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ある手紙  作者: ミノマ
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彼女と手紙

自殺や病院についての表現がありますが作者は全くの推測で書いています。ご了承ください。

 松本菊治様


 突然のお手紙に、びっくりするかもしれませんね。あなたからの年賀状も、暑中見舞いも、全部無視してきたのに。そもそも郵送にするべきかはかなり悩んだのですが。失敗しても届いてしまうから。「やっぱりやめ!」って、郵便屋さんに言えれば問題ないんだけどね。置き手紙にしようかなとも思ったんだけれど、でも私の部屋は完璧に片付けてきれいになってしまったので、無駄なものはいっさい置きたくなかったのです。あ、この手紙が無駄ってわけじゃないんだけど。

 でも大丈夫。今回は絶対失敗しないようにしているんです。ぴったりな建物を見つけました。予行演習もしました。フェンスの目の前まで、誰にも見つからずに辿り着きました。こんなことに予行演習だなんてと、松本君はあきれてしまうかもしれませんね。だけどやり遂げたかったのです。もし練習のようにうまくいかなくても(たとえば誰かに見つかって、止められそうになっても)、走って逃げてジャンプ、それだけでいいはずです。

 私は今までなにひとつやり遂げたことはありませんでした。その上なんとも平凡な人生でした。平凡を嫌う私の感情さえ平凡に見えて、なんとかこの状況を打破したかったのです。

 人には何とも自暴自棄に見えるでしょう。まだ若いのだからと止める人もあるかもしれません。でもね、そういう人はあとになってきっと言うと思うのです。長いこと生きてきたんだから今さら、と。

 本当に悩んで私と同じ結論に達した人と私は、結論こそ一緒だけど、だけど決して一緒にしないでほしいです。私は全く深刻ではありません。その点では本当に申し訳ないと思っていますが、私は全くの思いつきでこのことをやり遂げようと思っているのです。

 多くの人に迷惑をかけることになると思います。心的ストレスはもちろん、物理的に被害を被ることもあると思います。本当に自分勝手な私を許してはもらえないでしょう。でも許しを乞えないことを恐れているようでは、私は非凡になれないと、思ってしまったのです。

 というわけで私は死にますが、あなたにこうして手紙を送ったのは言いたいことがひとつあったからです。心して読むように。


 私はあなたのことが好きでしたが、菊治という名前は私の祖父の名前と同じなのです。だから今まであなたの告白を断っていました、ごめんなさい。だって私、おじいちゃんのこといつも「菊じいちゃん」って呼んでたから、かぶっちゃってしかたないんだもの。

 では明日の朝この手紙をポストに入れて、その足で飛び降りに向かいます。おやすみなさい。


 六月十五日

 きれいな満月

  本田架莉




 そんな手紙が送られてきたのは、彼女が車にはねられて病院に運ばれた次の日だった。手紙を読むに、彼女は結局、自分を殺すことをやり遂げられなかったようだった。


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