第四十八話 物々
なんだかんだでピンズの街を出発したボンズたち一行。
染められた森を突き進む中、プレイヤーどころか魔物にすら出くわす前に、式さんの何気ない一言からチョットした騒動が起こった。
「ところで、お前らって強いのか? 役に立つんだろうな」――と。
タッチパネルでステータスを確認すればいいものの、面倒くさかったのか口頭で聞いてきたのだ。
「なによ、また相手になってほしいの?」
「お前はもういい! それに、お前は支援、回復系の南じゃないのかよ。まったく……お前が回復符術で味方を助ける姿が想像出来んよ」
台詞を云い終わったと同時に、ボンズは式さんの肩に手を当て,強く握る。
「大丈夫。俺も一度としてない!」
「ワシもないな」
「ぼくもー」
「わたちはぱちにかいふくしてもらいまちた。いっかいだけ。いいでちょー!」
「よく今まで生き残れたな!!」
呆れながら話を続ける式さん。ここで止めておけば、もしかしたら今回の騒動は起こらなかったかもしれない。
だが、彼は口走ってしまった。
「まったく……他のヤツらはまともなんだろうな」
この台詞を聞いたボンズたち一同の中で、誰よりも先に小さい手が上がった。
「ばかにしてまちゅね。それじゃぁね、わたちのつよさをみせまちゅ」
意外にも、ラテっちが意気揚々と名乗り出たのだ。
「ほう、お嬢ちゃんからか。いいだろう、どっからでもかかってこい」
「それじゃぁね。そこにたってね」
当たり前のように「ここだよ」と地面を指さすラテっち。
「――え? 立ち位置指定なのか?」
己が連想していた『勝負』とは明らかに違う展開に素で尋ねてしまう。
――無理もない。だが。
「うわっ、幼児相手にハンデもなしなの。最低……」
パチが口に手を当て、あからさまにドン引きした態度を見せる。
「うるせぇな!! わかったよ。云うことを聞けばいいんだろ!」
演技過剰なリアクションを見せつけられ、渋々指定された位置まで歩いて行く式さん。辿り着いてからラテっちの方へと振り返り、「ここでいいのか?」と尋ねる。
「もうちょっとはなれて~」
「はぁ、さっきはここだと云っただろう」
「最低……」
「女っ! 二度云わんでいい!!」
結局最初に指定された位置より10メートルほど移動する羽目となる式さん。
「……もういいか?」
ようやくラテっちも納得したようだ。
「うちゅ。それじゃいきまちゅよ。とちゅげき~」
突撃――と云う割には速度が遅い。
いや、正確にはトコトコと式さんの方へ向かって歩き始めたのだ。
元気の良さだけ突撃なのだろう。
ここで気になることが一つ。
ラテっちが歩き出して初めて気付いたのだが、いつの間にか『ラテっちが最初に立っていた位置の真後ろ』にりゅうが立っていたのだ。
しかも理由はわからないが、りゅうはそのまま固まったように動こうとしない。
その様子に「戸惑う」と表現して良いものなのかすらわからない顔をする式さん。
そんな彼のことなどお構いなしに、今度はえっほえっほと走り寄るラテっち。
ようやく式さんの足元まで辿り着くと、今度は彼の足にしがみつき、うんしょっと云いながら登り始める。
彼の肩まで登ると、頬を薄く染めながら彼の耳元でそっと呟いた。
「ざんぞーでちゅ。てへへっ」
「どこがやねん! ちょっとテレながらいうんじゃないよ。しかも残像ってあの金髪のチビのことか? 似ているけど別人じゃねぇか!」
「てへへ」
「だからテレるくらいならやるなよ! 正直なところ、『やってみたかった』だけなんだろ!?」
「すごいだろ。残像だぞ!」
「残像役なら喋るな!!」
式さんのツッコミなど全く気にしないりゅうがラテっちに声をかけた。
「お~い、うまくいったな!」
「ばっちりでちゅね!」
「うそつけっ! まったく、勝負はどこへいったんだ!」
「おぉ~。それじゃぁね、こっからでちゅよ~」
――予告!
式さんが牙をむき、ラテっちに襲いかかる。
だが、ラテっちは新アイテムで立ち向かうのだった。
はたして、勝利の行方は?
勝利の女神はどちらに微笑むのか? 戦いの果てに何が見えるのか!?
次回――【ラテっちVS式さん。唸れ! オレのファイナルアンサー!!】
みんな、絶対見てくれよな!!
「…………りゅう、ナレーションネタはもういいから」
「およ? ボンズ、かっこよくなかったか?」
「いや、そういうわけじゃないけどさ……とりあえず、カメラ目線は止めようか」
再び距離を置く2人。
2人というより、満足したラテっちがその場から離れていっただけなのだが、それはまぁいいだろう。
「では、いきまちゅ」
「はい、どーぞ」
すでにどうでもよくなっている式さん。やる気はほぼ無くなったものの、自ら『強さを証明する』よう催促した以上、付き合わなければならない状況をつくってしまったことに少し後悔していた。
「あれでもないこれでもない、あれでもないこれでもない……あれれ? おかしいでちゅね。あれでもない、これでもない……」
カバンの中身を一生懸命探るラテっち。その姿はお片付けを怠けておもちゃを見つけ出せない幼児そのものだ。
「……これ、いつまで待つんだ?」
「えーと、どこへいきまちたかね? あれでもない、これでもない……」
「おい、そのカバンにはどんだけアイテムが入っているんだ? それに、そのカバンは『アイテムポケット』ではないだろ? なんで、そんな小さいカバンの中身なんて漁っているんだ??」
一度に幾つも質問した式さんに対し、ボンズが代わって説明する。
「そのカバンはラテっちの――ラテっちだけのスキルなんだ。そのカバンには見たこともないようなアイテムがいっぱい入ってて、今はアイテムを出している、というよりもスキルを発動している最中ななんだよ」
「そのカバンから……か?」
「そういうこと」
「…………このお嬢ちゃんは未来からやって来たロボットなのか? 和菓子とか好きか?」
「お菓子はなんでも好きだけど、ロボットじゃないよー!!」
――でも、俺と似た発想だ。いや、これは当然だろう。チートだし。
「うんしょ、うんしょ……おっ、あった~! 【ビリビリこうせんじゅう】」
ラテっちは銃身が円錐状の、一見水鉄砲のような銃を取り出した。
「ようやくか……」
ラテっちがアイテムを出すまでその場にしゃがみ込み、大人しく待っていた式さんには既に緊張感はなくなっていた。
だが、ラテっちが手にしている物が、ボンズの説明通り『見たこともないアイテム』であることがわかると少しやる気を取り戻した。
「へぇ、確かにゲームでは見たこともない銃を使うようだな。よし、かかってこい」
「ちょっとまってね」
――と、ラテっちは手を前にかざした。
「……今度はなに?」
ラテっちは銃と一緒に取りだした一枚の紙を手に取り、顔を近付け読み始めた。
「むむむ、む~」
「あのよ……いったい何をやっているんだ? いや、何がしたいんだ??」
式さんが問いかけると、ラテっちは彼の方へ向かって再び歩き出す。
そして、取り出した紙を差し出した。
「よんでくだちゃい」
「読んでって……これ、『取扱説明書』じゃねえかよ!!」
「なんてかいているんでちゅか?」
「自分が出したアイテムくらい把握しろよ。えーと、なになに……」
「ふむふむ」
結局説明してあげる式さん。それを素直に聞くラテっち。案外いいコンビなのかもしれない。
「まず、銃身を右に回します」
「じゅーしん?」
「あ、あぁ、これのことな」
式さんは円錐状の銃身を指さす。
「これを右に回すんだとよ」
「みぎ? みぎってなんだっけ?」
「あーもー、こっち! つーか、貸してみろ」
式さんはラテっちの銃を取り上げ、説明書通りにセッティングしてあげた。
「あとは、この引き金……この指をひっかける所だぞ。これを引っ張ればいいから」
「お~ありがとでちゅ!」
それでは勝負再開。
「いくじぇ! ビリビリこうせんじゅう!」
――辺りはシーンと静まり返る。
つまり、何も起こらなかった。
ラテっちは光線を発射したポーズをとったまま固まっている。
数秒後、予想と反して光線が出ていないことに気付くと、銃の先端を覗きこむ。
「およ? でないでちゅ。なんで?」
改めて、もう一度式さんのところまで歩み寄るラテっち。
もう本当にどうでもよくなったのだろう。式さんは素直に説明書を見直してあげた。
『――なお、この銃を使うには単三電池が二本必要です。電池は別売りとなっておりますので、お買い求めの際には忘れずに電池を一緒に買って下さい』
「だとよ。電池がないと動かないみたいだぞ」
式さんは銃のグリップに付いている蓋を発見し、開けてみる。
確かに電池が入る仕組みになっていた。
だが、電池は入っていない。
「やっぱり電池が入っていなかったんだな」
「そうなんでちゅか。しきにゃん、でんちちょーだい!」
「…………ないよ」
「えぇ~!」
途端に不機嫌になるラテっち。
「でんちがないならしょうぶできまちぇん。まったくもぉ、しきにゃんアプッよ。もういいでちゅ!! ぼんずにおやつをつくってもらわなきゃ! ぷん・すか!」
式さんの足元にいたラテっちはメッチャふてくされて、その場から立ち去ってしまった。
銃に関しては光線は出なかったものの、引き金を引いたことで一応アイテムは「使用した」ことになったのか、カバンにしまうことはできたようだ。
「え……オレが悪いのか??」
「はい、式さんの負けー」
「うそだろ!?」
勝負終了後、壱殿が式さんに歩み寄り語りかける。
「貴様……もしかしてこの中で一番弱いのではないか??」
「オッサンは何もしていねぇだろうが!!」
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