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第十七話 砂浜

 


 目が覚めた時にはすでに空にいた――


 空を飛ぶ2枚の畳に乗り、空中遊泳を楽しんでいたのか。

 あれ? ところで、俺は何で寝ていたんだ?

 畳に4人全員が乗っていることを確認すると――

「あぁ、全員無事に乗れ……」


 絶望的悪寒――走る!!


 ボンズは忌まわしき記憶を取り戻し、瞬時に唇の動きを両手で封じた。

 危なかった……意識を取り戻したばかりとはいえ、同じ過ちを再び繰り返すところだった。

 それに、ここは大地よりはるか高き空。

 もう一度口を滑らせようものならば、今度は首を絞められた後にそのまま大地へと放り捨てられるに違いない。

 1人欠けることでパーティーの危機を迎えようともお構いなしに、彼女は躊躇ちゅうちょせず実行する。

 確実に――られる。


 忘れよう――そして、生きていることに感謝をしよう。

 気を取り直して、久々に乗った畳から眺める景色でも楽しむとしますか。

 上空から見渡せる景色は、すでに離れて小さく見えるピンズの街と、そこから広がる大陸だった。

 地平線まで広がる緑の海。大森林がどこまでも続いている。

「すごい景色だ――」

 おもわず見惚れてしまう。これがゲームの世界――なんと雄大なのだろう。

 風を浴びながら、初めてこれに乗ったときのことを思い出す。

 不思議な小さい子ども2人に連れられてアタフタしていたっけな……あれからまだ数日しか経っていないのに、色々と出来事がありすぎて随分前から一緒にいたように感じる。ありきたりな感情かもしれないけど、俺にとっては人生で最大の事件だ。

 なにしろ――

 俺なんかに……「仲間」ができたのだから。

 その2人は畳が進む方向の先端に腰をおろし、揃って左右に身体を揺すっている――身体といっても座るとリュックの方が大きいため、2色のリュックがリズムよく揺れているように見える。

「2人とも楽しそうだな。行き先は決まったのか?」

 2人は同時にこちらへ振り向き『うみ』とだけ云って、また前方を見据えながら身体を揺する。

 決まってないな……これは。

 相変わらず運転方法は謎だ。とりあえず、どこかの「海」に向かっているのだろう。


 それからしばらくして、りゅうとラテっちは再びこちらを振り返ると畳の中央まで歩み寄り、背負っていたリュックを降ろした。

 リュックを開け、中を漁る2人。次々に中身を出していくが、ほとんどお菓子だ。それでもまだ手の止まらない2人に何のとなく呼びかけてみた。

「いっぱい買ったな。お目当てのお菓子が見当たらないのか」

 ボンズの何気ない言葉に対し――

「ぼんずのおべんとうがさきでちゅ!」

「どんなお弁当か楽しみだ!」

「そうか。それじゃ、みんなで食べるか」

 嬉しいこと云ってくれちゃって。


 畳の上で――いや、空での食事か。これは貴重な体験だな。

 取り出したピクニックバスケットの中にはリクエストのタコさんウィンナーに玉子焼き。そして大きいミートボール。彩りにミニトマトを添え付けた。

 メインはサンドイッチ。

 サンドイッチは定番のハムサンドとたまごサンド。

 それとカツサンドも作ってみた。

 ……作り過ぎたかな?

 あと、りゅうとラテっちのバスケットの底には和紙で包まれた1枚のトーストを用意してある。

「なんだこれ?」

 ラテっちの問いに「開けてみて」と答えるボンズ。

 ラテっちが和紙を開くと、イチゴジャムとチョコレートでラテっちの顔を描いたトースト。

 イチゴは帽子と瞳、そして口を描き、チョコで輪郭を描いた。

 それを見たりゅうは急いで自分のバスケットに入っている和紙を開いた。

 そこにはイチゴジャムとチョコレートにオレンジジャムを加えて描いたりゅうの顔のトーストが入っている。

 オレンジはりゅうの髪を表現してみた。口はラテっちと同じイチゴに、瞳と輪郭はチョコを使っている。

 はたして気に入ってくれるだろうか……

 簡単なもので申し訳ないけど、2人に「キャラ弁」というものを味わって欲しかった。

 トーストを見るなり2人から――

「……食べるの、もったいないな」

「うん」

 なんて嬉しいことを! やばい! 涙腺緩む!

「ま……また作るからさ! 食べてくれよ!」

「本当か!?」

「おう! 約束だ!」

 そういうと、2人は同時にトーストをパクッと頬張った。

『ほわわーん』

 にこやかな表情だよ。顔の周りに光の粒が見えるようだ。

 この子らは本当に料理の作りがいってのを味あわせてくれる。


 ツンツン――

「ん?」

 パチが背中を突き、その指で今度は自分の顔を指している。

 これは「私のは?」という意思表示なのだろうか……君のキャラ弁なんてあるわけないだろ! いい大人がなにを要求しているのやら。弁当で我慢しなさい。



 畳は海を渡りっている――ということは、どうやら次の大陸へと向かっているようだ。

 MMORPGの世界で「宛てもない目的地に向かっている『ようだ』」という表現ほどおかしなものはないけれども、事実なのだから仕方がない。

 無茶苦茶な話だけど、それに順応していること――そして、そのことを自覚しているのも、それだけ一緒に旅をしてきたということだな。


 海を渡り終わった畳はゆっくり旋回しながら新たに足を踏み入れようとしている大陸の上空を飛んでいる。

 眼下に望むその大陸は「楽園と苦境」が入り混じる――主要都市と総称して<ソーズ>と呼ばれている。

「楽園」とは、この大陸では移動すれば四季折々の絶景を楽しむことができることから由来する――「春・夏・秋・冬」全ての季節を体験でき、また海は勿論のこと大陸の中央には高い山脈が縦断している。

 云い方を変えれば、海水浴も出来れば雪山でスキーをしたり、崖でロッククライミングをするなど、様々な自然とのふれあいを味わえるリゾート大陸なのだ。

「苦境」とは、当然――「魔物」のことをさす。

 この大陸は<マンズ>や<ピンズ>より、はるかに高レベルの魔物が多数存在する。

 しかし「苦境」と呼ばれるこの区域も、戦闘を主に楽しむプレイヤーにとっては絶好のフィールドだ。

 ボンズもゲームではこの大陸にレベル上げのためによく訪れていた。

 だが、この世界に飛ばされた時には再びこの<ソーズ>に来れるとは思わなかった。

 この大陸は、地図上でいえば「始まりと戦いの街」と称される<マンズ>より、かなり離れた位置に存在する。

 ゲームの際には【ワープホール】というダンジョン以外どこでも位置セーブ可能の瞬間移動スキルを使用し、どんなに離れた場所でも移動は楽だった。だが、ゲームの世界が現実となった現在では使用不可となっているため、移動手段は船で海を渡り大陸は徒歩のみとなる。

 そのため、この<ソーズ>には来れないだろうと思っていた。

 それが、まさか空を飛んで来るとは思わなかったな……


 余談だが――

<マンズ>や<ピンズ>のように、この<ソーズ>も1つの大陸に街が1つしかない。これはゲームとしては珍しいことかもしれない。

<ディレクション・ポテンシャル>は大陸の中に街の他は集落が幾つかだけ存在するだけだ。

 このゲームはアイテムや装備を街で買う概念が少ないからだろう。

「ピンズでの取引」

「クエスト報酬」

「魔物のドロップアウト」

「賭場の景品」

「戦争やタイトルッマッチの戦利品」が主となる。

 たまに、フィールドにポツンと落ちていたり、旅業者と出会って買い物ができるなど他の手段もある。

 そういえば、クエストをすでに数回こなしているがクエスト報酬はなんだ? まだもらっていないぞ。

 GMゲームマスターに直接聞くことなどできないし……このクエスト期間が終わった時には必ずGMから次のクエストの依頼があるはずだから、会話ができるものなら聞いてみたいものだ。

 ――GMと会話ってのも、無理のある話だけど……


 そうこうしている内に、畳がゆっくりと下降を始める。どうやらここが到着地点のようだ。

 そこは、砂浜が広がる常夏の海――大森林の次は果てしなく広がる大海原が待っていた。

『ついたー!!』

 チビッ子2人は砂浜に着いた畳から飛び降り、無邪気に駆け回る。

 まさしく「遠足」だな。

 到着したのは誰もいない広い砂浜。

 上空から砂浜と、その中央を区切るように高くそびえた岩の崖を確認したものの、いざ地上に降りてみると上空で見たときに比べて果てしなく広く感じる。

 それに、砂が陽の光を反射しまばゆく輝いており、蒼い海は海底まで見える透明度を際立てている。

 これこそ、思い描いた理想の楽園であろう。


「こんなことしてんの、俺たちだけだろうな。まるでプライベートビーチだよ」

 そう云いながらも、早速買っておいたビーチパラソルにビニールシートを敷くボンズ。

 ついでにラテっちの浮き輪に空気を入れておこう。


「みんな、水着に着替えるわよ」

 パチのかけ声により、準備をする一行。

「ぼんず。うきわちょーだい」

「はい。どーぞ」

「ありがとー」

 ラテっちはボンズから浮き輪を受け取ると、パチと共に水着を持って岩陰に向かう。

 向かう途中にパチが立ち止まり、こちらを振り向く。

「――覗くなよ」

「早く行け」


「さて……と。りゅう、俺たちも着替えるか」

「そうだな」

 ボンズは黒と白のドット柄のサーフパンツを装着。

 りゅうは真っ赤なボードショーツ(短パンと呼ぶべきかな?)に足ひれ。本来ショーツのすそは膝元の高さに当たるのだが、背の小ささゆえすそが足元まで届いている。だが、それが逆に斬新なスタイルとなり、なかなか似合っている。

「りゅう。カッコイイな!」

「ボンズもな!」


 ここで着替え終わった女性陣も登場。

 ラテっちは囚人服のような全身を覆うピンクと白の横ストライプの水着。被っている水泳キャップまでおそろいの柄だ。もちろん浮き輪付き。

「おじょーさん。その格好は……?」

「にあう?」

 ラテっちはボンズが褒めてくれるのを今か今かと待っている。

「う……うん。ある意味とてもよく似合うよ」

「テヘッ!」

 ラテっちは身体を小さ横に傾けるくポーズをとり、可愛らしくウインクする。

 パチはネオンカラーのバンドゥビキニ。胸の部分が三角ではなく横長なチューブトップのフリルタイプだ。

 性格とは正反対の魅力的かつ理想的な体型が、より一層強調されている。

 ロングの黒髪との調和も絶品だ。グラビアアイドルですかアナタは。

「これが現実だったら、ナンパの嵐でしょうね」

 こういう余計な一言さえなければ素敵な女性なのだが、全く持って残念だ。


 水着に着替えたので早速泳ぐのかと思いきや、ラテっちはカバンからいつぞやのスイカを取り出した。

「すいかわりしまちゅ」

「楽しみにしていたのね――」

 スイカを触ってみると腐ってはいない。やはりカバンの中では時が止まっているようだ。

「では!」

 りゅうは【九蓮宝燈チューレンポトウ】を鞘から抜いた。

「木の棒にしよう!」

 ボンズがすぐさま木の棒を差し出し、りゅうを止める。

「そうか? こっちのほうが切れるぞ?」

「ほら、刀なら一回当たれば終わりじゃないか。木の棒ならラテっちと順番でやれば、2人とも楽しめるだろ?」

「それもそうだな。それじゃ、ラテっちが最初ね」

「お~がんばりゅ~」

 用意しておいてよかった。

 正直こんな予感はしていた。以前、もう少しで伝説の神具をスイカの汁まみれにするところだったからな。

「それじゃラテっち。目隠しをして挑戦だ」

 布で目隠しをしたラテっちは、木の棒を持って歩きだす。

「うちゅ」

 棒を振り下ろすも空振り。

「んにゃ!」

 これまた空振り。

「んにゃにゃにゃにゃ!!」

 ブンブンと振りまわすが、かすりもしない。

 振りまわしながら歩きまわり、ようやく――というより奇跡的に棒をスイカに当てることに成功した。

「うっちゃーー!!」

 本人は大喜び。棒を掲げ、勝利のガッツポーズをとる。

 うまいことスイカも割れずにすんでいる。これで2人仲良くスイカわりを楽しめるな。

「次はりゅうだぞ」

「まかせとけ!」

 目隠しをしたりゅうは真っ直ぐスイカに向かって歩く。

 そして、一直線に棒を振り下ろす。

 しかし、棒は僅かにスイカかられ、砂浜を叩きつけた。

「おしい!」

 ――と、云ったのは思い違いだった。

 叩きつけた衝撃で砂ごとスイカが宙に舞い上がる。そして、同時にりゅうも宙へ飛んだ。

「うりゃ!」

 かけ声と共に空中で棒を振るりゅう。

 着地したと同時に棒を手放し、落ちてきたスイカを両手で掴みとった。

「ボンズ。目隠しを外して、その布を敷いてくれ」

「あ……あぁ、わかった」

 りゅうは目隠しを外してもらい、布を砂浜に敷かれたのを確認する。スイカに砂が付かないように布の上に置く。布に置かれたと同時にスイカは8等分に切り分かれた。

「超すげー!!」

 棒なのに見事に切り分けられる。しかも8等分って。

 りゅうも右腕を掲げ、ガッツポーズをとる。

 3人は素直に称賛の拍手を送った。


 ビーチパラソルの下でスイカを食べる4人。

「なぁボンズ。刀をここに置いておいてもいいか?」

「そうだな。ここには誰もいなさそうだから盗まれることもないだろう。それに刀を持ったまま泳ぐわけにもいかないしな」

 そういいながらも少し安心するボンズ。

 今度は何を斬ろうとするかわからない上、刀を持って海なんか入ったら錆びるのではないかと不安だったからだ。

 ゲームの世界では「武器の劣化」は存在しないが、今はどうなるかわからない。

 安全策をとっておいて、とり過ぎることはないだろう。

「わたちも」

 そういって、ラテっちはいつも持ち歩いているカバンをビニールシートへ置いた。

 スキル発動に必要不可欠のカバンも、こうして見ると、とても不思議なアイテムが出てくるとは思えない園児の持っているお弁当用のカバンだな。

「それじゃ、お散歩に行ってくる」

「おさんぽいくでちゅ」

「泳がないのか?」

「まずは探検だ!」

「はは。わかったよ。いってらっしゃい」

『いってきまーす』

 2人は崖の方へ向かい、砂浜を無邪気に走っていった。

 その姿を見送った後、あることに気付いた。

 ――女性と2人きりになってしまったではないですか!

 いやいや、女性といってもパチだ。気にするな。

 でも、見た目だけでいえば――

 海風に髪をなびかせて……って、どこのサマーソングだよ。

 ――と、パチの方から声をかけてきた。

「ねぇボンズ。こうして2人きりでいるとさ……」

「なに? なんですか2人きりでいると??」

 な……なんなの? このままドキドキ展開に発展しちゃうの?? 

「酒、飲みたくない?」

「……は?」

「あーぁ! ビール飲みてぇー!」

 うん! やっぱりパチだ。


「おーい!」

 チビッ子2人が走って戻ってきた。なにやら慌てているかのようだ。

「随分と早かったな。そろそろ泳ぎたくなったか?」

「えっとね。おみせがあった」

「おみせ?」

「ボンズ、アッチに海の家があるぞ!」

「ウッソだー!」

「本当だって! ついてきて!」

 りゅうとラテっちに連れられ、4人で向かった崖の先には――

「ヘイらっしゃ!」

「本当にあったよ!」――しかも店のオヤジはノリノリだ。

<ディレクション・ポテンシャル>でこんな店あったか?

 でも、実際目の前にあるわけだし……ゲームと現実で違いはあるのは理解しているけど「海の家」はないだろう。もっと違う、こうプレイヤーの役に立つ仕様変更をしてくれないのだろうか。

「お客さん。何にしやすか?」

 店のオヤジが注文を聞いてくる。

「ボンズ。かき氷食べるたいぞ」

「たべたーい」

 まぁいいか。こうして子どもたちが興味を示している分、役に立っていると考えよう。

 だからといって、腑に落ちないのは変わらないがな。

「それじゃ、かき氷をもらおうかな」

「まいど! かき氷には何をかけますか」

「いちごー」

「レモンー」

「ビール」

「はい!?」

「イチゴにレモン、ビールのかき氷、お待ちどう!」

「できるんかい!」

「兄さんは何にしやす?」

「あ、俺は焼きトウモロコシをもらおうかな」

「ヘイ、おまち!」

 渡された焼きトウモロコシを一口食べて、ボンズは店のオヤジを呼びつける。

「オヤジ。焼き加減が甘いぞ。お詫びに醤油とバターをサービスしろ」

「兄さん。勘弁してくれよー」

「ボンズって、やっぱりクレーマーよね」

「そんなことはないぞ! ――あ、ボートもあるのか」

「お詫びにレンタルしますぜ」

「レンタルもできるのか? それじゃ、せっかくだし乗ってみるかな」

「あいよ!」


 オヤジの厚意により、4人でボート乗れることとなった。

 ボンズがオールを漕ぎ、沖へと向かう。

「スゴイな。サンゴが見えるぞ。みんなも見てみろよ!」

 みんなで海を見つめる。その光景に魅入られたのか、りゅうとラテっちはここから泳ぎたいと云いだした。

 この辺りは沖とはいえ浅瀬ほどの深さしかない海だ。

 とはいえ、小さな子どもを沖で泳がすのはどうだろう。確実に海底に足はつかないわけだし。

 りゅうは足ひれもあるし、泳げそうな気はするけど……うーん。

「ラテっち、大丈夫なのか?」

「キリッ! うきわあるからだいじょぶ!」

「りゅうは?」

「足ひれがあるからだいじょうぶ!」

「2人とも、危なくなったらすぐに呼ぶんだぞ」

『はーい』

 2人は海へと飛び込んだ。

 りゅうはスイスイと泳ぎ出す。やはり鎧がないと沈まないんだな。足ひれのおかげか、泳ぎもスムーズだ。

 一方、ラテっちは手足をバタバタ動かしているだけで全く前に進んでいない。

 それどころか波に流され、少しずつりゅうや俺たちの乗るボートから離されていく。

「まってよぉ~」

「しょうがないわね。ほら」

 パチはボートに積んであったロープを取り出し、ロープの片方を手で掴み、もう片方を海へと投げ込んだ。

 ラテっちはそのロープを掴み、そのまま引っぱってもらう。

「お~、らくちんでちゅ」

 喜ぶラテっちとは裏腹に――

「釣りだー! ラテっち釣れたー!」

 爆笑するパチ。コイツ……その発想と笑い方、マジで怖い。

「あ! いいなー」

 りゅうもまざり、ラテっちと一緒にロープを掴んだ。

ダブルヒットー!!」

「もういいってば!」


 砂浜へと戻った4人――

「ぼんずー。すなにうめるのやりたーい」

「あぁ、身体をか。いいぞ!」

「ホントでちゅか?」 

「もちろんだ!」

 子どもだなぁ。なんて無邪気なんだろう。

「それじゃね、こっちきてー」

 ラテっちはボンズの手を引っ張り砂浜を一緒に歩く。

「ルンルン」

 浮き輪を持ったまま楽しそうに歩いている。

 はたして、どんな風にして砂をかけるのかな?

 丸くお山にするのか――はたまた人型かな?  

 ラテっちと2人で少し歩いた先に、りゅうが手招きして待っていた。

「おーい! 早くはやくー!」

「ここでちゅ」

「あはは。そう慌てるなよ……ん?」

 連れて来られたのは、直径・深さ共に3Mはあるだろう巨大な穴。

「……これはなんだろうね?」

『はいってー』

 砂に埋めるのにはかわりない。

 だが!

「砂をかけて埋めるのと、生き埋めとは違うぞ!」

 逃げようとした瞬間――背中に衝撃が。

「いいから入れ」

 パチはボンズの背後から穴へ向けて蹴り落とした。

「さぁ、子どもたちよ。張り切って埋めるぞ!」

『お~!』

「ちょっと待てーい!!」

 砂が頭上から降り注がれる。ボンズは壁をよじ登り脱出を企てるも、ここは砂で出来た穴だ。壁など手足をかければすぐさま崩れ落ち、登ることなどできるわけがない。

 それでも、凄まじい速さで積っていく砂を足場にし、穴が砂で埋まる時になんとか首だけを出すことに成功した。

「し……死んじゃうところだった……」

「プッ。こういう姿って、よく漫画で見かけるよね」

「パチ、覚えてろよ……ん?」


 ――空気が変わった。


 突如、俺たちを取り囲むドーム型の空間が発生。

 まさか――

「ゾーンの発生……だと!?」

 そうか、ここもフィールド。魔物が現れて当然だ。

 むしろ、今まで魔物が出てこなかったこと事態が奇跡に近い。

 現れた魔物は人語を解す巨大な身体と斧を有した人魔――人間とそれほど変わらぬ容姿をした魔物の1種――<バイキングマスター>

 それも2体同時に現れるとは……

「まいったな……完全に油断していたよ。りゅう、倒せるか?」

「刀はパラソルの下にあるぞ」

「あ! そうだった……」

 ビーチパラソルの場所は、ゾーンの範囲から外れている。

 そして、戦闘が終わるまでゾーンから出ることはできない。

 安全策が完全に裏目に出てしまった。

「ラテっち。カバンは持っているか?」

「もってまちぇん」

「パチ!」

「杖なら2人と一緒にパラソルの下にあるわよ」

「それでも符術は使えるだろう」

「私、杖がないと符術は使えないけど」

「杖は増幅装置みたいなものだろうっ!!?」

「なら、試してみる?」

「もういいよ!」


 久々の戦闘だってのに、みんな戦える状況にいないなんて……

<バイキングマスター>も、よりにもよって装備を外した状態の時に現れてくるなよ。

 まったく、実質ソロじゃないか……


 仕方がない。やるしかねぇ!


 ――ちょっと待て。俺ってば、只今砂に埋まってる最中でした!

「掘って! とりあえず掘りだしてー!」



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