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第四十九話 男女

 

「となりのトントロ~、トント~ロ~」

「うちゅっちゅ!」

「となりのトントロ~、トント~ロ~」

「うちゅっちゅ!」

「こ~ど~も~のときに~だけ~美味しく食べれる~、素敵なお肉~」

「うちゅっちゅ!!」


 森の中を進みながら、りゅうとが陽気に歌い、ラテっちが元気に合いの手を入れている。

 ちなみにこの歌は我が国が誇る傑作アニメ映画の主題歌で、小学生の姉「弥生(やよい)」とその妹「マーチ」の姉妹が子どもにしか見えない巨大なタヌキの妖精と出会い、森の中でみんなで仲良く焼き肉パーティーを開くという物語である。

 焼き肉のメインに出てくるのはカルビやタン塩ではなく「トントロ」

 あまりの美味しさに食べると幸せいっぱいになり、どんな辛い思いも吹き飛ばしてくれる不思議なお肉であり、仲良し姉妹の弥生とマーチがお腹いっぱいトントロを食べて幸せになるというほのぼのアニメだ。

 かなり昔の映画にも関わらず現代の子どもにも未だ愛され続けている名作として、知らぬ者はいない。


 それにしても、よいことなのだろうが緊張感は確実に薄れていく。

 前向きに考えれば焦る気持ちが和らぐ効果があるとということにしておこう。

 二人とも元気に腕を振りながらノリノリで歌っているのを邪魔するのも悪い。

 ここは大人しく歌を聞きながら前へと進むとしよう。


 それよりも、この歌は「晩ご飯は焼き肉食べたい」という遠回しの要求なのだろうか?

 晩ご飯のことは置いておいて、染められた森を歩き続けて気付いたことがある。

 数日前に比べると、明らかに魔物との遭遇率が低い。

 いや、ゼロに近いといってもいい。

 まるでエンカウント率が変更されたかと思うほど、森の中には魔物はおらず、静寂が包みこむ森へと変貌していた。

 それに比例して、プレイヤーの姿も全くと云っていいほど見かけられない。

 それでもプレイヤーがいないかと期待し、希望を捨てずに大陸を横断するも、結局ソーズの大陸へ行くための港まで誰にも遭遇する事無く辿り着いてしまった。

 地図上でいえば、ここは大陸の最東端に位置するピンズ街とは正反対の最西側の位置する海岸で、この港は小さい港町になっている。

 つまり、大陸の端から反対側の端まで魔物ともプレイヤーとも遭遇しないまま進んでしまったのだ。

 不思議なことだが、今は取り合えず歩き続けた精神的疲れを癒すために宿屋に宿泊することした。

 なにしろ、ここまで来るのに既に二日間を要した。

 相変わらず体力の消費は現実世界に比べると大したことはない。

 もし現実なら、二日間もぶっ通しで歩き続くことなどできない上に、できたとしても既に倒れ込んでいただろう。

 こういう所はありがたいのだが、残る期間は今日を含めて二日という切迫感から、精神的疲労はピークに達していた。

 とにもかくにも誰もいない。プレイヤーを見つけないことには何も始まらない。

 いや、終わってしまうからだ。

 流石にそう考えているのはボンズだけではない。

 パチも、壱殿でさえ困り果てている。

「この状況は流石に予想外だった。まさかこの二日で誰にも出会わんとは……もうほとんどプレイヤーがギルドを結成したのか」

「そうねぇ、でも魔物とすら出会わないなんて。これじゃ魔物を狩るプレイヤーとも出会えないじゃない」

「そうだな。ソロプレイヤーに期待していたのだが……これも、GM(ゲームマスター)からの仕様変更かもしれんな」

「まったく、なにも期限ギリギリにやらなくったっていいのに」

「いや、だからこそだろう。ワシたちのように『あと一人』という状況から奈落に落ちれば、その分【アウトオーバー】の数も増えるからな」

「なるほどね。はぁ~どうしよう。仲間のアテとまでいかなくとも、参考になる様な話でも聞ければいいのに……」


 参考か……

「そうだ!」

「どうしたボンズ。大きな声をあげて」

「壱殿。チョット待っててくれ」

「あ、あぁ。それは構わんが……」


 何かを思いついたボンズは右手を前にかざし、念じることでタッチパネルを開きだした。


「えーと、フレンド登録の欄はっと……これだな」

 タッチパネルを操り、音声チャットを開始する。

「出るかな~」

 呼び出し音が数秒鳴り続け、懐かしい声が応答してくれた。


「ボンズさん! お久しぶりです!」

「優作! 元気にしていたか?」

「はい!」


 そう。音声チャットの送り先は優作だった。

 優作たちなら、もしかしたら既にギルドを結成しているかもしれない。

 参考になる意見が聞けるかもしれない。

 なにより、久々に友達の声が聞きたかった。


「どうだ優作。ギルドは結成できたか?」

「もう少しです。昨日ようやく七人揃うことが出来て、ギルド申請を行うためにマンズに向かっている最中なんですよ」

「そうか、よかった! 無事にクエスト達成できそうだな」

 優作とチャットしていると、向こう側からこれまた懐かしい声が入り込んできた。

「なんだ? ボンズなのか!?」

「おい、俺にも喋らせろよ」

「チョット、今自分と話しているんですよ!」

 音声チャットから只人と当夜の声が聞こえる。

 多分、優作のすぐ隣にいて、俺の声を聞いてくれたのだろう。

 相変わらず、仲の良い三人組のようだ。

「おーい。二人とも元気か?」

「おう、元気だ! ボンズも元気そうだな!!」

「りゅうとラテっちは元気か? パチさんも元気にしているのか?」

「おう! みんな元気だぞ!」

「よかった! まったく、心配掛けさせやがって。あの時はどうなるかと思ったぞ」

「すまんすまん。でも、もう大丈夫だ。ただ……」

「ただ? どうした?」

「メンバーが、あと一人足りないんだ」

 ボンズの台詞に、三人は無言になってしまう。

「いやいや、そんな気を遣わなくてもいいんだぞ。ただ、みんなはどうやって仲間を見つけたのか知りたくて連絡したんだ」

 すると、優作から仲間を集めた経緯を説明してくれた。

「自分たちの場合は四人パーティー結成時に加入してくれた仲間のギルドメンバーの方々とギルドを結成したのです。そういえばボンズさんは会ったことがありませんでしたよね」

「そうだな。パチから話だけは聞いている」

「その方は大規模なギルドに加入していたので、四人から七人に人数を調節するために、各方面に散らばるパーティーと出会いながら少しずつギルドを結成していったのです。それで、我々も人数調節の際に三人なるパーティーと出会うために今までソーズにいました。そこで七人となり、マンズにギルド申請に行く最中なんですよ」

「ほぉ、人数調節できるってことはかなり大きなギルドだな」

「はい、今まで中規模ギルドだった人たちがこの世界に来て新たに新ギルドを結成していたみたいで、相当大きなギルドらしいです」

「なるほどね。それにしてもそんな大きなギルドの仲間になれば心強いな」

「そうですね……でも」

「でも?」

「ボンズさんが近くにいてくれた方が、心強いですよ」

「そ、そうかな? いや、照れること云うなよ」

「フフッ、でも、あまりお役に立てなくて申し訳ないです」

「いやいや、元気な声が聞けて良かったよ」

「ありがとうございます。あ、でもソーズに向かう時も、帰りの時もまだソロプレイヤーを見かけました」

「本当か!?」

「はい。魔物が異様に少なくなってきたので逆に目立ちました。もしかしたら、ボンズさんも出会えるかもしれません」

「うわぁ、それ最高の情報だよ! ありがとな!」

「いえ、ボンズさんのお役にたてるのなら……頑張って、くださいね」

「あぁ! それじゃ、またな!」

「はい。また……です。また、逢いましょうね!」

「あぁ、約束だ!」」

「はい! では、失礼します」


 音声チャットを終えタッチパネルを消すと、すぐ横で顔面蒼白の壱殿が立っていた。

「…………なんでしょうか?」

「ボンズが自ら他人に接している。天変地異の前触れか?」

「失敬だなオイ!」

 有力な情報は手に入らなかったが、三人の元気な声を久々に聞くことが出来たのはとても嬉しかった。

 それにまだ可能性が全く無くなった訳ではない。

 まだソロプレイヤーがいることがわかっただけでもよしとしよう。

 素直に喜ぶボンズ。


 ――あれ?

 なにやら後ろから冷たい視線を感じるではないか。

 気のせいではない。

 確かに視線を感じる。

 感じるままその方向へと振り向くと、パチが冷やかな瞳をしながらこちらを凝視していた。

「……なんでしょうか? (あ、この台詞二回目だよ)」

「へぇ~、随分と仲が良いですこと。あんなに楽しそうに会話しちゃって。随分と気にしてらっしゃるのね。他人だとまるで駄目なアナタがねぇ~」

「まぁ友達だからな」

「本当に友達ってだけ? もしかして下心があるんじゃないの?」

「下心??」

 パチの台詞の意図が理解できない。

「可愛い上に純粋な少女だもんね~、男だったら気にはなるわよね。ロリコン君」

「ゴメン……云っている意味がサッパリわからないんだけど、その少女って誰のこと?」

「誰って、今まさに話していたでしょ」

「優作の話から何故少女ってフレーズが出てくるのか、その意味がわからないと云っているんだよ。それに、さりげなくロリコン呼ばわりするって酷くない?」

「まさか……ボンズ、気付いていないの?」

「だから、何が」

「優作って、女の子よ。それも、そうとう若い年齢の少女なのよ」

「………………何、云ってんの?」

「だから、女の子。優作は女の子なのよ」

「はぁ!? 何バカなことを云っているんだ? 男だよ。若いのは知っているけどさ、女の子のわけないだろ」

「女よ。一緒にお風呂にも入ったから間違いないわよ」

「えええええええええええ!!」

 異様なほどのオーバーアクションで驚くボンズの姿に呆れ果てるパチ。

「アナタね……そんなことも気付かなかったの?」

「でも、名前は優作だし、男の名前だし……いや、確かに顔立ちは可愛いかもしれないけど、中性的っていうのか? 男か女かなんて考えもしなかった……」

「鈍いこと、この上ないわね。もう少しよく観察すればわかることよ。りゅうやラテっちだって知っていることよ」

「…………うそ?」

「本当よ。前にどっかの誰かさんが姿をくらませた時に一緒にいたでしょ。その時にすぐにわかったし、二人ともちゃんと理解していたわ」

「優作が女の子だったなんて……え……えぇ!?」

 優作とは只人と当夜の年下の仲良し男性三人組だと今まで思い込んでいただけに、どうしても納得できないボンズ。

「んんん~、うそだろ……いや、でも、うーん」

 腕を組み、唸り続ける。

 その時、ふとボンズはあることに気付いた。

 いや、思い出したのだ。

「わかった! パチ、また俺を騙して楽しんでいるんだろう? そうに違いない!」

「はぁ? なんでそうなるのよ」

「だって、優作には胸がなかった! ほら、やっぱり男だろ!」


 ボンズの不用意な発言を口走った瞬間、壱殿は左手で帽子のつばを引っ張り顔を覆う。

 右手で十字を切りながら――


 ――ボンズは後に語った。


「死」

 というものについて、己が手繰り寄せた愚行を後悔することは必要なのかもしれない。

 だが、その前に今後の身の振り方を見直すためにも、今日のことは忘れるべきだと。

 引きずってはいけない。

 いや、それ以前に明確なことはまるで思い出せないのも事実ではある。

 恐らくは、脳が記憶をバックアップすることを拒絶したのだろう。

 俺自身というハードが壊れないために。


 一つだけ云えることは、過去これまで受けてきたパチの残虐非道振りなど、所詮は保育所内で幼児が戯れる児戯(じぎ)に等しかったと思い知らされたということだった。

 運良く死の世界への扉から抜け出せたのは、神が己に対し初めて救いの手を差し伸べたのだろうか。

 それとも今後さらなる恐怖が待ち構えていることを知っている悪魔が観察日記を付ける虫の如く生殺与奪の権利を発動させたのか。

 どちらにしても、ボンズは知ってしまったのだ。

 死を迎える瞬間、事前に知れば誰でも拒否し(あらが)おうとするが、突発的に訪れた予期せぬ場合は覚悟するしかない――受け入れるしかないということに。


 意識を取り戻した時には地べたに口づけを強要されているかの如く倒れていた。

 そして、まだボンズに息があることに気付いたパチは目元に影を浮かべ、空高き天空から蟻のように這いつくばる下賤な人間を見下す天上人を連想させる視線と口調で吐き捨てた。

「まだ生きているの?」――と。


 先程も述べたが、何をされたかは覚えていない。

 ただ、一瞬顔面に衝撃が走ったかと思った時には、目の前が暗闇へと変わっていたことだけは覚えている。

 そして、今倒れている事と、倒れている己の後頭部を踏みつけられていることだけはかろうじて認識できた。


 ふと、眼球運動のみで横を見ると子どもたちの背中が見える。

 正面には壱殿が座っている。

 どうやら壱殿は既に現実から目をそらし、子どもたちを連れてお茶(茶菓子付き)をたしなんでいるようだ。


「旨いか?」

「お団子、美味しいぞ!」

「うめこぶちゃ! しぶくておいちいでちゅ!」


 違う――壱殿は現実から目を逸らしたのではない。

 どうやら壱殿はりゅうとラテっちの意識を自身に向けることで、子どもの視界に己の姿を写させない行動だった。

 しかしそれは、己がR15指定の行為を受けたのだと気付かされる光景でもあった。


 そういえば式さんがいない。どこへいった?

 ボンズが気付くはずはなかった。

 彼は真っ青な顔をしながら、地面にへばり付いているボンズの背中にHP回復剤を垂れ流し続けてくれていたからだった。

 そんな彼がポツリと洩らした。

「殺すのはダメだと云っておきながら、むしろひとおもいに殺してくれと思うようなことはするのな」



 ――ここで、今まで使う機会がなかったためあまり触れなかったが、よい機会なので回復剤について説明しておこう。

 回復剤とは、大きく分けて二種類に分類される。

【HP回復用】と、【符力回復用】だ。

 二つともヒョウタンのような形状をしたガラスに似た透明な物質で作られた容器の中に、HPは赤色・符力は青色の液体が入っている。

 更にヒョウタンにはそれぞれ、MAX値の25%・50%・75%・100%と表記されており、値の通りに回復してくれる。

 回復率が高いほど高価な品物であり、75%までの回復剤は道具屋で購入することができるが、100%の回復剤は魔物からのドロップか、ダンジョンの宝箱、クエストの報酬、賭場での景品でしか手に入らない。

 ちなみにこの回復剤の容器。見た目はガラスだが、地面に落としたり容器同士でぶつかり合っても割れることはない。

 だが、プレイヤーが手に取った時には「使用したい」と念じながら強く握ると簡単に割れる。

 使い方は、ヒョウタンに似た容器の先端にキャップが付いており、それを外して身体に振りまくか、プレイヤーが容器を割って身体に振りまく方法が主である。

 容器の破片は割れると同時に消滅するので突き刺さることもない。

 液体状の回復剤も、容器から出ると気体状に変化し、プレイヤーに振りかかることで回復剤として効力を発揮する。

 なので、式さんは現在ボンズにHP回復剤を容器から垂れ流して続けているが、ボンズの身体に辿り着く時には霧状になった辿り着いているのであった。

 その霧状の物体が、ボンズの命を救ったといっても過言ではない。

 それにしても――

 ゲームの世界を題材にした物語にも関わらず、回復アイテムの説明を50話を目前にして(番外編は除きます)ようやく語るあたり、いかにこの物語がハチャメチャなものかが伺える。

 どう考えても序盤にするネタだろうに。

 言い訳をするなれば、使う場面がなかったからとだけ云わせて頂きたいです。


 話を戻し、ボンズの様子を伺うと、相変わらずパチに後頭部を女王様の如く踏まれ続けていた。

「云って良い事と悪い事もわからないの? この万年警備員は。ほら、生まれてきてすみませんって云ってみなさいよ。とっとと念仏唱えながら懺悔して一刻も早く死になさい」

 その様子に式さんはただただ唖然としている。

「ゲスだ……本物のゲスがいる。オレは、本物の残酷ってヤツを初めて知ったのかもしれない」


 それから数分後――

「あーあ、もう面倒くさくなった」

 お許しが出た……いやパチの気が晴れたのか、ボンズを踏みつけていた足をようやく離し、ボンズは地に足を付けることを許されたのだった。

 立ち上ったボンズにパチが冷たい視線を送り続けながら話しかけた。

「それにしてもアナタって、本当にひきこもりなのね。ここまで一般常識がないとは思わなかったわ」

「――なにがでしょうか」

「なにがって……はぁ~、情けない」

 ため息交じりで呆れるパチにボンズはもう一度優作について問いかける。

「情けないってなんだよ。実は冗談を云って俺をからかっているんだろ?」

「あのね、彼女の装備を見たでしょ? ゆったりとした服に胸が強調されるわけがないでしょ。それに、サイズだってあるんだし。それよりも、女性に『胸がない』なんて、セクハラを通り越して犯罪よ、犯罪!」

「え? そうなの??」

「ダメだわ、この人……ラテっち。コッチに来なさい」

 梅こぶ茶を飲み干したラテっちが素直にパチの元へとテクテク近付いていく。

 そのままパチはラテっちに耳打ちし始めた。

「ボソボソ」

「ふみゅみゅ」

「――今云った通りに云うのよ。わかった?」

「らじゃ!」

 ラテっちはパチにピシッと敬礼し、今度はボンズの方へと歩み寄る。

 視線を合わせ、笑顔で元気よく耳打ちした内容を発表した。

「えーとね。ひごーほー、じぇーけー……なんだっけ?」

 首を傾げながら、パチの方へと振り返るラテっち。

「もう! ちゃんと覚えていないとダメじゃない。もう一回初めからね」

「らじゃ!」

 再びラテっちが敬礼するのと同時に、壱殿が慌ててパチの後頭部めがけて飛び蹴りを喰らわせた。

 彼が自発的に行動するとはなんとも珍しく光景だ。

「イタッ! ちょ……壱殿! 女性に向かって何するのよ!!」

「これでも千歩は譲ったわ!! 貴様こそ何をしている。こんな幼子(おさなご)に何を云わせるつもりだ!!」

「何って、非合法J……」

「皆まで云うな!! 少しは躊躇しろ!!」 


 二人の会話をキョトンとした顔で見守るラテっちを、意外にも式さんが手を繋いで連れて行く。

 大人から引き離すと云えば聞こえは悪いかもしれないが、倫理的にも行動的にも彼の行為は正しい選択であった。

「おい、小僧」

「ん?」

 これまた珍しい。式さんがりゅうに話しかけている。

「おじょうちゃんのこと、しっかりみてやんな」

「おう! まかせろ」

「……仲間だからって、大人に対して危機感がなかったのか?」

「ききかん? よくわかんないけど、みんな仲間だぞ! みんな一緒だと楽しいぞ!」

「そうか。楽しい――か。そうだな、どんな時でも楽しそうだな」

「式さんは楽しくないのか?」

「ん、うーん。楽しい……のかもしれないが、今はまだわからん。不思議な、そして変わったヤツらと一緒にいることは理解している」

「それじゃ、楽しいんだな!?」

 何故そうなる? ――と、式さんは云いたかったのだろう。だが、りゅうの無垢な笑顔を見て、言葉を呑みこんだ。

 ボンズには、そう理解できた。

 なにせ、「俺は楽しくない! 死にたくない!」と云いたいのを空気を読んで口にしていないのだから。

 俺、エライな。


 ――と、心の中で自画自賛をしていたら、壱殿との口喧嘩が落ち着いたパチが、今度はボンズに矛先を向ける。

「まったく、対人恐怖症の癖に妙に仲がよさそうだから、てっきりその気があるかと思ってたけど、ロリコンじゃなくて変態セクハラ大王だったのね。マジで気持ち悪いからしばらく私に近付かないでね」

「なんでそうなっちゃうのかなー!」



更新をもっと頑張りたいと思いながらも、約一カ月ぶりに投稿することができました……めげずに頑張りたいと思います。

なによりも読んでいただき、とても嬉しいです。

よろしければ、感想・評価・ご指摘なども頂戴できれば嬉しいです。

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