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第九十九話 博徒

 

 一握の夜事変――


 原因はいまだ不明

 不正アクセスなのか、強運の連続なのか、それすらもわかっていない

 一晩でたった独りのプレイヤーが20億枚もの黒コインを手中に収め、その日の内に現在では存在していない希少アイテムチケットをネット販売され、即座に完売した。

 その結果、ゲームバランスは大きく崩れ、<ディレクション・ポテンシャル>の運営者が、急遽仕様変更せざる負えなくなった事件であった。


「ネットで事件の内容を見たことはあったが、まさかその首謀者が壱殿だったなんて」


 MMORPGで国内最大級の金を動かした男

 謀略の覇者 

 幻想世界の犯罪王

 巨魁

 盤聖

 様々な呼び名で謳われた男がいた


 このゲーム――<ディレクション・ポテンシャル>の終わりと始まりを作り、この世界の最果てを見た者。

 時代を作り上げた時の魔術師(タイム・マジシャン)

  「かつて、全てを手に入れた者」


 曰く――「魔術師」


 伝説級のプレイヤーこそ、両眼に魔眼を兼ね備えた男――壱殿だった。




 独りの男がフラリと現れて、そいつは経験値チケットともう1つ

 当時のレベル解放限界値までレベルを上げただけでなく――

 倍プッシュはそもそも「西」のスキルではなかった。

 スキルを倍にする景品だった。

 ソイツが換金した景品こそ、「眼」だった。

 両目が魔眼なのは、賭博で得た報酬だった。


 だが、運営側はそんなこと想定すらしていなかった。

 ゲームの中では両目による特殊能力など用意していなかった。




 RMTで希少アイテム――特に「倍プッシュ」を売りさばいた。

 総額は――億単位とまで云われている。

 その結果、彼を模倣しようと企むプレイヤーが増大し、規制されても尚RMTを繰り返すユーザーが後を絶たないのであった。


「あいつの存在がこのゲームを根本的に変えてしまった。たった一夜で、この世界の全てを手に入れたんだ。盤板も以前はポーカーや麻雀のように『役』が存在し、レアな役ほどコインの倍率も高くなった。だが、今のような『役』を廃止し、手役の完成速度で倍率を高めるようになったのも、全てコイツのせいなんだ」

 式さんが爪をかじりながら語る。



「アカウント停止を喰らったと噂されていたのに……」

「なら、何故壱殿は時間操作なんてできるんだ?」

「オッサン本人が語っていただろ。この世界は『発想力』がものをいう所があると。ボンズの八方目もそうだろ? たぶんアイツは……壱は、この世界に来てから両眼の特殊能力を自らの手で開発したんだ」


 ボンズが過去のことを思い出す。

「自らの手で開眼――そうか……以前、りゅうの倍掛け倍プッシュを目の当たりにしてあそこまで怒りをあらわにしたのは、既に己自身が体現していたからなのか――壱殿、ごめん」


 そして、壱殿の快進撃は止まらない。


 壱殿の親番――

「さぁ、早く盤を引くのだ」――戒王が催促をすると――

「いや、その必要はない」

「……え?」

「それがよ……もうあがっているんだよ」


 再びノーチェンジ――、一撃500倍。

「まだだ、このコイン全て賭ける」



「すげー!」

「かっくいいー!」

 子どもたちは純粋に喜んでいる。

 すると、戒王の合図で壱殿の周囲をSNPCセキュリティノンプレイヤーキャラクターが囲んだ。

 先程イカサマをしたプレイヤーを奥に連れ込んだSPのようなNPCの集団が壱殿を囲む。



「ねえ、おかしくない」

 壱殿のトリックに最初に気が付いたのは、意外にもパチだった。

 トリックというよりも、盤板が汚れていると口にした。


 その台詞に、式さんと優作に衝撃が走った。



 親番は、更に1.5倍追加 



「サングラスは命より大事なものだ。壊すなよ……か」

「ワシの命――」

「『ワシの命の価値など、コイン1枚分の価値も無い。だが、このコインにはワシの命を賭けるに値する』――おい、ディーラー。いや王よ。この意味がわかるかい?」

「な……何をおっしゃりたいのか、わかりません」


(コイツ……人間がギャンブルするとき、必ず欲望が生まれる

 それに比例し、勝てば焦り、負ければ絶望を生む。

 この男には、それがない。

 ――何も感情を持たずに賭けができる者など存在するのか……)




 戒王はすっかり怯えている――




「だろうな……貴様の『瞳』を見た瞬間わかっていたさ。貴様のやっていることは所詮『お遊戯』だってことにな」

「どうゆうことでしょう――」

「貴様の瞳からは何も伝わってこない。貴様は何一つ『賭け』てはいない。そんな者が博打を打っても、王という地位に座る貴様に抗えない平民からは稼げるだろう。貴様と同じ素人からはな。裸の王よ」

「誰が裸の王だ!!」

 戒王が激昂すると――

「コインが無くなれば【アウトオーバー】 つまり、コインで自己の存在を左右させて勝負を相手に挑ませている時点で終わっている――貴様はいかに小さき存在だということを気付いてすらいないだろ。だから裸の王なのだ」

 壱殿がたんたんと話を続ける。

「この勝負、命が惜しい者にこそ有効だろう。焦りが負荷を生むからな。だが――命を賭けの材料とする者には無意味。無駄。そして、滑稽だ。貴様の行動全てがな。――覚えておけ。貴様の質問に答えてやる。『お遊戯』と罵った訳をな」




「この勝負はな、王に逆らう逆賊。……いや――『博徒』には……通じないということをな」








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