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第百十八話 落涙

 


 会場が沸く。余り物の集いザ・ラスト・ワン・パーティーの勝利に。だが相反して静かな闘技場上。

「さ、優作。次の闘いが始まる。ここから出るわよ」

「…………はい」

 二人が肩を寄せた―その時だっだ。


「タ リ ナ イ」


 なんだ、今の声は。いったいどこから……

 すべてのプレイヤーの耳に残る謎の声。しかし、その声は再び響き渡った。


「タ リ ナ イ」


 辺りは静まり返り、その声がより一層強く広がる。

「いけません! GM(ゲーム・マスター)! まだ、その時ではありません!!」

 NPCノン・プレイヤー・キャラクターレフリーが宙に向かって叫ぶも謎の声は再び鳴る。

 次の時――

 会場中が大きく揺れ始めた。どんどん揺れは強くなり、闘技場のボンズたちも立っていられなくなった。

 と、ここで七つの影が闘技場に映りだした。

「無事か!!?」

 なんと、ビキニはき隊が闘技場へ飛び移ってきた。

「ピンク!」

「ブラック!」

 この登場はりゅうとラテっちを安心させるのに充分な演出だ。二人の不安は一気に解消された。

「これはただ事ではない。さっきNPCノン・プレイヤー・キャラクターレフリーがハッキリと『GM(ゲーム・マスター)』と叫んだ。動き出したのかもしれん、最後の敵が!!」


「タリナイ!」


 再び響く謎の声。―と、同時に観客席が大量に発生した黒い霧に覆われプレイヤーたちを次々に飲み込んでいった。

「なんだよコレ」

「た……助けてくれ!」

 悲鳴があちらこちらに起きるものの、黒い霧はさらに広がり続け、最終的には闘技場以外の全ての空間を飲み込んだ。

 残されたのは闘技場にいる余り物の集いザ・ラスト・ワン・パーティーとビキニはき隊の14人のみ。

「おいおい、なにがどうなってやがる。オレたちだけになっちまったぞ。このままじゃ…………ん? なんだアレは」

 式は闘技場のど真ん中に白く発光する浮遊した球体を指さした。

 その間も黒い霧は闘技場まで浸食していく。

「飛び込めーー!!」

 ビキニレッドが叫び、14人はいっせいに球体にジャンプし、そのまま球体に吸い寄せられ、飲み込まれていった。


 ――


「ここは…………」

 ボンズが気付くと、そこは夜空に包まれた星明りで照らされた『空間』だった。

 あるのは一つの巨大な扉だけ。

 目の前に構える扉は誰がみてもわかる。――最後のクエスト……いや、闘いだ。

 遂にここまで来た。

 最初の1万人から残すは14人。終止符を打つ時だ。


 問題はある―どちらが先に挑戦するか。


 ハッキリ言って、この二択は安全装置もなければネットもない極細の綱渡りのようなものだ。

 勝率はほぼ無。

 正直なところ、ボンズは自ら名乗り出ることを躊躇い、かすかに震えていた。


「――それじゃ、行こうか」


 なんの躊躇いもなく、ビキニレッドが口火を切った。

 先発に戸惑っていた矢先のビキニレッドの言葉、そしてあまりにもの潔さからボンズも思わず口を開いてしまう。

「待ってくれ! この <DIRECTION・POTENTIAL=ディレクション・ポテンシャル>は今までアップ・ロードされた中にも『ラスボス』なんて存在していなかった。

 全くの未知数なんだ。それなのに、なんで躊躇いもなく捨て駒になる真似をするんんだ!」

「君もここが最終の舞台だと気付いたか」

「嫌でも気付くさ――死ぬぞ」

「わかっている」

「ならどうして!?」

「『謝罪』と『願望』…………かな」

「え?」

「闘いの前に話をしよう。我々からの謝罪から、真実を…………涙を浮かべたままの少女に」

「それって、優作のことか」

「あぁ、そうだ」

 仇をとるも虚無感から泣き続ける優作に対して、ビキニはき隊の七人は同時に頭を下げた。

「ど……どうして?」

 困惑する優作にレッドが告げる。

「当夜君と只人君だね。君の親友は」

「なぜその名前を知っているのですか!?」

「君たち三人が襲われたあの夜、偶然にも我々もその現場に出くわしたのだ」

「なんですって?」

「二人が優作君を逃がしたとき、我々は遠くからの叫び声を聞きつけ急いで向かった。その時はもう――祝儀を持っていない我々はせめて鉄槌を下そうとしたのだが、カオルをいう青年の覚悟を見て思いとどまってしまったんだ。

「カオルが…………なにを?」

「泣いていた。地べたに頭をこすりつけてな。優作君だけは生かしてほしいと懇願しながら」

「嘘……嘘だ。な、なんでカオルがそんなことをしたんですか!?」

「ウワサには聞いていたが『絶絶(ぜつぜつ)』の真の目的はをその場で改めて知った。それは『クエストで消滅したプレイヤーはGM(ゲーム・マスター)に喰われ、そのエネルギーを自分のものにし、より一層の強さを身に着けてしまう』ことを阻止することにあった。いずれ迎える最終決戦までに少しでも敵戦力を削ぐために。だからPK(プレイヤーキラー)――プレイヤー同士による【アウトオーバー】はGM(ゲーム・マスター)に喰われない。そんな悪魔的崇拝を持った集団……それが絶絶(ぜつぜつ)だったのだ。ただ、純粋に信じる者もいれば、単に狩りを楽しむ者もいた。カオルという青年は前者だった。彼の信念が我々を動かさなかった。ただ、もし自身の道が誤っていた時に優作君がきっと己を止めてくれると信じて、君を生かすことに全身全霊をこめたのだ」

「それは――本当に真実なのですか」

「あぁ、こんなことを第三者が言うのはおこがましいかもしれない――でも聞いてほしい。

 バイキンマンの台詞を借りるなら『悪には悪の正義がある』んだ。だから彼は信じた。きっと優作君が道を切り開いてくれるのだと。だから涙を流してまで君に未来を託した。かつての仲間に手をかけ、それでも『せめて、せめて彼女だけでも生かしてくれ』と願い吠えた。

 もし己の道が誤っていたら、もしかしたら己を止めてくれる――と、思っていたのかもしれない。そして彼は身をもって証明した。正義の反対は悪ではない。正義の反対は『平和』なのだ。皆、己に正義を持っている。方向が合うか違うかだけだ。もし全てが平和なら互いの正義を名乗り、信じ貫き、正義の名の元の戦い、争いは起こらない。――だから、何も起こらないためのヒーローになりたかった。   ここから先は願望の話になるが、そんなヒーローを子どものころから夢見ていた。今の自分から変身したくて、でも怪獣をやっつけるんじゃない。肩を並べて笑い合えるヒーローに。それならばゲームの世界で叶えようとこのパーティーは結成された。そして今―夢が現実となっている。廃業できるカッコよくて子どもたちに夢を与えられるヒーローに、な」

「ビキニマン……」

「それにな、ヒーローで一番カッコいいのってなんだかわかるかい?」

 ビキニレッドがボンズの胸に拳をあてる。

「仲間のために命を張ることだよ!」

「出会ったばかりなのに、仲間とよんでくれるのか」

「もちろんだ。優作君の、いや君たちのためならどんな犠牲も背負って見せる。だから君とフレンド登録してチャットをオープンにしておいてくれ。この闘いにてできる限りの情報を集めてやるさ」

 このやり取りをきいていたりゅうとラテっちは心配そうな顔で近づく。

「いっちゃうの…………?」

「また一緒にポーズとれるよな!」

「子どもたちの未来は必ず守る! 約束もな!」

 ビキニレッドは両手でりゅうとラテっちの頭を撫でた。

「自分からもいいですか」

「優作君」

「待っています。真実を教えてくれたアナタたちを。しっかりお礼がしたいです」

「あぁ。わかった!」

「なぁ…………一言いいか」

「なにかなボンズ君」

「ヒーローに憧れない男なんていない!」

 ビキニマンたちは親指を立て拳を突き出し『ありがとう!!』と言葉を添え、扉に入っていった。


 ものの数分後のことだった。


 チャットから悲鳴が響く。

「レッド、聞こえるか!?」

 驚くボンズの呼びかけに答えが返る。

「まさかここまでとは……すまん、我々の手には負えないようだ」

「どういうことだ!?」

「情けない……カッコつけておいて、自慢の強固な身体がまるで意味を持たない。速く、強く、何もできない攻撃だ」

 チャットからは叫び声が一人、また一人と聞こえてくる。

「確かに最後の相手だ…………強いぞ。だが、君たちなら必ず倒せる。己を信じろ――あとは、頼んだぞ。それと子どもたちに『約束を守れずにすまない』と、謝ってくれ…………」


 ――チャットが途絶えた。


 同時にプレイヤーリストから七人の名前が消滅していった。

 残すは余り物の集いザ・ラスト・ワン・パーティー

 あとは扉を開くのみ。

 覚悟はできた。


 すると、ラテっちがカバンからビキニマンのサインをとりだし服の中にいれた。


「いっしょ」

「そうだな」






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