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第五十七話 規則

また、活動します。

宜しくお願いします。

 


「かくれんぼ……て、どういうことだ?」



 GM(ゲームマスター)からのあまりにも意外な発言にコロシアムがざわめき始めた。



「今からプレイヤーの皆さまにチャットで相手のギルド名と、かくれんぼの会場となる街をお伝えしますので、そこでギルド同士で『かくれんぼ』を行って頂きます。そこで勝利したギルドの方々だけに次のクエストへと進める権利が与えられるのです」


 どうやらGM(ゲームマスター)は本当に『かくれんぼ』という遊びでギルド同士を対決させるつもりらしい……それに『街』ということは街中でこの人数がかくれんぼをするのだろうか。この7,000人ものプレイヤー、さらには街中にいるNPCノンプレイヤーキャラクターが一斉に街に集まれば誰が対戦相手か判断するだけでも大変なはずだ。

 そう考えれば、ある意味難解なクエストといえる。


 ――待てよ、GM(ゲームマスター)は、街は街でも『かくれんぼの会場となる街をお伝えします』と発言した。

 少なくとも今ここにいるマンズの街だけでかくれんぼをするつもりはなさそうだ。

 それにしても、『かくれんぼ』をすることとクエストとはどんな関係があるんだ? まぁ、かくれんぼ自体は鬼を決めて隠れている者を見つける遊び――普通に考えれば鬼にみつかった者がペナルティを与えられると考えるのが一般的か。

 そうなると、やはりまた【アウトオーバー】が出るのは当然の流れ……己のギルドの中から消滅するプレイヤーが出てしまえば、只でさえ七人という小人数のギルドがさらに削られれば今後にも確実に影響を及ぼす。

 ギルドメンバーからいかに【アウトオーバー】を出さないか――これが『かくれんぼ』のポイントになるのだろう。


 まったく……自己の存在を確保するためにかくれんぼをするはめになるとは……バカにされているとしか思えん。

 こんなことで【アウトオーバー】になんてなったら泣くに泣けないじゃないか。

 難解なクエストで消滅するならいざしらず……いや、消滅するのは嫌だが、このクエストでは絶対に消えたくない。


 この時、ボンズは敢えて口には出さなかったが、一般人なら誰でも経験のある「かくれんぼ」――こんな遊びすら実は経験がなかった。

 更に云うなら、かくれんぼは一人ではできない。

 降霊術ならともかく、普通のかくれんぼは複数の人間がいなければできないからだ。

 幼少から他人を避け続けてきたボンズにとっては「かくれんぼ」そのものの印象も良くはなかった故、このクエストでの【アウトオーバー】だけはヒキとしてのプライドが許さなかった。


 更に毎回のように千人近くの【アウトオーバー】を出している現実に思わず頭を抱え込み憂鬱になるボンズ。

「次はお前だ!」と耳元で囁かれているかと錯覚してしまいそうだ。

 いや、この時はボンズのみならず他のプレイヤーも少なからず似たようなことは考えていたはず。

 周囲のプレイヤーは沈黙し、その光景は皆が思考錯誤しているようにも見えたからだ。



 ごく一部を除いて。


「かっくれんぼするもの、このゆびとーまーれ!」

 りゅうが元気よく人差し指を掲げる。

 ――やると思った。

「わーい!」

 続いてラテっちがりゅうの人差し指を掴んだ。

 ――これも予想できた。

 そして、誰もラテっちの後に続かないことも。

「このゆびとーまーれっ!!」

 声のボリュームを上げ、りゅうがもう一度催促する。

 だが、やはり誰も乗ってこない。


 すると、りゅうとラテっちは一度後ろへ向き、顔だけこちらへと振り向いた。


『――――チラッ!』


『チラッ!』っと声に出した時点で恥ずかしがっていなければ、遠慮もない。

 しかもチラ見どころか、二人揃って思いっきりこちらをガン見している。

 これは少し予想外。

 新たなおねだり方法だ。


「……仕方ないな」

 そうういって一番に歩み寄っていったのは壱殿。

 出会った頃はボンズたちに一線を引いていた寡黙でクールな彼も、今ではすっかりと子煩悩になってしまったようだ。

 その姿は久々に孫が実家に遊びに来て我がままに付き合う祖父のようである。

 壱殿に指を掴んでもらうとご満悦な表情を見せるりゅう。

 ラテっちは「つぎは?」と云わんばかりの表情でこちらを見つめていた。

 その表情に肩の力が抜けた。

「まぁ、いいか」

 続いてボンズ、パチと指を掴み、優作も小さい子を愛でる表情をしながら参加してくれた。


 あと一人。

「じいいいいいいいいとおおおおおおおおお」

「もうその目はやめろ! わかったよ!」

 ラテっちの熱視線に根負けした式さんが、りゅうの指に掴んでいるみんなの手にそっと手を添えた。

「全員集合だ!」

「やりまちたね! むふっ!」

 子どもたちはまるでもうクエストを達成したかのように喜ぶ。

「……たく、本番はこれからだっていうのに緊張感のないガキたちだ。怖くないのか」


 怖くないのか……? 式さんにしては珍しい台詞だ。

 彼はそんな弱音を吐く人だったのだろうか。



「なんでだ? かくれんぼ、楽しそうだぞ」

「負けたら、それで終わりだがな――全て終わってしまうんだぞ」

「だからなんだ?」

 あっけらかんというりゅうに、式さんは見下すように語りかける。

「ガキには『先』ってものがあるだろうによ。それを怖くないと吐く度胸は認める。だが、オレと一緒だということを忘れていないか。クエストよりオレに注意してろよ。気が向いたらいつでも寝首をかいてやるからな」

「貴方はまだそんなことを云っているのですか!」

 式さんの発言にまたしても喰いかかる優作。

 また二人の間に険悪な雰囲気が流れた途端に――

「ね、ねくびってなんだ? かゆくないから、かかなくていいぞ」

 りゅうが「首の後ろに何か付いてるの?」と云わんばかりに両手で首をさすりながら式さんに尋ねる。

「あ……あぁ、説明が必要なのか……」

 この台詞に一気に毒気が抜かれた式さん。ついでに彼の身体をラテっちがよじ登り、耳元で囁く。

「かくれんぼがおわったら、またボンッボンッしてね」


 バッチリ聞こえているが、今のところは険悪な雰囲気を振り払ってくれたから良しとしよう。

 でも、本当にやったら今度こそおやつ抜きにしようかな。


「お前ら……本当にオレが怖くないんだな」


 怖くないのか……クエストのことではなく、自分自身に対しての台詞だったのか。

 今更子どもたちが式さんのことを怖がるはずがないのに、妙に敏感というか……まるで自分の存在を確認しているような発言にも聞こえる。

 このギルドには、彼を怖がる人間なんていないのに。

 優作との仲はしばらく様子見だけど……


 そうこうしていると、GM(ゲームマスター)から更なる説明が全プレイヤーに伝えられた。

「これからギルドマスターに一つの鍵と、三枚のバッチを送りますので受け取って下さい。これらは『かくれんぼ』に必要なアイテムです。絶対に紛失しないようお気をつけ下さい」


 チャット音と共に、アイテムポケットに新たなアイテムが追加された。


 それは――

【隠者の印×3】

【無人街の鍵】

 という、ゲーム時代では見たこともないアイテムだった。


「配布されたアイテムの説明と同時に、今回のクエストについての詳細を説明させて頂きます。只今より一時間後にギルドマスターの前に異空間へと繋がる扉を召喚しますので、配布した鍵を使って解錠し、中へとお進み下さい。その先には、この世界の四大主要都市【マンズ】【ピンズ】【ソーズ】【ジハイ】の中から、鍵に書かれている街――【マンズ】と【ピンズ】のどちらかの街へとギルドメンバー全員が同時に転送されます。転送された異空間にはかくれんぼを行うギルド――つまり対戦する十四名のプレイヤーしかおりません。対戦するギルド以外はプレイヤーは勿論、NPCノンプレイヤーキャラクターも存在しない異質な空間となり、十四名以外は誰一人としてその空間に侵入することはできません」


 本当だ。鍵に街の名前が彫ってある。

 ボンズが手にした無人街の鍵には【ピンズ――37】と書かれていた。



「侵入できないとは――これは空間に入れないという意味ではなく、その空間はかくれんぼを行う7,002組のギルドが同時刻から対決できるよう『3,501の異空間』を用意しました。その空間は同時刻に全てのギルドマスターに現れる扉へと繋がるため、他の空間へ侵入する余裕はありません。つまり、開始時刻になりましたら空間は時間並行しつつプレイヤー全員が同時にクエストを行うのです」


 なるほど。

 それで街の名前の他に番号が書いてあるのか。

 つまり、同じ街、同じ番号のギルドと対戦するというわけだな。


 GM(ゲームマスター)の説明は続く。

「ルール説明の前に、ここで重要な点がありますので聞き逃さずにお願いします。異空間へと続く扉が具現化された瞬間から『五分間』を経過しても解錠されない場合はクエストを受ける意思がないものとみなし、その瞬間ギルドメンバー全員【アウトオーバー】となりますのでご注意ください」


 つまり、準備万端の状態で挑めということか。

 異空間に入らないギルドはいないと思うが……


「それではかくれんぼの説明に移らさせて頂きます。かくれんぼである以上、隠れる者と探す者が存在します。探すプレイヤーを【狩人】と称し、ギルドメンバーから四人選出して下さい。そして、隠れるプレイヤーを【隠者】と称します。その隠者を残った三人で構成して下さい。そして隠者に選出されたプレイヤーは先程ギルドマスターに送った【隠者の印】を身に付けて頂きます。単刀直入に云えば、【狩人】が相手ギルドが選出した三人の【隠者】を逮捕できればそのギルドの勝利となり、現在皆さま方がいるこの世界へと戻ることができるのです。――もう一度繰り返します。戻ってこれたギルドが今回のクエストの勝者であり、達成者となります」




「チョット待ってくれ!!」


 とあるプレイヤーの一人が叫んだ。

「負けたギルドが全員【アウトオーバー】ということは、残るギルドは約500組。逆を云えば、500組のギルド――3,500人ものプレイヤーがこんなクエストで一気に消滅するのか!?」


 ――ハッ!? 

 そうだよ。戻ってこれたギルドってことは、半数しか残らないじゃないか。


「そうですが、何か問題でも?」

 プレイヤーの憤りに相反して、GM(ゲームマスター)が淡々と語る。

「この世界で生き残りたければ、クエストをこなして頂かないと無理でございます。諦めて下さい」



 頭が痛い……

 予想をはるかに上回ったどころじゃない。

 1,000人どころか3,500名以上のプレイヤーの消滅が確定してしまった。

 この世界に連れてこられて幾つかのクエストを経て、現座までで約3、000名ものプレイヤーが消滅した。

 今度は一気にそれ以上ものプレイヤーが消滅するなんて……いくらなんでも、いきなり半数のプレイヤーを消すなんて横暴だ。

 しかし、悔しいがこの世界の実権は全てGM(ゲームマスター)が握っている。

 弱者がどんなに吠えたてようと、強者には敵わないことを痛感せざる負えない。



「それでは、これより細かいルール説明を行います。ですが口頭ではなく、わかりやすくチャットで明記しますのでご覧下さい」


 全プレイヤーにGM(ゲームマスター)から同時にチャットが送られた。

 そこにはかくれんぼの詳細が箇条書きで明記されていた。




 ・狩人は相手ギルドの狩人・隠者両方を逮捕する権限を持ち、 捕まれば行動不能となり、一切の身動きは取れない拘束状態となる。

 ・隠者は捕まえる権限が無いが、捕まった狩人を触ることで逮捕を解除することができる。

 ・逮捕された隠者は誰であろうと逮捕を解除することはできない

 ・軽くでも肉体が接触すれば、逮捕したとしてカウントされる。

 ・戦闘も可能。ただし、武器や符術で攻撃することは勿論可能だが、肉体的接触ではないのでノーカウントとなる。

 ・一時間の時間制。

 ・基本的には隠者の逮捕数で勝負。だが、隠者が三人残っている場合は、狩人・隠者含みギルドメンバーの残った数で勝敗が決まる。

 ・隠者が三人捕まった時点で即終了となる。

 ・捕まったメンバーは両チームにチャットで名前と『逮捕』と表記される。

 ・狩人か隠者かは、名前だけではわからない。捕えた者が狩人か隠者かは【隠者の印】で判断。

 ・もし隠者一人を捕まえても、狩人が二人捕まっている状態で制限時間が過ぎた場合は、隠者一人に対し狩人二人を等価と考え、対戦相手より人数の少なくなった狩人二人を捕えられているギルドの負けとなる。



「……おぼえられん」


 ルールの多さに思わず呆気にとらわれてしまった。

 りゅうとラテっちに至ってはすでに覚えるのを諦め、でんぐり返しをしながら遊んでいる始末。

 かくれんぼというのだから、頭を使うことは止めて欲しいものだ。

 幼児にもわかる易しいルールにして頂きたい。


「追記です」

 まだあるのか……

「一時間以内に誰も捕まえることができなければ、再度一時間かくれんぼを行う。それでも勝敗がつかない場合は、両ギルド共【アウトオーバー】となります。妙な企みはしないように。両方生き残る術は存在しません」


 用意周到なことで……

 GM(ゲームマスター)はプレイヤーに何か恨みでもあるのだろうか。


「ではこれより二時間、作戦会議の時間を設けますので隠者の設定などを行ってください。二時間後に異空間へ繋がる扉が出現します。先程も申し上げましたが、五分以内に入らなければ棄権とみなし、ギルドメンバー全員が強制的に【アウトオーバー】して頂きますのでご注意ください」


 GM(ゲームマスター)からの次の台詞に、全プレイヤーがほぼ同時に息を呑んだ。



「それでは始めましょう――人生で初となるでしょう……己の存在を賭けた『かくれんぼ』を」



思うところがありしばらく休止していました。

お気に入りに入れてくれ続けていた方々、読んで頂いた方々に感謝です。

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