第九十三話 逆襲
翌朝のことだった。
「フシャー!!」
ラテっちがまるで猫のようだ。
あきらかにご機嫌ななめ。
すると――
「説明しよう」
「お、りゅう。その台詞久しぶり!」
「ラテっちは不機嫌度合は発声でわかるのだ」
「やーよ」 =『ちょい嫌』
「いや!」 =『けっこう嫌』
「ぷんすか!」=『怒っている』
「プンだ!」 =『かなり怒っている』
「フシャー!」=『激おこ』
「つまり、いまは一番怒っているんだな。ケーキのチョコをとられたせいなんだな。うん」
「あ……そうか」
「どうしよう、ボンズ」
「そうだなぁ……」
りゅうとボンズが「どうしよう……」と考えている中、一人だけ別の考えを持っている者がいた。
式さんである。
何故なら――
「おじょうちゃん……どうしてオレの頭の上で威嚇しているのかな??」
――と、いうわけである。
ラテっちは式さんの頭の上で「フシャー!」と連呼していた。
それはもう爪とぎでもせんばかりの勢いで。
「いい加減おりろよ」
式さんが頭の上のラテっちに右手を伸ばした瞬間――
――カプッ。
「…………カプッ??」
式さんの手がラテっちの口の中へ。
「うわ、噛みやがった。痛っ! ……いや、そんなに痛くないけど、なんか嫌な感じ! 生温かくて変な感じ!!」
式さんが腕を上下にブンブン振り回すも、ラテっちは離さそうとしない。
「コラ! 本当に離せ! 離せってば!!」
式さんが左手で無理やりラテっちを引きはがす。右手にはしっかりと小さな歯型がついていた。
「狂暴な……」
式さんから離れると、部屋の片隅で後ろ向きに立つ。
完璧にイジけモードだ。
今度は壱殿がラテっちを諭す。
「まぁまぁオチビちゃん、そう怒るな……」
「プンだ!」
「悪気があったわけでは……」
「プンだ!」
顔を左右に振り、全然聞かない。
その光景を見ていたパチと優作が耳打ち。何故かニヤつく二人。
すると、二人は左右にわかれてラテっちに耳打ちし始めた。
「300円のおやつじゃ――」
「プンだ!」
「バナナもつけなきゃ――」
「プンだ!」
『にへへへへ』
「動物園だけじゃ」
「プンだ!」
「遊園地にもいかなきゃ」
「プンだ! プクーーーーーー!」
『ほわわっわわ』
「遊ぶな!」
今度は部屋の片隅で後ろを向きながら体育座りをしてイジけるラテっち。
「よし、遊んだ二人には責任を取ってもらおう」
「わかりました」
「こんな格好するの?」
「がまんしろ。りゅうも協力してくれよ」
「おっけー!!」
パーーーン!!
突然のクラッカーの音に、ラテっちが思わず振り向く。
優作には円錐状の水玉帽子を。
パチには髭と鼻つきのぐるぐる眼鏡を付けてもらう。
テーブルには七面鳥の丸焼きが――
「(パッ…………パァァァチィイイでちゅ!!)」
ホールのスポンジにクリームがタップリと塗られている。
「りゅう、好きなだけイチゴをのっけていいぞ!」
「おう!」
――――チラッ
「(え? じぶんでイチゴをのっけるんでちゅか? たのしそうでちゅ)」
ラテっちが後ろ向きに座りながらジリジリと近づいてきた。
「ボンズ。そろそろかしら」
「いや、まだだパチ。ここで焦ってはダメだ。逃げられてしまう。確実なところでヒットするんだ」
「わかったわ」
壱殿がボソっと呟いた。
「………………釣り?」
「イチゴたっぷりだな」
「そうだなりゅう。さて、仕上げはこの板チョコだ。ケーキにはこれがなくちゃな~」
――――チラッ。
「(いたチョコまでのっけるんでちゅか!? やりたい……やりたいでちゅ~)」
ジリジリとラテっちは距離を縮めていく。
そして遂にボンズの足元まですり寄ってきた。
「確保~!!」
「しまったでちゅ~!!」
とうとうラテっちは釣り上げられてしまった。
ジタバタもがくも、しっかりと抱きかかえられている。
「わなにはまりまちた。もうダメでちゅ」
「ほーら、ラテっち。板チョコのっけてごらん」1
「ふちゃ!? いいんでちゅか??」
「もちろん」
「やったでちゅ~~!!
ようやくごきげんになるラテっち。
「さて、みんなで食べるか」
「ケーキは子どもたちで食べな」
「わーい! いっぱいたべりゅ~!」
「やっと機嫌が直ったな。おじょうちゃん」
式さんがからかうと――
「さっきはかんでごめんなちゃい」
「いいよ。もうイジけるなよ」
「いじけてないもん、おとなだもん」
「そうなんだ。知ってるか? 大人はケーキの上の板チョコは食べちゃダメなんだぞ」
「おとなじゃないもん! こどもだもん!!」
お……おとなだもん!