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第五十一話 現実 優作編





前書き


「優作」とは仮想世界のでも名前であり、現実の名前と異なるので、優作の名前は○○と表記しています。



 

 只人と当夜。

 私たちは、家が三軒並びの幼馴染三人組だった。


 生まれた時には既に一緒だった。

 そして、そのままずっと一緒に遊んでいた。いつでも、どこでも。

 小学校に入学しても変わらず仲良し三人組で、特に小学校では男だとか女だとか関係なく、ずっと並んで遊んでいた。

 思えば、あの時が一番楽しかったかも知れない。


 だが、中学生になってから、私を取り巻く世界が変わっていった。

 理由は二人が変わったのではない。


 変わったのは、『私の周囲』の人間だった。

 思春期というのだろうか。周りの同性――女子生徒と仲良くできなくなっていった。

 小学校の時には友達だった人でも、中学生になってしばらくすると疎遠になってしまった。


 子どもの時は、「境」が無かったから。


 楽しいことはみんなで楽しんだ。

 無邪気に、笑顔で。


 でも、それが妬みに変わるものだと、私は思っていなかった。

「二人と仲が良い」こと。

 たったそれだけのことが、周囲の人間に認められなくなっていった。


 中学も三年生になると、学校内で二分する人気者になっていた。

 只人は格好よく、性格もいい。思いやりがあるのに頭の回転が速く、暗いムードを一瞬でかき回してしまうコミュニケーション能力を持ち、男女共に嫌いな人などいないほどの人気を誇る。


 当夜は普段無口だが、野球でシニア・リーグで全国大会に出場した。

 優勝できなかったのは当夜の投球が原因である。でも、敗因ではない。

 チームのエースで、学生のキャッチャーでは身体を張って止めるしか捕球方法が無いとまで言われるMAX120キロの高速ナックルボールを操るプロにも注目されているピッチャーへと成長していったのだ。



 でも、私は何も変わらない。

 特に変わり映えのしない、特徴も取柄もない地味な女。

 小学生がそのまま中学生になっただけの……小学生のままでいたかった中学生だった。


 それでも、只人と当夜は私に対して昔と少しも変わらない態度と笑顔で接してくれる。


 ――それが、周りには許せなかったのだろう。

「何故、あんな女が二人を独占しているのか」

「性格の悪い女が二人を騙して手玉にとって遊んでいる」

 周りからそう云われ続けた。


 私は、イジメをうけていた。


 同性の友達に悪口を云われる。無視される。事実無根の陰口を教師に告げ口される。

 たまに近付いて来て仲良くふるまわれても、すぐに騙され、裏切られ続ける。


 期待はしていないが、先生も相手にしてくれない。

 イジメに気付いてても。


 それどころか、「イジメが嫌なら学校には来なくてもいいからな。全く、君のような面倒くさい生徒を受け持つ俺の身にもなってくれ」と、登校拒否を促す台詞を、二人っきりの場面を狙って吐き捨てることも少なくなかった。


 最後の台詞は決まっている。

「卒業させてもらえるだけありがたいと感謝しろよ」――と。


 ある日、自分の机に落書きされていた。

 イジメの定番だろうけど、目の当たりにするとやはりショックを受けてしまう。

「死ね」とか「汚女」とか、机一杯にマジックで大きく書かれている。

 私は、その机の前には座ることが出来ず、立ち尽くすことしかできなかった。

 周りのクラスメイトは薄ら笑いを浮かべている。

 先生は、全く気にせずに授業を開始し、背を向けて板書を始めた。


 ――これ、現実なの?


 なんで、どうしてこうなったのかわからない。

 私が何をしたの?

 なんで、みんなこんなことをするの?

 私のこと、そんなに嫌いなの?


 すると、只人が自分の異変に気付き、傍に来てくれる。

 そして、机を見るなり―― 

「おいおい、誰が書いたアートだ。記念に俺がもらうわ」

 明るく振舞いながら、机を交換してくれた。

「――いいか、絶対に気にするんじゃないぞ」という言葉と共に。


 だが、この優しさがイジメをエスカレートさせていく。

 二人の優しさが、仇になる。

 それでも、只人と当夜とは仲良くしたい。

 友達でいたい。

 でも、それを周りは許さない。

 次第にこんなことを考えるようになってしまった。

 私をかばっているせいで、いつ、イジメの矛先が二人に変わるか――それが怖くて仕方なかった。



 こんな私は、学校に来るべきではないのかもしれない。

 そんなことばかり考えていると、いつしか目を見れば他人にどう思われているのかわかるようになっていた。

 人間とは「目は口ほどに物を云う」というけど、多くを語るのではなく率直な意思をそのまま伝えてくれたからだ。

 私に向けられる人間の目には二種類の目があった。

「者」として見てくれている目と、「物」として見ている目。


 私はいつしか、「物」になってしまっていた。


 それでも二人は私をかばい続けてくれた。

 学校内で私を「者」として見てくれる二人が。


 秋を過ぎた辺りから、私は登校拒否をするようになった

 二人には逢いたい。

 でも、学校には行きたくない。

 周囲の人間が怖い。

 物として見られたくない。


 二人に、これ以上迷惑をかけられない。

 受験シーズンに入ると同時に、二人の進学先が決まったからだ。

 只人は学校推薦で進学校へ。

 当夜はスポーツ推薦で、野球の強豪校へ。


 私のせいで、これ以上二人の重荷にはなりたくなかった。


 それでも、只人と当夜は毎日私の部屋まで来てくれる。

「一緒に卒業しよう!」って。

 部屋の中なら、いつもの和やかな雰囲気を楽しめた。

 嫌な気持ちを忘れさせてくれた。

 もしかしたら、学校へ行っても大丈夫かもと、思わせてくれた。


 そして、なんとか只人と当夜のおかげで卒業式間近に学校に行けるようになった。


 朝のホームルーム。

 久々に登校した私の姿を見るなり担任の先生が嫌悪感をあらわにして近付いてきた。


 その表情は登校拒否をしていた生徒が登校したということを喜ぶことなど微塵もない。

 汚物をみる顔。

 汚らしいものをぶつけられて、怒りを抑えきれない表情だ。

 そんな担任の先生が私に指さす。


『お前がいると担任である俺が要らぬ誤解を受ける。もう学校に来なくても約束通り卒業させてやるからもう学校には来るな!』


 ついでに、

『高校も受けるな。どうせ自主退学になるんだから、無駄なことをして、俺の経歴に傷を付けるな。俺の元生徒が退学になるなんて汚点でしかない。ゴミが』


 私は走って学校から逃げた。

 私はその場から逃げ出してしまった。


 せっかく二人の励ましのおかげでようやく学校に足を踏み入れることができたけど、もう二度とできない。

 二人には悪いけど、もうあの顔を見ることはできない。

 家まで走って、部屋まで走って、布団をかぶって震え続けた。


 人間が――怖い、と。



 その夜。

 お母さんが、部屋の外から声をかけてくれた。

「晩ご飯どうする?」

「…………いらない」


「あのね、落ち着いて聞いて。いえ、しっかりと聞いて欲しい話があるの」

 お母さんの話とは、私が学校から逃げた後の話だった。


「只人君と当夜君が、怒って担任の先生を三階の窓から落としたらしいの。幸い落とされた先生は木の枝に引っかかって軽傷ですんだみたいだけど……」


 お母さんから、その後を聞いてしまった。

 二人の行動が問題になったこと。

 先生がどんなに悪くとも、それを証明する術はない。

 なにより、暴力を振るったことには変わりない。

 下手をすれば、軽傷では済まなかったかもしれない。

 先生の発言が問題になるどころか、只人と当夜のことを落とされた先生は絶対に許してくれなくて、二人は無期限停学処分となった。

 そして、決まっていた進学先も暴力事件により入学取り消しになったことを。



 全て、私のせいで。




 それから、卒業式まで家から一歩も出られなかった。

 二人からの連絡もない。

 ――よかった。

 どんな顔をして逢えばいいかわからない。



 入学取り消し――もう、顔を合わせられない。見ること、見せてくれることもないと思っていた。

 私が二人の夢を壊してしまった。

 私が二人の将来を奪ってしまった。

 私が、私が二人の人生を、何もかも台無しにしてしまった。


 ――死にたい。


 死にたい。

 もう生きていたくない。

 生きていれば、また二人に迷惑をかけてしまう。

 また二人の人生を壊してしまう。


 生きていれば――二人の顔を見ることになってしまう。


 死ぬ。死ぬしかない。

 もうそれしか二人に対しての謝罪の方法が浮かばない。


 ――それなのに……



 それなのに……それなのに!

 部屋のベットで寝転びながら天井を見ていたら、ドアをノックする音が聞こえた。

 ノックをするということは、お母さんではない。

「だれ?」

 そう私がきくと、ドアが開いた。


「卒業おめでとう!」


 付け髭にヘアカラースプレーで髪の毛を白髪のように真っ白にして、校長先生に変装した只人と、卒業証書を持った当夜が部屋まで来てくれた。



「卒業証書。○○殿、卒業おめでとう! これからもよろしく!」

 そういって、手書きの卒業証書を手渡してくれた。



 でも、私は二人の顔を直視できない。

 ベットに腰かけ下を向いたまま、何もできなかった。

「ゴメン……ごめんなさい! 私のせいで……」

 唯一、謝ることだけしか。

 すると――

「はぁ? 何を云っているんだ? 何も謝ることはないだろ」

 首を傾げる只人に、ようやく面と向かって話せることができた。

 勢いに任せて。思わず怒鳴るように声を荒立てなだら。

「強がらないで! 高校に行けなくなったんだよ」


「そうだな。――それで?」


「そ、それでって……只人のお父さん怒ってなかった?」

「あぁ、怒っていたよ」

「……」

「『叩き落とすだけではなく、男なら下まで降りて行って拳で殴りつけてトドメを」させ!』ってな。○○を泣かせた先生をその程度で済ますなってメッチャ怒られたよ」

「あぁ、僕もだ。『もし○○を泣かせたヤツを放っておいたら、当夜をぶん殴ってから勘当してたぞ!』ってお父さんに云われた。どちらにしても高校へは行けなかったな。あははっ」

「そうだな! ウケる~」

「それにしても、あの先生の顔ったらなかったな」

「あぁ。僕が両手をもって、只人が両足をもって振り回した挙句に窓から落とされるなんて思わなかっただろうな」

「振り回している時、『こんなことをして許されるとでも思っているのか!』って強がっていたくせに、窓に近付いたら『何でもするから許して!』だってよ。でも、○○に謝りに来た様子もないから嘘だったんだな。まぁ、アイツならそうすると思っていたけどな」

「約束も守れない上に、生徒を守ろうともしない教師なんてそんなもんだろ。そんなに器が小さいゲスなら教師になんかなるなってのな」

「だよなー。いい勉強だよ。あんな大人にだけはならないようにっていう勉強をさせてもらったよ」

「まったくだ。これだけでも中学生活を過ごした価値はあるってものだ」

「それにしても、やり足りないな。そう思わないか当夜」

「只人もか。これからあの教師の家に乗り込むか」

「おもしろそー!」



 二人がまるでイタズラがバレて怒られた後に、次のイタズラを画策する無邪気な子供のように笑っている。

 目の前に浮かんでいる笑顔が、現実に起こっているなんて信じられない。

 また、二人の笑顔が見られるなんて……


 そして。



「これから俺は大検とって、いずれは教師になる! そして、イジメをなくすんだ! あんな教師もいなくする! そんな教育者になるんだ!!」

「僕はやっぱりプロ野球選手だな。高校なんか行かなくったって、野球はできる。そして、いずれはメジャーリーグに殴りこみに行ってやる! そして有名になって、色々世間の問題に口出してやるんだ。かっこいいだろ!  ――なんてな、影響力ってのはどんなことにも力になれるるはずだ。イジメだろうが、学校の問題だろうが、関係ない!」


『だからさ、もう泣くなよ!』


「もう泣くなって……そんなことできないよ」

 私は思わず布団を

 布団をかぶったまま、顔を見せられなかった。

 涙が止まらなかった。

 情けないと思っていたのがウソみたいに嬉しくて……友達っていいなあって、心から思った。

 また二人に救われたんだ。

 二人の笑顔に――




 布団を投げ捨て、私は二人からの卒業証書を受け取った。


 そして、三人揃って『おめでとう』と讃えあった。

 私も、笑顔で。





『それでさ、せっかく時間もあることだし、MMORPGを一緒にやろう!』


「え? 只人、勉強は? 当夜だって野球の練習が……」

「息抜き、息抜き。ほら、○○はゲーム好きだろ。せっかくパソコンあるんだし、今流行ってるネットゲームをやろうぜ。これなら、チャットもできるし、どこでも好きな時に話せるしな」

「それいいな! 夜になったらボールも見えないし、確かに良い息抜きだ。只人、頭いいな」

「なーんか引っかかる云い方だな、当夜」

「バレたか。ナハハ」

「ナハハじゃねーし。よし、早速今から始めようぜ。まず○○のパソコンで登録とキャラ設定だ」


<ディレクション・ポテンシャル>をダウンロードし、キャラ設定画面へ。


 そして、男キャラを選択した。

「男の子っていいよね。私……ううん自分は二人のようになりたい」

「だから『自分』って、不器用な男ってヤツか? ウケる」

「で? 名前はどうするんだ?」

「それはもう決めたんだ。『優作』にしようと思って」

「別にいいけど……なんで? あっ! なんだよ、もしかして好きなヤツの名前か??」

「フフッ、内緒だよ」



(そうだよ。好きな人のことだよ。只人や当夜のように、優しさを作ってあげれるような人になりたいから『優作』なんだよ)





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