プロローグ2。オリバー・フリスキーとマール・ロバルト
時間は数年遡る。
私の名前はマール・ロバルト。科学者だ。
あの時の私の日課は朝、朝刊とカフェで買ったサンドイッチとコーヒーを持ち、友人で同僚のオリバ・フリスキの部屋を訪れる事だった。
オリバーは大学時代に知り合い、共に院を出て、同じ研究所に就職した。
彼は天才的な閃きの持ち主だが、欠点は数えきれないほどあった。
まず、朝は自分で起きられない。
よってこうして私が毎朝、渡された合鍵で彼の部屋を訪れているわけだ。
「……またか」
部屋に入るとまず鼻に付くのは決まって女性用の香水の匂い。
彼は大変な遊び人で毎晩どこかで見つけた女を部屋に連れ込み、一晩を共にしている。
整った顔に甘い言葉の数々に馬鹿な女達は騙されるのだ。
私は寝室のドアを開けると、ベットの膨らみを気にする事なく、カーテンを開けた。
「う、うぉぉ……」
呻きと共にオリバーが顔を出す。
彼を起こすのには日の光が最適だ。
「おはよう、オリバー」
「あ、あぁ…おはようマール」
「ひどい顔だ」
「君に言われたくない」
と、互いに憎まれ口を言いながらチラリとオリバーの隣でこちらを見ている女を見た。
「やあ!!昨晩は楽しめたかな?」
「そりゃもう!!最高だった!!」
彼女の代わりにオリバーが答える。
「何せ彼女は生粋のマゾヒストだからね、首を締めた時の締め付けと言ったらもう最高だよ」
「やめろ、朝から気分が悪くなる、君はシャワーでも浴びて帰るんだ」
「君も試してみれば良い」
「オリバー…馬鹿な事を言うな、さぁ早く!!」
強めの言葉に恐れを持ったのかそそくさと部屋を出る女。
「なんだそんなに怒って?彼女が何かしたかい?」
「怒ってない、守ったんだ、さぁ早く撮った物を寄越しな」
オリバーの趣味は人間観察。しかし彼の場合は行為の最中の映像を隠しているカメラで録画すると言う最悪なものだ。
何でも、その映像をネットにばらまき、相手の絶望した顔を見るのが最高に興奮するらしい。
よって私が毎日のように録画映像を消去しているのだ。
「この変態野郎」
「ありがとう、親友」
「不公平じゃないか?」
女を手早く家から脱出させた私はリビングでオリバーと朝食をとっていた。
「君はカフェ『サニー』で購入した生野菜と生ハムと卵がギッシリつまったサンドイッチとしっかり焙煎させたコーヒーなのに俺はパサパサなパンに生温いミルクと言う不公平差についてだよ!!」
「だったら君も早起きして一緒に『サニー』で朝食をとろうじゃないか」
「君がいなければ起きられないし、日光は僕の敵だ」
「だったらパサパサなパンで我慢するんだな、僕は栄養満点のサンドイッチを楽しむから」
「君の考えがわかったぞ、それは俺に対する嫌がらせだね」
「ご名答だよ、ホームズ君」
「ワトソン君、実に私の事をわかっている人間だね、腕ずくでは僕に勝てないと踏んで精神的に攻撃するなんて」
「負けたく無いなら自分で起きろよ」
「それは嫌だね、俺が早起きしたなら俺自身が生まれ変わる時だよ」
パサパサなパンを食べながらオリバーは笑いながら言った。
「…はぁ」
私達の勤めている研究所は主に薬品研究や新型武器の製造に携わっていた。
聞くと物騒だが行っているのは「未知の薬品の研究」や「非殺傷兵器の開発」などた。
たまに警察や別の機関から協力を求められたりしている。
この日もそうだった。
ある機関から謎の薬品の研究を求められている。
「行儀よくしてろよ」
「お前は俺のお袋か?」
依頼人が待つ部屋に向かいながら彼をたしなめるが効果は無いようだ。
「美人だといいな」
「馬鹿」
「なんだよ、ヤるときはお前も誘おうと思っていたのに…」
「……はぁ」
私は心から依頼人が女で無いと祈った。
ドアを開けるとそこに居たのは……
「残念だったな」
「期待していなかったさ」
黒いスーツを着た年配の老人が居た。
見たところ日本人か?
「どうも、はじめまして」
取り合えず挨拶を済ませ私達三人は椅子に腰掛けた。
「夜遊博士貴方達の依頼は?」
夜遊矛学、と博士は名乗った、どうやら国と直結した機関に所属しているらしい。
「先日私達の機関はある薬品を発見しました」
博士は頑丈そうなトランクを前に出し開けた。
中には対衝撃吸収クッションに包まれた一本の試験管が入っており中身は赤い液体が入っている。
「ほほぅ!!」
「これは?」
「私達は『YMB 』と読んでいます」
略名なのかそうでないのかわからなかったが、薬品を見たオリバーは興味を引かれた様だ。
「詳しい資料はここにありますので、あなた方は『YMB 』が持つ作用について調べて下さい」
「わかりました!!必ずやいい研究結果をお知らせしましょう」
隣でオリバーが快く了解の言葉を言ったがこの時私は言いようもない不安があった。
後にこの薬品『YMB 』がオリバーの人生を大きく変えてしまう事になるのだ。