第七十六話 祝勝
闘いは終わった。これで「|the last one party《ザ ラスト ワン パーティー》」はタイトルマッチのクエストを達成したことになる。
ただ、対戦したギルドが消滅したことを考えると、諸手をあげて喜ぶことができない。
気が晴れない。
だが、ボンズが控室に戻ると、みんなが待っていてくれた。
そして、りゅうとラテっちがボンズの顔に飛びつくことで、暗い気分を吹き飛ばしてくれた。
「強かったぞ! かっこよかったぞ! ボンズ!」
「ぼんずはさいこうでちゅー!!」
ボンズは二人を抱きかかえ、生きていることを実感する。
そうだ。俺はこのために闘ったのだ。
ボンズは二人を抱きかかえたまま、壱殿の方へ向かう。
「……ありがとう。気付かせてくれて」
「うむ。よくやったな」
「あぁ、みんなもありがとう」
「ボンズさん。お疲れさまです!」
「やるじゃねぇか」
「アンタにしては、頑張ったんじゃない」
それぞれが、ボンズを祝福してくれる。
これも、人生一度として味わったことのないこと。この闘いはボンズに多くのことを教えてくれた。
「ところでみんな。この後の対戦は見ないことにしないか」
ボンズの提案に皆が同意する。
相手の実力を知ることも大切だが、消滅していくギルドを見るのは忍びなかった。
特に、りゅうとラテっちの教育に悪い。
向かってくる相手は全力で対応するのみ。
「ねぇ、ぼんず」
「どうしたラテっち」
「はーら、へったぞ~」
ラテっちはおなかをスパン、スパーンと叩き、空腹をアピール。
「そうだな、それじゃご飯にするか。みんな、外で食べようか」
コロシアムから外に出て、野原で石でできたかまどを用意。
土鍋を火にかけ皆に茶碗を手渡した。
七人がかまどを囲み、座りながらボンズ特製の鍋の完成を待つ。
すると、りゅうが立ち上がりボンズの傍に寄る。
「なぁボンズ。これはなんの鍋だ? 味噌の臭いがしないけど、そのかわり香ばしい匂いがするな」
「あぁ、土鍋を使っているが汁物の鍋料理ではないんだ。今、水蒸気が出ているだろう。これが出なくなったら、少しおいて完成だ」
「そうか。楽しみだな~」
りゅうはニコッと笑ってそのままボンズの隣に座る。
ついでにいそいそと反対側のボンズの隣にラテっちが座る。
両方にチビッ子たちが座ると、土鍋から水蒸気が出なくなった。
「もう少しかな」
りゅうの問いかけにボンズが頷く。
――十分後。
「よし、完成だ」
ボンズが土鍋のふたをとる。
「おおお!! なんかすごいの出てきたぞ!!」
「おさかなさんでちゅ!!」
鍋の中には炊きたての米。そしてその上に鯛のお頭付きが乗っていた。
みんなが覗き込み、できたての米と鯛の香りに喉が鳴る。
背骨を綺麗にとり、醤油をたらすと、一層香ばしさとが増した。
その香りはなんとも食欲をそそる。
「おぉ、これは『鯛飯』じゃないか。ワシの大好物だぞ! ボンズ、お吸い物も作ってくれ。あと、漬物も欲しい」
壱殿の要望に応えるボンズ。
「一応、鯛の小骨に気を付けて食べてね」
「はふっ、はふっ」
「りゅう、急いで食べるとやけどするぞ」
「これ、すげー美味いぞ。おかわりだ!」
「やめられない、とまらにゃい~!」
子どもたちも喜んで食べている。
「うむ、うろこに小骨、内臓の処理まで完璧だ。流石ワシが見込んだ男だ」
壱殿はボンズと出会った時点で才能を見抜いていたが確信は無かった。
だが、料理の腕を知って確信する。
一つ一つの食材が重なり合った先の姿を見据える目を持ち実行できる視野の持ち主だと。
料理は完成形のインスピレーションを見えなければ美味いものは作れない。相手の嗜好を読み取り、視覚を加えた類まれなる五感を発揮し、絶品料理、なにより『ご馳走』が生まれる。
ボンズが闘いに視覚情報以外も発揮できると確信していた。
一同、ごちそうさまでした。
みなが食べ終わると、りゅうとラテっちが立ち上がる。
空腹も満たされ、美味しいものを食べた後、再びボンズの闘いっぷりに興奮したようだ。
「ぼんず、かっこよかったでちゅ~」
「いくぞ、ラテっち!」
「でちゅ!」
――と、唐突に二人は向かい合わせになり、ファイティングポーズをとる。
「ラテっちぱんちがひをふくじぇー
ぷにぷにおててがひをふくじぇー
あちちー
あちちー
あっちっちー!」
「あう、やられたー!」
りゅうがコテンと後ろに転がる。
チラリ――
こちらを見るラテっち
「ん?」
「ドヤッ!」
ラテっち、渾身のドヤ顔。
「そんな顔してません!」
「今度は僕の番だ!
りゅうのぱんちも~火をふくぜ~
イナズマパンチがひをふくぜ~
いくぜ!
もえるぜ!
あっちっちー!!」
「あう。やーらーれーたー!」
ラテっちも後ろへ転がる。
チラリ――
「また?」
「ドヤー!!」
りゅう、会心のドヤ顔。
「そんな顔してまっせん!!」
「してたわよ」
「パ、パチ……うそだ!」
「してた」
「してた」
「壱殿、式さんまで……優作~、してないよな! な! なっ!」
ボンズの背後にみんなからの視線を感じる優作。
「…………して……ました」
「うそだー!!」
ボンズがイジけて後ろを向くと、ズボンの後ろポケットに紙を丸めてしまっていることにりゅうが気付く。
「おいボンズ。その紙はなんだ?」
「ん? あぁ、タイトルマッチの勝者に贈られる宝の地図だって」
「宝の地図!!?」
ボンズの一言に、りゅうとラテっちが喰い付いた。