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第三十八話 会議

 

「待て! 『生き残ったヤツらも全てオレが殺してやる』だなんて、どうかしているぞ!」

 対峙することで爆弾魔の凶暴性と異常性を目の当たりにしてしまったボンズ。

 だが、爆弾魔はボンズの制止に耳を傾けることはなく、笑みを浮かべながら掌に爆弾を生成していく。

 西(シャー)(ナン)の能力の1つ――遠隔操作可能の【ドラ爆弾】を。

「異様な存在だろ、オレは。ククッ」

 唖然とするボンズ。ただ、彼を見つめることしかできないでいた。

「そうそう、それが堪らないんだ。その異様な存在を見てしまったといわんばかりの顔がよ。楽しいなぁオイ」

 見つめることしかできない……いや、違うだろ。


「――君はそのままでもいいのか?」


 絞るように発したボンズの声に、笑みを消し反応を示す爆弾魔。

「お前……何が云いたい」

PK(プレイヤー・キラー)なんかしていたら……このまままでは君は独りぼっちになるじゃないか。そうなったら、この世界でどうしていくつもりなんだ!」

「――別に」

「別に……て、どうして」

「『これから』なんて先のことなど、オレにはいらない。どうなろうと、構わないさ」

「そんな……」

 彼が何を考えているのかわからない。

 孤独を――消滅を恐れていないのか。

 一瞬、初めて壱殿と出会った時のことを思い出す。独りを好んでいた彼の行動を。

 だが、仲間を救うために敢えて独りになることを選んだ壱殿とは明らかに異なる。

 他者だけでなく、自己の消滅をも楽しむという無謀な考えを持った異質な存在だ。

 それに――以前、組織的なPK(プレイヤー・キラー)の存在を懸念していたが、彼の場合は関係ないとすぐに理解できた。

 何故なら「組織」というものは人間の集合体。プレイヤーとの交わりを完全に拒絶している彼が属しているとは思えなかったからだ。

 いや、今はそんなことどうでもいい。

 ボンズはそんな彼に再び説いかける。

 ――自己の経験を。

「なぁ、そんなこと云うなよ。俺はこの世界に来て知ったんだ。仲間ってのも、いいもんだぜ。君は寂しくないのか? 君は今、仲間はいないのか?」

 すると、爆弾魔は高笑いをしながら――

「流石は偽善者! 云うことが綺麗でいいな。オレにはとても真似できん台詞を吐くヤツだ。仲間? そんなもんオレの周りにはいないし、なにより、いらねえよ」

 笑われながらも真剣に説得し続けるボンズ。

 何故こんなに彼を説得するのか己自身にもわからないのに。

 何故か、彼を放っておけなかった。

「そんなことはない! 君だってわかっているはず……」

 しかし、ボンズの話の最中に爆弾魔はウンザリした表情で怒鳴りつけた。

「ゴチャゴチャうるせぇんだよ! くだなねぇ説教なんぞ聞きたくねぇ!」

「それじゃ、君は消滅してもいいというんだな」

「あぁ、勿論だ。消滅する前に何もかもオレの爆弾で……」


 ――ん? 


 爆弾魔は、台詞を云い終える前に突如止まってしまった。台詞も、行動も。不敵な笑みさえも。

 なんだ? どうしたんだ?

「お前ら……何をしている」

「お前ら? あっ……」

 気が付くと、爆弾魔の前でりゅうとラテっち、それにパチが輪になってしゃがみ込み井戸端会議を始めていた。

 何やら話し合っているようだ。いや、それよりもいつの間にそこに移動したんだ?


「『おれのあとには、にゃに()ものこらない』でちゅね!」

「違うわよラテっち。次の台詞は『オレだけじゃない。この世の全てをも消滅してやる』で決まりよ。厨2臭さ全開だもの、あの人」

「『オレ、スーパーすげー!』じゃないのかな? ボンズより夢見ていそうだぞ」

「アハハッ! りゅう、それ最高!」


 突然目の前で井戸端会議をされ、さらには己のことを罵られた爆弾魔が顔を真っ赤に変え、身体を小刻みに震えわせている。

 侮辱された怒りか……それとも図星だったのか。

 それにしても、俺を比較の対象にするってどういうこと? 

 いや、確かに爆弾魔が「消滅してやる」って云うかなとは思ったよ。でも、そんな云い方はないんじゃない。

 今日の晩ご飯、りゅうのおかずを一品減らそうかな。


「コイツら……つい先ほどまであんなことがあったというのに、もう平常通りに振舞っている。破天荒な性格なのか、それともすぐに切り替えられる強さを兼ね備えているのか……不思議なものだな……」

 後ろにいた壱殿の台詞を聞いて、云っている意味が理解できないボンズ。

「あんなことって?」

 振り返り問いかけると、壱殿は少し驚いた表情を見せた。

「――貴様、やはり覚えていないのか?」

「やはり? 何のこと?」

「……いや、なんでもない」


「もういい! 誰かれ構わず吹き飛ばしてやるぜ!!」

 その場の雰囲気にしびれを切らせたか、とりあえず頭に来たのか、爆弾魔が吠えたてた。

 彼から発せられた怒りの台詞。

 それを聞いた3人は――

「誰かれ」

「構わず……ね」

「パチ。いつものー」

 ラテっち。「いつもの」って何?

 パチは錫丈を振りかざす。そして――

『【十三不塔シーサンプトウ】』

 符術を発動させ、13本の石柱が爆弾魔の眼の前に出現する。

 巨大な石柱は宙から降り注ぎ、大地から突き上がるも爆弾魔にはかすりもしない。

 代わりに、またラテっちが……今度はりゅうも一緒に【十三不塔シーサンプトウ】に巻き込まれ、突き上げられた石柱によって宙高く吹き飛ばされてしまった。

『うっきゃーー!!』

 でも、なぜか楽しそう。

「ウッソだーーーーー!!?」

 俗にいう、「目ん玉飛び出して驚く」という表現を忠実に再現する爆弾魔。

 ……無理もないか。


「おいボンズ。子どもたちが巻き込まれたけど平気なのか?」

「喜んでいるみたいだし大丈夫だろ」

「いや、貴様がだよ」

「俺? まぁ、パチのアレを喰らうのは2回目だしな。もう免疫ができたよ」

「そうか。成長したな」

「成長って……なんか、大袈裟じゃないか?」


「(……やはり、先程のことは無意識だったのだか)」


 地面から突き出した石柱により空高く吹き飛ばされたチビッ子たち。

 だが、空中でラテっちが空飛ぶタタミを出し、まるで何事もなかったかのように浮遊しながら戻ってきた。

 その光景を見つめながら――

「それにしても、おもしろいやつらだ。先程まで張り詰めていた空気がチビッ子たちやパチのおかげで一瞬にして変わってしまった。これも才能なのか……見てて飽きんよ」

「やはり、おもしろいのかな……このパーティー」

 壱殿の言葉を聞いてチョット複雑な感情が芽生える。

 だが、もっと複雑な感情を持ってしまった方が目の前で立ち尽くしていた。

 そう、一般人なら有り得ない現象に口を開いたまま固まる爆弾魔。

 己は異様な存在だと思っていただろうが、唖然としている時点で、例えPK(プレイヤー・キラー)でも常識の範囲にいることを証明してしまっていた。

 その場で固まる爆弾魔に対し、パチは腕を組みながら鼻を鳴らす。

「フッ、アナタ程度で『PK』を名乗るなど笑わせてくれるわね。所詮アナタは狙った相手にしか攻撃できない半人前。私なんて、狙わなくても誰にだって攻撃できちゃうのよ!!」

「そんなバカなっ!!?」

 驚く爆弾魔を尻目に――

「……おい、保護者。突っ込めよ」

「俺はあんな成人女性の保護者になった覚えはない。壱殿が突っ込んでよ」

「嫌だ。ワシは疲れているんだ」

「俺だって嫌だよ」


「参ったぜ……完敗だ。こんな凄いヤツがいるなんて……」


『いやいやいやいやいやいや!!』

 壱殿と揃って首と手首を同時に振り続ける。

 彼は何かを大きく勘違いしているようだ。

 いや、確かに凄いよ。

 でも「凄い」のベクトルは明らかに違うよね。


「凄いことは認めよう。だが、まだ負けたわけじゃねぇ! リターンマッチを要求する! 3日後にまたこの場所で決闘だ! 1対1で勝負しろ!」

 爆弾魔の提案に、変わらず腕を組んだまま見下すパチ。

「こんな『か弱い女性』とタイマン張ろうとしている時点で半人前なのよ! 勝負してほしかったら、それなりの態度を示しなさい。この青二才が!」

「かっくいいぞ、パチ」

「おお~! いかすじぇー」

 惜しみない拍手を送るチビッ子コンビ。

「おほほっ、子どもたちは素直でいいわね」

 3人のやりとりを呆れながら見守る残り2人。勿論、俺と壱殿だ。

「か弱い女性は『タイマン』などとは云わないけどね」

「いや、そんなことよりボンズよ。パチのやつ、完全に回復役だということを忘れてはおらんか?」

「そもそも、アイツと初めて出会ってからまともな回復を受けたことは1度もないよ」


「――どうすれば、勝負してくれる?」


 えっ? 本当に勝負を申し込むの?

 あとさ、ついでになぜ「3日後」なの?

 根に持つタイプなのか、はたまた彼も思考というかプライドのベクトルが少し曲がっているタイプなのか、ともかく再度パチに勝負を持ちかけてきた。

 その様子に、なんとも「らしい」対応をするパチ。

「『お願いします』は? 人に頼みごとをする時は頭を下げながらお願いするんじゃないの? ほうら、云ってごらんなさい。お・ね・が・い・し・ま・すってね」

「……だれが……だれが、そんなことを云うかよ! ふざけるな!」

「なら、帰る? 負け犬君」

「ま……負け……」

「私は別に構わないわよ。キャンキャン吠えながら立ち去りなさい。――ねぇ、ワンちゃん」


「どうしよう壱殿。パチのやつ、ついにPKを『ワンちゃん』呼ばわりしだしたよ」

「どうでもいいが、パチは口を開くたびに好感度を下げるな」

 パッと見た姿は結構美人なだけに、残念で仕方ない。

 神は二物を与えないと云うが、もう少し分け与えてあげてもよかったろうに。

「くっ……お、お願いします……」

『あ、お願いしちゃったよ……』

「やっちゃった」――と、思わずにはいられないボンズと壱殿。

 憐れみの眼差しで見つめる中、爆弾魔とパチの会話は続いていってしまった。

「え? なに? 全然聞こえない。男ならもっと大きな声でハッキリと喋りなさい!」

 手を耳元に当て、聞き返すパチ。

 その姿がまたなんとも嫌味というか、見ているだけで癇に障る。

 まさに残念美人の真骨頂だ。

「お願いします!」

「まだまだ! もう一丁!!」

「お願いします!! 勝負して下さい!!」

「よくできました! いい子ね~。ほら、お手」


「――コロシマース!!」


 その様子を呆れることすら通り越した生温かい目で見守っている成人男性コンビ。

「アイツ、壊れ出したぞ」

「可哀想に……パチとまともにかかわるから」

「ところでボンズよ。1つ相談なのだが……」

 壱殿が耳打ちしだす。

「……本気?」

「あぁ、本気だ。良い案だと思わんか?」

「実はいうとさ、俺も同じことを考えていたんだ。でも、あの様子で上手くいくのかな……」

「物は試しだ。やってみろ」


 今まで別空間にでもいたかのように遠く見守っていたボンズは暴れる爆弾魔のところまで歩み寄る。

「ちょっといいかな?」

「――なんだ。またおかしなことを云い出したら殺すぞ。本当だぞ」

 普段なら知らない人に話しかけることなどできないボンズだったが、パチにイジり尽くされた彼に親近感を覚えたのか、自然に話しかけることができた。

 それに「本当だぞ」って、子どもか。

「ところで、君はもうギルドを組んでいるのか? さっきの話から察するに独りだと思ったんだけど」

「ギルドだと? PKにそんなもん必要ないだろ」

「それじゃ、今まではどうしていたんだ? 仲間がいなければこれまで生き残れなかっただろ」

「あぁ、『仮』のパーティーは組んでいた。だが、もう飽きた。独りで行動できるとわかった時に全員吹き飛ばしてやったよ」

 ……凄いことを平然と口にする人だな。それでも――

「でもさ、さっきもいったけど、このままだと君まで消滅してしまうじゃないか」

「自己の消滅を恐れて、他人を消すことなど出来ると思うのか? オレは何もかも吹き飛ばしたい。己も、他人も、この世界も全てだ」

 やっぱり、「この世の全てをも消滅してやる」とかいうんだろうな。3人の予想通りじゃないか。

 いや、それを云うのはやめよう。絶対に逆上する。

 それよりも――だ。

「――だったら3日後の勝負で、もし君が負けたら俺たちの仲間になってくれないか」

 ボンズの台詞に一瞬驚きを見せるも、すぐに平静を装う爆弾魔。

「はぁ? ふざけんなよ! なぜこのオレがギルドなどに入らなければならない。人の話を聞いていたのか?」

「何もかも吹き飛ばしたいんだろ? 俺たちと一緒にならどうだ? だが、他のプレイヤーに対しての攻撃は禁止するけどな。魔物や、これから出会う『消滅を目論む敵』を、一緒に吹き飛ばしてほしいんだ」

「それなら、なおさら入らん。お手々つないで仲良しゴッコでもしろってか? 虫酸が走るんだよ」

 ボンズの提案を拒絶し続ける爆弾魔。

 そこへ、再びパチが乱入する。

「そうよねぇ。負けることが既に確定しているのだもの。ボンズ、その交渉は可哀想よ」

「か……可哀想?」

「惨めよねぇ。負けるのわかっている上に条件を突き付けられたら、逃げ出したくもなるわ。わかるわよ~その気持ち」

「やぁぁってやるぜーーーーー!!」

 勢い余って承諾してしまう爆弾魔。今回だけはいい仕事をしたぞ、パチ。

「無理しなくてもいいのよ。どうせ無駄なことなんだから。だってワンちゃんだものね」

「3日後な。場所はここでいいんだな! 絶対逃げんなよ!! 本気、マジ本気で殺すからな! いなかったら、オレ本気で何するか自分でもわからねぇぞ!!」

「はいはい。ほら、りゅうにラテっちも何か言ってあげなさい。あっかんべーでもしてあげたら?」

 パチはそう云いながらチビッ子2人の頭を撫でる。

『ラジャ!』

 りゅうとラテっちはパチに敬礼すると、爆弾魔を背にし、後ろの方へと体の向きを移す。

 2人はそのまま小さなお尻を突き出しながら顔だけ爆弾魔の方へ振り向き、満面の笑みでウインク。


『かわいーでしょっ!!』


「しらねーーよっ!! 一言も褒めてねーよ! いや、オレなんにもしていないよ! あっかんべーはどこいった!」

「あら、可愛いじゃない」

「馬鹿にするのかしないのかハッキリしろよ!! 特に金髪。お前、さっきまでシリアスなこと口走っていたばかりでそれか!」

「かわいいだろ」

「それはもういい!!」

「わかったわよ。もういいわ。ほら、とっとと行きなさい」

 パチは手を払いのけながらソッポを向く始末。

 正直、彼を見ているとどんどん可哀想になっていく。

 そして、背中を丸めながら去りゆく爆弾魔。意外と素直だ。

 それに、りゅうのことを云っておきながら、自分だってシリアスとのギャップが激しいくせに。

「また遊んでくれよな!」

「またね~ばいばい~」

「早く去りなさい半人前」

「クソッ、覚えてろよ!」


 その姿に、思わず壱殿と言葉を重ねてしまう。


『……また変なのが出てきたな』





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