番外編 正月
ゲームの世界にいますが、小さなお家にいます。
今日だけのお話です。
『も~い~くつ、ね~る~と~、お~しょ~お~が~つ~』
「……………………明日だけど?」
「あと1回か!」
「そうだぞ。今、年越しそばを作っているから待ってろ」
『は~い』
コタツで暖まる2人。出来上がった3人前のそばを持ってコタツへ向かった。
「はいどうぞ。ラテっちはお箸使えるか?」
「だいじょぶ!」
しかし、数分後には口元がそば汁だらけに……
「だいじょばないだろ!」
「ありゃりゃ」
口元を布巾で拭きとる。
「へへ」
笑ってもだめ。りゅうを見習い……
「ズゾーーー!!」
どんぶりを両手でつかみ、丸呑みしている。
「お箸使えよ!」
「ふ~、うまいんだな! これが!」
どんなこだわりだ。
――――――――
さて……と。
「除夜の鐘まであと4時間か」
「かね?」
「あぁ、1年の煩悩を払ってくれるありがたい鐘なんだとか……らしいぞ」
「ぼんのーって??」
「うーん、なんていったらいいのか……悩み? 違うな。悪い考え?」
「ラテっち、『ぼんのー』と『ぼんず』って似てないか?」
「にてるー!」
「『ぼん』しか共通点ないし!」
「ぼんぼんぼんのーぼんぼんボンズー」
「りゅう、いいかげんにしなさい。ほら、2人とも寝るぞ」
『え~!』
「『え~!』じゃない。子どもはもう寝る時間」
「かねききたい!」
「ききたい~!」
「でも、0時に鳴るんだぞ。夜中まで起きてられないだろ」
『だいじょぶ!』
あ……このパターンはダメだな……
――案の定。
『スピースピー』
まぁ、見事に同時に寝ちゃって。本当に仲がいいんだな。
「コタツで寝ると風邪をひくぞ」
……って、聞こえるわけないか。
………………
除夜の鐘か……この歳じゃ、聞いたことないだろうな。
2人に毛布をかける。
「これくらいは、いいかな」
かけた毛布をグルグル巻きにする。
さらに、大きい布団を風呂敷代わりに2人を包んだ。
――――――
「んにゃ……かおがちべたい」
「起きたか? ラテっち」
「ん? ぼんず~」
「ははっ、寒いだろ」
「うん」
そういって顔をボンズの背中にコシコシとすりつける。
「あれ? うごけね」
「りゅうも起きたか。毛布と布団でぐるぐる巻きにしているからな。暖かいだろ?」
「かお以外はな。てか、どうした? 布団ごとぼくたちを抱えて」
「ここどこなの?」
「山だよ。――もうすぐだ」
『?』
2人を抱えて連れてきたのは山の頂上だった。
あたりを包んでいた暗闇は少しずつ去りゆく……かわりに、暖かく照らしてくれる1年で最初の日の出が姿を現した。
『おおぉぉぉ~!!』
2人は肩越しで同時に、なおかつ同じリアクションを見せてくれた。
「これが『初日の出』ってやつだよ。除夜の鐘は聞けなかったけど、これくらいは……な!」
「ボンズ、これを見せるためにぼくたちをおぶって、ここまで連れて来てくれたのか?」
「まぁな」
「そうか。すげー嬉しい! ありがとな!」
「よせよ、りゅう。ガラにもないこと云って」
「へへっ」
ラテっちは無言のまま、日の出を見入っている。
――連れてきてよかった。
「さて2人とも、水筒に『おしるこ』を入れてきた。みんなで食べるか」
『おしるこ!!』
おっ、ラテっちも反応した。
初日の出を見ながら、3人でおしるこを食べる。人生初のサプライズは成功したようだ。
『あまーい! おいしー!』
よしよし。
「それじゃ、そろそろ帰るぞ」
『はーい』
再び2人を背負って下山した。
――もし、「来年」があれば、また連れてこよう。
「ねぇねぇぼんず~」
「なんだ? ラテっち」
「『おとしだま』ってしってる?」
「…………しらない」
あけましておめでとうございます。
皆さまにとって笑顔で新年を迎えると同時に、笑顔で年末を迎えるよい年となりますよう、心よりお祈りいたします。