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 番外編 「夢オチ、ラテっち王国。第2話 あたふた編」

この話は、第二十五話「夢落」の世界。「ラテっち王国」へボンズが再び訪れたお話です。読みずら箇所が多々あると思いますが、よろしければ読んで頂き、楽しんでいただければ幸いです。

 

 気が付いた時、ボンズは霧に包まれた森に1人で立っていた。

「あれ……おかしいな。たしか、宿で寝ていたはずなのに」

 そう云いながら、とりあえず身体が向いていた方角へと足を運んでいく。

 深い霧の中にもかかわらず、なんとなく正面に向かって歩き出したい気分だった。

 なぜだろう。霧でこんなに視界が閉ざされては不安になるはずなのに、少しも動じない。

 それどころか懐かしくすら感じる。

 そして、そのまま歩いて行くと先で見覚えのある橋を発見し、迷うことなく渡っていく。

 更に先に進むと、これまた見覚えのある小さなお城が姿を見せた。

 そう。ここは「ラテっち王国」。

 色とりどりの帽子をかぶった、たくさんのラテっちたちが住んでいる小国だ。


「と、いうことは……これは夢だな」

 眠りについた途端、夢の世界に迷い込んだらしい。

 どうりで懐かしいと思うはずだ。せっかくなので、久々にお城に入らせてもらうとしよう。


 ボンズがお城に入ると、なにやら騒々しい。

 以前は裁判中にもかかわらず妖精の国にでも来たかのような穏やかで静かな雰囲気だった。

 それなのに、この雰囲気はどうだ。

 城内では10人ほどのラテっちが走り回りながら叫んでいるではないか。

 桜色の帽子――つまり、「いつものラテっち」までポテポテと走り回っている。

 確かこの国の王様だったはずなのに、いったい何を慌てているんだ。


「むほんじゃ~!!」


「……謀反?」

 他の色とりどりの帽子をかぶったラテっちたちも『むほんじゃ~!!』と叫んでいる。

 叫んでいるといっても、可愛らしい声のラテっちが表情を変えずに大きな声をあげているため、緊迫感はまったく感じない。

『むほんじゃ~!!』

 でも、みんなしてそんなに連呼していると流石に気になるな。

 緊迫感は余所において、ラテっちが慌てる様子で大きな声をあげることは結構珍しいことだ。

 楽しいことや嬉しいことでは元気よく大きな声をだしてくれるけどね。

 それはさておき、みんなで大声をあげているなんて何があったのだろう。

 あ……謀反か。

 でも、この国で? そんなことがあるのか?

 ボンズは城内を改めて見回し様子を探る。

 すると、王様専用の椅子には前回この国に来た時、裁判にかけられていた黒帽ラテっちが「ドヤッ」と云わんばかりに座っているではないか。

「あれって、まさか……」

「そうなんでちゅ」

 なんと、黒帽ラテっちが王国を乗っ取っていたのだ。

おうしゃま(王様)が『ずっと』なわ()つる(吊る)されていたから、そのあいだにむほんがおきまちた」

「ずっとって……数時間だろ」

「うにゃ、なんでちょうね。いっかげちゅ(一か月)たった(経った)ような()がちまちゅ」

「そういうことをいうんじゃありません。物語の中だけの時間の話をしなさい」

「でもね、どうちたらいいかわからないんでちゅ。こくみん(国民)はんぶん(半分)にわかれまちた。このままではたいへんなことになりまちゅ」


 半分――

 ラテっち王国の国民は、いつものラテっちが国王だったころの「前国王派」と、黒帽ラテっち率いる「現国王派」に分かれていた。

 現国王派のラテっちたちは、黒帽ラテっちを挟むように向かい合わせで立ち並んでいる。

 まるで、現国王の進む道を作っているかのように、左右5人ずつが整列していた。

 そして、前国王――つまり、いつものラテっちと一緒にあたふたと走り回るラテっちたち。

 数にして、だいたい10対10といったところか。

 それにしても、色とりどりの帽子が縦横無尽に走り回る姿はまさにお遊戯会だな。

 ――いや、待てよ。

「ところで、りゅうはどうした? 以前来た時にはこの国の隊長をしていて、最後には次の王様になったはずだろ」

ちゅぎょう(修行)たび()にでていまちゅ。それで、またわたちがおうしゃま(王様)になったのでちゅが……」

「あらま、これまたタイミングが悪い」


「うーん」

 ボンズは頭をかきながら、整列している現国王派のラテっちたちの間を通り、玉座の前まで歩み寄る。

「ねぇ、黒帽ラテっち。王様の椅子を返してあげようよ」

 すると――

「やーよ。わたちはおうしゃまがいいでちゅ」

「でも、みんなで仲良くしないとダメだろ。このままじゃ、国民が半分に分かれてケンカしちゃうかもしれないじゃないか」

「わたちがあたらちい(新しい)おうしゃま(王様)なんでちゅ。ラテっちおう()。んにゃ、さくら()ラテっちよ。このくに()はもうわたちのものでちゅよ」

「しょんにゃ~」

「おやつのおへやもせんりょー(占領)ちまちた。わたちのいうことをきかないと、おやつぬきでちゅ」

 なんか、黒帽ラテっちはいつものラテっちよりイジワルなのかな。

 それにしても、おやつぬきか……ふーん。


 ボンズは数分悩んだ後、目の前であたふた走り回っている白帽ラテっちに声をかけた。

「ねぇねぇ、この国に噴水なんてあるかな? アイテム……はないだろうけど」

「ふんちゅい? おみずがでるのなら、おにわ()にありまちゅ。でも、『プシャー』っておみずはでないでちゅよ」

「うん。その方がいいんだ。そこまで案内してくれないか」

「んにゅ? よくわかりまちぇんが、いいでちゅよ」

 案内してもらって外へ出ると、庭にとても小さく大理石のような石造りの噴水があった。

 静かに、溢れるように流れる水はとても綺麗で、噴水自体も全く汚れていない。

 ボンズがこの噴水を見て綺麗だった他に「よかった」と思ったことは、公園や池にある様な大きいものではなかったことである。

 その気になれば成人男性が1人で持ち運びが出来るほどの小さい円形の水受けを土台とした噴水だ。

 水が出る突起した噴水射出部分も小さな塔のような形をしており、それを持ち上げてみると容易に取り外しが可能な仕組みになっていた。

 中を覗くと、噴水の高低差による位置エネルギーを利用して水を噴き出す仕組みではなく、おもちゃのようなモーターと循環ポンプによる圧力で水を押し上げて、これまたおもちゃのようなスクリューで水を螺旋状に汲み上げ、塔の頂上で緩やかに水を流す簡易的な構造だった。


 ――これは使えるな。


「おそとにでるときは、のみみじゅ(飲み水)としてもつかってまちゅよ」

「よし、それなら……」

 ボンズは水を止めると、まず綺麗な噴水の内外をより綺麗にするために洗いはじめた。

 そして、噴水全体をビニールハウスで包み込む。

 更に噴水をもう一度熱湯で洗い、清潔な布で水気を拭き取る。

 ビニールで熱を逃がさないように気を付けながら何度も熱湯をかけ、その度に綺麗に拭き取る。

 そして、噴水自体を人肌ぐらいの温度にまで温め続ける。

「こんなもんでいいだろう。ここからは時間との勝負だな」

 ボンズは温められた噴水に大急ぎでバターを塗り始めた。

「なにをちているのでちゅか?」

「秘密。もう少しだから、楽しみに待ってな」


 次に噴水を囲うようにテーブルを用意し、その上にたくさんのお皿を並べる。

 皿は複数あり、バナナやキュウイ、イチゴなどの果物が乗っている。

 他には、パンやマシュマロ。 

 クッキーにポテチも用意した。

「おいしそー」

 お皿に乗っているクッキーを食べようと青帽ラテっちがテーブルまで近付き、手を伸ばす。

「まだダーメ」

 ボンズに止められて、ちょっとだけブンむくれた。

「なんでー!」

「あと、もうちょっとだけ待ちなさい」

「ぶー!」

「その分、後でビックリさせてやるからな」


 今度は、あらかじめ(いつの間にか)用意しておいた生クリームと牛乳を混ぜている溶かしたチョコを噴水の内部に流し込む。

 スクリューはあるけど、水のようには組み上げられないだろう。

 多少は詰まってしまうかもしれない。でも、流れ出てくれればそれでいい。

 それに組み上げられなくなったとしても、チョコを桶のようなものを使い手作業でくみ取ることもできる。

 チョット大変だけどこの際仕方ない。

 なにせ、この内乱を止めるには短期決戦しかない。


 ――ここは、見た目と斬新さで勝負だ。


 全ての作業は終わった。

「さぁみんな。集まってくれ」

 ボンズの呼びかけに、いつものラテっちを始めとした前国王派閥のラテっちたちが、走り回るのをやめて噴水の周りに集まってくる。

 現国王派閥のラテっちたちは、黒帽ラテっちの傍から離れようとしない。

 さて、いつまでそうしていられるかな。


「――さぁ、お披露目だ! 即席の『チョコレートファウンテン』の出来上がり!!」


 ボンズのかけ声と共に、噴水から液状になったチョコが小さな滝のように溢れ出した。

『しゅっげーー!!』

 その光景に、前国王派閥のラテっちたちはみんなで大喜びしながらチョコレートファウンテンと化したの噴水のすぐ傍まで寄ってくる。

 さらに現国王派閥のラテっちたちも、すでに半数がこちらへと向かっていた。


「ぼんず。これチョコなの?? ほんとにチョコなの??」

 桜帽子をかぶった「いつものラテっち」が喜びながらも半信半疑に聞いてきたので、味見用のスプーンを手渡した。

「舐めてみな」

 ラテっちは、噴水から流れる見たこともない液状のチョコをスプーンですくい、口へと運んだ。


「チョコじゃ~!!」


 それが号令となり、みんながボンズに近付いてきた。

『スプーン! スプーンちょーだい!』

 だがボンズはスプーンではなく、順番にフォークを手渡していく。

「いいか。お皿にのっているものをフォークで刺して、それからチョコを付けて食べるんだ」

「さす? つける?」

 よくわかっていないようなので、お手本を見せることにした。

 ボンズはパンをフォークに刺し、流れるチョコに浸す。

 それをまた「いつものラテっち」に手渡し、頬張った。

 食べ終えた瞬間――

「うみゃぁぁぁい!!」

 バンザイをしながら歓喜の声を上げる前国王の姿に、周りにいたラテっちたちはフォークを片手にテーブルまでそれぞれ駆け回った。

「それじゃ、みんなで仲良く食べるんだぞ」

『はーい!!』

 各々、好きな物をフォークに刺していく。

「わたち、バナナつけりゅ」

「わたちはクッキー」

 中には、フォークではなくスプーンを手に取り、流れるチョコレートだけを食べるラテっちまでいる。

「ホカホカのトロトロでちゅ~!」

 すると、噴水まで案内してくれた白帽ラテっちがポテチを見ながら不思議そうな顔をして尋ねてきた。

「ねぇねぇ、しょっぱいのにチョコにつけりゅの?」

「ふふ。つけてみな」

 恐る恐るポテチをチョコにつけ、それを口にする白帽ラテっち。

「ポテチうまーー!」

 それを見て、残っていた現国王派閥のラテっちたちも次々に集まって来た。

「わたちもー」

「なかまにいれてー!」

 次々とチョレートファウンテンに集まりだす。

 そしてついに、その場にいないのは現国王の黒帽ラテっちだけになってしまった。

 横を向きながら独りで王様の椅子に座っている。

 一見冷静を保っているようにも見える。

 だが。

 ――チラッ。

 見ている。メッチャ気になっている。

 そうだよ。どんな色の帽子をかぶっているとはいえ、ラテっちがコレに興味を示さないわけがない。

「ほら、おいで」

「プン!」

「あらら」

 ボンズが声をかけるもソッポを向く。

 しかし、強がっているものの。

 ……チラッ。

 やっぱり見ている。


 ボンズはスポンジケーキを刺したフォークを黒帽ラテっちのところまで持っていった。

「ねぇ、ラテっち。こっちむーいて。はーずかしがらーなーいでー。モッジモッジしなーいーでー」

 横目でしか見ていなかった黒帽ラテっちはボンズの歌に耳を傾け、正面を向いてくれる。

「……なんでちゅか」

「ケンカをする子にはあげられないけどね、仲直りをするいい子にはおいしいおやつが待っています。――仲直りしよ」

「…………うん」

 黒帽ラテっちは小さく頷いた。

「よし、いい子だ。さあ、みんなと一緒に食べよう」

 そう云ってボンズはフォークを黒帽ラテっちに手渡した。

「うん!!」


 そして、黒帽ラテっちが前国王――いつものラテっちの方へと早足で近付いて行った。

「イジワルしちゃって、ごめんなちゃい」

「いいんでちゅよ。みんな、なかよしでちゅ!」

「うちゅ!」

「よし。それじゃ、2人とも仲直りの握手だ」

 ボンズのかけ声と共に、握手を交わす桜と黒の帽子のラテっち。

『わーい!! なっかなおり~!!』


 よかった。どうにか仲直りできたようだ。

 国民全員が喜んでチョコレートファウンテンに集合する。

「これで一件落着だな」

 ラテっち王国の危機は去った。

 だが――

「噴水の掃除……めんどくさいな」


 ボンズが心配している内に、意識が遠くなっていくのを感じた。

「――あれ?」

 気が付くと、そこは泊まっていた宿屋のベット。

「夢から覚めたか……」

 ボンズはゆっくりと身体を起こすと、隣でラテっちがにこやかな顔をして寝ていた。

「ふふっ」

 ボンズはラテっちの頭を優しく撫で、起こさないよう静かに布団をかけ直そうとした。

 すると――

 布団の中で、ラテっちの右手にフォークが握られていた。

「…………うそ」


「むにゃ……チョコケーキさいこ~でちゅ」



よろしければ、感想・評価・ご指摘などを頂戴できれば嬉しい限りです。

次回もどうぞ読んで頂ければ幸いです。

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