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第三十話 苦悩

保存していたデータが消えてしまって泣きました……

でも久々に更新できました。よろしければ読んでください。

 

 ボンズたちはマンズの街に到着するまで、歩きながら今後について話し合っていた。

「屋台をどうするか」という話をしている最中に、最優先で決定しなければならない事に気付かされる一面を見せてしまい、壱殿も思わず呆れてしまう場面もあった。

 単純なことだ。「屋台のことよりも仲間を集めることに話し合うべきではないのか」という壱殿の言葉を聞くまで他の誰もが考えていなかったのだ。

 ただ、他の4人が仲間集めのことを全く考えていなかったわけではない。

 ボンズたちがとったクエスト達成の方法はあくまで「待ち」一辺倒だったため、自然と意識が屋台の方へと傾いていただけだった。

 話し合いの結果、仲間集めは「待つ」よりもクエスト期間内に歩きまわることに決定する。

 今回はあくまで運が良かった。たまたま壱殿が仲間の為に自ら離脱した場面に遭遇しただけにすぎない。

 これからも同じ方法で仲間を揃えられる保証など、どこにもないからだ。

 ならば、足掻こう。足掻いて歩き続けよう。

 マンズにいるよりも海を渡ってピンズに赴き、魔物と戦っている「ソロプレイヤー」もしくは「コンビ」で戦っているプレイヤーを見つけた方が良いと、皆の合意のもとで決まった。

 結果はどうなるかはわからないが、そのほうが俺たちらしいと――

 故に屋台は片付け、港へ赴くこととなる。

 焼き鳥の在庫も、既に底を尽きかけていたので丁度よいタイミングだったのかもしれない。


「子どもたちよ、出発準備はできたかな?」

 パチからの保護者的な発言。

 壱殿の加入したことで、ふとパチが仲間になった時のことを思い出す。

 新たな仲間を迎えた「今」を見ていると、パチがいつの間にか子どもたちとの仲を深めていることに改めて気付かされる。

 出会った時から溶け込んではいたが、その時以上に馴染んでいるからだ。

 遠慮のない性格が幸いしたのもあるが、己が逃げ出した時に子どもたちの支えになってくれていたのは雰囲気だけでも充分に伝わっていた。そして、己自身の支えにも。

 パチが仲間になって一か月も経っていないのに、もう随分と長く4人で一緒にいたと錯覚してしまう。

 それに、彼女のおかげでいつの間にか女性に対しての恐怖心も薄れていった。

 そう考えると、俺たちの中で重要なポジションにいるのは彼女なのかもしれない。

 ――ありがたいことだ。

「いいこと。出発準備ができたら、ボンズに私を敬うようにおねだりするのよ。私、最近目立っていないから」

『いえっさー!』

「よし。いい子たちだ」

 こういう発言さえしなければ、彼女の好感度はもっと上がるのだが、非常に残念だ。


 5人は早速、ピンズへと向かうために港へ向けて歩み出した。

 現在、クエスト期間はもう半分を過ぎようとしている。

 残りの期間内に、俺たちはクエストを達成できるのか――

 ボンズの足取りは重い。だが、クエストのことだけではない。

 今は他の悩みも合わさって、頭の中がいっぱいになっていた。

「――あのさ、壱殿。さっきは『なんとかなる』と強がってはみたもののさ、『ゲームの時以上に強くなる』だの、『才能を活かしきれていない』だの云われても、結局どうすればいいか見当もつかないよ。アドバイスとかあれば嬉しいんだけど……」

「あるわけないだろ。己自身で考えろ」

「はぁ……仲間集めに強くなれに、混乱してきた……訳がわからない」

 悩みながら肩を落とすボンズの姿に「仕方ない」と云いながら壱殿が語ってくれた。

「あのなボンズ。云えることがあるとすれば、『剣の遣い手』がいるとする。そのプレイヤーの戦闘は『構え』を見れば強さの違い――つまりこの世界で己を活かせているのかがわかる。なぜだかわかるか?」

「サッパリわかりません」

「……貴様、思考を巡らせているのか?」

「いや、何を云いたいかすらわからないから考えられる所にすら行き着いていないよ」

「まぁよい。続きを聞けば理解できるだろう」

「構えを見れば……だっけ?」

「そうだ。なぜならゲームではプレイヤーに構えなどない。ただ剣を振り回すエフェクトが出てくるだけだ。それを現実となったこの世界で『剣』というスキルをどのように使うかを理解し、それを行動に移せる実行力があるかどうかは初期動作である『構え』を見れば一目瞭然だ。どうだ? 前衛型の貴様にこの違いはわかるよな?」

「うーん、それはわかった。俺自身もそれは体験しているつもりだ」

 ボンズは<ディレクション・ポテンシャル>の世界に来た時に最も困惑したのは「戦闘」だった。だが、りゅうの修行やこれまでの経験により、なんとか現在のように「戦力」となることができたのである。

 その結果、ボンズの特化した「速度」を活かせる「構え」を身体が自然にとり、ステップをより円滑に行うことができるようになったからだ。

「それならば話は早い。この違いを出すことで自己を最大限に発揮するにはゲームのプレイヤーとしての強さと、ステータスを最大限に活かす個人の理解力と発想力が必要になる。身近に最高の『手本』がいるだろう」

 誰のことを云っているのかはすぐに理解した。

「ちょっと待ってくれ! 流石に相手を選んでくれないか? りゅうと比べないでくれよ」

「何故だ?」

「りゅうは【九蓮宝燈チューレンポトウ】の遣い手というだけでも凄いのに、りゅう自身の強さも壱殿の想像以上なんだぞ。俺なんか足元にも及ばないんだからな」

「確かにこのチビッ子の強さの底は知れん。だが、貴様との差はないと思うがな」

「――まさか」

「壱殿の云う通りだ。ボンズは強いんだから自信を持て」

「りゅう、前にも云ってくれたけど……俺って強いのか?」

「そうだぞ!」

「そうか~? それにしても、りゅうとの差か……うーん」

 果てしなく遠い存在と思っていただけに、ボンズの悩みは尽きることはない。更に迷走へと進んでいっている気がしてきた。

「それではもう1つだけ進言させてもらうとしよう。ボンズはレベルからして、このゲームを相当やりこんでいるだろう」

 ボンズは頷くだけで返答を済ました。ここで自慢げに話したら自宅警備員だということがばれてしまう恐れがあるからだ。

「そして、そうだな……例えばパチだ。貴様はこのゲームをやり込んでいたか?」

「いいえ。強いていうなれば『暇つぶし』程度よ。それがどうかしたの?」

「これはあくまでワシの推測にすぎないのだが、この世界では自身の理解力や発想力の他に『ゲームのやり込み度』が関係しているのではないかと思っている。極端な話だが、『ネットゲーム廃人』であればあるほど、この世界で本領を発揮している気がしてならんのだ」

「そんなバカな!」

 ボンズは壱殿の話に違和感を覚えた。

「そんな発想はしたことはなかった……でも、それなら、俺が実力を発揮できていないという話に矛盾するのではないのか?」

「そうだな。順を追ってはなすとな、以前のパーティーメンバーに格闘技経験者の(トン)のプレイヤーがいたのだ。そいつは幼いころから少林寺拳法を習い、現実では三段の実力者だったそうだ。しかし、この世界でその技量は全く発揮できなかった。現実世界の時よりも、そしてゲームのプレイヤーとしても実力以下だと嘆いていたよ」

「え? 現実で格闘技を習っていれば、それだけ正拳突きとか蹴りとか巧いと思っていた」

「型こそ綺麗ではあったが、スピードや威力は全くだ。だが、防御は巧かったぞ」

「どうして?」

「それが、先程述べた理解力だと考えている。現実でも『受け』の型を知っているからこそこの世界で応用できたのだろう。だが、攻撃に関してはその実力が発揮できない。その時は何故かはわからなかったが、ようやくわかってきたかもしれん」

 ボンズは息を呑む。いや、その場にいる全員が静かに壱殿の話に耳を傾けていた。

「そいつもパチと同様に『暇つぶし程度』にしか、このゲームをやってはいなかったのだ。だから攻撃に関してはレベルの高さ云々(うんぬん)もあるだろうが、やはり『やり込み度』に関係していると思う。この世界はいわば『仮想世界と現実世界の狭間』にいるようなものだ。だから、どちらにも当てはまるが、どちらにも当てはまらない矛盾が生じている。それ故、現実では有り得ないことがゲームの世界で出来るようになり、ゲームで遊んでいた頃にできたことが、今では出来なくなっている。今云ったことを念頭に置けば、パチのように暇つぶし程度しかゲームをやっていなかったプレイヤーが符術範囲を無視できるのは説明が付くのではないのか?」

「そうか――この世界は云わばGMゲームマスターが作ったオリジナルの世界。ゲームと、そしてこの世界と両方をその身に馴染ませているかどうか。片方だけではダメ……両方とも理解し、発揮できてこその世界――そういうことなのか?」 

「ややこしいかも知れんが、そういうことだ。故に、ボンズの実力は今が最高ではない。まだまだ底が深いはずだ」

「理解はしたけど納得はすぐにはできそうにないな……俺は確かにゲームをやり込んでいたけど、現実では喧嘩すらしたことはない。それなら、りゅうの強さの秘密はどうなる?」

「それは、『心』次第というやつだ。簡単に云えば『気構えの差』だろう。チビッ子の戦闘には迷いはない。恐ろしい程にな」

 それは知っていた。

 りゅうはなにより「純粋」だということを――

「それに比べてボンズは心のどこかでなんらかのブレーキがかかっているのだろう。何かを恐れるように……それが最大の原因ではないかとワシは思っている。おっと、それを外す方法はなんだとは聞くなよ。それは己自身でこれから見つけていくものなのだからな」

「わかったよ……ついでにさ、それならパチの符術範囲をどうにかする方法はあるのかな? どうすればいいかわかるか?」

「それはわからん。ワシは(ナン)ではないからな。それにこんな常識外れなプレイヤーなど見たことない。鍛えてどうこうなるものかすら、予想もつかん」

「そうだよな……まぁ、鍛える時間もない。クエスト優先でいこう」

「今はそうするのが良い。今後がなくては意味がないからな」

 やはり、彼とは似ているところがある。彼の言い回しが己と被るところがあるからだ。

「あのさ――」

 パチが話に割り込んできた。

「私のことなんてどうでもいいわよ。それより、まぁ2人して見事にわかりにくい話を長々と、ボンズは本当に無駄話が好きよね」

「無駄って……大切なことだろ。パチのことだって」

「私のことが……大切?」

「戦闘に関してね!」

「あっそう! それよりも、壱殿がアナタに云いたいことをちゃんと理解できた?」

「まぁ、自分なりには……」

「それなのに、解決方法が見つからないの?」

「どういう意味だよ」

「ボンズが心を閉ざしている内は、考えても無駄ってこと」

「はぁ? それは俺の性格のことを云っているのか? 今更何を……」

 壱殿の手前、対人恐怖症のボッチであることは強く云えない。だが、パチの発言も軽視できなかった。

「俺はずっと独りでいて、今こうして仲間と一緒にいるだけでも成長できたと思っている。それにイチャモンつけられたら堪らないよ!」

「ほら……勘違いしている」

「……え?」

「ボンズが『己自信』を信じていない内は、何をしたって無駄ってことよ! 壱殿はまだ仲間になってくれて日が浅いからそこまでわからなかっただけ。それを理解していないのは多分ボンズだけよ。もちろん、子どもたちも含めてね」

「…………」

 何も云えない。

 そこまでパチが考えてくれているなんて思っていなかった。

 それに、子どもたちも……そうなのか?


 ボンズはそれ以上パチに何も聞かず、パチもそれ以上何も語らなかった。

 せっかく己が成長できるヒントをもらったのに、それを直視することができなかった。

 己自身など、この世で最も信用できない存在だと思っていたことを見抜かれているなんて想像もしていなかったからだ。

 ボンズは苦し紛れに話題をそらすことにした。雰囲気を変えるためか、目を背けるためなのか……

「と、ところでさ、壱殿もやり込んでいたのか?」

「ん? ワシはしばらくゲームなどしていなかった。久々にログインした日がたまたま限定クエストだったというだけの話だ」

「それは災難だったな」

「いや、ワシは別に構わない」

「え?」

「ここにいれば退屈しないで済むと思っていた。結局は貴様たちと出会う前までは飽きていやのだがな。あの時、別にどうなっても構わないと云っただろう。だが、今は退屈しないで済みそうだ。だから、ワシはこの世界に来たことに後悔はない。貴様らとも出会えたことだしな」

「意外に恥ずかしい台詞をサラリと云うんだな」


「あとな、ボンズ。これは罵声ではないことだけ理解してくれ。最後に1つだけ云わせてもらうと、才能を活かしきれていないということは、貴様はレベルが高いだけでこの世界では不完全な存在だということなのだ」

「……不完全?」

「そう、完全ではない。現実世界で己を完全に引き出すことなど不可能に近い。だが、ここはゲームの世界だ。さっきも云ったが現実とゲームの狭間……いや、『混合した世界』と云ってもいい。つまり、ゲームの能力と己の能力を両方出せる世界でもあるのだ。現実世界で己の潜在能力を100%出すことなど不可能に近いことだが、この世界では充分に可能なのだ。それを忘れるな――あと、パチの言葉もな」

「……わかった。覚えておく」

 聞こえていたのか……

 そうだ。どうしたらよいかわからなくてアドバイスを求めておきながら、それに背を向けるのは失礼すぎる。

 俺自身が向かう方向をみんなが示してくれるのだから。

 それにしても深い台詞だ。伊達に焔慧眼えんねがんを両眼とも開眼させたプレイヤーだけのことはある。

 だが、俺は辿り着けるのか……壱殿のいう俺自身の100%まで。

 そして、パチの云う「己自身」を信じることができるのだろうか…… 


「へんちーん! シャー!!」

 ラテっちは両手を広げだす。なんとなく気合いの入ったポーズだが、意味は不明だ。

「わっ! 突然どうしたんだ」

「ボンズは変身できるのか? みせてくれよ!」

「りゅうまで何を云いだす? 何故そういう話になるんだ?」

「だって、完全体になるっていったじゃないか」

「『体』はいらない。それは俺が何かを取り込んで強くなるということなのか? できるわけないでしょ!」

「えー! つまんなーい!」 

「まったく、ぼんずにはがっかりでちゅ! きたい(期待)ちまちた」

 りゅうとラテっちはぶんむくれた。

「無茶振りするな!」

『ぶー、 ぶー!』

「2人揃って口をとがらせながらぶーぶー云うんじゃありません!」


「フッ、相変わらずのやりとりだな……。だが――驚きを隠すだけで精いっぱいだ。こんな不完全な状態でいるプレイヤーがここまでの高みに立っている。もしもこの世界でゲームと現実の両方の才能を開花させ完全に覚醒したら……そう考えただけで寒気がする。『不完全な強者』を始めとした『常識を破る女』と『底の知れない神具の遣い手』、そして『異能の遣い手』か。ワシは随分と面白い奴等の仲間になったものだな」


「ねぇ、ボンズ。クエストもいいけどさ、それよりも壱殿が仲間になってくれたお祝いをしようぜ」

「おいわいー」

 チビッ子たちからの発案。だが、壱殿は余程想定外のことだったのだろう。驚くというよりも思わず遠慮してしまう。

「いや……それは嬉しいことなのだが、時間がないのでは? 気にしなくてもよいのだぞ」

「たいせつなことでちゅ!」

「そうだぞ!」

「うーん。よし。子どもたちの云う通りだ。壱殿の加入にささやかながら祝いますか」

 すると、パチが話に割って入ってきた。

「ちょっと。私の時はお祝いなんてなかったけど?」

「祝う以前に、外にいたところに突然現れて、カレーを喰い漁っただろうが!」

 ボンズの台詞にとある疑問を抱く壱殿。その疑問を投げかけた。

「外でカレーだと? なんだ、宿屋の料理ではないのか?」

「ぼんずがつっくてくれたの~」

「ボンズの料理は美味いぞ!」


「ほう、貴様は料理を作るのか――おもしろい」

 それまで遠慮がちだった壱殿が笑みをこぼす。


 帽子を被っていても口元で理解できる不敵な笑みを――


気がつけば30話に入りました。小説は読んでも書いても、とても楽しいです。

これからも時間がある限り書いていきたいと思います。

よろしければ、感想・評価・ご指摘などを頂戴できれば嬉しい限りです。

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