第二十二話 決意
【アウトオーバー】
戦闘不能のまま、蘇生されずに既定の時間を経過した場合。
パーティー人数を維持できないまま既定の時間を経過した場合。
以上の2点から1つでも当てはまれば、GMの権限によりこの世界から強制ログアウトされる。
強制ログアウトとは、現実と化したMMORPG<ディレクション・ポテンシャル>の世界における「存在の消滅」を指す。
そして、消滅してしまったプレイヤーを【アウトオーバー】と呼ぶのだ。
その数を明記しなかった前回のクエストと合わせてた【アウトオーバー】が恐ろしい数字を叩きだした。
GMからのチャットには【アウトオーバー 1019】と明記されている。
一気に1.000名を超えるプレイヤーの消滅を意味していた。
4人パーティーを結成する前――GMから最後に聞いた【アウトオーバー】の数は「756名」。
過去のクエストにおいて、ピンズに辿り着くクエストで「222名」、そして最初のクエストで「1名」消滅している。
合計すると「979名」のプレイヤーが既にこの世界から消えていた。つまり、残りのプレイヤーは「9.021」人になる。
このプレイヤー数から「パーティー人数を3人から4人へと増やし、ダンジョンボスと戦う」時点で、残ったプレイヤー数を4人パーティーを結成することから【9021÷4】という計算式が出来上がる。
その結果「最高で2255組のパーティー」が結成し「最低でたった独りのプレイヤーが余る」ことになる。
「最高」と「最低」という言葉が出てきた理由は、あくまで理想論であり確定ではないからだ。
約9.000人ものプレイヤーがいくら共通の目的を持っているとはいえ、そう上手く物事が進むとは思えない。
単に新たな仲間を見つけられずに消滅してしまった3人パーティーなど、いくらでもいただろう。
仲間を裏切れないまま他のパーティーに加入せずに、3人のまま時間のみを消費した3人パーティーだっていたかもしれない。
逆に仲間に裏切られ、そのまま人数を補充出来ずに消滅してしまった場合もある。
そうなれば、素直に2255組のパーティーができたとはまず考えにくい。
そして、先程明記された【アウトオーバー】数は「1019名」
現在このコロシアムにいるプレイヤー数は【9021-1019=8002】――8002名いる。
「8002名」――「4」で割り切れない数字だ。
ピンクダイヤ回収クエスト直前まではどう考えても「4」で割り切れるプレイヤー数がいたはずだ。
クランキーコンドル戦では4人パーティーを結成し、ダイヤ回収前まで共に行動していたはずなのだから。
それなのに、現在コロシアムにいるプレイヤー数が「4」で割り切れないということは、やはり誰かが仲間を裏切り、見捨てていることを証明している。
今まで「パーティーでの行動が絶対条件」だったはずが、「前回のクエスト終了直後から今回のクエスト終了までの期間のみ単独行動を許可する」というのが裏切る決断を後押ししたのだろう。
しかし――なぜ「今」なのだ?
今まで団体行動を強要しておきながら、なぜ今更「単独行動」を許可する?
唯一云えるのはこれからのクエストは「単独行動の許可」――ソロプレイの解禁こそが、達成の鍵となるはずだ。
そうでなければ、今まで団体行動を強要してきた意味がないはずだ。
欲をいえば、これから出されるクエストのみならず、少しでも生き残る可能性を上げるためにもGMの狙いを把握できるような「鍵」を出してくれれば――そんなことを考えてしまう。
もしも己を含めた多くのプレイヤーが「GMの真の意図」を把握できれば、もしかしたら【アウトオーバー】の減少に繋がるかもしれない。
いや、あらかじめ知ることができていれば、これまでの【アウトオーバー】の数はもっと少なかったはずだ。
そのような考えに至ったのには、4人パーティー結成やダンジョンボス攻略はともかく、今回のアイテムドロップのクエストは決して難しいクエストではないことが挙げられる。
時間限定という時点で「難しいクエストではない」というのは安直な発言かもしれない。
だが、これほど多くの犠牲者を出すほどではないという意味だ。
多数の【アウトオーバー】を出した理由の裏には、それだけPKによるアイテムの奪い合い――プレイヤー同士の争いが起き、そして仲間同士での裏切り行為があったからであり、結果的にGMの掌でプレイヤーたちが踊らされたことに他ならないのだから。
そうなる未来を多くのプレイヤーが予見できていれば、PKなどなかったと思われる。
もしかしたら、裏切り行為もなかったかもしれない……
――いや、現存プレイヤー数がパーティー数で割り切れないからといって、どのような経緯でプレイヤーが消滅していった正確な理由など判断しかねる。
己と同じことを考えているプレイヤーもいるかもしれない。だけど違うことを考えているプレイヤーもいるはず。
よそう――もうこれ以上考えるのは止めた方がいいだろう。
もし己が全てを理解したからどうなるというのだ?
己自身がこの過程まで行き着いたのは「今」という現実に直面できたからだ。
そうでなければ辿り着くことなどできるわけがない。
それを、後からあれこれ考えたところで何が変わるというのだ。
結局は行き当たりばったと、なんら変わりはない。
考えるだけ無駄だ。
それ以前に――仮の話として、もしも事前にGMの狙いを把握できたとしても、コミュニケーション能力のない己が何をできるというのだ?
どうなに試行錯誤し、限りなく正解に近付いたとしても、他のプレイヤーに伝えることなどできない。
「実行」ができなければ「無知」と同じだ。
己に実行できる能力が備わっていないことくらい、昔から知っている。
それに、今まで思考した内容はあくまで予想の範疇に過ぎない。
今までのクエストも、これからのクエストも含めて「GMの気分次第」というもっとも曖昧な答えである可能性だってあるのだから。
己の頭の中だけで正解など――出るわけがない。
それに、以前の云ったが単にプレイヤーを消滅させたいのならGMの権限――いや、現実となった<ディレクション・ポテンシャル>の世界で「神」に等しい存在としての権限によりプレイヤーをクエスト未達成者を「消滅」させるのではなく、有無を言わさず「全滅」させることだって可能なはずだ。
それを実行しない理由――つまり、プレイヤーにクエストをさせる「GMの真の意図」は、どんな鍵を出されても結局は理解できないかもしれない。
未然に【アウトオーバー】を防ぐことも、己みたいな小さな存在ができるわけがないだろう。
己が理解できることは、今回だけで254組以上のパーティーが脱落していること。
そう――
この世界に召喚されたプレイヤーは1万人。
そして、ここマンズ街のコロシアムには約8.000名のプレイヤー。
この世界に来てから約2.000名もの犠牲者がでてしまったということだけだ。
身震いする。「俺たちだって、もしかしたら……いずれは消滅……」――と、どうしても考えてしまう。
時を同じくして――
「コロシアムにお集まりのプレイヤーの皆さま、クエスト達成おめでとうございます」
GMからの音声チャットがコロシアムに響き渡った。
「さて、次のクエスト内容を説明する前に報告しておきたいことがあります。すでに周知のこととは思いますが、前クエスト達成の瞬間よりパーティーから離別し『単独行動』を許可しております。この中には『ソロプレイヤー』として行動されている方もいらっしゃるでしょう――」
もはや何も云う気にはなれない。
周りのプレイヤーも同様のようだ――この世界に来た時のブーイングが嘘のように静まりかえっている。
罪の意識なのか――それとも「慣れ」というものなのか……
「それでは今回のクエストの説明に移らせて頂きます。クエスト内容は『ギルド結成』です――クエスト期間を『20日間』とし、期間内に結成した『ギルドの名前』と『ギルドマスター』を決定して、ここマンズ街にあるギルド会館まで申請して下さい。その期間のみ『パーティーの解散』及び『単独行動』を許可します」
パーティーと次はギルド結成――でも、ギルドといえば人数は決まっていないはず。
それであれば、このままの人数でもいいのだろうか。
「ただし、ギルドは『プレイヤー7名』で結成して下さい。7名以外の結成は認められません。さらに、今回は『解散したパーティーメンバーでの再結成』も認めていますので、どのようなプレイヤー構成も可能です。――以上でクエストの説明を終了します。プレイヤーの皆さま、ご健闘をお祈りいたします」
「待ってくれ!」
あるプレイヤーが大声を張り上げる。
「GM! これまでクエストをこなしてきたのに『報酬』はないのか!?」
コロシアムは静まり返った状態だったため、その声は誰の耳にも届いた。
「消滅しないこと――プレイヤー皆さま方が『現在この世界に存在していること』こそ、最大の報酬ではないのですか?」
再びコロシアムに静寂が訪れた。
「――詐欺だ」
大多数のプレイヤーはそう思っているはず。
ただ、誰もそれを口にしないだけだ。
それにしても――だ。
誰かが仲間裏切るシステム。そして、再び始まった選別の答えがこれか。
ギルド結成――
パーティー結成のように、仲間を増やすのではなく、仲間を選別し削り取る作業がまた繰り返される。
削られた者は、他の仲間に削られた者「同士」を捕まえる。
削られた者や組めなかった者でも、違いはある。
俗に云う「顔見知り」というやつだ。
知り合いや仲間が多ければそれだけ有利となる。ギルドに加入できる確率がそれだけ上がるのだから。
これは以前にも体験したことだった。
この世界に来た時と――初日と同じじゃないか。
最初のクエストと同じ「仲間探し」――つまり原点回帰だ。それで場所も同じマンズのコロシアムということなのか。
仲間を集めること。仲間に入ること。それは同じだ。
だが、違いはある。
――プレイヤーの心境だ。
コロシアムに来る前も考えた事だが、ボンズの胸中は穏やかではない。
いや、今回に関してはボンズと同様のプレイヤーも多いだろう。
3人パーティーから4人パーティーと人数を変更するクエストの際に――いや、今まで過ごしてきた期間内に「仲間を見捨てる」行為が発生した可能性が高い。
それにもかかわらず、「現時点で7名以上のメンバーが加入しているギルド」以外は、新たなるギルドを結成しなければならない。
加えて、今回のクエストで再びプレイヤーの選別をプレイヤーが行う。
2組の4人パーティーが顔を合わせ、8名の中から独りだけ見捨てる――いや、それだけでは済まない。
問題なのは、ゲーム時代にソロや3人以下で遊んでいた現存プレイヤーの「今までのクエストを達成してきた過程」だ。
もし過去に見捨てた仲間と遭遇したらどうなるのだ?
新たな仲間の力を借りて復讐でもするのだろうか。
逆に、一度裏切っておきながらも人数合わせの為に「また仲間になってくれ」と無神経に頼む奴もいるのか。
頼まれたとしても断るかもしれない――だが、己の立場が危うければ選択の余地はない。
このクエストでは1度離れたパーティーでも、「ギルド」として再び仲間になれる。
長いものに巻かれなければ、生き残れない。プライドを捨ててでも。
だが、心境はどうなるのだろう。
信用など――できるのだろうか?
「また裏切られるのではないか」――と。
それ以前に、このクエスト内容は「ギルド結成」と呼べるのだろうか?
確かにギルドとは複数のプレイヤーが所属するチームであり、云わば「プレイヤーが組織した団体」。
少数のギルドも存在すれば、100名以上のプレイヤーが加盟しているギルドだってある。
それを何故「7人」なのだ?
7人で結成したギルドは確かに存在するだろう。
ただ、<ディレクション・ポテンシャル>では、パーティーでさえ最大3組――計12名のプレイヤーで同時に戦闘を行うことができる。
それなのに、たった7人のギルド結成を求めてくるなんて意味でもあるのか。
過去の俺には関係ない話とはいえ、MMORPGの醍醐味は「プレイヤー同士の協力体制」を作ることにある。
あくまでこの世界に来てから今日までのGMの台詞を聞いた「感想」なのだが、GMは敢えてプレイヤーに拒絶させているように感じた。
プレイヤー同士の団体行動をさせない。
プレイヤー同士の裏切り行為を促す。
まるで、プレイヤーが団結することを恐れているように――
しかし、現に恐れているのはプレイヤーの方だ。
話を戻すことになるが、大手ギルドで結成されていたパーティーならいざ知らず、顔見知りやその場で構成されたパーティーでは、プレイヤーによる裏切り行為の可能性はそれとなく察しているはず。
プレイヤー同士で疑心暗鬼になっているだろう。
そこへきて、パーティー解散の許可――そして「ギルド結成」
ギルド結成など、できるのだろうか……
そんな中、コロシアムでは大手ギルドのメンバーたちがその場で「7人ギルド」を結成していった。
「7」で割り切れるかどうかは不明だが、割りきれなかった場合は残ったプレイヤーのフレンドや顔見知りと組むのだろう。
ここで、日ごろのコミュニケーション能力が活かされる。
類い稀なるコミュ力で大手ギルドに加入するのもよし。自ら仲間を集めるのもよし。
どちらにしても、巧みな会話と取引が要求される。
ギルドマスター(以下、ギルマス)もそうだ。
これから【アウトオーバー】を回避するためにも、コミュ力の高いギルマスほど今後の展開を有利にかつ安全に進める。
裏切り者を出さないよう、新たに仲間となりたいプレイヤーを就職活動の面接官のように見定めていくことが必須となるのだ。
また、これによりプレイヤー間で上下関係が発生するだろう。
「ゲームにまで社会性を持ちこむな」と云いたくなる。
それでは、これからどうすればよいか――
ボンズは真っ先に考えた。
「優作と逢えれば」――と。
しかし、結果のみを先に云えば、ボンズは優作たちとは逢わずにコロシアムを立ち去ったのである。
それだけはできなかったのだ。
1度でも顔を合わせてしまえば必ず「甘え」が出てしまう。
優作のいる4人パーティーの内3人――優作・只人・当夜とはフレンド登録しているとはいえ、残り1人のことは全く知らない。
己の都合のために、「俺の知らない奴を裏切ってくれ」などと云えるわけがない。
パーティーメンバーの誰かを切らなければならない選択肢をフレンドに選ばせるくらいなら、別の道を歩んでいこうという結論からの行動だった。
しかし――
これからどうすればいい?
どこへ行けばいい?
なにをすればよいのか見当もつかない。
他人に取り入るコミュ能力のないボンズは、何もせず時間だけを費やしてしまう。
そのまま4人は、街とフィールドを行き来する日々を送る。
そして――何も成果を得られないまま5日を経過した。
「まだ5日間」――焦る必要はあるのか?
否。
ボンズは「もう5日間」と捉えていた。
このまま宛ても無く彷徨うしかないのか?
無理だ……そんなことではギルド結成など出来るわけがない。
いったい、どうすればいいんだ……
いっこうに打開策が見つからない。
糸口さえ、ボンズには見えてこない。
襲いかかる焦りからか、これから何をすればよいかまったくわからなくない。
わかっていることは――
このままでは、あと数日で消滅してしまう……
パーティー全員が【アウトオーバー】になってしまうことだけだった。
「ゲームという娯楽から、何故こんなことになってしまったんだ。ただの遊びが、今では命の奪い合いに……もう、嫌だ」
日に日に募る焦り。
みんなで宿屋に泊るも全く眠れない。
ボンズは寝室で、眠れぬ夜を過ごす。只独り、部屋の片隅で座り込んでいた。
「嫌だ……嫌だ……」
深夜、独りごとを呟き続けながら。
目をつむると、暗闇の中からガラスが現れる。
ガラスには子どもたちの笑顔が浮かぶ。そして粉々に砕け散っていく。
そんな映像が幾度も映し出されてしまっていた。
そして映像が焼き付いて瞼から離れない。
「嫌だ……それだけは絶対に嫌だ」
己の存在が消滅してしまうことは勿論嫌だ。
だが――
最も嫌なことは仲間を失うこと。
でも、それは己から離れることではない。
この世界からいなくなることだ。
「りゅうとラテっちが、もしも【アウトオーバー】――それだけは……絶対に嫌だ」
ボンズは人差し指を噛みしめながら、独りごとを云い続ける。
「もうだめなんだ。だめなんだよ。嫌だ。嫌だ。このままでは全て失う。また全て失ってしまう。いやだ。怖い。怖い。また失ってしまう。大切なものをまた失うのが怖くて堪らない。震えが止まらない。眠ることなんてできない。怖い。怖い……怖い! 怖い!!」
――解決手段は1つある。
いや、もう1つだけしか思いつかない。
しかし、それを選択するのだけは嫌だ。
でも他に方法はあるか?
――ない。
「もうこれしかない。これしかないんだ」
翌日――クエスト開始から6日目。
「ボンズ、元気ないな」
「おめめのまわりがまっくろでちゅ」
「大丈夫だ。なんでもないよ」
りゅうとラテっちがボンズを気にかける。
口数が少ないのも気にしているようだ。
「大丈夫には見えないよ。目の周りがクマだらけじゃない。眠れていないの?」
「いや、そんなことはない……」
心配してくれている――りゅうもラテっちっも、パチも普段通りだ。
これでいい。いつもの3人を見ていたい。
今だけでも――
その日の夜――
今日は街のは戻らず、野宿をすることにした。
たき火を囲い、ボンズ以外の3人は寝静まっている。
選別は、「1人を削る」ことが最も有効な手段だ。
もう、答えは1つしかない。
初めて優しさを与えてくれた感謝が、よりボンズを追い詰める。
初めての仲間が、ボンズの心理状態を変貌させる。
ボンズが自らの意思で得た答えは――自己の喪失だった。
失う位なら、最初に戻ればいい。
失う苦しみを再び味わう位なら、最初からなければいい。
「今までもそうやって今まで生きてきたんだ。そう、俺には仲間なんて……」
そんな贅沢なものはもう充分味わせてもらった。
そこには俺の居場所はない。
俺のいるべき場所は、独りで立てる場所しかない。そこしか……ないんだ……
「――俺は元々独りだったんだ。そうだよ……元に戻るだけだ。それだけで仲間を……俺の初めての友達を救える。いや、救うなんておこがましいことは云わない。でも、俺から離れていくのは、俺の目の前から大切な人が消えるのは……もっと嫌だ。俺なんて別にどうなってもいいんだ。どうせくだらない人生だ。俺なんてその程度の存在なんだ。俺なんて……そうだよな。」
ボンズはタッチパネルを開き、チャットをする。
「――優作……起きているか?」
「ボンズさん。先日はどうも……それで、どうしたんですか? こんな夜中に」
「優作、ギルドは結成できたか?」
「いえ。まだ6日目ですし、1人も増えていないです」
「それは良かった」
「え……どういうことですか?」
「いや、悪い意味でとらないでくれ。実は折り入って頼みたいことがあるんだ」
「ボンズさんの頼みであれば、可能な限り叶える努力はします。ですが、一体何を?」
「…………」
「ボンズ……さん?」
「優作……りゅうとラテっち。それともう1人、パチという回復系『南』の女性がいる。こいつら3人を迎い入れてギルドを結成してくれないか?」
「えっ!? それでは、ボンズさんはどうする気なのですか?」
「俺は大丈夫だ。それより――頼めるか?」
優作は少し間をおいて返答する。
「ボンズさん。本当に……本当によろしいのですか?」
「あぁ。こいつらを、守ってやってくれ」
数秒の沈黙が続く。
「……わかりました。でも、このことはみなさんご存じのことなのですか?」
「あぁ……わかってくれるさ」
その後、俺たちがいる場所を優作に告げ、朝までには迎えに来てもらうようお願いした。
この場所で、ギルドを結成してもらえるように。
これで、安心できる。
死ぬのが怖くないわけではない。いや怖くて仕方ない。
でも、今はもっと怖いものがある。
それを回避できるのであれば、それでいい。
独りで過ごしていた頃――現実にいた時から「いつ、どのように死を迎えるか」を考えていた時もあった。
いや、そんな恰好のいいものではない。
俺が送ってきた日々など生きてなどいない……「死んでいない」だけだった。
非生産的な毎日。確実に終わりを迎える人生。それに逃避したいからゲームをしていた。
思い通りになどならない、それどころか常に逆走を繰り返すクソゲーみたいな人生から。
そして――他人を嫌い、己をも忌み嫌っていた人生から。
もう嫌でたまらなかった。何度死のうと思ったかわからない。
ただ、度胸がないというだけの惰性でここまで生きてきただけだった。
でも、もう……限界だったのかもしれない。
そこで初めて見えた希望――この世界への移住。だが、そこでも思い通りにはならない。
完全に諦めかけた。
その時に現れたのが……この子たちだった。
こんな俺に、部屋の中に閉じこもっていた頃の俺にとって一生分の楽しさを味あわせてくれた。
――初めて味わう感情と共に。
俺には生涯味わうことのなかった感情だったと思う。
全ては、ここにいる仲間たちのおかげで味わうことができた。
それならば、こんな俺でも仲間にできることはなんだ。
人と接すれば嫌われる。そうやって何もしなかったから今までの俺がいた。
だから、初めての仲間にだけは、俺のできることをしたい。
俺に新たな感情を与えてくれた、思い出をくれた……人生で初めての仲間ためにできることを。
そうだ……こんな終わり方なら、俺のクソゲー人生としてはハッピーエンドのほうだろう。
もう、充分だ――
ボンズは寝ている子どもたちの頭を撫でながら――
「りゅう、ラテっち。優作のいうことをきいて、いい子にするんだぞ――」
たった一言の、聞かれてもいない置き土産。
「パチ、後は……頼んだぞ」
ボンズは独り……再び独りとなる選択肢を選び、3人の元から姿を消した。