第九十八話 賭博
前回のあらすじ
勇者りゅうは大魔王パチに捕らわれたラテっちを救うため、旅に出た。
パチはラテっちを誘拐し、アゴやポンポンをタプタプする計画だったのだ!!
急げ! りゅう!!
世界の平和とラテっちの運命は君次第だ!!
「待っていろ! ラテっち!! 今、助ける!!」
りゅうの果てしない旅が、今、始まる――
『コラコラ』
「?」
「『?』――じゃないわよ、りゅう。なんで私が大魔王なのよ!」
ぱちが頬を膨らませ怒っている。
「てへへ、ごめんごめん」
謝るりゅう。
「いや、それ以前に全然前回のあらすじじゃないよ。偽物だよ」
「ほうほう。わたちはさらわれないんでちゅね。よかった!」
「そうだよまったく。それじゃ、本編スタートだ!!」
GM からの「しばらく余暇をお楽しみください」というセリフに引っ掛かりを覚えた壱。
「よかってなーに」
「ヒマな時間ってことだよ」
「余暇……か。外れていればいいのだが」
ボンズは余暇の意味をラテっちに説明した時、己の発した言葉に再度違和感を覚えた。
今まで絶え間なくクエストを発注していたGMが、突然「余暇」をプレイヤーたちに与える。
時間をくれる……いつまでの期間だ? 次のクエストまでどれくらいの時間がある?
いや、違う。
何故、ここにきて「時間」を与えてくるのだ……
他のプレイヤーたちは「自由な時間を与えてくれる」と思うだろう。
だが、元来ネガティブなボンズにはそうは思わない。
存在をかけたクエストから解放される安心感より、GMが時を与える違和感の方が先決した。
余暇……暇……時間……
直感、いや閃き――
「まさか――!?」
「気付いたか、ボンズ」
そう云ってきたのは壱殿だった。
いや、彼からの発言はむしろ必然なのかもしれない。
「みんな! 賭場へ急ぐぞ! 見えてきたぜ、GMの狙いが」
「ボンズ、何故、いまさら賭場へ?」
「パチよ。今までクエスト続きで出来なかったことはなんだ?」
「??」
「『レベル上げ』だよ」
「あっ!!」
「限られた時間の中で強くなること。例えばレベル90代のプレイヤーのレベル上げ……それがギルド全員ともなれば至難の業だ。そして、この世界の最終目的は、多分……いや、間違いなくこの世界の支配者との戦闘。RPGでは必須の最終ボスとの戦いだろう。
そんな、確かにRPGでは当然の成り行きかも知れんが、MMORPGで有り得るのか? 可能性の話だが、ならなぜGMはプレイヤーに対し『選別』を行っている? 選別したギルドに何をさせたい?
そう考えれば、おのずと答えは出てくるだろう。みんな!!」
「……挑戦権……だな」
「そうだよ壱殿! だから、その時の戦いに備えて強くならなければならない。あと、ボス戦に対し、自分たちが強ければ勝てるという思い込みを捨てなければならない」
「なぜだ?」
「本来の<DIRECTION・POTENTIAL=ディレクション・ポテンシャル>では四人で三組のパーティー――つまり最大十二人で戦闘を行う事が出来ていたはずだ。だが、もしも 今のまま……つまり七人で戦わなければならないとしたら、どうすればいいと思う?」
「強さだけでは足りないということか」
最高で十二人で戦うことができたことを七人でどうにかしなくてはいけなくなった場合を想定して、そうなると、最も必要になってくるものは何か?
戦術? レベル? 装備? ――違う。
確かに、今挙げた事項は重要ではある。
だが、それらは二の次に過ぎない。
金だ――
圧倒的なまでの資金がものをいうようになる。
なぜなら、人材が足りないのであれば、当然「攻撃」、「回復」、「付与・支援」が足りなくなる。
これらは長期戦になればなるほど必須となる。
ましてやボス戦。長期戦は覚悟しなくてはならない。
となれば、それらを補うには「アイテム」で補う他ない。
パーティー全員のHP同時回復アイテムや符力回復アイテムが大量に必要になる。
勿論祝儀もだ。
そのための投資が必要なのだ。
人材の少なさを高価な……より強力なアイテムが必要になる。
全体回復。符力回復。攻撃力・防御力増加……他様々なアイテムだ。
残された時間が未確定の今、これまで云ったことを全て解決できる方法が一つだけある。
「賭場」だ。
最後の大陸「ジハイ」にある賭場で一気に金を稼ぐしかない。
それはリスクが高いだろう。
だが、戦闘やNPCからのクエストで得られる金では多分時間は足りない。
それに、賭場での景品には金貨の他、アイテムのチケットや経験値のチケットがある。
もしかしたら、祝儀のチケットもあるかもしれない。
それに……GMは「余暇」と云った。
余暇=遊べということではないのか?
この世界で遊びと云えばギャンブル。
つまり――「賭場」だ
「だから、もしかしたらの話だけど……いずれクエストで『賭場のコインを集めろ』と云いだすかもしれない。それからでは遅いんだよ。賭場での入場人数や、ギャンブルを行える人数に限りがある。もし、GMから正式にクエストを出されたら大混乱かつ大混雑は必至。賭場に入れないままクエスト終了だってあり得るんだ」
ボンズの論説に、異論を唱える者は居なかった。
皆が最後の大陸――「ジハイ」へと向かった。
この世界には和・洋ともに「城」と呼ばれるものは存在しない。
各々の大陸が独立した国家のようなものとなっており、それぞれの大陸同士に交流関係にはない。
異国の文化を取り入れることはなく、独自の文化を形成している。
例として、マンズとピンズには交流関係はなく、それぞれの街に統治者――つまり街の代表者となるNPCはいない。
「長」がいないのだ。
NPCの生活を今まで見てきた限り、商いなどにより収入を得て、生活を営んでいる様子はうかがえたが、統べる者がいないこの世界には納税というシステムは存在しない。
治安に対しては、NPC同士での争いや犯罪行為の類は発生しないのだろう。
あくまで自警ということ。
警察のような治安を守ることを生業としたNPCは存在しない。
だが、このジハイだけは別格である。
この街にはSNPCが存在する。
街で戦闘行為を取り締まる――これは建前である
正式には、賭場での景品を強奪しようとするプレイヤーを取り締まるのが主な役割である。
そして、もう1つ。賭場での不正行為をしたプレイヤーに厳罰を与える
戦闘不能。アカウント凍結などだ。
そして、この世界の統治者がいないわけではない。
このジハイを統べる者こそが、実質上のNPCの頂点に立つ者である。
財力・影響力・支配力を兼ね備えた王が、この街には存在する
この街のみ、賭場での売り上げが納税として納められ、賭場や宿泊施設などの経営運営資金となっている。
大陸は砂漠。そして陽が昇ることのない夜のみの街
その街は、高層ビルが所狭しとひしめき合い、派手なネオンが街を照らしつけている。
長はいなくても王がいる。
夜の王。
プレイヤーを戒め、運と人生を流す、とある条件でのみでしか姿を見せない王――「戒王」が存在する。
圧倒的な巨塔が――
この「戒王」を攻略することが、おそらく今回のキーパーソンになるだろう。
あとは、出るとこ次第だ。
ギャンブルの街「ジハイ」。そして賭場に到着――
ここは賭場兼ホテルとなっており、超高層ビルとなっている。
その中には、プレイヤーはすでにかなりの数がいた。
恐らく、同じことを考えた者たちだろう。
賭場にはスロット・レース・ルーレットなど様々なギャンブルが存在するなか、ひと際異彩を放つのはこの賭場のメイン――『板盤』だ。
既に負けるプレイヤーが続出しているようだ。
「今度は俺だ」
しかしこのプレイヤー……爪で盤板に傷をつけて黒服のSNPCに連れて行かれる。
これは強制ログアウトを意味し、そのプレイヤーが出てしまったのだ。
イカサマを発覚したらアウト
「ただいま、イカサマを行ったプレイヤーがいました。強制的にログアウトしていただきます」
そして――高笑いする者が一人。
「戒王」だ。
そう、このNPCの出現条件は板盤なのだ。
「全く、人を削る作業にギャンブルという要素はうってつけだ。従え下僕ども。この王を倒せる者はいないのか!!」
ちなみに板盤とは――
3種類の数字が1~9まで書かれた木製の札を使ったゲーム。
札は表は皆同じ木目の札だが、裏には――
1・2・3
Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ
一・二・三といった三種類の数字で表記されている
これが各四枚ずつ存在する。
だが、このゲームで最も重要な札がある。
なにも表記されていない札――これはいわゆる「オールマイティカード」となる。
これはつまり、どんな札の代用にもなる。
ポーカーでいえばジョーカーに限りなく近い。
そしてこの板盤を簡単に説明すれば、二組のポーカーを作ることなのだ。
手札は九枚。それを卓上に並べられた札を一枚掴み手札を十枚にして手役を作り完成となる。
あがり方は、自分で拾うか、相手の捨てた札であがりとなる。
ストレート・フルハウスなどポーカーの手役を十枚目に完成させて和了――つまり「あがり」になる。
例外もある。麻雀の七対子のように2枚2枚の組み合わせで完成となる手役もある。つまり「ファイブ・ペア」だ。
要するに十枚目で上がれる形を作れば勝ちとなる。
だが、ポーカーやマージャンと決定的に違う点は、手札は神経衰弱のように並べられた札を全て己の手でつかむということだ。
ポーカーのようにディーラーが配ったり、麻雀のように積みあがった牌を順々に掴むものではない。
それゆえ、ディーラーは存在せず、テーブルの中央にボタンが一つだけある。
これを押すと、テーブルが下へ開き、全ての札をテーブルの中でかき混ぜ、再びきれいに並べて配置される。
勿論、札の並べ方はランダムに仕組まれている。
この板盤はこの賭場の目玉であり、また超人気ゲームのため、高額の金貨五十枚で一枚の黒コインでのみ行われる。
また、手札のチェンジの回数で勝敗を決める。
勿論、相手より早く上がることが重要だが、無論チェンジの回数によって賭け
金は跳ね上がる。
一回チェンジ――二百五十倍のようにチェンジの回数が少なければ、いやチェンジする必要が無ければノーチェンジ――五百倍となる。
その確率は計り知れない――
それはそうと、ボンズがあることに気づいた。
「そういえば壱殿。最近タバコを吸っていないな」
「あぁ、ちょっと禁煙中でな」
(ゲームで禁煙? 健康に気を使う人とは思えないのだが……)
「ところでみんな、二分の一による五連続の確立――って、知っているか?」
突然の壱殿の台詞に式さんが答える。
「ああ、確か二分の一……つまりコインを回して表が四連続でたとして、五連続目がでる確率が0.01%以下って話だろ」
「そう。つまりルーレットも同じだだから最初は様子見で一番安い白コインを賭け続けてくれ。
そして一回目と二回目に赤が出た時だけ、3回目に黒コインを『黒』に二枚だけ賭けるのだ。
それが外れたら4回目に三枚賭ける。
それも外れたら所持コイン全てを黒に賭けてくれ
そうすればコインは確実に増えていくはずだ」
『なるほど――』
皆が納得する。
「なにより、一枚でもいいから黒コインを増やしてくれ。わかったな」
話は変わって――
「そういえば、私もゲームでここに来たことがあったわね」
「パチが? 意外だな」
「気まぐれよ。景品もゲットしたわよ」
「へぇ、凄いじゃないか! 経験値? お金のチケット?」
「スキルのチケットだったと思うけど……」
「思うけどって、覚えていないのか?」
「えぇ。たまたまツイテいただけで手に入ったコインだったから、なんとなく交換して、身に付けたのよ。何て名前だったかしら……」
「ステータスみればいいじゃん」
「面倒くさい」
「さいですか」
またまた話は変わって――
りゅうとラテっちは流石に見学だ。
「ひまだな」
「ひまでちゅね」
いつも活躍(?)する二人も、流石にルールがわからない挙句、おこちゃまにギャンブルを勧めるのはいかがなものかとボンズが云って聞かせた。
やることのない二人は仲良く賭場をウロチョロしていると――
「お、なんだこれ?」
「コインひろった~ ねぇねぇ、これつかってもいいの?」
NPCに聞くと――
「白コインですか。コインは種別関係なく、落として五分以上経過すると所有権は拾ったプレイヤーに移りますので、問題ありません」
『わーい』
二人は壱枚だけの白コインを持ってスロットする。
『ワクワク』
――バシュン!!
コインを入れ、レバーを叩くと、音と共にスロットの液晶画面が真っ黒になった。
「こわれた?」
「なんだこれ?」
すると、真っ黒になったスロットの画面に文字が浮かび上がる。
左のボタンを押してください――
「左?? お茶碗を持つほうか??」
りゅうはスロットの、三つ並んでいるボタンの左を押した。
中のボタンを押してください――
「?? こんどは真ん中か」
りゅうはボタンを押す。
右のボタンを押して下さい――
「お箸を持つ方だな」
りゅうは右のボタンを押した。
すると後ろにいたプレイヤー……いや周囲がざわつく。
「フリーズ……だ!!」
「フリーズの確立って6万5千分の1だろ。一万枚確定だぞ!!」
そして――
ジャラララララララ!!
「うひゃ~!!」
「のみこまれりゅ~!!」
スロットのコイン出口から一万枚の白コインがなだれ込み、りゅうとラテっちをも飲み込んだ。
「本当にチートだな……きみたち」
早速景品交換。
ホテル別館ラウンジにて――
「マスター」
「ご注文は」
「前の車を追ってくれ」
「りゅう、使い所が違うぞ」
「うむ。それでは、オレンジジュース100%をロックでもらおうか」
無駄にカッコイイな、オイ。
「このおみせでいちばんのチョコパフェをもらおうかー」
なんて安いお子さまたちなのだろう。
「なぁチビッ子。ワシにも何かご馳走してくれんか?」
「いいぞ! 壱殿はなにがいい?」
「そうだな、ホットコーヒーをもらえるか?」
「寒がりなのか? こんなにあったかいのに」
「好きなんだよ。酒とコーヒーはな」
「よし、そろそろ出番かな。みんな、コインは増やせたか」
「少しだけど……」
「これだけあれば充分だ。それより、これから話すことを必ず実行してくれ」
「??」
壱殿が板盤の席に着く。
「次の贄はお前か」
戒王が笑う。
(ギルド七人でボス攻略のカギ。そして、後に必ずクエストでコイン枚数が出てくる。さて、と……)
黒コインを賭けた盤板にて戒王との一騎打ち――
これは、プレイヤーとNPCとの闘いでもある。
盤はカード立てのような2枚のガラスで縦に並べる仕組み
一度手前引いて強く押すと、盤が並んだまま相手に向かって表示できる
だが――
壱は連戦連敗。
黒コインもそろそろ尽きかけようとしたとき――」運命のアナウンスが流れた。
「次のクエストの説明をします。賭場で黒コイン1万枚集めて下さい。
五百万枚金貨で買うのも構いません。
ただし、所持コインがなくなったプレイヤーはその時点で【アウトオーバー】となりますので、多めに買う事をお勧めします」
「大丈夫か? 壱殿」
「あぁ」
仲間一人ずつ集まる。
しかし――壱は黒コイン全て使い切ってしまった。
そして時遅く。壱殿の板盤で負けた直後に放送がかかってしまっていた。
壱殿から、汗が流れるのが分かった。
「ククッ、御愁傷さま」
――笑う王。
「よく喋るNPCだ。わしのコイン所持数を見てみろよ」
「何故だ! 間違いなく全てのコインをつかいきったのに」
壱殿のコイン増えていたのだ。
(待ってたんだよ。この時を――)
前もった作戦とは、みんなからコインを傍に置いてもらうことだった。
壱殿はみんなに「コインを使い切る最後の局面になったら、みんなが稼いだコインを俺の背中に見えないように落としてくれ」――と。
「それをコートで隠し、勝負の最中、五分たって所有権のなくなったコインを回収したのさ。合法だろ」
会話で時間を稼ぐ。必ず1人ずつバラバラに様子を見に来るふりをして、見えないようにコインをおとす。
【コインの所有権は無くなりました。拾ったプレイヤーに権利が移ります】
「なに!?」
「さて、次――いこうか! と、その前に―― なぁ、一服してもいいか?」
「タバコか? ここは確かに禁煙ではないが……」
「ありがとさん」
(壱殿……今まで禁煙していたのに、なんで)
壱殿、そして戒王が手札を拾う。
勝ち続けていた戒王がⅢをすてると――
「それだ……」
「………………なんだと? お前、今なんと云った!!」
「それだよ」
壱殿が呟く。
手札が傾きその姿を露わにする。
1・1・2・2・3・3・4・4・無名
鬼の無名待ち。
オールマイティをこなすカードは何を出してもあがりは確定だ。
一発和了――五百倍だ。
「おい、すごいヤツがいるぞ」
「一発あがりだとよ」
人だかりができる――その時。
「ボンズ、このサングラスを預かってくれ」
「いいけど、どうしたんだ突然」
「いいから。それよりこれはワシの大切なダチん子からもらった、命より大事なものだ。壊すなよ」
すると、ボンズの隣にいた優作と式さんの表情が一変した。
「あの瞳 壱…… まさか!?」
「あぁ、式さんは壱殿の魔眼を見たことなかったか?」
優作が自らの肩を掴み震えだす。
「本物……なのですか?」
「間違いない。なんてことだよ……オレたちは知らなかったとはいえ、こんなとんでもないヤツと今までパーティーを組んでいたのか」
「あぁ、両眼とも焔慧眼だなんて超レアだもんな。壱殿と出会うまで存在するなんて知らなかったよ」
「…………そんなもん、ねぇよ」
「へ? 」
「両眼とも焔慧眼だと!? そんなもん、この世界には存在しねぇんだよっ!!」
「何をいっているんだ。だって現に壱殿が……」
「それだよ! そのことが問題なんだ! お前はコイツの正体を知らないで今まで一緒にいたのか!?」
……正体?
「オレがPKの『悪党』だとすれば、コイツは魔王か? どう表現したらいいかも浮かばねぇ。魔王が揉み手しながらゴマスリしてくる『悪を極めた』男なんだよ」
「いったいどうゆう……」
「<ディレクション・ポテンシャル>のプレイヤー同士によるRMTが異様なほど流行っているのは知っているな。
専門業者がはびこり、生計を立てれるほどの金額が動く。何故そうなったか。なぜゲームなんかで大金が流通するようになったかわかるか?」
「え……?」
「この男がいたからだよ……『一握の夜事変』の首謀者がな」
久々に長いのか来ました~(私的に)
よろしければ、評価、感想など頂ければ嬉しいおでっす!!