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第二十五話 夢落

 

「ここは……どこだ?」


 ボンズは1人、霧に包まれてた森の中に立っていた。

「あれ? また気付かない内に知らない場所にいるぞ?」

<ディレクション・ポテンシャル>の世界に来てずっと一緒にいてくれていた仲間、りゅうとラテっちと離別し、丸一日経過した後に再開した。

 わがまま且つ勇み足だった俺の行動を許してくれているのか確認もせぬままに、宿屋に直行しパーティー全員が泥のように眠った。

 ――そこまでは覚えている。

 そこから、こんなところまで来た覚えはない。


 訳もわからず、とりあえず前を向いていた方向へと歩きだすことにした。

 ここがどこだかわからない。それに方角もわからない。

 それ以前になにをすればよいかもわからないので、黙って立ちつくしているより歩いて行くことを選択した。

 もしかしたら、歩いた先に何かあるかもしれないという期待を込めながら。

 しばらく歩くと、霧の先に小さい2つの影を発見した。

「宛てもなのだ。その影を追うことにしよう」

 歩くたびに霧が深くなるも、近付いたおかげで影の正体がわかった。


 そこには、りゅうとラテっちが並んで、こちらを見ながら立っていたのだ。


「2人とも、ここはどこなんだ?」

 ボンズの問いにりゅうとラテっちは返事をすることなく後ろを向き、そのまま一言も発さずに立ち去って行く。

「りゅう! ラテっち! どこへ行く!? まだ怒っているのか? 待ってくれ!」

 それでも2人は振り向かない。歩みを止めることもない。

 ボンズは進んでいく2人の後を追いかけた。

 再び影となった2人を見失わないように走って追いかける。

 しばらく走ると、レースのカーテンが開かれたかのように霧が晴れていく。

 完全に霧は晴れ、その先に見えたのは小さいアーチ型の橋だった。

 しかし、2人の姿はない。

「いったい、どこに行ったんだ?」

 そのままボンズは橋を渡ることにした。

「2人はこの橋を渡ったのかもしれない」と思いながら。

 橋の下には小川が流れ、静かに水の流れる音を奏でている。


「綺麗な川だな」

 橋の上から小川を眺めていると、一隻のイカダが流れてきた。

「どんぶらこ~どんぶらこ~」

 乗っているのは――

「ラテっち!」

「んちゅ? どなたでちゅか?」

「なにをいっているんだ?」

 まるで初めて逢った時のような顔をするラテっち。

「え――怒って無視しているの??」

 一瞬そう思ったが、すぐに思い違いだと気付く。

 よく見ると――いや、見るまでもないが、いつものラテっちと違う点がある。

 可愛らしい桜色のニット帽子が青色なのだ。

 ラテっちがトレードマークをそう簡単に変えるはずがない。もしかしたら別人かも……と思ったからだ。

 イカダに乗り、小川を流れていたラテっちが話しかけてくる。

「ねぇねぇ」

「なんだ~?」

「とまんないでちゅ~。とめて~」

「ありゃりゃ……」

 ボンズは急いで橋を渡り、川の土手を降りる。そして、小さなイカダから青帽ラテっちを抱きかかえた。

「大丈夫か?」

「んちゅ! どもどもでちゅ~」

「よかったね」

「おれいしまちゅ。こっちきて~」

 青帽ラテっちに連れられると、小さい建物が見えてきた。

 建物は小さいお城だった。

 いや、お城というよりミニサイズの一戸建て宮殿だ。


 そして、青帽ラテっちが入り口に立ちどまる。

「ようこしょ! ラテっちおーこくへ」

「ラテっち王国!?」


 ――あ……夢だな、これは。

 最近、よく変な夢を見るな。疲れているのかな。

 なんとなく続きも気になるし、とりあえずこのまま様子を見ることにしよう。


 お城の中まで案内されるとすぐに王の間に辿り着く。見た目以上に、なんと安直な造りだ。

 そして――王様専用の玉座には、いつもの桜色帽子を被ったラテっちが座っていた。

 あれは本物なのだろうか。

 いや、偽物やら本物とかはこの際どうでもいい。


 それにしても、大きな椅子に身体のサイズが全く合っていない。

 まさにチビッ子王様だ。

「よくきまちたね。これから、さいばんをしまちゅ」

「裁判?」

「んちゅ!」

「それでは次の者、王様の前に立つのじゃ」

 玉座の裏からりゅうが現れた。

「りゅう、なにをやっているんだ?」

「ぼくはお城の隊長なんだ!」

「そうか。楽しそうだな」


「被告人の黒帽ラテっち。王様の前に立つのだ」

 りゅうが告げると、帽子が黒色のラテっちが登場した。

 ちなみに、帽子の色以外はラテっちそのものだ。偽物と云うにはあまりに瓜二つである。

 だから、本物かどうかはどうでもよかった。

「それでは始めるぞ! 王様。黒帽ラテっちは、おやすみ前の歯みがきを忘れてしまいました」

「そりぇはいかんの~」

「それだけ?」

 王様ラテっちが判決を下す。

「それじゃーね。おしおきにみっかかん(3日間)おやつぬきでちゅ」

「しょんなー」

 黒帽ラテっちがショボーンと悲しげな顔をする。

「王様ラテっち。それはお仕置きが重いぞ」

 りゅうが不服申し立てをする。

「それもそうでちゅね」

「納得しちゃったー」

「んとね……そうだ! おやつのバームクーヘンをね、いちまいじゅつ(1枚ずつ)はがすのきんち(禁止)ちまちゅ」

「うん……わかったでちゅ。ごめんなしゃい」

「かるっ! 罰が軽い! つーか、罰ではなく『お仕置き』なのかよ!」


「それでは次の者。王様の前に立つのだ」

 なかなか出てこない。

「パチよ、早く出てくるのだ」

「今度はパチなのかか」

 りゅうに呼ばれると、パチがどこからともなく登場し、王様ラテっちの前に立つ。

 やけに素直だ。

「パチは、ぼくとラテっちのおやつをつまみ食いしました」

「そりぇはいかんの~」

「根に持ってる!」

「それじゃーね。おしおきに、ぱちはみんなにケーキをかってきなちゃい!」

 パチは無言で王様ラテっちをジッと見つめている。

「……ドーナッツでもいいでちゅよ?」

 パチは無言で王様ラテっちを見つめている。

「…………チョコでもいいでちゅ」

 パチは無言で王様ラテっちを見つめている。

「ぱちはあとでいいでちゅ! ちゅぎ()

「王様よわっ! 弱いよラテっち。王様の威厳ないよ!」


「それでは次の者、ボンズ。王様の前に立つのだ」

「次は俺か」

 ボンズは王様ラテっちの前に立った。

「ボンズはパンツで踊ったり、ビバビバと叫び出しました」

「そりぇはいかんの~」

「そのセリフをいいたいだけだろ!」

 王様ラテっちは顔を横に振る。

「嘘つけ! それにな、そのことは全く憶えていないからな!」

「それじゃーね。おしおきに、ぼんずはろうや(牢屋)にいれまちゅ」

「俺だけお仕置きが重い!」

「それではちゅれて(連れて)いきなちゃい」

 連行される前に、一言だけ呟いた。

「でも……それじゃ、もうおやつもあげれないし、ご飯も作ってあげれないな」

「しょんにゃーー」

 落ち込む王様ラテっち。どうやら連行されるのは無くなったようだ。

 すると――

「待って、王様ラテっち。まだボンズには罪があります」

もーして(申して)みよ」

「ボンズはぼくたちをおいてけぼりにしたんだ」

「そりぇはいかんの~」

「…………」

 無言になるボンズ。

「ぼんず?」

 あれ? ――っという顔をして、名前を呼ぶラテっち。

「…………ごめんな」

 ボンズは酷く落ち込み、頭を下げて謝った。

 その様子を見て慌てる王様ラテっちとりゅう隊長。

 オロオロとしだし、アタフタとその場から離れこちらに歩み寄ってくる。

「ボンズ、ごめんよ!」

「ぼんじゅ~!」

「ごめんな……本当に」

「ううん、ぼくこそごめんな。いつものボンズでいてね!」

「んちゅ! いちゅものぼんずがいいでちゅ!」

「そうなのか?」

『うん!!』

「そうか! ありがとう! よし! それじゃ、みんなにホットケーキを焼いてあげよう!」


『ホットケーッキ!!?』


 ボンズの言葉に王の間には、いつものりゅう&ラテっちの他に、色とりどりの帽子を被った、たくさんのラテっちが登場した。

 みんながボンズに向かって走り出す。

「わーい! ホットケーキ!」

「はちみちゅのせてね!」

「わたちはバター」

「クリームも~」

「いっぱい出てきたー!」

 わらわらとボンズに集まるたくさんのラテっちたち。

 その時――

「それじゃ、次はぼくが王様ね!」

 りゅうが王様用玉座に座った。

「政権交代!?」

「あたらしいおーしゃま(王様)だー」

「おーしゃま、ばんじゃーい!」

「いいんかい!?」


「さぁ、ボンズは今日から王国のホットケーキ屋さんになるのだ!」

「ホットケーキ限定なのかよ!」


「よし、それじゃボンズのお店を祝って、みんなで踊ろう!」

「なんで!?」

 りゅうの合図と共に、たくさんのラテっちが一列に並ぶ。

「んーちゅちゅ、んちゅんちゅ、うっちゅっちゅー!」

『んーちゅちゅ、んちゅんちゅ、うっちゅっちゅー!』

 たくさんのラテっちがボンズの周りで楽しそうに踊りだす。

「ほら、ボンズも踊るぞ! 王様の命令だぞ」

 りゅうに手を引っ張られ、たくさんのラテっちと一緒に踊り始める。

 いつの間にかパチも参加し、お城ではみんなでダンスパーティーとなっていった。


 園中、いつもの桜色の帽子を被った元王様ラテっちが近寄ってきた――


「それじゃ、おやつちょーだい!」



「――ハッ!」

 気が付いた時はベットの上だった。

 ボンズの身体の上には、気持ちよさそうにりゅうとラテっちが寝ていた。


「夢とはわかっていたとはいえ……なんだ? この落ちは?」


 ボンズは改めてチビッ子2人を眺める。

「本当に、また一緒にいられるんだな……ありがとう」

 それにしても、この2人はベットに並んで寝ていることもあるが、ボンズを布団代わりにして寝ることも非常に多い。

 なんでだろう?


 すると、ラテっちはポツリと寝言を云った。

「ぼんずー、ほっとけーきは?」

「――怖っ!」


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