第百九話 開戦
7人対7人―14人のプレイヤーが闘技場に立ち、NPCレフリーから戦闘開始を知らせる合図と、同時刻に起こった。
ある者が両側にいる仲間たちを突き飛ばし、叫んだ。
「離れろ」―と。
発光する巨大な鳥居が出現し、その者を包む。
その名は―「壱」
孤立した状態で符術をまともに受けた。
その符術により、身体を拘束される。
しかし―彼は冷静だった。
己の呼吸を確認し、心肺機能及び消化器官に至るまで正常と判断。脈拍や血圧、体温も平常。
「あ……あ……」
発声もできる。
眼球も動く。
首も、多少ではあるが上下左右に振れる。
だが、手足を含む身体機能。何より能力を完璧に封じられた。
「これが『絶一門』か」
眼前に立つのは百識の十六夜。
黒色の作務衣の様な装備の黒短髪の男。その右眼は紫色に輝いている。
『北』の真骨頂―魔眼による完全拘束である。
「貴様、何故ワシを狙う?」
「ハッキリ言おう。この7人の内、最も恐ろしいのは【九蓮宝燈】の少年でも、コロシアムの覇者でもない。お前だ! 壱―いや、『一握の夜事変の首謀者』よ。両目とも魔眼だと? ふざけるな!」
「これはこれは、過大なる評価を頂き、光栄……と、言いたいところだが、ワシの能力を
知る者など、そうはいないはずだがな」
「今のパーティーを組む前に、別のプレイヤー達と組んでいたことがあるだろう」
「確かにな」
「ソイツらから聞き出したのさ。お前の能力をな! その気になれば、お前1人で黄龍以外の仲間たちを消せる。簡単な話だ。北のプレイヤーといえどナイフくらいは持てる。能力を使い心臓を突く。これで終わりだ。そんなお前を何より優先して止めねばならない―『10分間』これが俺の限界だ。この時間内で仲間たちが勝つのを信じている! この10分は絶対に譲れない!!」
「なるほどな。1つ尋ねたい、ワシの能力を知る者たちはどうなった?」
「消した。無論な」
「……そうか。なぁ、絶対に反撃しないと誓うから10秒だけこの絶一門を解いてくれないか。タバコが吸いたい」
「馬鹿にするなよ」
「わかった、わかった。そう興奮するな。(さて、皆はどうなったか)」
最初の図式は壱対十六夜。
次に図式を広げたのはボンズ対カオル。共に方位も装備もレベルまでも同じ者がぶつかり合う。
それだけに、力量の差は個人レベルで決まるこことなる。
2人が距離を詰める。
「ずっと君と闘いたいと思っていた」
「それはどうも。だが、俺は思っていない―何故優作たちを裏切った!」
「裏切ったつもりはない。元からこうなる予定だった。そして今、実現しただけの話だ」
「……絶対に負けねぇ」
緊張感が高鳴る。
もうすぐ手が届く位置まで近づき、静止。
数舜、睨みあう。
ボンズが視線をゆっくりと右に移す。
―と、同時に逆方向へ飛び出した。
「まず距離をとる。そこから――なにっ!?」
カオルはボンズの速度にピタリと追いついてきた。
「うそだろっ!!?」
様子を見ていた壱も驚嘆する。
「ボンズが驚くのも無理はない。アヤツの特筆すべきは『速度』―それだけには留まらないのは100mを走る速度ではなく、初速から最高速度を出せる爆発的な瞬発力にある。それに加え、視線のフェイクを入れたにも関わらずに追いついてきた。カオルという男……只者ではない!!」
ボンズとカオルの一騎打ちが始まった直後、闘技場中央にて『とある2人』による攻防が起こり、会場中をどよめかせていた。
小さな黒い物体がクルクルと宙を舞い、リングの角へ着地した。
りゅうである。
相手はもちろん『神に最も近い男』―黄龍。
今実現した『天に愛されし者』同士の闘いである。
「さぁ、我に膝まづくがよい。堕天使よ」
「あいかわらず何言ってんだかわっかんないなぁコイツ」
「喰らいつけ! 下僕どもよ!!」
13匹の死霊が一斉に襲い掛かる。だが、りゅうはこの死霊たちを斬り伏せた。
「ほぉ、死霊を切り落とすとは、流石は【九蓮宝燈】だけのことはある。誇ってよいぞ。これまで誰一人として我も、この死霊たちにさえ傷つけることすら敵わなかったのだからな! これは楽しめそうだ」
この2人。
迫力が違う―
圧倒感が違う―
誰も割り込めないことを、たった一度の攻防で把握させた。
「凄いな……あのチビッ子と互角に渡り合える者など存在しないと思っておった」
壱の呟きに十六夜も反応する。
「それはコッチの台詞だ。まさか黄龍と1対1で闘えるプレイヤーなんていないと思っていた。あの『千億の絶望クエスト』でさえ黄龍1人で1時間もかからなかったんだぞ」
「だが、この均衡はやがて崩れる……何故なら―」
この時、「壱対十六夜」・「ボンズ対カオル」・「りゅう対黄龍」の闘いが始まっている中で、もう1つのカードが行われていた。
「式対操」である。
ビキニはき隊対ドサンコレンジャーのような総力戦での闘いと対照的に、1対1のマンツーマンが主な図式として描かれていた。
そしてコロシアムの闘いにて絶絶 雅の代表者として闘った弾丸少女の戦闘スタイルは周知として、その後コロシアム通路でいざこざを起こした際に爆弾を使用する寸前だった式。
小さなトラブルではあるが、互いに銃火器のスペシャリスト同士である。
リング中央に壱。
そのリングのおよそ3分の1を駆使しているボンズ
さらにリングの角でりゅう。
そして、式と操は中央から視線を逸らさずに横へ移動し始めた。
十数歩―操が銃で式を狙撃。
式の眉間へ一直線に弾丸が走る。
「もらった」―と操が確信した次の瞬間だった。
凄まじい爆発により弾道がそれたのだ。
「なっ…………」
「操が驚くのも無理はない。
式は爆弾による破壊力を一方向のみに調節することで音速の鉄の塊をかわしたのだから。
「へぇ、私が『射撃のプロフェッシャナル』のように、アンタも『爆発のプレ』ってわけね」
式が少しため息をつく。
「射撃のプロ? 笑わせるなよ。確かにその細腕でコルト・ガバメントを使いこなすのは大したものだ。だが、アクションがデケェんだよ。オレを射撃―いや、狙撃したければ次元大介か野比のび太を連れてくることだな」
「そう。それじゃ、コレはどう?」
操はコルト・ガバメントからM16へ持ちかえた。
「ますますもってロマンのねぇヤツ」
M16で連射―「これはかわせないでしょ?」
―と、同時に地面から爆音が響く。
闘技場の岩盤がめくれ上がり、弾丸を防ぐ盾となった。
「そいつぁ通らねぇな。『裏ドラ―発動』」
7人対7人。
すでに4組の闘いの火ぶたが切られた。
続きは次回!




