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第七話 打算

 

 二つ名――


 もう一つの呼称。異名とも云う。

 この<ディレクション・ポテンシャル>には、伝説と謳うに相応しい「二つ名」が存在する。


「天に愛されし者」


 この二つ名は存在しても、そう呼ばれたことのあるプレイヤーは存在しないと云われていた。

 その理由は、二つ名を称される条件にあった。


 神から授かる――「神具」を手に入れること。


 ゲームにおいて武器や装備、アイテムの数は限定されていない。

 例えば「鋼鉄の斧」といった店舗で購入できる武器は無数に存在する。

 クエスト等で手に入る装備も、高難易度クエストでしか手に入らない「希少価値の高い」ものですら、入手条件をクリアしたプレイヤー数の分だけゲーム内に存在する。

 今回の仕様変更で数量限定となった蘇生アイテム「祝儀」も「貴重」ではある。


 しかし――「神具」の存在は「希少」・「貴重」というレベルではない。

<ディレクション・ポテンシャル>の世界に広がる4つの大陸。

 それぞれの大陸に「この世界に『1つだけ』しか存在しない」4種類の秘宝。


 これが「神具」と称される一品である。


 いや――アイテムや装備だけではないかもしれない。

 4種類の「何か」が、伝説の秘宝として存在すると云われていた。


<ディレクション・ポテンシャル>のサービスが開始されβ(ベータ)オープン当時からこの存在は語り継がれてきた。

 4種類の名前も存在する。

 だが――「入手」どころか「『神具を持っているプレイヤー』を、実際にその眼で確認したことのある『プレイヤー』」すら見た者はいないとされていた。

 そしていつしか「噂が噂を呼び、実は神具など『名前だけ』語られているだけで、実は存在しない」とまで云われていた。



 ――だが……その伝説級の神具が今、目の前に実在している。



「りゅう……その日本刀……どこで手に入れた?」

 ピンクパンサーは既に息絶えている。公約通りに。

 しかし、魔物を倒したことなど、もはやどうでもよくなっていた。


 初めて逢った時、確かに見たことのないつばだとは思っていた。

 しかし――その正体は想像をはるかに超えていた。

 鞘から抜かれた芸術作品とも云える刀身。

 その刀身から生み出された斬撃を目の当たりにした瞬間、心の底から震えあがった。

「衝撃が走る」――では済まされない。

 りゅうの手に握られた日本刀――

 間違いない……


「神具」の一つ。


九蓮宝燈チューレンポウトウ】――だ。


 長年この<ディレクション・ポテンシャル>をプレイしているが、もちろん見たことはない。

 見たこともない「神具」にも関わらず、その中の一品【九蓮宝燈】と認識できたのには、刀から繰り出される「斬撃」にあった。


 まさに、神具についてネットでささやかれていた特徴通りだからである。

 剣や斧といった近距離武器での攻撃は1振りに対し1撃のダメージを与える。

 実に当たり前のことだ。


「神が製法した一振り【九蓮宝燈】」

 この日本刀は一太刀浴びせる度に一瞬にして九本の斬撃を生じ、九撃のダメージを与えると伝えられていた。

 そして、たった今りゅうの放った攻撃は、まさにそれだった。


 仮想世界が現実に変わった今になって、伝説にお目にかかれるとは夢にも思わなかった。


 それにしても――

 まさか、かけ算もできない幼児が所有していたとは……


【九蓮宝燈】の存在――それだけでも驚天動地だ。

 しかし――

 りゅうの戦闘を目の当たりにし、心を奪われたのはそれだけではなかった。


 刀身から発せられた閃光とも云える九本の斬撃――その1本1本のダメージがあまりにも高すぎる。

 <ディレクション・ポテンシャル>の世界における「敵に『一撃』で与えることのできるダメージ限界数値」の壁をアッサリ超えていた。 

 いくら「神具」の攻撃といえど、有り得ない。


 そういえば……初めてりゅうのステータスを見たとき、方位しか確認していなかった。

 西シャーという方位だけを見て、正直見下していた結果から興味がわかなかったからである。 


「りゅう、もう一回ステータスを見せてくれるか」

 りゅうはタッチパネルを開いて見せてくれる。

「なんだ……これ?」

 パワーが――恐ろしく高い。

 それに比例して、攻撃力がとんでもない数値を現していた。  

 有り得ないが続く――何故こんな数値になるんだ。

「……ん?」

 方位をよくみると「西」の文字が太い。

「西」――いや、正確には「西」の文字に「西」の文字が上書きされているため、太く見えている。

 ボンズの場合は「トン」の横に「ナン」が表示され、「東南トンナン」と表記されている。


 この表記が意味するもの――

 まさか……ダブル……なのか?



 ======================================


 ダブル――初期設定で選択した方位をレベル100に到達した時、転生を行うことができる。

 その際、別の方位ではなく、もう一度同じ方位をレベル1から始めたプレイヤーを指す。


 ======================================= 


 西をレベル100まで高め、もう1度方位を西に選択……確かにこの発想はある。

 だが、この行為はテレビゲームのRPGでラスボスを倒し、更にレベルを99まで上げた後、そのセーブデータを消して、再度「レベル1」から始めるようなものだ。

 余程の酔狂でなければ、こんな真似はしない。

 ただ1つ云えること。

 ダブルにする理由には、1つの方位はレベル100に到達しても全てのスキルや特殊能力を会得できないため、もう1度同じ方位に転生し、可能な限りスキルや特殊能力を会得することにある。


 今のりゅうのレベルは95……

 つまり――

 りゅうは……「西」をほぼ極めている。


 さらに―― 

 りゅうの一撃は他のプレイヤーの最大攻撃スキルに匹敵する。

 さらに【九蓮宝燈】による多段攻撃はどの必殺スキルをも凌駕する。

 何よりの利点は、キャスティングタイム(スキルを選択し、発動するまでの時間)もリキャストタイム(スキルを発動してから再びスキルを発動させるまでの待機時間)も、ほぼ存在しない。


 ただの「通常攻撃」なのだから。


 相手が息絶えるまで降り注ぐ斬撃の雨。

 これが――【九蓮宝燈】を手に入れた西を極めし者の実力。

 

 いや――りゅうの実力なのか。


 戦慄……そんなものじゃない。

 言葉では表せない――「こんなことがあっていいのか」と、この言葉が心を支配する。


 なによりも、こんなプレイヤーが今まで脚光も浴びず、知名度もないまま存在していたこと自体ありえない。


 もし……りゅうがソロプレイをしていたとしても――

 回復アイテムを持たずとも中ボスクラスの魔物ですら相手にはならない。

 確実に瞬殺される。



 正直、コロシアムで無敗を誇っていた俺ですら、りゅうとタイトルマッチで対戦して勝つことはできない。

 ――いや……それこそ、相手にすらならないだろう。


 己よりあきらかに強い存在が――目の前にいる。

 埋めることはできない差。圧倒的距離。

 自身の目指す遥か先に、りゅうはすでに立っていた。


 やばい……もうタメ口きけない……


「スチャ!」

 突然、直立した状態から右に身体をねじり、同じ方向へ両腕を伸ばしはじめた。


「りゅう、なにをしている?」

「勝利のポーズ!」


 やはり――外見からは想像もつかない……


「どこで手に入れた?」

 誰だって気になる。当然だ。

 もう一度、問いただそうとした――その時。


「スイカひやしたー! きってー」

「イェーイ!」


 緊張感に包まれた空気をたった一言でブチ壊すラテっち。

 ある意味天才だ……って――スイカ? きって??


 りゅうが柄を握り直す。


「やめてー!! それ金貨じゃ買えないのよ--!!!!」

 金貨どころの話ではない。

 もしもRMTリアルマネートレードで出品されたらどれほどの値が付くか想像もできない。

 そんなことも、このお子さま方にはお構いなしのご様子だ。


「――って、チョット待てーーい!!」

 どこに行ってたと思っていたら、何してんの! この子は!

 ゾーンの中にすらいなかったような気がする。


 あっ! 

 そういえば、前の話で一言も喋っていない!


「わーい」

 ラテっちは嬉しそうにスイカを抱えて走ってくる。

 テッテッテッテッテッテッテッテッテ……コテン! 

「アウッち!」


 あ……コケた。


 この2人はすごいんだか、世話が焼けるんだかよくわからん。

 でもまぁ、一緒にいると緊張感が抜けてくる。

 さっきまでの震えも、いつの間にか消えていた。


「まったく……ケガはないか?」

「うん!」

 転んだラテっちを起こしてコートに付いた土を払う。

「すいかー」

 地面に落ちたスイカを拾い上げる。

「よかったな。スイカは割れていないぞ」


 ――はっ!!


 スイカを手に取ったのと同時――瞬時に閃く。

 マズイ……このままでは神具が包丁の代わりになってしまう。

 興味の方向を変えなくては!


「そうだ! 今度スイカ割りしよう!」

「なに? スイカわりって?」

「えっとな、目隠しをして、棒でスイカをわるんだよ」

「おもしろそー!」

「だろ?」

「んじゃ、しまうね」


 よし!

 ラテっちはスイカをカバンにしまってくれた。これで一安心……でも。 

「なぁ、カバンにしまったらスイカ腐らないか?」

「ラテっちのカバンはそのままだから心配ない」

 りゅうの云っている意味がわからない。

「……そのまま?」

「時間が止まっているんだ。だからスイカだけじゃなく、お弁当もおやつも大丈夫。いっぱい入るしな」


 ますますこの世のものじゃない。


「そうだ、ラテっち。ぼくのアイテムもしまっておいて」

「いいよー」

 りゅうはアイテムポケットから色々な物を出し始めた。

 回復アイテムにおもちゃと蘇生アイテム……え??

「なんで渡せるの!!??」

 『祝儀』の所有限度は1人1個になったはず。

「それ――アイテムポケットの話だろ」

「???」

「ラテっちは『スキル』だから、そんなのかんけーないよ」


 スゴイことをサラリといいやがった!!

 なんて子たちだ。GMゲームマスターが新たに作り上げたこの世界のことわりを崩せる能力者と云っても過言ではない。

 ――なんなんだよ……

 【九蓮宝燈】に【チートカバン】

 このコンビの存在はGMの権力を凌駕するのではないのか?

 なぜ、こんなプレイヤーが存在するんだ?


 なぜ……2人きりだったんだ……


 この2人の存在が知れ渡れば、争奪戦は必至。

 上手く利用すればこの<ディレクション・ポテンシャル>で頂点に立てるかもしれない。


 …………


 ――嫌だ……

 この子たちを利用? 頂点??

 ボッチの俺には興味ない……いや、なんか違う。

 よくわからないけど、この2人に対してこんな気持ちを抱くのは嫌だ。

 モヤモヤして、こんな感情は湧きでたことはない。

 自分にイライラする。


「あー! もー!」

「うひゃ! びっくりしたー」

「どした? いきなり叫びだして」

「俺……すげーバカだ! 自分に腹が立つ!」

『なんで?』

「俺を叱れ!」

『なんでっ!?』

「いいから!」

『へんなぼんず……それじゃ、コホン』


『ビバビバッ! ビバビバッ!』


「やめてー!!」

 踊りながら連呼する2人の台詞に思わず耳をふさぐ。

「それ、叱るとは違う。トラウマを引き出してとは云っていない!」

「おかしなボンズだ。仲間をしかるわけないだろ。もう変なことをいうなよ」

「……はい」

 反省するには充分すぎるダメージを心に負った。


 でも、やはり「仲間」と呼ばれるの……嫌いじゃなくなってきたかも。


 なんか、ドッと疲れた……

「一度、街に戻ろうか……」

『さんせー!』


 一匹しか魔物を倒していないが、今日は驚きとその他様々な理由から、戦闘は明日にすることにした。

 身体よりも心を休めたい。そんな気分だ。



 ところが、街に戻ると宿屋はプレイヤーでごった返している

 そうか、ゲームでは人数制限なく宿泊できる。

 だが今は、現実同様に部屋数にも限りがあり、満室となれば宿泊できないのか。

 それにしてもすごい人……あれ、おかしい? 意識が……とおく……


「りゅう、ぼんずが……」

「ボンズがどうした……あっ!」

 カチャ……カチャッ……

 ボンズはズボンを脱ごうとしていた。

「ラテっち、これはヤバいな」

「やばいねー」

『せーの!』

 りゅうが右手。ラテっちが左手。

『うんしょ! よいしょ!』

 2人がボンズの両手を掴み、ズリズリと引きずりながら人混みから離れていった。



「――あれ? ここは?」


「ききにはつでちゅ」

 気がついたのと同時にラテっちはおかしなことを云いだした。

 ききにはつ? なんだそれ? 危機二髪――と云いたいのか? 

「それを云うなら危機一髪だろ」

「……いや、ある意味あっているんだ」

「りゅう……なにが、あっているんだ?」

「ビバビ……」

「ラテっちダメ!」

 りゅうはとっさにラテっちの口をふさぐ。

「…………」

『…………』

 数秒の沈黙。

「…………あ……はい、そういうことね……」

「だいじょうぶだよボンズ! 今度はパンツじゃないよ!」

「だいじょぶ!」

 幼児2人になぐさめられる、いい歳の男の図がここにある。

 泣きたい……


 なんだか……俺って、こんなのばかりだな。

 一生集団生活をできなさそうな自分が嫌になってきた……


「宿屋は無理だな……」

 さて、どうしたものか


「そうだ! ボンズ、キャンプしようぜ!」

 キャンプ? 外で寝るのか!?

「それをいうなら『サバイバル』じゃないのか?」

「キャンプだぜ!」

「キャンプ! キャンプ!!」

 ラテっちは興奮しだし「キャンプ」と連呼する。

 ――だが。

「……やだよ……」

『えぇ~!?」』

 ボンズの返答に2人は驚きと残念さとを合わせた声を出す。

 2人には申し訳ないが、無理な話だ。

 小学校の遠足でさえ耐えきれなかったのに、キャンプなんて……できるわけないだろう!

「やろうよ~キャンプー!」

「ムリ! ムリムリ!!」


 2人とも寂しそうな顔をしながらショボンと下を向く。

「そんな顔をしてもダメ!」

 宿以外の手段はそれしかないかもしれないが、アウトドアをするなど考えられない。

 生まれてこのかた屋内以外で寝たことなどない。数日前に宿屋に泊ったことすら、自宅以外で初めて寝たというのに……キャンプなどハードルが高すぎる。


「キャンプ……」

 あ……地面に落ちている小石を蹴り始めた。

 なんてイジけるのが上手いのだろう。


 でもな……外で夜を過ごすなんて……


「キャンプ……してみたかった……」

 ――してみたかった?

「ラテっち。キャンプをしたことないのか?」

「……うん」

「1度も?」

 今度は黙って頷くだけだ。

「外で飯食って寝るだけなんだぞ」

「……おそと(外)でなんて……あそんだことないもん……」

「…………」

 俺と同じだ……ラテっちもひきこもりなのだろうか?

「りゅうもなのか?」

「……」

 下を向いたまま、喋らない。

「……りゅう?」

「なぁ、ボンズ」

 ようやく喋ってくれた。

「実はな、『夜の外』は好きじゃない……」

「それなのにキャンプをしたいのか?」

「だからだよ。ボンズと一緒なら……楽しく過ごせて、好きになれると思った。お願いだよ! キャンプしようよ!」


 2人は少し泣きそうな顔をし始めた。

 こんな表情……見たことない。

 こんなに切実にお願いしたこともないじゃないか!

 それなのに……俺は何をしている!?

 さっきのモヤモヤした感情を忘れたのか……なんでこの2人にこんな表情をさせている?


 この2人は……笑顔が一番なんだ!


「りゅう……ラテっち……」

『…………』

「キャンプはな……材料がないと、できないんだぞ」

『……ざいりょう?』

「そうだぞ! 一緒に寝るためのテントに食料……バーベキューの準備もしないとな!」


『バーベキュー!!』


 2人揃って笑顔でピョンピョン飛び跳ねる。

 よかった。笑顔が戻って――

 嬉しそうな姿を見てこっちまで嬉しくなる。

 そうだよ――

 やっぱり2人はこうでなくてはな!


「サバイバル」ではなく「キャンプ」と楽しむ――この子たちらしく。


 それにしても、こんなに喜んでくれるとはな……本当によかった。

 バーベキューという意見も、猛獣系魔物の住む森の中で寝るという危険極まりない行為を、「猛獣は火には近付かない」と昔から云われている話にすがっただけなのだが……

 ――今は、それを信じよう。ここまできたら、運だ。


「それじゃ、寝る道具と食料を買いに行くか!」

『ラジャ!』

 2人は揃って敬礼をする。

 本当に……キャンプをしたかったのだな。


「それじゃ、買いに行くか」

「ボンズは踊るからダメだな」

「……はい。もう受け止めます」


「おつかいしたい!」

 張り切って手をあげるラテっち。

 うーん……

「はじめてのおつかい!」

 どこぞのテレビ番組?? 

 まぁ、カバンの中に荷物もたくさん入るし、お願いするか。


「それじゃ……頼んだぞラテっち」

「うんうん」

 コクコクと小さくうなずく。

「食材にテント――ちゃんと買うもの覚えているな?」

「うんうん」

「…………」

「うんうん」

「実はわかってないけど頷いているだろう」

「うんうん」

 ダメだこりゃ!

「りゅうは?」

「ラテっち、がんばれ!」

「だよねーポジティブー」

 結局、ラテっちが行くこととなった。


 ――1時間後。


「帰ってこないし!!」

 慌ててラテっちにチャットを送る。


 反応なし。

 ――ゲームの世界ではチャットは電話のようなもの。

 パーティーやフレンド、ギルドのメンバーと音声でやりとりする携帯電話を空中に浮かぶタッチパネルで操作する仕組みになっている。

 りゅうのときもそうだったが、反応がないと少し焦る。

 現実で云うところの「メールの返信がこない。電話に出てくれない」状態だ。


 そういえば――


「りゅうってさ、前にチャット出なかったことがあっただろ。あれは操作方法がわからなかったのか?」

「いや、操作はわかっていた。ボンズからチャットがきた時におもちゃに夢中だったから気付かなかった」

「その後、タッチパネルはどうなっていた?」

「消えてたぞ。だから、チャットを送ってくれたことを教えてくれるまでわからなかった」

 ――と、云うことはチャットを発信している間のみにしか着信画面が浮かび上がらないということか。

 GMからの指令にすぐ対応していたから気付かなかった。


 どうしよう……

「何度もかけよう!」

 りゅうが心配そうに……少し焦りながら云ってくる。

 やはり仲のよいコンビだ。

 それに心配なのは一緒。りゅうの意見に同意し、再びラテっちにチャットを送った。

「……でないな」

「………………おっ! ここ、さわればいいのかなー?」

「ラテっち! 聞こえるか?」

 ようやく反応があった。

「ぼんずーきこえるよー」

「帰ってこないけど、どうしたんだ? 今どこにいる?」

「んとねぇ……ここ、どこ?」


 迷子だーー!!


 見事に迷子になっちゃったよ!

 こんな状況もテレビでみたよ。予想通りすぎる!

「ラテっち! 今から行くから、そこを動くなよ!」

「わかったー」

 迷子で不安になっていないのが唯一の救いだ。

「手分けして探すか?」

 りゅうの問いに待ったをかける。

「いや、別々に行動したら俺たちも離れ離れになる可能性がある。今は3人バラバラになるのは避けよう」

「そうだな。それじゃ一緒に探そう」

 ピンズ移動の時から気付いたのだが、地図マップを見ることができなくなっている。

 ゲームでは、画面の端に地図があり、フィールドや街中で己の位置や仲間の位置を把握することができた。

 仲間の位置なんて確認したことはないが……

 とにかく、今は地図は開かない。

 ……GMの手抜きなんじゃないのか?


 とにかく、今はそんなことはどうでもいい。

 広い街をりゅうと一緒にラテっちを探しまわる。

 どこにいるんだ……せめて何か手掛かりがあれば……そうだ!

 ここは「経済都市」と呼ばれるほどの店舗が並んでいる。

 街の外観は石造りのマンズと違って、街全体が建物の集合体となっている。

 近くにある店を聞けば、大体の場所の見当はつく。


 再度、ラテっちにチャットを送る。

「んにゃ」

 音声チャットに反応してくれたのはいいが、なんと穏やかな声。

 君を探しているのだよ。我々は。

 泣かれるよりはマシか。

「よく聞くんだぞ。見える所にお店があるだろう? そのお店にはなんて書いてある?」

「えーっとねぇ……はち?」

「はち?」

「うん」

「はち……? 虫? 鉢……植木屋??」

「ボンズ。『八』じゃないか?」

「そうか『八』――八百屋か!」

「だな!」

 りゅうは、国語は得意のようだ。

「よし、向かうぞ!」


 八百屋に到着――どこだ……って!!

 ラテっちは、マスコットのように店の端に座っていた。

 ケーキ屋? 薬屋? 昔、こんな人形見たような……


「ここにいたのか……」

「まいごー」

 ……そのわりには、動揺はみえない。

「ラテっち、ごめんな」

 りゅうが謝る――「謝る」必要はあるのか?

「ううん。わたちこそ、ごめんなしゃい」

 なんか――2人には似合わない空気だ。

「ま……まぁ、無事に見つかってよかったよ。買い物はおわったのか?」

「まだー」

「それじゃ、せっかく八百屋に来たんだ。買っていこうぜ」

「ボンズ、店の中でも平気なのか」

「多分な。あまり人もいないみたいだし、おもちゃ屋でも平気だったんだ。なんとかなるだろう。3人で買い物しようぜ!」

「しようぜ!」

「じぇー!」

 なんとなく、先程の空気を壊さなければならない気がした。

 チョットだけ無理してでも、ここは明るくして2人の気を紛らわそう。


 結局3人で買い物

「さぁ、今度は迷子にならないようにしような」

 そう云って、両手に2人の手をつないだ。


「ルンルン!」

 嬉しそうなラテっち

「エヘヘ!」

 少し照れくさそうなりゅう。


 そろそろ日も沈みそうだ。


 ――――


 街を出て、キャンプ開始。

 初めてのアウトドアだ。


「お外でキャンプー!」

 喜ぶラテっち。

 ボンズが石でかまどを作り始める。りゅうも枝を集める。

 準備完了だ。


()ー」

「はいはい」

「おにくー」

「ちゃんと用意したぞ」

「おむすびー」

 ラテっちはカバンからおむすびをだした。

「食えるんかい!?」

 あ……時間は関係ないんだっけ……


 ――――


「そろそろ焼けたかな?」

「わーい! おにくやけたー」

「ちゃんと野菜も食べるんだぞ」

 八百屋で買った野菜もちゃんと焼いてある。

「うん。おいもすきー」

「いもは……野菜か」

「バターに醤油……っと」

「通だな! りゅう」

 それじゃ手を合わせて――『いただきます!』


 さきほどのおにぎりを食べてみる。

 あっ、うまい。梅干しか――


 ふと――視線を移すと、2人の顔が【>×<】になってる……ップ!! 


「アハハハハッ! 2人とも、なんだその顔!」

「すっぱいんだな、これが」

「でもすきー」

「ほら、お楽しみのお肉だぞ!」

 一緒に頬張ほおばる。


 3人揃って――『おいしー!』



 そうだよ……これなんだよ。


 能力なんて関係ない。

 【九蓮宝燈】をどこで手に入れたかなんてどうでもいい。

 打算はしたくない。そんな計算が容易にできるのなら、こんな人生は送っていない。

 ――打算ができる生き方などしていては自宅警備員などできぬ!


 なんてことはない。


 俺は……この2人と……初めての「仲間」といる今が好きなんだ。




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