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第四十話 内緒

 

 その夜、みなは泥酔した。

 疲れ、緊張、消耗、様々な理由から深い眠りへと誘われていったのだった。

 そして、次の日の朝――

 いつも通り5人で食卓を囲む。

 まるで何事もなかったかのように。

 誘拐事件、爆弾魔との遭遇。昨日は語り合うのに充分なことが連続して起こったが、誰一人としてそのことを口には出さなかった。


「さて、これからどうしよう。とりあえず爆弾魔との約束の日までの丸2日、何もしな訳にもいかないだろう」

 先に口を開いたのはボンズ。

 空気を変える意図などない。コミュ障の彼がいくら最近になって仲間だけでも人並みに接することができるようになったからとはいえ、そんな気の利いたことができるわけがない。

 ただ、思うがままを口にしただけだ。

 そんなボンズに対し、りゅうが「とある申し出」を願いでる。

「――なぁ、ボンズ。今からラテっちと2人でおでかけしたいんだけど、いいか?」

 少し真面目な表情をしていたのが妙に気になったボンズ。いや、そうでなくとも彼ならこう云うだろう。

「どこに行くんだ?」

 だが、「えーとな」と、云いずらそうなりゅう。

 その様子に、ボンズは更に気になりだした。

「なんだよ。遠慮なく云ってもいいんだぞ。おもちゃ屋か? あっ、わかった。お菓子屋に行きたいんだろ」

「ううん、違うよ。爆弾をもったニーチャンとまた会うまで、ぼくたちに少し時間をくれないかな」

「時間? なんで?」

「……秘密だ」

「そんな!」

 ――ショックだった。

 いつも、あんなに懐いていたのに「隠し事」をされてしまうなんて。

「あ……あのな、りゅう。昨日は色々大変だったんだし、2人だけで出歩くのはチョット……な。わかるだろ。せめて、どこに行くかぐらい教えてくれてもいいだろ?」

 焦りを隠しつつも平静を装う――そう思っているのはボンズ本人だけで、周りからすれば慌てふためいているのは一目瞭然だった。

 しかし、フォローは誰も入れない。

 壱殿とパチは「様子」をみていた。

「また昨日のようなことがあったら……」

 りゅうを必死に説得するボンズ。そして、2人について行く気満々だ。

 だが――

「大丈夫。今日はぼくも一緒だし、ボンズは心配しないで宿屋でゆっくり休んでよ」

 りゅうはあくまで「2人だけ」で出かけることを主張する。

 りゅうとしてはボンズのことを気遣っているのだが、幼児の気遣いすら気付かない。

「それって……ちゃんと『ずっと一緒』にいるのか?」

 そうボンズが尋ねると、りゅうはわかりやすく首を真横に向けた。

「まぁ、すぐ戻るよ。それじゃ、いってくるね! ラテっちー、早くー!」

「まってよー」

 結果として話を遮るような形になってしまったが、2人は宿屋を元気に飛び出していった。


 ボンズは途端にその場に崩れ落ち、座り込んでしまう。

「やっぱり、俺はボッチがお似合いなんだ……」

「思春期か!」

 パチは突っ込んだ後、ため息交じりでボンズを諭す。

「あのさ、少しは様子を見ることも覚えなさいよね。あのりゅうが云いずらそうに隠し事をするなんて、何か訳があるのよ」

「訳って?」

「それは……わからないけど」

「ほら~、やっぱりわからないんじゃないかよ。はぁぁぁぁ」

 肩を落とし、深いため息を吐くボンズ。

「めんどくさ……」


 その日の夕方過ぎ――

『ただいまー』

 りゅうとラテっちが宿屋に帰ると、ボンズが仁王立ちしながら玄関で待ち構えていた。

「遅かったじゃないか! 門限はとっくに過ぎているぞ!」

「門限……て。いつからそんなのあったの?」

 思わずパチは突っ込んでしまうが、ボンズはまるで聞いていない。

 すると、りゅうがペコリと頭を下げる。

「ごめんな。でも、今はお腹がすいたよ。晩ご飯はできているか?」

 呆気らかんとしているりゅうに毒気が抜かれたのか、ボンズは「あぁ」と答えるだけであった。

 そして、朝食の時と同様に5人で食卓を囲み、誰も口を開こうとしない。

 子どもたちは黙々と食べている。

 機嫌が悪いわけではない。食欲もいつも通り旺盛だった。

 食事を終えると、またりゅうから申し出があった。

「明日は2人で朝から出かけるから」

「え……?」

「それじゃ、おやすみ~」

 そういって、ラテっちと2人揃って寝室へと向かっていった。

「……なぁパチ。最近、子どもたちの様子がおかしいと思わないか?」

「アナタね。『最近』って、今日と明日、2人で出かけるだけじゃない」

「今までこんなことなかったのに。いつも俺と一緒にいたのに……反抗期なのかなぁ」

「ボンズ、一言だけいい?」

「――なんだ」

「バッカじゃないの! おやすみ~」

「……二言だろ」


 次の日。

 いよいよ明日は爆弾魔と再び逢いまみえるのだが、チビッ子2人は「2人だけ」でおでかけするとのこと。

 すでにりゅうは部屋の扉でラテっちを待っている。

 ラテっちもおでかけの支度を終え、りゅうの後を追おうと歩き出した。

「ポテポテポテポテ……スカスカ――ありゃ?」

 ラテっちはいつの間にか足が地面から離れていることに気付く。

 ボンズがラテっちの両脇を後ろから抱えあげていたのだ。

「ねぇ、ラテっち。何してるかコッソリ教えてくれないかな」

 ラテっちは特に嫌だという感情を表しているわけでもなく、いつも通りのにこやかな表情のままでボンズの方へ振り向く。

 そして――

「えっちー」

 と云って掴まれていたボンズ手をスルリと抜けると、再びポテポテとりゅうの元へ向かい、2人で出かけて行った。

「云いたくないことに対して『エッチ』か。いいわね。今度、私も使おうかしら」

「あんなことがあったばかりだから正直不安だが、2人一緒なら……まぁ、大丈夫だろう」

「あら、壱殿。アナタも随分と子どもたちに甘くなってきたわね」

「やかましい。ニヤニヤと笑うな! ボンズもなんとかいったらどうだ! おい、ボンズ。聞いておるのか! ……ボンズ?」


 2人が会話に夢中になっている内に、ボンズは部屋の四隅の角で壁に向かって体育座りしながら石を投げ続けていた。

 壁に当たった石を拾い、また石を投げる。その行為を繰り返しいている。ボソボソと独り言を云いながら。


『…………何?』


 パチと壱殿がボンズの異様な姿と周りを覆う黒いもやを見て、瞬時に後ろずさった。

 はっきりいって、薄気味悪い。

「嫌われた……ねえダニエルさん。俺、嫌われたよね?」

「……誰よ、ダニエルって」

 意味不明なボンズの言葉にパチが堪らず質問するも、ボンズの耳には届いていない。

 そう、ボンズは投げていた「石」に向かって話しかけ始めていた。

「ダニエルさん。俺と……友達になってくれないか?」

「ボンズ……イジけ方がキモ過ぎるわよ」

「ダメ? そうだよね。ダメだよね」

 ボンズはダニエルさん(石)を床に置き、叩き潰した。

「ダニエルさーん!」

 パチ、思わず叫んでしまう。

「もう、俺なんて死ねばいいんだ……縄がいいかな? 崖もいいな……うふふふ――うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」


『娘はまだ嫁にいっていないぞー!!』


 2人の呼びかけにも全く反応せず、己の世界にひきこもるボンズ。

「ダメだわ。しばらく放っておきましょう」

「……それがいい。あれは声をかけるだけ無駄のようだ」


 1人別世界へ飛行しているボンズを余所に、パチはおもむろに食卓テーブルの椅子に腰をかける。

 そして、壱殿に向かい側の椅子に座ってもらうよう促した。

 2人が椅子に腰をかけたのを合図に、とある疑問について論議の口火を切った。

「ところで壱殿。この機会に1つ聞いておきたいことことがあるの。いいかな?」

「なんだ。急に改まって」

 互いが向かい合わせに座りながらパチが話を続けた。

「あの時……小屋で見せたボンズの姿――全く見えないほどの凄い速さで攻撃していたでしょ。あれが壱殿の云っていた『ボンズの才能』なの?」

 パチの質問に、数秒言葉を詰まらせる壱殿。

 タバコを咥え、火を付け、一呼吸する。

 煙を吐きながら、問いかけに答えた。

「……まさか。あれは全くの別物だった。ボンズの、あのような姿など想像もしていなかったよ」

「つまり、『予想外』の出来事だったわけ?」

「ボンズの強さの本質はもっと別のところにある。それに気付いた時でさえアイツは現状より遥かに強くなるというのに……開けてはいけない箱を開けてしまった気分だったよ」

「それじゃ、あの時のボンズは一体……」

「心当たりはあるがな……ただ」

「ただ?」

「いや、聞き流してくれ。無用な期待をさせるのも忍びない。それに、使いこなせる代物ではないかもしれん。少なくとも、今のボンズではな」


「うふふふふふふ」


「あの姿を見て、何かを期待できる人がいたら逆に尊敬するわ」

「……そうだな。それとな、パチ。明後日にあの爆弾魔と戦うのであれば、これを機に【人和レンホー】を覚えてみないか?」


人和レンホー

 転生前の回復・支援系(ナン)で最高峰の符術であり、その能力は多数の目標の動きを術者の思うがまま、人形のように操ることができる。

 焔慧眼えんねがんと効力は似ているが、(ペー)の代表的能力ともいえる能力は身体の能力を完全に操る。

 操られたプレイヤーは行動はは勿論、スキルの発動すら焔慧眼えんねがんの持ち主に操られ、最悪の場合は呼吸すら己の意志で行うことができなくなるほど自由を奪われるのだ。

 それに対し【人和(レンホー)】は、操られた対象物の「行動」のみを操るため、プレイヤーが念じ口頭で発声することにより発動するスキルや符術に抑制する権限を持たない。

 しかし、物理攻撃などに関しては「身体を動かす」ことを術者に操られるため、実質上不可となっている。

 さらに、術を操る術者のレベルに比例して操る対象の数も増大する。

 いわば「行動抑制スキル」だ。


「でも、壱殿のガンがあるでじゃない。あの能力のおかげで今回も助かったわけだし、敵の動きを制約する能力なんてこれ以上必要あるの?」

「ワシの能力は時間操作が主力であって、本来の焔慧眼えんねがんの能力である『ばく』はむしろ苦手な部類に入る。その証拠に本来の『縛』なら複数の相手に対しても有効だが、ワシの場合はせいぜい1人か、多くても2人程度しか抑制できん」

「へぇ、そうだったんだ。なるほどね」

「それにしても、両眼を手に入れた時には想像もつかなかった。ボンズのような『予想外』の人物と出会い、共に行動するようになるとは思いもよらなかったよ」

「――手に入れた?」

 パチの問いに視線を逸らす壱殿。

「い……いや、なんでもない。それより話を戻すが、『縛』の能力のように『複数の対象に対して完全に能力を抑制するスキル』に代わる『複数の対象の行動を制限する能力』が今後必要になるはずだ。それに、ワシの時間操作能力とコンボを組めるようになれば、今後の展開はかなり有利に働くだろう。無論、爆弾魔と戦う時もな。それに、あの符術なら範囲無視などさほど関係はないだろう」

 この時、パチはなにも問いただそうとはしなかった。

 口を滑らせた壱殿の台詞自体が、まるで発せられてすらいなかったかのように振る舞う。

「わかったわ。でも【人和レンホー】を習得するのにまだレベルが足りないから手伝ってね」

「あぁ、勿論だ。だが、ボンズの力も必要だ。レベル上げには前衛がいないと話にならん」

「……アレ、使えるの?」

 パチがボンズの方を振り向きもせずに指さす。

「うふふふふふ」

「…………少し考えさせてくれ」

「うふふふふ」


『いい加減にしろ!!』




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