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第十六話 道草

「2人とも、すっかり元気になったな」

「最初から元気だってば」

「わかったよ。それじゃ、よろしく頼む」


ボンズは昨日りゅうにお願いしたことを行うため、以前縄跳びをしていたピンズの街外れにいる。

使われなくなった店の裏側、街を囲む石の塀の傍にある空き地でりゅうを相手に実戦的な稽古をつけてもらうためだ。


ボンズはこの世界でようやくまともに戦闘を行えるようになったとはいえ、今回のクエストではなにもできない己の弱さを改めて痛感する結果となってしまった。

このままでは足手まといになってしまう――そのことを恐れていた。

――もっと強くなりたい。その思いが付きまとい離れない。

この子たちが倒れたことにより、その思いは一層強くなっていた。


「それじゃ、さっそくやるか」

そういってりゅうは構えをとる。しかし、それにボンズは待ったをかけた。

「どうした? 稽古するんだろ?」

「その前にこれを装備してくれ」

そういってボンズが用意したのは「竹刀」――店売りしている最も安く、最も攻撃力の低い武器だ。

「強くなりたい」とこちらから申し出て稽古をつけてもらうとはいえ、まともな武器で攻撃を喰らえば無事では済まない。

ましてや、伝説の神具を装備しているりゅうを相手にすれば、俺のHPなど数秒も経たずに奪われるだろう。

何度も攻撃を受けることを覚悟しているからこそ「竹刀」を装備してもらうのだ。

これならば、致命傷を受ける心配はない――と。

「よし。装備したぞボンズ」

早速稽古を始めようとした時――

「ねぇねぇ、わたちは?」

ラテっちはボンズの足元で訪ねてくる。

りゅうに頼るボンズの姿を見て、自分も頼られたいらしい。りゅうを羨ましそうに見ている目がそう訴えている。

「そうだな……よし! ラテっちには横から石を投げてもらおうかな」

「まかちて」

そう云って、地面に落ちている石を拾い集める。

「私は?」

「パチも手伝ってくれるのか」

「ヒマだしね」

「スマンな。それじゃぁ、ラテっちと反対側から石を投げてくれないか?」

「わかったわ。石を投げればいいのね」

「おう」


正面にりゅう。右にラテっち。そして左にパチが立つ。

「いつでもいいぞ」

そういうと、まずラテっちが石を投げた。

「うにゃ!」

投げた石はゆるやかな山なりを描きながら、ボンズのいる場所とは見当違いの方向へと飛んでいく。

「ありゃ?」

「うーん。まぁいっぱい投げてくれればその内当るよ。大丈夫」

「うん」

なにやら、いつの間にかキャッチボールをしている親子的な会話になっているような気がするけど、とりあえずおいておこう。

「私も投げるわよ」

「あぁ、頼む」

パチは振りかぶりもせず、軽く石を投げた。

――と同時に耳元から空気を切り裂く音が聞こえる。パチの投げた石はボンズ、そして真後ろにいたラテっちの頬をかすめ、更には2人の後ろの壁にめり込んだ。

「チッ、外したか」

「待てーい! なんですか? その剛速球」

「当ててもいいんでしょ?」

「殺すつもりか! お前、あと数センチ横にそれていたらラテっちと共に2ヒットコンボだったぞ!」

「ラテっちを狙うわけないじゃない。狙いはボンズだけよ」

「俺はどうなってもいいのかよ! もう大人しく横で見ていろ」

パチは不機嫌そうに壁の方――ラテっちの方へ歩いて行く。

そのままラテっちを抱きかかえ、壁を背に座り込んだ。

「ラテっち、ケガはない?」

「だいじょぶ。ぱちはすごいでちゅね」

「そうでしょ! それなのに、あの男は石に当たりもしないでラテっちにケガをさせるところだったのよ。ひどいよね」

「アプッでちゅね」

ラテっち……騙されるんじゃありません。 

それにパチ。これからは、石を投げて魔物と戦いなさい。



――改めて稽古開始。そして、りゅうと向かい合う。

「ボンズ、準備はいいか?」

 竹刀を構えるりゅう。そのままの姿勢で一歩だけ歩み寄る。

同時にボンズは一歩後ずさった。

りゅうに合わせたのではない。

ボンズはこれ以上りゅうに近付けない。


――圧!


襲いかかる強烈な圧迫感。

りゅうに殺意があるわけではない。

だが、あと1歩……いや、半歩踏み出せば確実に斬られる。

竹刀ではなく「刀」であれば、その瞬間HPなど瞬時に奪われるさまが頭によぎる。

改めて知ってしまったのだ。

伝説の神具【九蓮宝燈チューレンポウトウ】の存在に目を奪われ、「わかっていた」はずなのに忘却していた。

竹刀に持ち替えて改めて知る――「『W西ダブシャ』の実力」を。

そして、直面して初めて味わう感覚。

小さな身体が大きく見える――

そんなレベルではない。表現の仕方が見当たらない。

「強さの桁が違う」――この言葉を引用しているアクション漫画を見かけたことはあるが、それも違う。

りゅうは「強い」のではなかった。


――「純粋」なのだ。


ただ、1つのことに特化する。没頭する。それのみを突き詰める。

それは――誰もが安易に想像し、そして諦める達成困難なこと。


即ち――「極」


純粋に極めてきた――「斬る」ことを。

以前、りゅうを「【九蓮宝燈】を手に入れた『西シャー』を極めし者」と思っていた。

しかし――それは誤認でしかなかった。

【九蓮宝燈】などなくても関係ない。

りゅうという剣士――純粋に「斬る」ことのみを追い求めた結晶体だった。

何故、こんな幼児がここまでの気概を持てるのか……

学校にも行かず、仕事もしていないボンズですら、この域には到達できていない。

たかがゲーム。それでも、ボンズにとってはこの<ディレクション・ポテンシャル>が全てと云っても過言ではなかった。

それ故に、誰にもこのゲームに関しては「負けたくない」思いもある。

しかし――またもや、りゅうとの「距離」を見せつけられる。

ただ、それを察することができるのもボンズのレベルの高さ故ということ――

それに、ボンズは気付いていなかった。


しかし――このりゅうの姿が、ボンズの劣等感を刺激することになる。

劣等感から、斬られるとわかっていながら闇雲に飛びこむ。

そして、その度に返り討ちにあっていった。


「イテテ……」

何度もりゅうに挑み、その結果身体中傷だらけになったボンズはその場にうずくまった。

傷自体はすぐに消えるが、HPは残り少ない。

「どうした。いつものボンズじゃないぞ」

「いつもの……俺?」

「そうだぞ。ボンズはそんな気持ちで戦っていなかったぞ」

「気持ち……どういうことだ?」

「そうだなー。やってみたほうが早いか。今度はこれでけいこだ」

りゅうは竹刀から【九蓮宝燈】を装備しなおした。

「チョット待て……細切れにするつもりか?」

「だいじょうぶ! かわせるって」

「無理に決まっているだろう! りゅうの戦闘だって、刀を抜いた瞬間光の筋が通ったと思えば、気付いた時のは魔物は細切れだったんだぞ!」

「そうかなー。ボンズならかわせると思うんだけどな」

「ムリムリ! 竹刀でもかわせないのに!」

ボンズは首を振り続ける。

「それじゃ峰打ちね」

りゅうは刀を返し、握り直した。

「絶対ダメ! 昔、『拙者はもう人を殺さない』と云っていた峰打ち専用の日本刀を振りかざした浪人がいたらしいが、日本刀なんて斬れなくても、まともに頭に喰らえば脳挫傷、腹に喰らえば内臓破裂で、むしろ『もだえ苦しんで逝くほうがツライから、いっそひと思いに斬り殺して』と云わせるほどの残虐ぶりだったそうだ。ハッキリいって、峰打ちだろうとなんだろうと、どちらにしても死ぬ!」

ボンズの懇願に、りゅうは刀をおろす。

そして――

「やめた」

「ちょっ! やめたって……そりゃねーよ」

「ちがうよ。ボンズは考え過ぎなんだよ」

「考え過ぎにこしたことはないだろ。ここは現実となったゲームの世界なんだぞ。これから何が起こるかわからないのだからな」

「それだよ!」

「どれ!?」

「なにが起こるかわからないんだぞ! ワクワクしないか!?」

この言葉を聞いて、子どもの発想だと思った。

ここは、プレイヤーの存在をかけた――生き残るための世界。それがわからないのか――と。

そんな発想など、誰が持てるだろう。

「ボンズさ、どうせ生き残り~とか、かんがえているだろ」

――ギクッ!

「なんで? どうしてそう思うの??」

「ボンズはすぐ顔に出るからな! 楽しそうな時と、そうでない時と」

え……俺って、こんな幼児に見抜かれるような大人だったの?

それとも、りゅうが鋭いだけ?

……後者を信じたい。

ボンズは話を戻す。

「でも、強くなることは悪いことじゃないだろ?」

「ボンズは充分強いよ。それがまだわからないだけ」

「……わからない?」

己のことは己自身が一番よくわかっている。

そう思っているボンズに、りゅうはまるで謎かけのような台詞を云いだした。


「だからさ、楽しもう!」


「楽しむ……この状況をか? 無理に決まっている」

ボンズの台詞を聞くと、りゅうは突然走りだし、ラテっちとパチの手を引っ張って再びボンズの前に立った。


そして――

「4人で冒険をしよう!!」


「冒……険……」

「そうだよ! せっかくゲームの世界にいるんだよ! 冒険しようぜ!」

「ぼーけんだー!」

ラテっちも、りゅうの発案に心躍らせている。

「パチはどうしたい?」

「まぁ、こんなことしているよりは楽しそうね。戦闘も実戦のほうがいいんじゃない?」

「そうか……」

「あとね、ボンズはりゅうの云う通り考え過ぎよ。自分を追い詰めてどうするの? 仲間がいて、仲間に頼る――頼ることは恥ではないのよ」


「そういうものなのか……」

俺は独りでしか歩いていなかった。いや進んですらいなかった。

今、仲間ってのと出会えて、仲間のおかげで進めているのかもな。

それに気付かなかったこれまでは、結構損をしていたのかもしれない。

いや――今それに気付けただけでも、ありがたいことなのかもな。



「それじゃ、おやつ買ってこなきゃ」

「おやつをたべるでちゅ」

「ん? おやつ?」

「そうだよ。おやつがなきゃ冒険じゃないよ」

「りゅう。なにか勘違いしてないか?」

なにか会話が噛み合わない気がする。

「はい!」

ラテっちが手を上げて質問をする。

「シュークリームはおやつにはいりまちゅか?」

「そりゃはいるって。せめて果物で聞こうね」

「ありゃ。それじゃ、おかねはいくらまで?」

……これは、この会話は「冒険」に行くものではない。

ツッコみたい。「それは冒険じゃなく――」と云いたい。

でも、それは野暮ってものだ。

せっかく俺を励ましてくれるための提案だ。昔の嫌な記憶を辿ってしまうことになるけど、それは経験のない思い込みの産物でしかない。

俺ができることは――もうこれしかないか。

「あのさ、1つ提案してもいいか」

「なんだ? やっぱり嫌か?」

りゅうはボンズのことを気遣いながらも、少しだけシュンと肩を落としかける。

「冒険しながらでいいんだ。俺ってさ、今まで『遠足』に行ったことないんだよ。よかったら一緒に行かないか?」

一瞬、時が止まる。みなが沈黙してしまった。

一生懸命……いや、表現は違うかもしれないが、俺にとって精一杯の「礼」の証だった。

ひかれた……かな。


だが、時が動き出すと共に、りゅうとラテっちはボンズを軸に走り回る。

『わーい! えんそくだーー!!』

「パチはどうかな?」

「いいんじゃない。そういうのも」

「そうか……ありがとな」

「そのかわり、お弁当はあなたが作りなさい!」

「あぁ、そのつもりだよ」


「ボンズ、お弁当作ってくれるのか!?」

「おう! りゅうは何が食べたい?」

「えっとね、タコさんウィンナーと……玉子焼きとな……」

こんなにニコニコと笑みを浮かべながらあれこれ悩む姿をみせられては気合いを入れて作らなければな。


「みーとぼーりゅ!!」


ラテッちはドヤ顔で要求する。好きなんだね、ミートボール。

「それじゃ、買い物に行くとしますか」

「なぁなぁ、遠足はどこ行くんだ?」

「あれ? りゅうはどこに冒険に行くか決めてなかったのか?」 

「どっかそのへんだ」

「アバウトすぎるだろう。ラテっちはどこか行きたいところはあるか?」

「えっとね、うみ!」

「海? この前クエストで行っただろう」

「あれはちゅ()りでちゅ。こんどはおよぎまちゅ!」

「泳ぐって……泳げないだろ」

「うきわ。かってくだちゃい! うっちゅ!」

押忍オス!」と云いたいのね。頭の下げ方に気合いが入っている。俺の気合いがうつったのか?

「それじゃ、行き先は海でいいか?」

『お~!』

「色々買い物しないとな」

何気ないボンズの台詞にパチから質問の手が上がる。

「チョット待ってよ。そんなに荷物を用意していたらアイテムポケットなんてすぐ一杯になってしまうわ。『倉庫屋』だって限度があるんだから、そんな衝動買いして大丈夫なの?」

あ……ラテっちの存在で「倉庫屋」の存在を忘れていた。


「倉庫屋」――<ディレクション・ポテンシャル>の各街に存在するNPCノン・プレイヤー・キャラクターが経営するアイテム保管店のことで、1プレイヤーにつき最大100個までアイテムを預かってくれる。

預けるのも引き出すのにも1回につき金貨1枚を必要とする。


「いや、実はこの世界に入ってから一度も利用していないんだよね」

パチは驚き、喰いついてくる。

「はぁ!? なんで? どうして? どうやって今まで過ごしてきたの??」

「ほい!」

ボンズはラテっちの両脇を抱え、パチの目の前に腕を伸ばして差し出す格好をとる。

「よっちゅ!」

ラテっち、手を上げ改めて挨拶。

「……あなた方の行動の意味が全然わからないんだけど」

「ダンジョンでラテっちがカバンからアイテムを出していたの見てたか?」

「えぇ。煙の玉だったわね。変な能力だと思っていたけど、それが何??」

「ラテっちが出せるアイテムはあれだけじゃない。他にも色々出る。更に色々なアイテムをカバンにしまうこともできるスキルなんだよ」

「うそでしょ!? あ……でも、石やらヌイグルミをしまっていたし……そんなスキルあるの? チート?」

そう思うよなー。なんか同志ができたみたいで少し嬉しい。

「でもまぁ、そういうわけだ。アイテム所有限度の心配はしなくてもいいから」

「そんな無茶なことが許されるなんて……」

パチがフルフルと肩を震わせている。

意外と真面目な性格なのか? こういうことを許せないタイプで、ラテっちのことを嫌ったらどうしよう……流石に悪用をするヤツじゃないと思うけど。

「そんな無茶なことが許されるなんて……買い物し放題じゃないのよ!!」

「あれれーーー」

「ボサッとしている場合じゃないわよ! りゅう、ラテっち。水着を買いに行くわよ!!」

『ラジャ!!』

3人は走って買い物に出かけた。


パチがラテっちの能力をどこまで把握しているか気にも留めていなかったけど、受け入れてくれてよかった。

「さて、俺も買い物に行くかな」

そう云ってボンズもお弁当の材料を買いに向かう。

「おっと、遠足に行くならアレも必要だな」


1時間は経過した頃――

「ふ~満足した!」

パチはご満悦な表情で戻ってきた。大量の買い物袋を抱えて。

「ボンズの水着も買っておいたわよ。さて、4人分の荷物をラテっちにお願いしようかしら」

「そのことなんだけど、りゅうとラテっちの荷物を分けてくれないか」

「どうしたの?」

「まぁ、いいから。ところで2人は?」

「途中お菓子屋に寄っていったわよ。もうすぐかえってくるんじゃない?」

『ただいまー』

おっ! 噂をすれば――

「2人とも、自分の物を前に出しなさい」

「なんでだ、ボンズ」

「どーして?」

「まぁまぁ。ほら」

ボンズは2人に催促し、荷物を出させる。

パチの持ってい水着に2人が買ってきたおやつ――と。

「これで全部か」

「2人の分はね。他にも色々あるけど、どうするつもり?」

「それはな、これを使うんだよ」

そう云ってボンズが出したのは2つのリュックサックだった。

「遠足と云えばリュックだろ。りゅうには海をイメージした青色のリュック。ラテっちのは好きな桜色のリュックだ。これにはもうお弁当が入っているから、あとはおやつと水着を入れるんだぞ」

2人にリュックを手渡す。

「なんか……テれるな。ありがとな、ボンズ」

「リュックかわいいー。ありがとー!」

「ほら、さっそく使ってくれ」

嬉しそうにおやつをリュックにしまう。そしてリュックを背負う姿はまさに遠足に行く幼児そのものだ。

「よく似合うぞ」

2人はクルリと身体を一周させ、リュック姿を披露してくれた。

気に入ってくれてなによりだ。


「さて、それじゃ出発するぞ!」

『しゅっぱーつ!』

「……で、どうやって海まで行くの?」

パチの意見はもっともだ。だが、心配はいらない。

「ラテっち。頼んだぞ」

「うちゅっ! あれでもないこれでもない、あれでもないこれでもない……あった~! 【ぷかぷかたたみ~しかもにじょう(二畳)】」

「何、このタタミ」

「空飛べるタタミだ」

パチの質問にりゅうが答える。

「すごーい! 本当になんでも出てくるのね。さしずめボンズがの●太くんか」

「そういう君はジャ●アンだろ?」

「なんでよ! どうみてもし●かちゃんでしょ」

「し●かちゃんはもっと優しい!」

あえてジャ●子と云わなかったのをボンズは堪えた。

「それにしてもなつかしいな。俺もこれを初めて見た時は驚いたよ。そういえば、これ……重さ制限とかあるよな? 1枚で3人乗ったら落ちただろ。何キロだ?」

「せーげん? きろ?」

「あ……わからんか。大人は何人乗れるんだ?」

「タタミいちまいでぼんずひとりー」

俺が基準か。

そういえば、タタミ一畳で3人乗れなかったから、俺の体重と「りゅう・ラテっち・パチ」3人の合計体重がほぼ一緒なら大丈夫ということか。

りゅうとラテっちは合わせてもそんなに重くないとして、パチと俺との体重差がどれくらいあるかが問題だな。

「なぁ、パチ。君の体重は何キロ……」


この後、ボンズは常識のない自宅警備員であったことを心から後悔する。

「女性の体重を聞く」

こんな禁忌タブーすら、思いつかなかったのだから。


記憶として脳に刻み込まれた映像は、色鮮やかな藍色の着物が華麗に宙を舞い踊っていたことだけ。

空中で身体を回転した反動で繰り出す足刀。

俗に云う――「胴回し回転蹴り」をモロに喰らい、吹き飛ばされるボンズ。

店舗の石壁を6枚ほどブチ抜いたボンズは、ようやく地面に辿り着いたのと同時に意識を失った。


『かっくいいー!!』

その姿に盛大に拍手を贈るチビッ子コンビ。

髪をかき上げながら彼女は一言だけ吐き捨てた。

「死ねばいいのに」


彼女の願望は叶いそうだ。



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