



『ただいまー』

 りゅうとラテっちが帰ってきた。

「おかえり」

 笑顔で二人を迎えるボンズ。

 その姿にも、一同ドン引きしていた。


「それじゃ、『ラテっちたんけんたい』、しゅっぱつでちゅ!」

「おおー!」


 二人は元気よく出かけて行った。


「…………あの……ボンズ、さん。私たちのお昼ご飯は?」

 パチが尋ねると、ボンズは無言のまま台所へ向かい、数十個分の山盛りキャベツを大皿一枚に乗せて運んできた。

「っ!! まさか、これがお昼ご飯?? キャベツだけなの!?」

 するとボンズは「キャベツだけではない」と云わんばかりに、ソースとマヨネーズをテーブルにドンッと置き、その場から去っていった。


「これは反論しないほうがいいわね」

 流石のパチも、今だけは逆らわない方がいいと判断し、文句を云わなかった。


 優作は青ざめながら俯き震えている。

「怖いです……怖いです……」

 式さんも同様に青ざめ、ポツリと今の心境を述べた。

「アイツ、おじょうちゃんが嫁に行くとき、発狂するか相手の男を殺すだろうな……」

 続けさまに壱殿も。

「いや、その両方だろうよ」


 ――そんな状況など一切知らないお気楽なりゅうとラテっち。

 テクテク森を歩きながら腕を振り、元気よく歌っている。


「きょーおもげんきにたんけんだー!」

「お宝さがして探検だー!」

「ばんごう! いち!」

「にー!」

『ラテっちたんけんたい!! いぇい!!』

「ふたりしかいないけどー」

『ラテっちたんけんたい!! イェイ!!』



「――さてと、どれくらいで到着するかなー」

「うーむ、さっぱりわかりまちぇん!」

「あちゃ! ラテっち、地図見せて」

「ほい」

 りゅうは手渡された地図をマジマジと見つめる。

「大丈夫、このまままっすぐであってるよ」

「よかったー!」

「そうだ! ラテっち、そろそろお昼ご飯にしよっか」

「うん!」

 二人は木陰に寄り添い、お弁当を広げる。

「わーい、サンドイッチいっぱいだー!」

「さすがボンズだ。それじゃ、いただきーます!」

「いただきまちゅ!」


 一方そのころ。


「食っても食っても減らんぞ! キャベツ!」

 チビッ子たちはサンドイッチをおいしく食べてるとき、大人たちは大量のキャベツに悪戦苦闘していた。

「キャベツ怖いです……もう見たくありません……」

「優作、残したら今度は夕食に何が出るかわからないわよ! ここは頑張って!」

「ですがパチさん。りゅう君とラテっちちゃんが帰ってきたら問題ないのでは?」

「帰ってこなかったら?」

「……頑張ります」

「頼むぞチビッ子たち。本当に頼むから無事に帰って来てくれ――と、いうことでワシは用事を思い出した」

「おい、壱。逃げるな! オレたちは運命共同体だろう!」

「こんな時だけ都合のよいことを云うな式よ。食通を自負するワシにとって、もう限界だ!」

「おまっ、ここで諦めたら、今度は大量のレタスが出てくるかもしれないだろうがよ!」

「ぐ……」


『りゅう、ラテっち、早く帰ってきて!!』



 その頃――

 りゅうとラテっちはとうとう宝箱を発見した。

『やったー!!』

 ――しかし。

「ありゃりゃ、からっぽだ」

「おやくそくでちゅね」

「そうだね。せっかくだからこの宝箱を持っていこう」

「そうちまちょう」

 ラテっちはカバンに宝箱をしまった。

「それじゃ、帰ろっか」

「うん」


 二人は、日帰りの探検を終え、みんなが待つ場所へと帰っていった。

『ただいまー』

『おかえりーーーー!!!!』

 笑顔で……いや、安堵の表情を浮かべ迎える大人たち。

「たからばこ、はっけんしまちた!」

「でも、からっぽだったぞ」

 ラテっちはカバンから宝箱を出し、みんなに見せる。

「これでちゅ。いちどの、これすごいの?」

「どてどれ……ほほう、これは箱に価値があるものだ。売ればそれなりに金になるぞ。よかったな二人とも」

 それを聞いて大喜びするりゅうとラテっち。さっそく台所に引きこもっていたボンズを大声で呼んだ。

「ボンズー!! 見てくれー!!」

「みてくりぇー!!」

「どうした? 二人とも」

 ボンズが台所から顔を出し、二人の元へ駆け寄る。

「おっ、これが宝箱か。中身が空っぽだけど……箱は高そうだな」

「うん! 売れば高いらしいぞ! 頑張ったボンズにあげるんだ!」

「ぼんずにごほうびでちゅ! よろこんでくれりゅ?」

「りゅう……ラテっち……もちろんだ!!」

 ボンズも元に戻る。

 その姿に胸をなでおろす大人たち。

「ところで、晩御飯は何が食べたい?」

 ボンズの問いに――

「自分、焼き肉がいいです!」

「オレも肉! 肉が食いたい!!」

「優作も式さんも肉がいいのか。ぼくはどうしようかな」

「お願いりゅう! 肉って云って!! お肉が食べたいって云って!!」

「パチまで、変なの。ま、いいか。ボンズ、焼き肉がいいぞ」

「焼き肉か……」

「トドメだおチビちゃん。お願いしてくれ。これがワシらからのお願いじゃ!」

「ふみゅ。カルビにサガリにタンしおに~。たべたいでちゅねー」

「そうか。わかった、今日の晩御飯は焼き肉にしよう」


『よっしゃーー!!』


 子どもたちより喜ぶ大人たち。

 その光景をチビッ子たちはちょっと不思議そうに眺めていた。

 ボンズが台所に向かうと、すぐさま優作がチビッ子たちに駆け寄る。

「これからはなるべくみんな一緒にいましょうね!!」

「そうだそうだ!!」

 式さんも一緒になって、なんだか必死そうだ。

「ん? よくわからんが、いいぞ」

「わかりまちた」


 何も知らない子どもたちであった。



ラテっちたんけんたい! いぇい!

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