第四十五話 紹介
………………。
俺の名はラテっち三世。
かの名高きラテっち一世の孫だ。世界中のおやつに俺は血まなこ。ところが辛いものは食べられないんだなぁ。まぁ自分でいうのもなんだけど、狙ったおやつは必ず食べる。神出鬼没の女の子。それがこの俺、ラテっち三世だ。
りゅう。
俺の相棒。速斬り何秒かわからないけど、とにかく速く斬れるプロフェッショナル。クールじゃないけどニコニコ剣士。義理堅く、頼れる上にお約束はちゃんと守る良い子。
十三代目式さん。
|古《いにしえ》の爆弾魔、初代「式」の末裔。爆破の達人。なんでもブッ飛ばしてしまう怒らせると怖い男。
壱殿。
誰の子孫だがご存じないけど、このゲームの敏腕プレイヤー。俺と遊ぶのを生きがいとする実は優しいとっつぁんだ。
謎の女、パチ。
女盗賊なのかスパイなのか前衛だか後衛だかこの俺にもわからない謎の女。いつも酷い目にボンズがあうけど、憎めないんだな。俺はかわいこちゃん(?)には弱いからねぇ~。
さ~てさて、これら一癖も二癖もある連中に囲まれて、今日はどんな事件を巻き起こしてやろうかなぁ。
ナレーション、ボンズ。
「嘘つけーーーーーー!!!」
ボンズが吠えたてている中、りゅうとラテっちは髭を生やした渋い男性NPCにお礼を云っていた。
「ありがとでちゅ!」
「上手だったぞ!」
お礼を云われたNPCは台本をりゅうに手渡し、何処かへと去っていった。
手を振るその後ろ姿も、何気に格好いい。――が!
「俺、主人公なのにキャラ説明がないどころかナレーション扱いなの!? しかも喋ってすらいないのに!! 扱いが雑すぎるよ!! しかもNPCの声、似ている! どこぞのモノマネ芸人さんかと思ったよ!」
「まぁまぁ、いいじゃないかボンズ。気にするな」
「気にするよ! それにりゅうは刀持っているのに五○衛門じゃねぇのかよ!」
「だって、頼れる相棒がよかったんだもん」
「『もん』じゃないよ! まったく……話の冒頭から何をするかと思えば、詐欺だよ」
「ちょっと待て。十三代目ってなんだ? それじゃ初代は誰だよ」
「生きがい……ではないが、まぁいいだろう」
「『かわいこちゃん(?)』の『(?)』はいらないんじゃない。それに酷い目ねぇ……それじゃ、ラテっちにも――はい、デコピン」
「アウッち」
パチは優しくラテっちのおでこを突いた。
おかしいな、俺には拳か飛び蹴りか絞め技なのに。
「――て、こんなことをしている場合じゃないよ! もうそろそろクエスト期限が迫っているんだよ!」
そう、今日でクエスト開始から15日が経過した。
20日間というクエスト期間中にまず壱殿と出会い、そして昨日式さんが加入してくれたことにより、ギルド結成クエストは残すところあと1名で達成となったのだが、残り期間は今日を含めてあと5日と迫っていたのである。
あと1人……どうしようか。
「そんなに焦っているなら、フィールドを歩いているプレイヤーを適当に選んで、誰でもいいから取り合えずぶっ殺す。その後で『復活したかったら仲間になれ』と脅迫して引きずり込めばいいだろう」
「そういう発想はやめなさい」
式さんの発言は相変わらず危うい。
彼がこの狂気を振るってしまわないことを切に願う。
「取り合えず行動しましょう。さっきの話に賛成はできないけど、プレイヤーを探すという点でいえばフィールドに出るのが最善だと思う」
パチの云うことも尤もだ。
壱殿とも式さんとも仲間になった場所はフィールド。クエスト期限の迫った今、街中にいるメリットは無いと思っていいだろう。
すると――
「ところで式とやら。せっかく外へ出るのであれば、貴様の戦闘をこの眼で見せてはくれないか」
壱殿の提案に、式さんは不機嫌そうに答える。
「あぁん、この女との戦闘を見ていただろうが。めんどくせぇ……仲間探しや戦闘ならテメェ等で勝手にやればいいだろう」
「パチとの戦闘などあてにならん。貴様の実力を知るにはな」
「ちょっと! それどういう意味よ」
パチが壱殿に喰いかかった。
「結果だけを云えば【人和】を発動させ、行動を制約したことにより勝利した。だが、問題は過程のほうにあるのだ」
「過程?」
「そうだ。パチよ、式が爆弾を投げて、それを避けた時のことを覚えているか?」
「えぇ、覚えているけど……それがどうかしたの?」
「考えてもみろ。南のプレイヤーが避けられる攻撃しかしてこなかったんだぞ。回避能力の低いパチがかわせるほどのな」
「あ……」
「コイツは仮にも幾人ものプレイヤーを消滅させてきた男だ。そんな男がその程度なわけがなかろう。恐らく、様子見をしていたか、余裕のつもりだったのだろう」
「なるほどね」
「――と、いうことだ。これから行動を共にする以上、貴様の『実力』を知りたい。見せてはくれんか。それとも、見せるほどの実力は持ち合わせてはおらぬか?」
「ケッ! みえみえの挑発だが、乗ってやるぜ! 早速フィールドへ行こうじゃないか」
彼の実力を知る機会も含めて、クエスト達成にはフィールドに出ていたほうが遥かに可能性がある。
それにしても流石は壱殿だ。
クエスト達成などまるで関心のない式さんは決して自発的には行動しない。
それを実力を知ることを名目に上手く誘導した。
実際に彼の強さを知ることもあるだろうが、ただお願いしただけでは例え仲間になったからといって素直に披露しないだろう。
まさに、一石二鳥だ。
「さ~てさて、どんな事件を巻き起こしてやろうかなぁ」
「りゅう……もうダメ!!」
……………………土下座。