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第九十六話 現実 ボンズ編

 

「ボンズさん! 今日もおいしいごはん、ありがとうございました!」

 夕食が後、優作がボンズに感謝の意を示す。

「今日は優作に元気になってもらえるように特に頑張ったよ!――なんてな!」

「ふふっボンズさんたら。」

 談笑したのち、ボンズは皆が食べ終わった食器を洗いに台所へ向かう。

 そこに、パチが後を追ってきた。

 一つ疑問を抱えて。


「ねぇ、ボンズ。前から聞きたかったことがあるんだけど、いいかな?」

「どうした?」

「なんでひきこもりなのにこんなに料理が作れるの?」



 ボンズは手を止めて一息つく。

「パチだから云うけどな……実は俺、小学校入学式の当日に父親に捨てられたんだ」

「…………は? え??」


 入学式に来ない父親。

 母親も仕事で来ない。

 独りぼっちの入学式

 周りは誰も知らない人ばかり。

 周りは家族連ればかりだというのに。


 家に帰ると、若い女を連れて私物を車に運んでいる最中だった。

 怒り狂う母。

 母親はキャリアウーマンで仕事一辺倒だった。当日も仕事で入学式は父親に任せていただけにショックは大きかっただろう。

 周りの目など気にせず怒鳴り散らしていた。

 しかし全く動じない父。

 そして、実の父親からの最後の言葉が「やっとお前から解放される」だった。

 これは、ボンズの記憶の奥底に封印されている。

 逆を云えば、だからこそりゅうとラテっちを心から可愛がった。


 だが、俺にとってはこの後からが本当に辛い現実だった。

 父親が出て行ったことはすぐに学校中の噂になった。

 なにせ、入学式当日だったからな。

 翌日からのことは、忘れようもない。

 同情とは違う……憐れみと見下しの眼差し。それが生徒や教師から向けられる毎日を過ごした。

 他人から特別視される。良い意味ではなく、『どう対応したら良いかわからない』と、瞳が呟いていた。

 それからは惨めだった。

 対応方法がわからない異質な存在は、徐々に『嫌悪』の対象となっていった。

 大人は……教師は一切手を差し伸べてくれることはなかった。一度たりとも救いの手を差し伸べてくれなかったのさ。

 子どもってさ、そういうのに敏感だろ?

 教師の態度を見て、俺に対する周りの生徒の対応はあからさまな変化をし始めた。

 ――完全な拒絶だったよ。

 クラスで2人ペアを作れとか、班決めとかなんて完全に邪魔者扱いされ、教師も『入れてあげなさい』なんて一言も云わない。

 俺から1度だけ「入れて」と云った。

 舌打ち混じりで断られたよ。俺に話しかけらことすら屈辱という意味を込めてな。

 だから、俺も他人を拒絶するようになった。

 現実にいたころ、極力他人との接触を避けていた。それは肉親としても同じこと。残った母親との接触も避ける様になっていた。


 でもな……なにより辛かったのは『給食』だった。

 クラスのみんなが机を寄せ合って楽しそうに食べている中、教室の片隅で独りぼっちで食べていた。

 給食のおばちゃんには悪いと思うけどさ、あれほど不味い飯は無いと思ったよ。

 だから、独りでも美味しく食べられるために、独学で料理を勉強したんだ。

 多分、ゲーム以外で唯一本気で取り組んだ事なんじゃないかな……



 最初は独りで食べても美味しい料理を探求していた。

 もう誰も俺のことなんて見てくれないのによ


 それにな、こんな俺にも将来を妄想したりすることもある。

 いつしかこんな考えも芽生えてきたんだ。

 もしかしたら……本当にもしかしたらだけど、ひきこもりから飛び出して社会に出て、結婚して、子どもを授かるかもしれない。

 そんな時、俺の父親と同じことはしたくない。

 家族を大切にする、子どもを笑顔にする、そんな父親になりたかった。

 子どもに手料理の1つでも作って、家族みんなで食べるのが、俺の夢だった。


 でも、俺は父親と同じことをした。

 理由はどうあれ、俺は1度りゅうとラテっち、そしてパチを見捨てた。同類だよ


「アナタは迎えに行ったの? 父親を」

「え」

「私たちは迎えに行ったわよ。アナタに逢いたくてね。それだけアナタが子どもたちにとって必要で、大切な存在だったからなのよ」


「そして、アナタは迎い入れてくれた。泣いているあの子たちに向かって『解放された』と突き放さなかった。だから、同類ではないわ!」 


「そうか、ありがとう。でもな、俺は成長できたのだろうか。家族が喜ぶような料理を作れるように、はたして俺はなれたのだろうか。

 俺さ、家族で食べた最後の晩餐っていうのかな、父親と母親と3人で食べた料理のことが思い出せないんだ。ただ、すっごく美味しかったことだけは覚えている。なぁ、パチ。俺はあの時と同じくらい美味しい料理を作れていると思うか?」



 そう云うと、洗っていた食器を無言で見つめ始めるボンズ。

「――ふぅ、本当にバカなんだから。答えなんてもうすでに出ているでしょ? そんなに気になるなら足元を見てみなさい」

「足元?」

 パチの言葉にフッと足元に視線をやると、りゅうとラテっちがボンズのすぐ傍で立っていた。

「なぁ、ボンズ。明日のご飯はなんだ? 明日はコロッケがいいぞ。カニクリームコロッケな!」

「メンチカちゅ!!」

 2人とも今日の晩御飯にも満足してくれたのだろう。

 明日のメニューが気になって、目を輝かせながらおねだりしてきたのだった。

「これでも、まだ自信ない?」

「……フッ、そうだな。それじゃ、明日はコロッケだ」

 りゅうとラテっちは俺を信じてくれている。俺の傍にいてくれる。

 俺にはそんなこと出来なかった。

 ただ、捨てた父親を憎んで、周りも、己の境遇さえも憎み続けた。

 幸せ者だよ俺は。こんなに強く、優しい子たちに囲まれて。



「ボンズ……『なりたかった』なんて、云わないで。アナタはこれからなんだから。それにね、子どもたちの笑顔を見ればわかるでしょ? アナタはもう、独りぼっちだった頃の料理の味なんて、もうとっくに超えた美味しい料理を作れているわよ」






メンチカちゅはコロッケ?? ふしぎでちゅね~

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