番外編 南瓜
ハロウィンに間に合いませんでした!
ですが、よろしければ読んでください。
ここは様々な店舗が立ち並ぶ街、ピンズ。
今、街灯は消えている。代わりにかぼちゃを人の顔のようにくりぬき、その内側に火を灯したロウソクをたてた「ジャックランタン」が街を薄暗く、そして優しい灯で彩っていた。
NPCがドラキュラやフランケンシュタインの仮装し、行列を作っている。
そう、今日はハロウィン祭りだ。
街の陽気に誘われ、りゅうとラテっちもウキウキしている。
だが。
パチは「面倒くさい。酒のみたい」と宿から出ない。
ボンズは「人混みヤダ。ひきこもりたい」と部屋から出ない。
式さんは「行列を見ていると、テロしたくなる」と云いながら外へは出ない。
壱殿は「疲れた。他の者と遊べ」とタバコを吸いながら椅子に座り、立とうとしなかった。
「どーゆーことだー!」
「どーゆーことだー!」
りゅうとラテっちが二人でウェーブをしながら駄々をこねる。
一方がしゃがむと同時に、一方がジャンプをしながら「どーゆーことだー!」と叫ぶ動作を繰り返し行っていた。
「お祭り行きたいぞ!」
「わたあめ、りんごあめ!」
「――ところで二人とも、ハロウィンがどういうお祭りか知っているの?」
パチの問いかけに二人揃って首を傾げる。
『んにゃ?』
「知らないようね。どんなお祭りか、みんなに聞いてごらんなさい」
「わかった」
「おー」
りゅうとラテっちは、まずは壱殿の部屋に向かった。
「今日の祭りのことを知りたいのか?」
『うんうん』
「そうさのう……いや、だいたいワシがチビッ子位の歳の時代ではハロウィンなどという祭り自体なかったのだぞ。詳しくは知らん」
『ぶー』
「まぁ、そうふくれるな。確か北国で似たような行事があると聞いたことがある」
「きたぐに?」
「あぁ。雄大な大自然から大きな都市もある、なにもかも大きい国だ。酒や食い物、特に海鮮物の旨いところでな。そうだ、シカやクマとかも有名だな」
「クマさん!」
クマという単語に食い付くラテっち。
「そうだぞ。いい所だから、いつか行けるといいな」
「うん!」
「なぁなぁ。ところで、行事ってなんだ?」
りゅうの質問に壱殿は指を鳴らせた。
「おっと、そうだったな。ワシの記憶が確かなら、夜に子どもが近所の家に行って『ロウソク出せ』と云って回る風習のはずだ」
「ロウソク? そんなもの、なんでほしいんだ?」
「詳しくは知らんが、街のカボチャの中にロウソクが灯しているだろう。恐らくそれと同じように、灯りにする為に集めるのであろうな」
「ふーん。出せっていうだけでみんなロウソクをくれるのか? もし、くれなかったら?」
「確か……噛み付く? だったような」
「そーか。とにかく、かみつけばいいんだな」
「わかりまちた。ガプッって、かみつきまちゅ」
「壱殿、ありがとな」
「どもでちゅ~」
この時、何か誤解を招いたような気がしてならなかったが、壱殿は口出しせず生温かい目で見守ろうと、はしゃいでいる二人の後ろ姿を見送った。
二人は早速ボンズのところへ向かった。
『カプッ!』
「いたー! なにすんの!」
『ハロウィン』
「ちがうよ! それ、ハロウィンじゃない」
「え? ちがうのか?」
「おかちいでちゅね」
二人はボンズの部屋から出て、今度は式さんの部屋へと向かう。
「――ハロウィンって何かだって?」
『うんうん』
仲良く同時に頷くチビッ子たち。
「街を見てみな。みんな仮装しているだろ」
「かそー?」
「いつもの格好とは、違う姿でいることだよ」
『それから?』
「……いたずらをする? オレもよくしらねぇよ」
「イタズラしても怒られない日なんだな!」
りゅうが嬉しそうに式さんの話に食い付いた。
「たしか、そうだったような……」
「それじゃ、式さん。爆弾くれ」
「子どもが物騒なことを云ってはいけません。笑顔で云われると、軽くホラーだぞ」
「いいじゃないか。一個だけでいいから」
「一応聞いておくが、何に使うつもりだ?」
「ボンズの背中に入れて、驚かすんだ!」
「……君は彼を消し去るつもりか?」
「大丈夫!」
「どこらへんで大丈夫だと思うんだよ。根拠もないのになんでそんなに自信満々なのか教えてくれ。――それに、どうやって服に入れて爆発させるつもりかはしらんが、先に云っておくけど起爆はオレでないとできないからな」
「そうなんだ。じゃあさ、一緒について来てよ」
「やだよ」
二人はその場で背を向けしゃがみ込む。
そしてボソボソと話し合いを始めた。
「どこかで見た光景だな」
そして、同時に振りかえる。
『だっちぇー』
「うるせぇー! ったく、仕方のない幼児たちだな。――ホラよ」
すると、式さんがりゅうとラテっちに大きなカボチャのお面を二つ投げ渡した。
「なんだこれ?」
「やるよ。かぶってみろ」
云われるがままカボチャのお面をスッポリと頭からかぶる二人。
「おぉー。いいにおいがしまちゅ」
「コレ、かっこいいか?」
「それやるから、おとなしくしてろ」
「ありがとな、しきさん」
「ありがとでちゅ」
二頭身半ほどしかない二人が大きなカボチャのお面をすると、身体の半分がカボチャになる。
その後ろ姿に、思わず笑みを浮かべる式さんだった。
その姿のまま、今度はパチのところへ向かう二人。
「あら、似合うわね。少しはハロウィンのこと、わかった?」
「んとな、ロウソクもらって、かみついたり、イタズラしてもいい日だ」
「うんうん」
「……なんでそうなるの?」
パチは一つため息をつく。
でも、ワクワクしている二人の表情を見て「しょうがないんだから」と柔らかい笑みを浮かべながら人差し指を立てた。
「いいこと。ハロウィンといえば、『トリック・オア・トリート』よ」
途端にポカンとした顔に変わるりゅうとラテっち。
「と……とっくり、ラリアート?」
「なんでちゅか、そりゃ??」
「『トリック・オア・トリート』――お菓子くれなきゃ、いたずらするぞってことよ。これが、ハロウィンの醍醐味なんだから!」
「おかし!!」
ラテっち、大いに喜ぶ。だが――
「うーん」
「どうしたの、りゅう。腕なんて組んで悩んじゃって」
「お菓子も欲しい。でも、イタズラも捨てがたい」
「はっ! たしかに、そうでちゅね。でもおかしたべたいでちゅ」
「そうだ。ボンズにイタズラしてからおかしをもらおう」
「それはいいでちゅね」
いつもなら「さぁいってきなさい」といいかねないパチが珍しく二人を止める。
「だーめ。どれか一つだけよ」
『えー!』
「そうだ。仮装して驚かせればいいじゃない。せっかくカボチャのお面をつけているんだから」
『ほぇ?』
パチがアイテムポケットからゴソゴソと丸い物体を取り出した。
「かぼちゃのお面の他に、これがあれば完璧ね」
丸い物体の正体は、カボチャで出来た丸型の服だった。
こうなることを予想していたのか、随分と用意がいい。
ちなみにカボチャの服は、外から見れば只のカボチャだが、中が空洞になっており、横から真っ二つに割れ身体を挟むように着ることのできるイベントアイテムだ。
一般のプレイヤーが装備すれば、首からウエストまで覆う胸当てのようなアイテムなのだが、りゅうとラテっちが着ると、首から足首までスッポリと包み込んでしまう。
それ故、カボチャの服を装備した二人の姿は、カボチャが縦に二個並んでいるようにしか見えない。
かろうじて、小さな手と足が見える程度だ。
「これでよしっと」
パチの太鼓判をもらい、はしゃぐ二人。
「スゴイな! カボチャになったぞ!」
「かぼちゃ~」
「さぁ、いっておいで」
「おう。パチ、ありがとな!」
「いってきまーちゅ!」
この時、パチは太鼓判を押しておきながら「二人で並ぶと、かぼちゃが四個、宙に浮いて動いているようにしか見えない」と思っていた。
「あれ? どこで間違えたかな?」とも思っていたが、二人が喜んでいるのでそっとしておくことにした。
二人はまさにカボチャと化して、ボンズの元へと向かった。
ボンズのいる部屋に入るも、姿が見えない。
「あれ? いないぞ」
「どこだろね?」
部屋を後にし、宿屋を歩き回る。
その時、りゅうのお面が少しずれてしまい「目」の穴と視線が合わなくなり、前が見えなくなってしまった。
さらにはラテっちが転んでしまい、横になりながらカボチャの丸みで床をコロコロと転がっていく始末。
『のぉぉ~!』
それでも二人は同じ方角へと進み、何かにぶつかることで止まることができたのである。
りゅうがお面を元の位置に戻すと、ぶつかったのは台所に立っていたボンズだった。
「カボチャがひとりでに動いて……いるわけないよな。このカボチャたちは何をやっているのかな?」
「おぉ、ボンズ。えっと、ト……トリモチふんでトリャー!」
「りゅう……トリックオアトリートな」
横に転がったままのカボチャも喋った。
「いたずらしたからおやつちょーだい!」
「ラテっち……イタズラしちゃだめだろ。――まぁイタズラにはなっていないからいいか。どちらにしてもいい所に来たな、二人とも」
ボンズは両手にお皿を持っていた。
そのお皿には、パンプキンシュークリームとカボチャのタルトが乗っている。
『おかしでてきたー! せいこうだー!!』
成功はしていないが、念願のお菓子まで辿り着いたりゅうとラテっち。
ボンズにカボチャのお面を外してもらい、テーブルの席に着く。
『いただきまーす!』
シュークリームを鷲掴みしたおかげで、中のクリームが飛び出し顔がカボチャだらけになる二人。
「お面をしていても、していなくても、結局はカボチャになったな」
『えへへ』
カボチャのお菓子を食べ終わり、満足するりゅうとラテっち。
と――
「でもボンズ。まさか、晩ご飯までかぼちゃじゃないよな?」
「かぼちゃはもういいでちゅよ」
「…………」
ボンズの手元にはパンプキンポタージュスープを彩るお皿。
そして、その他様々なカボチャ料理が既に用意されていたのであった。




