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第八十八話 感染⑨

 


 りゅうと半次郎。

 二人の剣客が刀を微動だにせぬまま、すれ違う。


 その瞬間、雨が止み、壱が呟いた。


「――決着だ」 


 半次郎が抜刀した瞬間すら、式には見えなかった。無論、納刀した瞬間も。

 だが、音が先に鳴り響いた。

 グラスタワーが崩れ落ち、砕ける音にも似た音が――


「奥義を放って、かすりもせず……か」


 半次郎が床に突き刺した九本の刀は全て破壊されていた。

 そして、砕かれた刀身が地面に散らばる。

 超高速の居合抜き――だが、抜刀した瞬間、すでに九本の刀身はりゅうによって全て切り刻まれていたのだった。


「改めて感服する――強さの……底が見えん」

 称賛を呟く壱殿。



「感謝する……闘ってくれて」

「おじちゃん。強かったぞ」


 全てが終わった時、式だけが唖然としていた。

「なにがあったか全然わからなかった……ガキンチョめ、強いとは知っていたが、ここまでの強さなのか……」


 そして、壱が半次郎の肩に手をやる。

「紙一重だったな」

「紙一重……か。全身全霊をかけた太刀をもっても、皮一枚傷を付けることすら叶わなかった。お主は、札束と硬貨を同様の扱いをするのか」

「失言であった……とは云わん。チビッ子に剣を振るう刹那、確かに手元が緩んでいたのを見てしまったからな。まるで、何かと重ねているかのように」

「ふっ、お主等は真に不思議な者たちよな。……ありがとう。最期の最後に願いが叶った。もう、思い残すことはない」


 半次郎は、己の最期を悟った。とても満足そうに……


 ――だが。

「助けよう!!」

「チビッ子、それ以上口にするな」

 壱がりゅうの意見に賛同しようとはしない。半次郎の気持ちを汲んでのことだったからだ。

「なんでだよ?」

「恥を……かかせるな」

「恥ってなんだよ! 助けることなんて恥ずかしくないぞ!」

「精一杯闘った相手にだよ!」

 すると、半次郎がりゅうを説得しに来た。感謝の念を込めながら。

「金髪の小僧よ――その通りだ。もう思い残すことはないのだ。このまま静かに眠らせてくれないか?」

「なんでだ!?」

「仲間も既にいない。弟子の――仲間のところへ行きたいのだ。わかってくれ……」


「ぶううううううううううう!!」

 すると、りゅうが突然持っていた治療薬を半次郎の肩にブッ刺した。

「何をする!?」

「諦めるなよ!! 強いのに、何で簡単に諦めるんだよ!」

「それは……」


「わかってやってくれ」

 そういってきたのは式だった。治療薬を注入され、困惑している半次郎の目の前に立って。

「以前――オレもこの小僧に云われたよ。『生き抜くことに戸惑うな!』――てな。なぁ、もう少しだけ足掻いてみないか?」

 その言葉に、半次郎も大きく頷いた。

「そうだ……生き抜くことは、かくも困難なこと。現代において忘れ去られた思想。まさか、この歳になって、それも子どもに教わるとは。このような世界でその台詞を聞けるとは、な……。誠に、真の武士なのだな」


「ありがとう。名をもう一度聞かせてくれ。この半次郎に」

「ぼくの名前はりゅう。また勝負しよう! 約束だぞ!」

「……りゅう、か。忘れぬぞ、その名」

 その後半次郎は何も云わず頭を下げ、隣に走る車両へ飛び移り、また隣の車両へと飛び移りながら姿を消していった。



「ごめん。あげちゃった」 

 申し訳なさそうに頭を下げるりゅう

 すると、壱殿が背を向けてしまった。

「…………」

 さらに肩を落としてしょぼくれるりゅう。


「さて、と。早いところ薬を探そうぜ」

 式さんは両腕を上に大きく伸ばし、後ろへと振り返る。


「二人とも、怒ってないのか?」


 二人とも振り向かないまま会話を始めた。

「おい壱。何かあったか?」

「いや、知らんな。サングラスが曇っていてな、何も見ていなかった」

「…………ごめんよ」


 りゅうが落ち込み俯く。ちょっと泣きそうになる。

 謝ると同時に式さんが振り返り、壱殿がりゅうを抱きかかえ、式さんがりゅうの下げた頭を優しく撫でまわした。

「謝ることなどない――惚れ直したぞ!」

「全く、大したお子様だぜ!」

「あと、パチからチャットだ。ワクチンを四本手に入れたようだ。残り三本、探すぞチビッ子!!」


 顔をあげたりゅうに笑顔が戻る。

「エヘヘッ! うん!!」 



元気をください

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