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第五話 転々

 ………………着いた。

 空飛ぶタタミに揺られること数時間。宙に浮いている高揚感と、いつ落ちるかわからない不安感にさいなまれながら、ようやく目的地まで到着した。


 あんなにアバウトな操縦でもなんとかなるんだな。

 アイテムが高性能なのか、それともラテっちの能力がスゴイのか……全くもって未知数なお子様だ。

 この子の存在によってこれからのクエスト進行や戦闘状況にどう影響を及ぼすのか、まったく予想できない。


『ついた~!』

 2人は遠足の目的地に着いたかのようなテンションだ。

 まぁ、空を飛べた経験は嬉しかった――心の奥底では2人と同様に高揚こうようしている。


 3人が地に足を付けると同時に――

「うんしょっと」

 ラテっちはタタミをカバンにしまった。


 大きいタタミが小さなカバンに収納されていく光景はアニメの世界だけだと思っていたのだが……あぁ、ここはゲームの世界か。

 アイテムポケットにも大きいアイテムを入れることはできるから、細かいことは気にしないでおこう。



 なにはともあれ、ピンズに到着――無事にクエスト達成だ。

 この世界には、海を隔てた4つの大陸にそれぞれ1箇所ずつ「街」が存在する。

 先程までいた「始まりと闘いの街――マンズ」

 そしてここが森林の入り口「交易と支度の街――ピンズ」だ。

 通称「経済都市」とも呼ばれるこの街ではNPCが店を開き、武器や防具・道具屋から、食品やお菓子屋・家具・おもちゃ・アクセサリーなどの付属品に加え、その他の雑貨など様々な物を販売しており、レアアイテム以外の物は大抵この街で揃えることができる。

 そのほか、プレイヤー同士でアイテムを取引を行う「交易所」が設けられており、そこではプレイヤー同士で物々交換、もしくは物と金貨との交換が行われている。

「欲しいものがあればピンズに行け」と云われる程の街だ。


 また、この大陸から魔物のレベルもマンズ近郊と比べて格段に上がり、戦闘は困難になる。

 そして、ピンズはこの大陸の端に位置するため、次の街に進むのであれば多くの魔物と戦いながら長く深い森をくぐり抜けながら大陸を横断するしかない。

 そのため、プレイヤーはこの街で旅の支度を万全に整えなければならないのだ。

 移動スキル「ワープホール」が使用禁止になっている今、いずれは次の大陸に進まねばならないのは予想できる。大陸横断もだ。


 ――いずれクエストとして、また違う大陸へ行けと云われるだろうな……


 とりあえず、現在進行中のクエスト期日はまだ先だ。

 それまで宿でもとるか。


 ………………そういえば、静かだな。

 気付くまでも無い。2人の姿はすでに消えていた。


「全く、あいつらときたら……」

 どうせ街を探索しているのだろうが、一言云ってからにしろよな。

 2人を探しがてら、街を探索することにした。

 マンズでも思ったが、やはり臨場感――現実だから実際にその場にいるので言葉の使い方は違うか……迫力……でいいのか? なんというか、感覚がまるで違う。

 店のNPCなんて「いらっしゃいませ」とか云っていたり、「安いよ」などと客引きをしている。

 ――値段はどこも変わらないだろう。


 さて、2人はどこかな――道具屋……いや、違うな。お菓子屋だろう。

 しかし、お菓子屋の中を探しまわっても2人の姿はなかった。

「あれ? いない」

 予想とは違ったようだ。チャットで呼び出すか。

 タッチパネルを開き、りゅうを呼んでみる。


 出ない……

 ――ったく、何をやっているんだ。


 まぁ、独りでフラフラ歩きまわれば会えるだろう。

 気にせず歩いて行くと――

 おっ! おもちゃ屋か。

 そういえば、ゲームの時はあくまで「ネタ」的にしか存在していなかった店だが、この世界では需要はあるのだろうか?

 ――少しのぞいてみるかな。


 店の中は、現実世界の大型おもちゃ店を思わせる品ぞろえ。

 ただしTVゲームの類はない……これは当然だろう。「ゲームの中でゲームをやってどうするんだ!」――ってな。

 でも、鉄道模型にプラモデル、パズルに変身セットにヒーローものの腕時計……本当にいろいろあるな。

 へぇ、ヌイグルミまであるのか。

 クマのヌイグルミを手に取る――触り心地といい、なかなかいい仕事をしているな。


 ――ピクッ!


 ……なんとなく、後ろから気配を感じる。

 あまり、振り向きたくない気配だ。


 ヌイグルミを離そうとした瞬間――

 店員が「いらっしゃいませ! お求めですか?」と、云いやがった。


 うわ! 余計なことを! 

「いや……別に……」

 そう云いながら店員の方へ振り向く。

 ――振り返った先。

 店員の足元には幼児コンビが仁王立ちしていた。


 あぁ…………逃げられない。


 それでも「買わないぞ!」と云おうとした。

 云おうとはしたのだ。

 だが、2人は無言のままその場に寝そべり、コロコロと転がり始めた。


「……何をしている?」


 りゅうが転がるのを止め、上を向いたまま語りだした。

「今のが第一段階だ。第二段階はこれに声が混じるぞ。さらに第三段階には……」

「どれが欲しい!」


 あきらめた……


「ほら、ラテっちも転がるのやめろ。何が欲しい?」

 寝そべるラテっちを抱きかかえてる。

「くまさんがほしい」

「あぁ、このヌイグルミか」

 指さしたのは、先程まで触っていた「くまのヌイグルミ」だった。

「これか――大きくないか?」

「かってかって~」

「……ほら、今回だけだぞ」

「むふふ~ありがと~!」

 嬉しそうにヌイグルミを抱きかかえるラテっち。

 ただ――ラテっちとヌイグルミの大きさが変わらない。思わず笑いを誘う。

「りゅうは何が欲しい?」

「これだ!」

 すでに、ヒーローものの腕時計を装備していた。

 シャキン! と、云わんばかりに腕時計を付けた腕を前に出し、ポーズを決めている。

「……早いな」

「これがあれば、時間がわかっていいぞ!」

 あ……そうか! クエストは時間――もしくは日数制限がある。時間を知ることは地味に必要なことだ。

 まぁ――タッチパネルを開くと時間は表記されるので、いちいちパネルを開く手間を省く程度だけど……


「そうだな。でも! りゅうも今回だけだぞ」

「おう! サンキュー!」

「あと、チャットには必ず出ろよ。さっき出なかっただろ」

「あ、本当だ。着信ある。」

 今気付いたのか。

「ごめんなボンズ。心配かけたな」

「しっ、心配!?」

 人の心配なんかしたことないから、唐突な台詞に驚く。団体行動したことのないボッチの特性か。

 でも――

「まっ、まぁな……とりあえず! でかける時は声をかけること! 2人ともわかったな!」

『はーい』

 手を上げる2人。う~ん……もしかして、これは「甘やかしている」なのかな……?


 りゅうは腕時計を装備し、ラテっちはヌイグルミを大事そうにカバンにしまう。

 この姿をみせられては――今回は勘弁するか。



 さてと、合流もできたことだし――今度こそ宿だな。




 ところで――



「2人は金貨を何枚持っている?」


 ちなみに、この時ボンズは2万枚程度の金貨を持っていた。

 宿代くらいあるのか……? おもちゃ屋での行動もあるし、所持金の確認をしておこう。


「りゅう、所持金はいくらもっている?」

「所持……金貨か? 150枚もっているぞ」


 150枚……少ないな。宿代にはなるが、今後のためにも残しておいたほうがいいか。


「ちなみに、ラテっちは? 金貨何枚もっている?」

「おこづかい~」

 ちっちゃい手のひらには3枚の金貨がのっている。


「……宿代……だすよ」

『ふたっぱら~』

「ふとっぱら……ね」



 この2人は、今までどのようなプレイスタイルだったのか本気で疑問に思う。

 金に執着がないにしても……初心者並みの所持金だ。



「いらっしゃいませ!」

 宿屋に入ると、店主――NPCが話かけてくる。

「お客様は何名での宿泊ですか?」

「3人だ」

「お1人様、金貨7枚となります」

「それじゃ、3人で21枚ね」

「はい。お受け取りしました。ありがとうございます」


 NPCとの会話か――これ以外の台詞は喋るのか? いつもモニター越しに見ていた会話だと、己のような人種でも戸惑うことなくできるみたいだ。


「ほら、部屋に行くぞ」


『……………………』


 これまた返事なし。

 ……今度は何?


「か……」


 2人が固まっている。

「か?」

「かけ算だ!」

「ちょーあたまいい!」

 2人が驚き、惜しみない賛辞を贈る。

「あ……ありがと」

 幼児だ。本物の幼児だ。紛れもなく幼児だ!

「かけ算……わからないのか?」

「うん! でも算数すきー」

「しぇんしぇ~。さんすうおしえて」

 先生ときたか――まぁ……

「それじゃ、部屋で勉強するか?

『おー!』


 宿屋で算数を教える。

「3個入りのビスケットの袋を5つ買いました。ビスケットの数はいくつ?」

「うーんとね。いっぱい!」

 ラテっち……それ、数じゃねぇし……

「3たす3たす3たす……今、何回いったっけ?」

 りゅう、おしい! でもそれは「足し算」だ。

『つぎのもんだい~』

「まだ解けてないし!」


 まぁ、少し楽しいかな――


「そろそろ夜だ。晩ご飯にしようぜ」

「うん」

「おう」

 3人で食堂へ向かい、宿屋の飯を頂くことにした。

「何食べたい?」

『おこさま(子様)ランチ~』

「おっけー」

 なんともお似合いな。

「ボンズは?」

「あぁ、この洋風幕の内弁当にする」

 ゲームで初めて見たときから気になっていた。

 幕の内弁当で洋風? なんだそれ――と。


 注文した料理が運ばれてきた。

 料理の正体は、幕の内弁当の容器にライスにエビフライとハンバーグなどを詰めたものだ。

 これじゃ、お子様ランチに器を代えてと量を増やしただけだろう。

 それに、あまり美味しくない……

 食えなくはないが、もう一度食べたいとは思わない程度の味だ。


 ――突然。

 りゅうとラテっちがフォークとナイフをテーブルにおく。

「……ん? どうした?」



「てんちょうをよべ」


「……ラテっち……さん?」



「ショフを呼んできてくれないか」


「……りゅう……くん……あなたまで」


「おいしくないでちゅ!」

「こんな料理で今どきのお子さまが喜ぶとでも?」


 無表情のクレームが怖い。

 あわてて飛んできた店長とシェフが困り果てている。

 NPCをここまで動揺させるとは……恐ろしい子たちだ。

「まぁ、許してやれよ。たしかに味はそれなりだけど、一生懸命作ってくれたんだぞ」

 多分だけど……

『ぶ~』

 気持ちはわかる。でも、食えるだけありがたいと思うべきだ。

 食べ物を限定アイテムになどされたら、ゲーム内で餓死してしまう最悪な状況になるからな。


「あの……プリン……サービスしますので……」

 シェフがオドオドと3つのプリンを持ってきた。


 お……! 今度は意外と美味しい。


『やればできるじゃないか』


 ……君達はどこの美食家だ。



 こんな宿屋での生活も終わりを迎える。


 ――マンズ出発から1週間が経過し、クエスト期日を迎えた。






平成25年も残すところあとわずかとなりました。

皆さま、1年間本当にお疲れ様でした。

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