第百七話 決別
次に試合は「「|the last one party《ザ ラスト ワン パーティー》対盃」
「盃……どこかで聞いた気が…」
パチが頭を抱えているなかで―
「チビッ子」
「あぁ、おじちゃんだ」
壱とりゅうが互いに頷く。
そして、7人は闘技場へと足を運ぶ。
「こういう時ってさ、たいていブーイングされるのがオチだよな」
「そうね。コロシアムでもアンタは絶賛大ブーイングされていたものね。ボンズ」
「……思い出させるなよ、パチ」
ところが、いざ入場すると―
「来たーーー!!」
「待ってたぞ!! 「|the last one party《ザ ラスト ワン パーティー》!!」
「俺はあの子どもたちに救われた」
「ピンクダイヤを無償で渡してくれた子たちだ」
「なにもお礼出来ない。争う立場だけど、感謝の意思だけでも伝えたい」
「そうだ! 俺たちも、あの子に助けてもらったんだ!」
「俺たちがここまで来られたのも、あいつらのおかげだ!
ピンクダイヤの恩、忘れてないぞ!!」
思わぬ声援に、戸惑い驚く。
しかも、闘技場に近づくにつれ声援はどんどん大きくなっていった。
「人気者だな……おい」
壱がポツリと声を漏らす。
すかさずNPCのアナウンスが響き渡る。
「先頭に立つのはコロシアム無敗の男『史上最低の恐喝犯』―ボンズ」
「かつて『魔術師』と謳われた―壱」
「【九蓮宝燈】」を持つ『天に愛されし者』―りゅう」
「南方最後の珍獣―パチ」
「そして『おやつちょーだい』―ラテっちだぁ!!」
「派手なアナウンスだな……」
ボンズが周囲を見回せている中、声援とは全く別のことを考えていた。
「(よかった。2人のことは知られていない。今後、キーパーソンになる2人を……特に、二つ名のみ誰もが知る者のことを……)」
すると―
ドサッ
「ん??」
気が付くと、パチが長い髪の毛を垂らしながら四つん這いになっていた。
「なによ……なによ! 『珍獣』ってなによ!! 誰が名付けたのよ!! ボンズですら人間扱いなのに、私は珍獣ってどういうことよ!! 『人』ですらないじゃない!! もーやだ! やる気なくした! お家帰る!」
優作がパチをなだめている中、ボンズはニヤついていた。
「仲間ができた」―と。
無論、それをパチが見逃すわけがない。
ボンズの首を両手でガッチリ掴み、思いっきり身体を宙に吊り上げた。
要は『ネック・ハンギング・ツリー』だ。
「ボンズに笑われるくらいなら―コイツを殺して私も死ぬーー!!」
慌てて優作と、式が止めに入る。
「パチさん、落ち着いてください! ボンズさんが! ボンズさんが!!」
「オイ! ボンズが白目向いて口から泡を吹いているぞ!! 気持ちはわかるが、闘う前から戦闘不能にしてどうする!!」
ようやくパチはボンズを解放した。
「ボンズ! 起きろ!!」
式がボンズに往復ビンタをして意識を取り戻そうとする。
「……あれ……オレ……どう……したんだ……」
「よし! 生きてる!」
―と、なんだかんだで全員闘技場に足を踏み入れると、すでに血だらけの男が立っていた。
―半次郎その人である。
どよめく観衆。
それより、誰よりも驚いていたのは、りゅうだった。
「おじちゃん! どうしたんだ!?」
「おぉ……金髪のぉ、会いたかった」
「なんで血だらけなんだ!?」
慌てるりゅうに対して―
「どうやら、この世界は『この世界に存在しない技』を連発すると、身体にガタが来てしまうらしい。回復とやらも、もうできなくなってしまったよ」
「(やはりか―)」
ボンズは瞬時に悟った。
「只、最期にお主と出会えたのは気運……いや、幸運だなぁ―お主が教えてくれた。まだその時じゃねぇ――『諦めるな』ってよ。この歳になって、教えてもらった。だから報告したかった……孫娘の仇はとれた。弟子―いや、仲間たちのおかげで。命をかけてまで尽くしてくれた。仲間にも、お主にも、本当に感謝している。これで、皆の元へ帰れる。ありがとう―」
「そんな……おじちゃん!!」
「その様な顔をするな―そうだ、お主の名、きかせてくれ。この半次郎に」
「ぼくの名はりゅう」
「りゅう―か」
半次郎が視線を少し移す。
「隣にいる幼き少女は―」
「ラテっち。ボクの妹だ」
「そうか。大切にするんだぞ」
「うん!!」
すると、半次郎はラテっちの傍に行く。
「ラテっちとやら。よかったらコレを受け取ってはくれぬか」
半次郎は懐から取り出したのは光る球体―『天』と書かれた球体を―
「これを見つけ、持っていたら身体が少し楽になっていった。きっと良き物なのだろう」
良き物どこではない。間違いなく、神具『天和』の卵だ。
ラテっちが両の手を差し出し、卵を受け取る。
「あったかい。ありがとでちゅ!」
「あぁ」
半次郎は、りゅうとラテっちの頭を優しく撫でる。
「負けるなよ」
そう言い残すと、背を向け歩みはじめた。
「半次郎のおじちゃん!!」
「りゅう……今度は、止めないでくれよ。そして、確か壱と式と云ったな。子どもたちを、守ってくれ」
「無論だ!」
「任せてくれ!」
「ありがとう」
言葉を添えて、半次郎は闘技場から降りていく。
身体が光の粒に変わる時だった。
「ただいま……今、帰ったよ……」
半次郎―消滅
壱がりゅうに声をかけようとする―と
拳を強く握りしめ
「男の別れだぞ」―と、呟いた。