第百八話 天地
闘技場に立ち尽くす7人。
半次郎の最期の置き土産『天和』―ラテっちが手に取ったことで遂に天和と地和がそろう。
アイテムの神具が。
「ところでラテっち。ずっと気になっていたんだけど地和はどうしたの? ずっとラテっちから離れないように命令してあったのに、ずっとみてないのよ」
「あっち」
パチの問いにラテっちが観客席を指さす。
「!! あの猫、寝そべりながらワンカップ片手にテータラ食ってやがる!!」
怒れるパチに気づいた地和は「フフン」と鼻で笑いながら手(前足?)でフリフリと「あっちいけポーズ」をとる。
するとパチは急に穏やかになり「オーイ、オーイ」と地和に向かって手を振り返す。
「んにゃ?」
その様子をダラけながら見ている地和にパチが一言。
「猫って、喰えるのよ」
次の瞬間、地和は音速を超えてジャンピング土下座をしながら突進し、パチの足元へ滑り込んできた。
「カンニンや! カンニンしてぇな! ホンの出来心やったんや! 命だけは……命だけは~!!」
「ハハハ、いくらパチでもそこまでしないだろ」
「(ちがいますよ式。パチさんはやると言ったら必ず殺ります)」
「ところでアンタ。なにその喋り方……前はそんなエセ方言使っていなかったでしょ?」
パチの問いに地和は―
「……キャラ付け」
「今更!?」
「いやぁ、これからは自分の『色』っちゅうのを出そうと思いやして」
「もう絶対許さない! 文字通り身ぐるみはがしてくれる!」
「やめて~」
「まぁまぁパチさんや、ここはラテっちのかおにめんじてゆるしてたもれ」
「たもれっ!!?」
「ふぉっふぉっふぉ」
「……まぁいいわ。今度からはラテっちのそばから決してはなれないこと! 次また勝手なことをしたら本当に全身の毛をむしり取るからね!」
「はいーー!!」
「それじゃラテっち。地和を頭にのせるわよ」
「まってくだちゃいパチえもん。たまごがわれそうでちゅ」
「―えもんはラテっちでしょ……って、もしかして生まれそうなの?」
「うん」
「どうなっているの?? なんで急に」
「恐らく地和と共鳴したのだろう。離ればなれだった『天』と『地』が揃ったことで、遂にその姿を現す。今がその時のようだ」
「壱殿……」
そして、ラテっちの両手で光る卵が割れた。
周囲が光に包まれる。
天和が―誕生する。
「………………モキュ?」
大人4人は顔に暗い影を落とす。
『なんか……すっげぇ頼りなさそうなのが出てきた』
残った未成年3人。当事者のラテっちにりゅうと優作が大人たちとは相反して喜びを見せる。
「おほぉ~ちっちゃいねぇ~わんちゃんかな?」
「モフモフしてそうだな。小さくて毛玉みたいだ」
「可愛い! ラテっちちゃん。触らせてください!」
大はしゃぎだ。
キョロキョロする生まれたての天和はラテっちに向かってニッコリと微笑む。
「ふむふむ。これからはずっといっしょでちゅよ」
―と、天和はラテっちの両手から腕を渡って、頭に乗っている地和のこれまた上に重なるように座りだした。
「ちょっと……おもいでちゅ」
フラフラするラテっちを見て、優作とパチが天和と地和を抱きかかえる。
「パチさん。こういうのはどうですか?」
「いいわね優作。それじゃ、こうしましょう」
2人でラテっちを囲みアレコレしている。
『ジャーン!!』
優作とパチがラテっちをお披露目。
ラテっちの顔を中央に、右肩に天和、左肩に地和を乗せ、まん丸なのが3つ並んだ。
それを見て―
「ギャーーーハハハ!! 兄弟だ! だんご3兄弟だーー!!」
「こ、これ式よ。そん、オホン。そんなに笑っては悪かろう。ましてや指をさすなど失礼ではないか……プップ」
式さんは転げまわり、壱殿は笑うのを必死に堪えている。
一方ボンズはうつ伏せの状態で身体を小刻みに揺らし、りゅうは子亀のようにボンズの背の上で、同じくうつ伏せで耳まで真っ赤にしながらプルプル震えていた。
それを見ていたまん丸3つは口をさらにまん丸にさせて、首を傾げながら不思議がっていた。
「ま、まぁよい。取り合えず次の闘いが始まるだろう。我々も闘技場から出なければ―」
「待って下さい余り物の集い」
NPCレフリーが壱殿を静止する。
『――?』
「連戦です」
「なんだとっ!?」
「これは厳選な抽選によって決められたこと。決定事項なので拒めません。もし断るのであれば全員即【アウトオーバー】です」
「わかった。それで、次の相手は?」
レフリーがマイクを持つ。
「皆様お待たせしました! 次のカードは余り物の集い対『絶絶 雅』です」
―遂にというか、ようやくというのか、優作の……いや、俺たちの因縁の相手が目の前に現れることとなった。
観客席から「7人」が闘技場へと歩み寄る。
「そでれは紹介しましょう!」
「『弾丸少女』―操」
「『百識』―十六夜」
「『雷鳴』―カオル」
「『堕ちた巫女』―神酒」
「『百鬼夜行』―夜桜」
『鐵』―月城」
「そして、『天に愛されし者』にして『神に最も近い男』―黄龍」
―彼らが近づいてくる。
距離が縮まるにつれ、明らかに優作の様子が変わっていく。表情は強張り、肩は―震えていた。
そんな彼女に式が肩をガッチリと抱き寄せる。
「大丈夫だ! 絶対に勝つぞ!」
「式……」
「そだそだ~まけないぞ! ケーキの兄ちゃんたちのカタキをとってやる!」
「でちゅー!!」
「りゅう君……ラテっちちゃん……フフッありがとね」
「よかった。闘う前から気負ってしまってはどうなるかと心配していたが、どうにか持ちこたえてくれたな」
「壱さん……」
「早速で悪いのだが、同じパーティーを組んでいた『カオル』という男の特徴や戦闘スタイルなどを分かる範囲でよい。教えてくれ」
「はい、方位は東南。闘いはボンズさんと同じ近距離線が主流で、戦闘スタイルは『マーシャル・アーツ』です」
「マーシャル・アーツかぁ……」
「っ!! 流石はボンズさん! 博識ですね!」
「えっ!!? あ……ま、まぁな」
「(どーしよー! 流れに任せて思いっきり知ったかぶりしちゃった。そんなの全然知らない。ラテっち風に言えば『じぇんじぇんちりまちぇん!』だ!!)」
「マーシャル・アーツ。アメリカ海兵隊の近接格闘術となればボクシングスタイルのボンズより文字通り手数は上回り、攻撃も多彩だ。ボンズよ、拳はもとより『蹴り』にも充分気を付けるのだぞ」
「わかった!」
「(壱殿、ナイスアシスト!)」
「さてと、問題はここからだ。チビッ子、コロシアム通路で白装束を羽織った男が放った技を覚えているか?」
「ぜんぜん!」
ちょーむねはってる。
「……まぁよい。あの黄龍というはチビッ子と同じ神具を持つ者。その正体は身体に13匹の龍をまとわせた『死霊使い』だ」
「大丈夫だ、まだ食べたことありません! こんどボンズに作ってもらわなくっちゃ!!」
「ほ、本当に頼むぞ」
「うん!!」
NPCレフリーの声が会場中に響き渡る。
「それでは全員揃いました。これより『余り物の集い』対『絶絶 雅』の闘いを開始します!」
パーティー名、ルビが収まらないので最初の呼び方に戻しました。
あと、北の能力の一つ、壱殿が使う魔眼も、この呼び名に統一します。
申し訳ありません。
これからも、よろしくお願いします。




