番外編 遅咲きの夜桜と、こどもの日
「ぼーくはきょうもー、おさんぽです! ラテっちと一緒におさんぽです! ボンズー、たっだいまー!」
「おかえり!」
「きょうもラテっちはいいこにしてまちた! えらい?」
「うんうん!」
「ゴホン! それはそうと、今日は『こどもの日』だな」
「うわっ! 突然出てきたと思ったら、一番似合わない最年長が言い出しやがった!!」
「まぁよいではないか。いやぁ、もう花見の時期だな」
「遅いよ!! もうG・Wだよ!! りゅう風に言えば『何言ってんだコイツ!』だよ!!」
「まぁまぁ、ここはゲームの世界。一年中、四季が楽しめる『ソーズ』があるではないか。そこの一本桜で花見といかないか」
「まぁ、それはいいけど……なんか、前にもこんなことあったような……」
―ご愛敬。
「なぁ、壱殿。たしか、こどもの日って……」
「そうだぞ、チビッ子。主たちが主役の日だ!」
「おぉ!! 主役だぜ!!」
「しゅやくだじぇい!!」
「そこで提案なのだがボンズよ」
「アンタは主役じゃないでしょ!!」
「寿司が食いたい!!」
「話聞いてねぇ!!」
すかさず、りゅうとラテっちが飛び込んできた。
「おすしか! 食べたいぞ!!」
「おすしー!」
2人が喜んでいるんと、すかさず、式さん・優作・パチが割って入る。
「いいな! 寿司食いたいぞ!」
「自分も、お寿司大好きです!」
「早く作れ! 犬」
「―えっとだ、取り合えず代表で壱殿。ちょっと一歩出なさい」
「なんだ?」
「寿司舐めんなよ! 作れる訳ないだろ! 何年修行すると思っているんだよ! それはアンタが一番よく知っているでしょうが!!」
「……だが、ボンズの腕ならば……」
「無理なものは無理! それとも、シャリをプラスチックの容器に詰めて作る寿司でもいいのか!?」
「それは駄目だ! シャリが死んでしまう!!」
「だろ? だから、諦めなさい」
「おーい、皆の者。ここに並んでくれ」
6人がボンズの前に並ぶ。
「??」
「せーの」
『しょぼん!!』
「練習したよね!!?」
「どうにかならんか? ボンズ」
「あたちも、おすしたべたーい!!」
「ボクもだ!!」
「2人とも……うー、そうだな~折角の主役だもんな~」
みんながボンズに期待の眼差しを向ける。
「取り合えずだ。どちらにしても少し時間をくれ。昼飯は蕎麦をうっておいたから、みんなで食べててよ。つゆは地下に土瓶で寝かしてあるから」
そう言い残し、ボンズは出かけて行った。
「ねぇ、壱殿」
「言いたいことは物凄くわかるが、一応聞くぞ。パチ」
「蕎麦も相当修業が必要のはずよね。矛盾してない? つゆも手作りだし……」
「これは考えたら負けだと思うぞ」
一方ボンズは市場に出向いていた。
「ネタは良いものを揃えられそうだけど、肝心のシャリがなぁ……どうしよう。何度か『おから』で練習したことはあるけど、うまくいかなかったからなぁ」
悩むボンズ。
「―――そうだ! 難しく考えなければいいんだ!!」
蕎麦を食べ終えた6人のもとに、ボンズからチャットが届く。
「今夜、一本桜で待つ」
こうして、日が暮れるのと同時刻に6人は一本桜へと向かった。
そこには、すでに大きなお座敷シートが広げられており、傍らに設置されていた『かまど』は、もう炊き上がる米の良き香りと、名だたる銘酒が並べられている。
更には、炭火を浴びた金網に、油の入った鍋まで用意されていた。
だが、ボンズの姿が見当たらない。
すると―
「おーい! みんなー!」
ボンズが大きな荷物を抱えてやって来た。
「待った?」
みんなが首を横に振る。
「よかった。それじゃ、始めようか! 花見を!!」
「それはよいが、肝心の寿司のほおうはどうなった?」
「あぁ壱殿。準備万端だ!」
そう言うと、荷物から大量のクーラーボックスを取り出し、その中には新鮮そのものの様々な海産物が並んであった。
「これは凄い! 絶景だ! ―しかし、問題の『シャリ』はどうするのだ?」
「それは、自分自身で作って楽しむんだよ! 『手巻き寿司』でな!」
「なるほど! その手があったか!!」
そしてボンズは大量の正方形型の海苔をみんなに渡す。
「どれどれ―」
壱殿が一枚の海苔に手を出し、味見をする。
「おぉっ、良い食感だ! どうって作った?」
「たくさんの小さな穴を開けて軽~く炙ったんだと」
「ほほぅ、なるほど。素晴らしい手間だ」
「さて、お米も炊けたようだし、酢飯を作るのを手伝ってくれ。誰か、『うちわ』をあおいでくれないか」
「はい! 自分やります!」
「助かるよ優作。頼むよ」
酢飯完成―
「そうだ。寿司に合うように日本酒も用意しておいたんだけど、りゅうとラテっち、優作はジュースでいいか?」
「何言ってんだボンズ。おスシには、あつ~いお茶だよ!」
「おちゃちゃ~!」
「そうですよボンズさん。フフッ」
「わかった! それじゃ、お茶も用意しないとな」
「ところでよボンズよ。『ワサビ』は用意していないのか? お子様たちに合わせたのか」
「フッフッフ―いい質問だな式さん。今日は良いものが手に入ったのだ!」
「良いもの??」
「ジャーン!! 天然の『山ワサビ』だ! ワサビはすりおろしたてが一番旨いし、作り置きすると風味が落ちる。だから寿司を作る直前ですりおろすんだよ!!」
「流石はボンズ! わかっておる!!」
思わず壱殿が唸る。
「では早速だが、最初の一品は『ワサビ巻き』にしてくれないか」
「ワサビ巻きって、なんだ??」
「おぅチビッ子。その名の通り、ワサビだけを巻いたワサビが主役の巻き寿司なのだ!」
「へぇ、からくないのか??」
「上物のワサビだと、堪らない旨さなのだ! ささ、勿体ぶらずに頼むぞ!」
「了解! それでは海苔にシャリをのせてくれ」
準備が整い、すりたてのワサビをのせる。
「くぅぅ~コレだ!! コレだぞ!! コレが食いたかった!! いやぁ、堪らなく旨い!! これは酒がすすむわい!!」
歓喜する壱殿。
その姿を見て―
『ゴクリ!』
「ん? りゅうとラテっちには少し早いぞ。刺激物は良くないし、お昼のお蕎麦にもワサビは入れていないんじゃないか??」
『ぶーぶー!』
ふくれる2人。
「わかったよ。それじゃ、ほんのチョットだけな」
米粒の半分ほどのワサビをなめる
―と
『あぁばばぁーー!!』
真っ赤な顔をしながら地面を転げまわる。
「りゅう君! ラテっちちゃん! お茶です!」
湯呑をつかみ、ごっくんと飲む。
「優作、それ、淹れたて……」
『おぉぢゃぢゃ~~!!!』
ビリヤードの球のように、丸まりながら加速して転がりまわる。
必死になっている本人たちには悪いが、見ている側には面白い光景だ。
「2人とも大丈夫? ほら、『ミルク』よ」
「ありがどう、パチ」
『もぎゅもぎゅ』
「―て、『ほにゅうびん』じゃにゃいか!!」
「ばかにちゅんなよ!!」
「はいはい、冷たいお水よ」
『ゴクリ! ふー、じぬがどおもっだ』
「落ち着いたか2人とも。それじゃ、みんな! どんどん好きなネタを言ってくれ!」
「ボンズ! ウニくれ! ウニ!!」
「あいよ!」
「自分はイクラがいいです!」
「了解!」
「大トロ! 山ほど頂戴!!」
「ワガママめ!」
「カレイのえんがわ! すこしアブってくれ!」
「通だねぇ!」
「たまご!!」
「うんうん!!」
上機嫌のみんな。だが気になることが―
「ところでボンズよ、気になっていたのだが、炭火と熱した油は何に使うのだ?」
「それはね―今日は『北国祭り』だからさ!」
『北国??』
「そうさ! まず、手始めに―と」
ボンズがとある肉を焼き、たちまち香ばしいにおいが広がる。
「肉巻きか。邪道な気もするが……」
「まぁ壱殿、食べてみなって」
棒状に切られた肉を巻いて食べると、あらビックリ。
「むぅ~! 肉の甘さと、あふれ出す肉汁が酢飯と絡まって合うことこの上ない! この肉はハラミにも似ているが、何か違う」
「『牛サガリ』だよ」
「成程!! だから『北国』か!!」
「それだけではないぞ! お次はコイツだ!!」
別の肉巻き寿司を、思いっきりほうばる。
「これはわかったぞ! 極上の厚切り牛タンを炙って巻いたな! 恐れ入ったぞ!」
「壱殿だけズルいぞ! ボクにもくれ!」
「あたちも!!」
りゅうとラテっちも肉巻きを口いっぱいにほうばる。
『うまし! うまし!!』
とても満足げだ!
「まだまだ始まったばかりだ! お次はコレだ!!」
ボンズが取り出したのは―
「ズワイガニ・毛ガニ・たらばガニの三種盛り合わせだ!!」
『うっひょぉ~!!』
チビッ子2人が目を輝かせている。
「身はボイルして取り出しておいたから、好きなだけ食べてくれ! ズワイとたらばの足は焼き用にのこしてあるから!」
「ねぇねぇボンズ―『毛ガニ』ってことは、当然『甲羅』もあるんでしょう」
「当り前じゃないかパチ。カニみそは駄目な人もいるかと思って、あらかじめ身とミソも分けてあるし、ミソ入り甲羅も用意してある! アレがやりたいんだろ?」
そういうと、炭焼き網の上に毛ガニの甲羅を乗せ、トクトク日本酒を注いだ。
「これこれ!!」
すっとお酒を口に移すパチ。
「至福ぅ~!! もう最高!!」
その姿に思わず喉を鳴らす未成年3人。
「ズルいぞ!! ボクものみたい!!」
「そうでちゅよ!!」
「羨ましすぎます!! ボンズさん。自分たちにも他にないんですか??」
「フッ、こんなこともあろうかと用意しました! 『絶品! カニの甲羅揚げ!!』」
「それで油の入った鍋があったのですね。でも、カニの甲羅揚げってほとんどグラタンみたいではないですか。自分はあんまり……」
「そういうな優作! 言っただろ? 『本物』って。北国の力を見せてやる!」
完成した揚げたての甲羅揚げを口にする3人。
―思わず唸る。
「コレがあの『甲羅揚げ』ですか!? すごい……カノの身がギッシリ詰まっていて、それでいてフワフワ―とても美味しいです!!」
「だろ!」
フッと目を移すと、りゅうとラテっちはすでに食べ終わり、ブンブンと中身がなくなった甲羅を振って、おかわりのおねだりをしている。
「わかったわかった」
―みんな、とても楽しい一夜をすごした。
「くっはぁー! 旨い料理に旨い酒! そして絶景の夜桜! 文句なしだ!」
壱殿が酔いしれながら、満足げな笑みを浮かべる。
ラテっちも「ぼんずがおいしーのつくってくれるから、とてもしあわせでちゅ!」
よかったよかった
「おいボンズよ! 次は『フグ』だな! 刺身にてっちり、そして雑炊と―楽しみだ!」
「いいわね! フグ!」
「俺、食ったことねぇ!」
「自分もです!」
「スッゲー楽しみだ! ワクワク!」
「あしたね! ぼんず!」
「免許ないからーー!!!」
新しいPC買いました!