第百十九話 解放
もしビキニマンたちがボンズたちに「二番手」として、先行してくれていなければ勝率は確実に減り――いや、勝算なんてなかっただろう。
彼らの犠牲を無駄にはできない。だが、最後の敵がどういうものなのか、単体か複数かさえわからない。
ただ一つ言えることは、驚異的な自己回復能力と防御力を持つビキニはき隊七人をもってしても、情報すら得ることができないほど一周で消し去る攻撃力を攻撃速度を兼ね備えているということだ。
――どうすればいいい。
「ボンズさん、作戦を練りましょう。無策で飛び込むのは彼らの二の舞になります。それに犠牲になってくれた行為を侮辱したことにもなりますから」
「優作…………大丈夫なのか? あんな話の後なのに」
「おかげさまで吹っ切れました…………と、思います。リーダー、作戦を!」
「そうだな。敵…………いや、まず間違いなくラスボスを相手にする以上、俺たちの持てる全てをブチかまそう! まず壱殿」
「わかっておる。限界まで時を支配してみせよう」
「ありがとう。パチは常に全体回復をしてくれ」
「「わかったわ。何気にコントロールできるようになったからね」
「ラテっちは補助…………いや、みんなの役に立つことをお手伝いしてくれ」
「うちゅ! ちーほーちゃんもてんほーちゃんもがんばろうね!」
「あいあいさー!」
「モキュ!」
「式さん。反動が気になるが絶絶 雅戦で見せた巨大なエネルギー波は打てるかい?」
「これが最後なんだぜ! 無茶でもなんでもやってみせるさ!」
「そうか。それとな優作、迷いは本当に吹っ切れたんだな」
「はい。勿論です」
「信じてるぞ。持てる符術の高みを見せてくれ」
「必ず!」
「最後にりゅう」
「おう!」
「(こんなこと言っても良いのだろうか。りゅうの強さは本物。だが一線を越えると諸刃の剣だ。性格上無茶を通り越してしまうかもしれない。…………そうなったら)――ううん、みんなで勝とうな!」
「あたぼうよ!」
「よし! それじゃおさらいだ。壱殿が時間を操っている間で決着をつける。パチが全員回復しながらラテっちがサポート、その守備に俺があたる。式さん、優作、りゅうで決めてくれ!」
『了解!』
「いくぞ! 余り物の集い!!」
「おう!!」
7人が扉をこじ開けた。
その先には広く四角の空間。立方体の石壁の中央に座する者。
金色の鎧をまとい三叉槍を携えた巨大な人型が紫に輝く瞳をこちらに向けて不気味さと威圧感をぶつけてきた。
「ボンズよ。このゲームで一度だけアップグレードが中止になったことを知っているか」
「知ってるさ。それが何か関係しているのか、壱殿」
「あまりにも強すぎたため企画でのみ作られた攻略不可能とされた幻のボスキャラ」
「【GOD―ハデス】だ」
「こいつが…………ウワサにはきいていたが」
「とにかく、これからこの空間――しや『ゾーン』に入れば未知数であるコイツの全貌を拝むことになる――やれるか」
「もうジタバタしても始まらない――せーの!」
みんなが一斉にゾーンに入った。
ラストバトルだ。
―なんという巨大な姿。
見上げてしまうほどの圧倒的巨神。
槍を構えてながら微動だにしない静寂が緊張感をより一層高めている。
先手に出るか、様子を見るか。思考を巡らせていた刹那――
「 よけ」
魔眼を持つ壱殿の声が届く前に目の前が光に包まれ、一筋の閃光……いや光の矢が前衛の式さん、優作、りゅうの間をすり抜け、一番後ろにいたラテっちの胸を貫通した。
「……ラテ…………っち?」
「一本場」
ハデスがポツリと言葉を発す。だが、ボンズの耳には届かない。
勢いに負けて、横転するラテっちの姿を追っていた。
何が起きたか理解できないままボンズはラテっちを担ぎ上げる。―が、瞳を開いたままピクリとも動かない。
「ご主人! ご主人!」
「モキュ! モキュ!」
地和も天和も慌てふためきラテっちに声をかけるが全く反応しない。
突然の戦闘不能だ。
「ラテっち! ラテ…………ウワァァァ!! ラテっちが!! ラテっちがぁぁぁ!!!」
初めて目にするラテっちの戦闘不能状態に動揺をあらわにするボンズ。
ラテっちの身体を揺さぶり、叫び、膝まづく。
「…………あげろ」
「え?」
「顔をあげろ! ボンズ!」
「りゅう…………」
一番辛く、ショックなはずのりゅうがハデスから一瞬も目を逸らさない。
「ラテっちなら大丈夫だ。パチがいる。みんながいる! 最後は笑って迎えるんだ!!」
この言葉に全員が一気に触発された。
シュポ―
タバコに火をつける壱殿。
「ヤツの超高速攻撃に対抗するにはこの瞬間に賭けるしかない! タバコ一本分だ! このタバコが燃え尽きるまでの間、時間の進行をほぼ『無』にした! 次はない! 絶対に勝負を決めろ!!」
三人が頷く。
優作が十八番の鏡同和を使う。
一人から二人、三人、そして最大数の四人に分裂。ハデスを四方に取り囲みそれぞれ立ち構えた。
「無茶だ! いくらなんでも四人はリスクが高すぎる! この状態でダメージを受ければ即戦闘不能だ!」
鏡同和のよる攻撃力は増えた人数まで倍増されるがHPも分裂され、そして分裂した内一人でもHPが0になれば増えた人数は関係なく全員が戦闘不能になる。
ボンズの声とは裏腹に、優作の符力量はどんどんと上昇し、四人がそれぞれ電磁波の様な符力をまとわせハデスを囲む。
ここで優作に驚くべき現象が起きる。
圧倒的符力量により、優作四人の身体が宙に浮かんだ。
「あれは絶絶 雅の堕ちた巫女が見せた特殊能力。何故優作にも使えるんだ。今まで力をセーブしていたとでもいうのか」
否――
彼女は力をセーブしてなどいない。
心をセーブしていたのだ。
親友を失ない、仲間に裏切られた。
そう思っていた。このことにより彼女の心には亀裂と迷いが生まれ、結果符術にも言動にも負荷がかかっていた。
しかし――ビキニマンたちにより真実を知った彼女に迷いはなくなり、明確な心の構築が出来上がった。
このことにより真の実力を発揮する結果に繋がったのだ。
堕ちた巫女など遥かに凌駕する符力を持って。
四人が両手を天に掲げ、ハデスの頭上に超巨大な符力の塊を生成する。
「四暗刻」
符力の塊が剣に具現化した。刃をハデスに目がけ。
「単騎!!」
振り降ろされた剣がハデスの脳天から股間まで貫いた。
ハデスは地面に固定され、重苦しい悲鳴を上げた。
「式!!」
「わかってら!!」
ドラ爆を生成し始める式。だが、いつもと様子がハッキリと違った。
「時間が無ぇ、いちいち一個ずつ作ってる場合じゃない!」
爆弾の最大値―20個を一気に作り出し両手を広げ、無理やり抑え込む。
そして爆弾のエネルギーを集約させていった。
「(こりゃ多分両手が吹っ飛ぶな。まぁいい)――喰らいやがれ! 最大級のファイエルだ!!」
最大火力のエネルギー砲がハデスのドテっ腹を貫通し、身体に大きな風穴をあけた。
優作も式さんも、先のことなんかまるで考えていない、全てを込めた一撃だ。
「りゅう君!」
「ガキンチョ!」
『決めろ!!!』
響き渡る重低音。
りゅう――倍プッシュ解禁。
「2×2で4倍だ!」
出た。倍プッシュの倍掛け。しかもいつもとは明らかに違うのは刀を鞘に納めた状態で発動した。遂に出るのか――アレが。
「さらに! 4×2で8倍だぁぁ!!」
りゅうの逆立った金髪はさらに天を貫く。
「8ば……い……8倍だと!? ムチャだ! 4倍でさえ倒れて一日寝込むのに、その倍を掛けるなんて無謀すぎる」
ミチ……ミチ…………
「なんだ…………この嫌な音は?」
ラテっちを蘇生させているパチが答えた。
「あの子の…………筋肉が切れる音よ」
「なんだって!? パチ、なんとかならないのか!」
「もうやっている!! でも、りゅうの傷が全然回復しないのよ!!」
左手でラテっちの蘇生。右手でりゅうの回復をしているパチの痛烈な返事だった。
「りゅう! やめろ……もうやめろ! りゅうを失いたくない! 頼むから!!」
「ハァ……ハァ…………ボンズ、算数楽しかったぞ」
「え…………突然なにを……」
「あの日のこと、何度夢に出てきただろう。そんなボクに、ボクたちにみんなが温かさをくれた。楽しさをくれた。笑顔をくれたんだ! そしてボクは今度こそラテっちを…………『妹』を守る時なんだ!!」
「16倍だ」
――
――――
何も起こらない。
不発……なのか?
「ふ、伏せろ!!」
壱殿が大声で叫びだした。
「文字通り嵐の前の静けさだ! チビッ子の集約された力にこの空間そのものがまるっきりついてこれていない! すぐに時空が歪み、時限振が起きる。飲み込まれたら終わりだ!!」
すると――目の前の景色が飴細工の様にグニャっと歪み、壱殿の言う通りとても立っていられないほどの地震が襲ってきた。
そして、まるで噴水の様な音がし始めたと感じた途端、りゅうの身体中からおびただしい量の血が噴き出し、トレードマークの金髪も、黒曜の鎧も真っ赤に染まっていく。
特に背中からの出血が酷い。。。酷過ぎる。
二方向に噴き出し広がる血はまるで――紅蓮の翼だ。
りゅうは気にも留めずに刀を―鞘を強く握りしめる。
「じ……じゅん」
「…………やめろ」
「じゅん…………せい…………」
「やめろーーー!!」
「純正!! 九蓮宝燈!!!」
鞘から抜かれた鮮血交じりの紅蓮の斬撃九本は飛翔し、ハデスの身体を十割に斬り裂いた。
響くハデスの叫び。
りゅうは静かに納刀する。
これは……決まった――勝った。
優作も、腕が吹き飛んだ式さんも確信する。
遂にハデスを倒したんだ。
りゅうは崩れゆくハデスを見つめながら叫んだ。
「ボンズ! みんな!!」
ゆっくりと振り向いてニコッと笑う。
「りゅう!!」
「………………………………ごめんな」
次瞬、光の矢がりゅうの胸を貫通した。
やっと更新できました。情けない限りです。
よかったら、感想など下さい。
よろしくお願いします。