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第百話 宝物

 


 次の瞬間、壱殿が盤を開く。

 三度のノーチェンジ。更に五百倍されるコイン。


 王は顔面蒼白。


「もう、コイツは博打を弐度とできんかもな。まぁいい」


「さて、もうここに用はない。帰るぞ」

 壱殿の言葉に対しても唖然としてその場から動こうとしない式さんと優作。

 そんな中――


「先程の礼をせねばな。チビッ子たち、何が欲しい?」

「壱殿、ぼくはメロンソーダがいいぞ! クリームたっぷり付けてな!」

「いちごパフェ! 大もり! でちゅ!」

「はいよ」


 寄り添うチビッ子二人の頭を撫でながら、賭場を後にした。


 あっという間に賭場攻略に成功。


 そして、なくなる前にレアアイテムをゲット

 特に蘇生アイテムの【祝儀】を大量に獲得。

 なにより、ギルメンのレベルアップのために、経験値チケットを大量に交換した。


 賭場のホテルの最上階ロイヤルスイートルームへ宿泊する一行。


「――で? どうやって一発和了(ホーラ)を連発することができたんだ? 壱殿」

「盤板は何で出来ている?」

「何って……木製だろ?」 

「そう、木製だからこそ――だよ」

「……意味がわからん」


 優作が話に割って入る。

「壱さん、全てが伏線だったのですね」

「え? え?」 

「盤板に傷を付けたプレイヤーがいたのを憶えていますか?」

「あぁ、NPCにバレて強制ログアウトされたプレイヤーだろ?」

「結果的には同じことを、壱殿はされたのです」

「…………嘘? それならどうして、NPCに見つからなかったの?」

「見つからない『目印』を付けた――ですよね?」

「まぁな」

 壱殿は簡単に云うが、サッパリ理解できない。

 見つからないのに目印って矛盾しているだろう。


「『汗』――ですよ。汗で板に印を付けたのです。禁煙・ホットコーヒーなど、事前に汗を出やすくした状態で、ですよね」)

 式さんも話に加わる。

「幾つもの汗の後はある。無数に付着した汗の中から一つだけ印を付けることなど『魔術師』にしかできない芸当だ――全く、完璧な伏線だよ」


 タバコ――煙による最少のスモーク みんな集まる合図

 みんな集める――人だかりを作るためのおぜん立て

 人だかり――影によるシールド

 サングラス――影に慣れるため


 この全てが伏線だった。



「サングラスをつけたままで勝負を続けていたこと。瞳を慣らす。

 突然タバコを吸い始めた事。少しでもカモフラージュ

 一度ノーチェンジであがったことで人混みを呼ぶ――つまり、観客が集まる。

 人混みを呼ぶこと――ディーラーが、『もしかしたらイカサマをしているのではないかと疑う。しかしこの人混みではイカサマはできない。できたとしても誰かが発見する。もしくは人混みに緊張し、自ら墓穴を掘る』――と、思ったでしょう」

 そう戒王に思わせた時点で勝負は決まっていた。

 すでに、伏線は完了していたのだから。


「でも……でもよ、だったら数字はどうなる? 1から9までの数字をどうやって見分けるんだよ」

「それは……」

 ボンズの問いに、優作は言葉を濁す。云いづらそうに。

「もしも……もしもですよ。色々思いついたのですが、消去法でいけばこれしかありません。ですが、もし本当に自分の推測が当たっていたとすれば……」

「なんだよ。気になるだろ」

「――『太さ』だよ」

 そう云ったのは式さんだった。

「太さ?」

「そう。この男は指でマーキングした汗の太さで1から9までの数字を『記して』いやがったんだ」

「へぇ~太さね……」

 ボンズは一瞬納得したが、すぐに聞き返す。

「ちょっと待ってくれ。『太さ』って、指なんてせいぜい1㎝前後だろ!? どうやって見分けるんだ? どんだけ細かい太さを見分けるんだよ」

「ボンズ。優作がなぜ言葉を濁していたのか、その理由を今ズバリ云い当てたんだぞ」

「……ごめん。もうなにがなんだかわからなくなってきた。

「0.0㎝(ゼロコンマ.ゼロセンチメートル)以下を見極めた。それが云いたかったんだろ。優作」

「えぇ、そうです。ですが、あの状況の中でそれを実行できるとはとても考えらない……。もし、それを可能とするならば、まさに『人外の領域』と云わざるを得ません。そんな人がいるなんて……」

「常人の発想と技ではない。だからコイツは『魔術師』なんだよ。――どうだい、正解は」


「まぁ……そんなところだ――『カリギュラ効果』ってやつだ」

「なにそれ?」

「禁止されると余計にやりたくなってしまう心理のことで、賭場に入ったとき、イカサマして強制ログアウトくらった奴がいたろ そいつもそうだ。

 ギャンブルにハマったやつがこれに目覚めると、ワシみたくなる。あの時、これを思いついたんだよ」


「すごいけど、結局はイカサマか」


「バレないイカサマか……博徒としてこれ以上の誉れはない」


 そういって壱殿は煙草に火をつけ、静かに一服し始めた。




「だが一つだけ納得がいかないことがある。聞かせてくれ。いくら影に慣れるためとはいえ『(ガン)』の能力をもってすれば必要ないんじゃないのか? なぜ最初にサングラスをかける必要があったんだ!」

「それ以前に、優作や貴様の推理には一つだけ誤りがある。それはな、サングラスを付けていた理由が影に慣れるためだということだ」

「な……」

「影に慣れるなど必要なかった。全ての盤に触れた時点で、全ての準備が整ったのだからな」

「なんて奴だ」

「それにな……」

 壱殿がサングラスを外し、まじまじと見つめる。

「これは――このサングラスはワシの大切なダチからもらった宝物だと云っただろ。ここぞという勝負には必要なんだよ。どんなに金を積まれても換えられないゲンのいい宝物はよ」





遂に百話!!

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