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第八十九話 感染⑩

 

 見事に三本のワクチン入り注射器を手に入れたりゅう、壱、式の男性陣一同は意気揚々と五門斉(うーめいさい)から帰還した。

 ボンズが寝ている宿屋へと急ぐと、寝室には既にラテっち、パチ、優作の女性陣が到着しており、男性陣を出迎えてくれる。

「ボンズの具合はどうだ? 間に合ったか?」

 式さんの問いに女性陣は並んで頷く。

「よかった……」

 安堵する男性陣。

「これでボンズさんも元気になって、クエストも達成ですね!!」

 優作をはじめ、皆が喜びを分かち合う。

「それじゃ、早速ボンズにワクチンを打たないとね」

 パチの台詞に式さんがあからさまにイヤそうな顔をする。

「……お前が??」

「何よ失礼ね! これでも看護師だったのよ。まったく……それじゃ、ボンズ、注射するから腕を出して」

「あ……あぁ、頼む」

 かすれ声のボンズはなんとか布団から腕を出す。

 ――確かにパチは注射を打った。打ったことには違いない。

 だがパチは「はーい、腕を出してね」と云っておきながら注射器をグーで握りしめ、ボンズのデコにぶっ刺した。その所業はもう「ドジっ子」とよべるレベルではなかった。

「あれ? 良くならないわね。白目むき出したわ」

「額を針で刺されて平気なわけあるか!」

 ボンズは、心に96のダメージを負った。(MAX100)

「まぁいいわ。次、ラテっちね。腕を出して」

「いたいのやーよ」と、いいつつも素直に注射を受ける。

 意外にもラテっちは逃げない。表情一つ変えずに手を握り、内側を上に向け注射を受けている。

 そして、りゅうも逃げない。泣き出すのを予想していた大人たちにとっては不思議な光景ともいえた。

 その後、優作と壱殿も治療薬入りの注射を接種するのだが――1人だけ姿が見えない。

 式――すでに窓から逃げようとしていた。

「死ぬぞ! いろんな意味で」

 壱殿の声掛けなど全く耳に入らない式さん。 

「ふざけんな! お前ら良く考えろ、パチに注射されるんだぞ!! おまっ、お前な、こんな危ない真似などできるわけねぇよ! すでに殺人だよ! 殺害現場だよ! いや、公開処刑だ!! 今回は死人が出るぞ!!」

「ボンズ以外はみんな上手に注射を打ったじゃないか」

「あれはマグレだ! オレは絶対に嫌だからだ!!」

PK(プレイヤー・キラー)をする通り魔が、注射如きで逃げてどうする!」

「刺殺されるくらいなら爆死のほうがいい!」

「上手くないんだよ! 往生際の悪い奴だ!!」

 とっ捕まえようとするが――

「お前ら近付くなよ! 絶対だぞ!」

 大勢の警官に囲まれる爆弾を所持した銀行強盗の如き振る舞いを見せる式さん。

 そのままルパン三世よろしく、腕をクロスさせ窓を突き破った。

「……おい、ここ三階だぞ」

 皆が慌てて下を見ると、なんと式さんは両足の下、二つの爆弾を左右の足の真下に生成させ、その爆風で飛んで行った。

「…………こんなところで新技炸裂させるなよ……」

 もはや呆れている壱殿とは逆に、式さんの姿に目を輝かすチビッ子二名。

「いいな! いいなー!!」

「かっくいい!!」

「ラテっち、追おう!」

「らじゃ!!」

 ラテっちは急いで空飛ぶタタミを出すとそのまま二人は式さんを追っていった。

「まてまてー!!」

「まてー!」

「追手か! 加速!!」

 式さんは空中で再び両足の下に爆弾を生成させ、飛んでいく。

 それを追うりゅうとラテっち。

 とうとう追いつき、りゅうとラテっちは式さんの肩に飛び移った。

「すげー! はやいなー!」

「きもちいいでちゅ!!」

「は、はなせー!!」


 その光景を一部始終見ていた優作は、「ねぇ壱さん。彼はどうやって着地するんでしょうね」と疑問を投げかけたが、「ワシはもう知らん」と呆れながら返答された。

 案の定、三人は見事に墜落。

 気絶した式さんの足をなぜか元気なりゅうとラテっちが片方ずつ持って宿屋まで帰ってきた。

「今の内だぞ」

 ほこりまみれのりゅうとラテっちに「なんであなた達は元気なの」とは誰も、ツッコまず、式さんに詰め寄る。

 ――だがその時、式さんが目を覚ましてしまった。

 そしてすぐさま――「近寄るな!!」っと、叫び散らす。

「これでは最初と同じではないか」

 壱殿がため息交じりで腕を組む。

「どうにかならないかな」

 ポツリと出てきた優作の台詞に、ラテっちが「まかせるでちゅ!」と自信満々に躍り出た。

 トコトコと式さんに歩み寄るラテっち。

 そしてついに、彼の足掻きにも終わりがやってくる。   

「お~よちよち。いいこでちゅね~。すーぐおわりまちゅよ」

 ラテっちに頭を撫でられてしまったのだ。

 しかも、おままごと風の云われ方までされた。

 途端に無言で腕を差し出し、パチに注射を打ってもらう式さん。


「わかるぞ……俺も以前経験した。幼児に頭を撫でられながら慰められるのは想像以上に心にダメージを負う。大人としての尊厳を叩き壊される。しかも、悪気がない分、余計に重みを増す。アレを喰らっては、黙って従うほかあるまい」


 これで、ウイルスクエストは達成だ!!

 ベットの上で喜ぶボンズ。

 そして仲間たち。


 ――だが。


 式さんは、「オレ……晩御飯いらない」といって、宿屋の部屋に引きこもっていった。



ウイルスへん、しゅーりょー(なぜか、かんじへんかんができませんでした。なので、ちょっとラテっちふう)

じかいを、おたのしみに!

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