第百十五話 利手
九蓮宝燈対十三龍門
いや、ドラゴン対決はりゅうに軍配が上がった。
「何をしたのかまったくわからなかった」
優作もあまりの光景に驚愕している。
「りゅうが……あの子がボンズを傷つけられたことで完全に非情に徹した」
パチもりゅうの姿に目を疑いながらもボンズの回復に向かう―と、そこへ。
「ここは通さん!」
立ち塞がるは百鬼夜行の夜桜。
「またお前を貫き、今度こそアウトオーバーにしてやる。神酒、急いで黄龍を回復するんだ。月城は壁になり、操は弾幕を張って援護だ」
『おう!』
絶絶 雅のメンバーは各自配置につく。
「まさか、あの黄龍がやられるとは…………だがしかし、アウトオーバーになっていないのなら、まだ闘える!」
十六夜の声に対し、壱が泣き叫ぶ黄龍の姿を見て思いふける。
「(無理だ。たとえ回復しても、もう十三龍門は二度と扱えないだろう。イメージ構築が必須なこの世界において、あやつの受けた心的外傷はあまりにも大きすぎる。もはや以前の状態にもどることはないだろう)」
絶絶 雅のメンバーは各自それぞれの役割を果たそうと黄龍の元へ集中するさながら、夜桜が回復役のパチに再び牙を向ける。
「回復のお前さえいなくなれば俺たちの勝ちだ! くたばれ!」
見えざる槍が再度彼女を貫通してしまった。
―はずだったのに。
「あーわかった。ようやく謎とけたぁー。なんで符術が暴走するのかひそかに不思議だったのよね。そうかぁ……一点に両手同時に同じ符術を唱えるのがダメだったのか。ちなみに私ももっているのよ、それ」
「なっ、なに!?」
「その2つの符術を使えるそれ。左……なんだっけ?」
なんとパチは左手で己に回復符術をかけ、右手には符力を集中させ槍をつかんでいた。
「そうか! 以前、賭場にて『とある景品』をもらったとは言っていたが、左手芸のことだったのか」
一部始終を見ていた壱も、思わず唸る。
「これはうってつけだ。なにしろパチは―左利きだ」
夜桜は槍を抜こうとするもビクともしない。
「あぁ、そうそう。人間の身体に鋭利なモノを刺してくたばらせたいなら、確実に『臓器』を狙わなくちゃ意味ないの。ネタバレしたその武器でやられるほどマヌケじゃないのよ」
「くっ、ダメだ、抜けん」
すると今度は見えない槍を少しずつ、そして強引に身体から抜いていき、血液の付着した部分をつかみ取り、片手で握りしめ、握力のみでへし折った。
「うそだろ!?」
驚く暇を与えず夜桜に抱きつくパチ。いや、正確にはベアハッグをかました。
「つーかまーえた」
両腕で夜桜の身体から両腕までホールド。
数舜後―
闘技場中に「ゴキャッ!」っと、にぶい音が響いた。
同時に悲鳴を上げる夜桜。
両腕、肋骨、背骨までもおり曲げられたのだ。
そう。パチの真に恐ろしいところは常人離れした『怪力』だ。
そのまま夜桜を投げっぱなしジャーマンで闘技場外へ投げ飛ばす。
有無を言わさずアウトオーバーを喰らわせた。
唖然とする絶絶 雅。
その隙に、りゅうとラテっちがボンズをパチの元へと引っ張っていった。
「早く! たのむよパチ!」
「ぱち~」
涙を浮かべる2人に対して。
「まかせて! こんなのすぐに治してあげるから泣くんじゃないわよ!」
『うん!!』
完全に虚をつかれたものの、絶絶 雅たちは黄龍へのフォーメーションは完了した。
「仕切り直しだ!」
だが、男はつぶやく。
そいつは通らねぇな。