第五十五話 結成
「それでは、マンズのギルド会館に行ってギルドを結成しますか」
ボンズの声かけと共に、一同出発の支度をし始める。
とはいっても、特にすることは無いのだが。気持ちの支度とでも表現したほうがよいだろう。
ギルド結成クエストにて用意された期間はなんとも濃密な二十日間だったから。それぞれが想うところもあるだろう。
いや、ボンズにしてみればこの二十日間だけではない。
この世界に来てから、現実では味わえなかった体験ばかりの連続だったのだから。
これからも、続くといいな――
感慨に耽っていると、
「待て、ギルド申請はギルド名とギルドマスター(以下、ギルマス)を決めてからだろ。どうするんだ」
「お、復活したのか式さん」
「気軽に云いやがって、コノヤロゥ……」
「まぁまあ、でも確かにどうしよう。どんなギルドにしようかね」
すると優作が顔を近付けてくる。
「――どんな形であれ、ボンズさんにこの身を捧げます」
(なんか、エロいな)
「変態……」
汚物を見る目で睨みつけるパチ。
「違う!! つーか、心を読まないで!」
なにはともあれ――
ボンズは己の周りに集まっているプレイヤーを見回した。
まず、速度重視の近距離戦闘型 東南の方位の体術遣いの俺。
攻撃力重視の近距離戦闘型 W西の方位を持つ剣術使いのりゅう。
爆弾を駆使し攻撃する遠距離戦闘型。だが、本人は対象者に突撃し近距離戦闘を好む西南の銃火器具現化遣い、式さん。
鏡同和の遣い手で多彩な符術攻撃を可能とする南東の遠距離型符術遣い、優作。
回復、支援符術を主とするが、範囲無視という常識外れな行為を日常とし、回復が宛てにならない南の符術師、パチ。
一万人に一人の割合でしか手に入らない北の方位を持ち、さらにその数%しかいないとされる焔慧眼の持ち主――壱殿。
同じく北の方位を持ち、何が飛び出してくるかわからないお弁当カバンを愛用するチートキャラ――ラテっち。
近距離攻撃型が二人。
遠距離攻撃型が二人。
回復が一人。
特殊支援が二人(チート含む)という構成となった。
七人ギルドとしてバランスも悪くない。
特に、レア方位の北を七人中二人も要するギルドは恐らく他にはいないだろう。
攻撃型プレイヤーの少なさなど度外視できる贅沢なメンツだ。
その攻撃力も、この世界で四つしかない神具の一つ、【九蓮宝燈】を持つりゅうのおかげで他の追随を許さぬ強さを誇る。
今更ながら、凄い面子が揃ったものだ。
「やばいな……俺とパチが足を引っ張りそう」
「何か云ったかしら?」
「別に……」
「さて――登録するギルド名を決めるとしよう」
壱殿がみんなを集め、輪になって座り込んだ。
「ギルド名か……みんなの意見を聞こう。なにか良い名がある人はいるかな?」
ボンズがみんなに問いかける。
「はい!」
ラテっちが元気よく手をあげる。
「どうぞ」
<ラテっちとゆかいななかまたちー>
『イチバン愉快な存在はきみだ』
大人全員が合図もせずに同時に同じセリフを発した。
「次、式さん」
「そうだな――<特攻野郎式チーム>ってのはどうだ?」
「あなたはもう少し特攻を抑えなさい! 次、りゅうは?」
<銀河園児、りゅう!>
「固有名詞か。一人じゃなくギルドの名前ね」
どうしようかな……この流れで他のメンバーにも聞いてよいのだろうか。
「ねぇ、私には聞かないの?」
パチが己の顔に向かって指を立てながら尋ねてきた。
無視するわけにもいかないし、聞くだけ聞いてみるか。
「では、どうぞ……」
「そうね――<美しきパチのファンクラブの集い>ってのはどう?」
『――死ね』
男三人が同時に口を開いた。
「それじゃ、壱殿はなにかあるの?」
不機嫌になったパチが壱殿に話題を振る。
「そんなもの――<お奉行様と越後屋共>に決まっているだろう!!」
「どんだけ殿さまだ!」
「あの……」
優作が申し訳なさそうに手をあげている。
「――『集い』って、いいです」
「え? まさかパチに賛成なの!?」
「ちがいます!」
「目一杯否定したわね……」
「これは『ギルド』を結成するクエストですが、共に戦い、共に生き、共に歩んでいく『パーティー』ですよね? それならば、ギルド名に『パーティー』という名称を入れたいです。余った自分を受け入れてくれたパーティーとして」
「――そうか。俺たちってさ、云い方が悪いけど余り者が集ったパーティーじゃないか。独りだった俺を、りゅうとラテっちが声をかけてくれたのが始まりだった。人間嫌いな俺にさ」
ボンズがみんなに語りかけ、その姿をみんなが見てくれる。
俺なんかを見てくれる仲間たち。
「その後は本当に濃密な日々だったと思う。独りぼっちだった俺がりゅうとラテっちと初めて出会い、三人で冒険した。その後パーティー人数の調整で独りになっていたパチが加わって四人。ギルド結成クエストを受け、他のプレイヤーをギルド結成させるために自ら独りを選んだ壱殿。単独プレイが可能となるや、これまでパーティーを組んでいたプレイヤーを消滅させ、その後も独りPKとして過ごしていた式さん。只人、当夜という親友を失い、独りになってしまったことで俺たちの仲間となってくれた優作。みんなのおかげで、俺は人生で初めて充実したような、そんな気がするんだ。だからさ、優作の案――『パーティー』をギルド名に入れてはどうだろうか」
「それでは先に、貴様がワシたちを拾ってくれたから<ギルドマスター>はボンズがやれ」
「――え? いやいや、俺には無理だよ。実力的にはりゅう。人格的には壱殿が適任じゃないのか」
「まぁ俗に云う『リーダーの素質』とは様々あるが、この世界においては<強さ>・<プライド>・<戦略>・そして<決定力>といったところか。この中の1つだけでも備えればいいとすれば、貴様はどれを選ぶ?」
「壱殿……俺にはそのどれも持ち合わせてはいないよ。俺には<仲間を大切にする>ことしかできない。いや、人間嫌いの俺にはそれすらもできないかもしれない。――期待に応えられなくてゴメン……」
下を向くボンズのズボンをグイグイと引っ張る――りゅうとラテっちだ。
「ボンズはこの世界で、ボク達に初めて優しくしてくれたにーちゃんだ。もう人が嫌いなわけがないだろう」
「わたちたち、もうなかよしだよね」
「二人とも……」
「これで決まりだな。頼むぞ、ギルマス」
「まぁ、お前でちょうどいいんじゃね?」
「壱殿、式さんまで」
「それじゃあさ、余った人を勧誘して結成したパーティー。<the last one party=余りモノの集い>ってのはどうかな?」
「ほう、いい名だ。誰かさんが考えた<集い>とは大違いだな」
「<お奉行様>にだけは云われたくないわね」
「自分も異存ありません」
「――優作」
「<パーティー>――貴方に気に入って頂ければ嬉しいです」
可愛い年下の男の子だと思っていた人が実は可愛い少女だったと云うだけでもなんか照れくさいのに、そんな上目遣いで見られると直視できないよ。
と、そんなことは口にはできない。
優作がボンズの傍で笑っていると――
「反対!!」
パチからの突然の異議申し立て。
え……もしかして嫉妬? もしかしてモテ期到来??
「ギルド名はいいとして、ギルマスがボンズってことは、私がギルドメンバーってことでしょ! なんでこんなヒキニートの生まれてきてスミマセン男より『下』なのよ! そんなの絶対に嫌!!」
「うわ~酷い……そこまで嫌がらなくても」
「まぁ、落ち付け」
壱殿がパチの前に立ちはだかる。
俺のことをフォローしてくれるのか。出会った時に比べると随分と彼も優しくなったものだな。
「この世界では何が起こるかわからん。もし、『ギルマスを差し出せ』と理不尽なクエストが発生したら、遠慮なく差し出せるだろう」
「なるほど。オッサン、頭いいな! コイツなら遠慮なく差し出せる」
式さんが感心しながら同意しやがった。
「まてまてー」
今度はりゅうが壱殿の前に立ちはだかる。
流石はりゅう。身体を張ってこの空気を壊してくれるのだろう。
なんて良い子なんだ。
「ギルマスのかくし芸をみせろっていわれたら、ボンズを人混みに連れて行けばバッチリだな。うんうん」
「ぷぷっ」
ラテっちが口を押さえて笑っている。
「なるほど、一理あるわね。うん、ボンズがギルマスでいいわ。しっかり犠牲になりなさいよ」
「――お前らキライだ」
優作が唖然としている。
まだ、このテンションい付いて行くのには時間がかかるだろう。
ちなみに、俺はまだ慣れていない。
色々あったが、ボンズたち余りモノの集いは、ギルド申請をするべくマンズの街へと向かった。
それにしても――
今、俺の目の前に六人の仲間がいる。
独りぼっちだったころの俺には考えられない、初めてのギルド。
もう……独りではないのだな。
孤独に日々を過ごしていた俺では、ないのだな。
ひとまず、この物語の区切りがつきました。
第一章(仮)の完結と思って頂ければと思います。
今後、第二章「ギルド編」を書いていきたいと思いますので宜しくお願いします。