前を向けずに今日を歩く [千文字小説]
「全然駄目だな…」
「もう、別れようじゃないか…」
「限界だと思わないか?」
「俺は、お前の顔なんて二度と見たくないんだよ」
「だから、俺と別れてくれないか?」
「だって、俺達はもう限界だろ?」
「正直さ、お前も飽きてたところだろ?」
「そう思ってたんだろ?」
「だからさ、別れようじゃな 『ッパン!!!』 」
俺はここでビンタを食らっちまって…。
俺達は、いわゆる幼馴染と呼ばれるもの。
もしくは、腐れ縁と言っても良いかもしれない。
いいや、そっちの方がしっくりくるから、そっちにしておこう。
とりあえず、腐れ縁の俺達は、気が付けば一緒だった。
親が友達で、いつも一緒に遊んでいて、それで気が付けば付き合っていた。
正直、どっちから告白したかも忘れるぐらいの仲で、お互いに想い合っていた。
それは、今思えば“友達”としてだけだったかもしれない。
なぜそう思うのか? なぜそう思ってしまったのか?
それは簡単なことで、俺達の間には“恋愛感情”というものが生まれなかったからだ。
なぜそんなことになってしまったのだろうか?
気が付けば向こうとは、気兼ねなく話せていた。
何事も偽りなく話せていたし、気も使うことなく過ごしていた。
しかし、恋愛を生み出すためにはお互いを偽りで飾り、気を蔓延らせてではないと円満にはいられない。
残念だが、それが恋人と言うものだ。
そして、その生活に耐え抜き、うまくいったものだけが、夫婦となるのだ。
俺達にはそれができなかった。
昔と変わらない話し方、昔と変わらない接し方。
果たして、そんなもので“愛”が生まれるだろうか?
いいや、生まれることはない。
それが、今の俺達の関係なのだから。
だから、俺は君に告げる。
「もう、別れようじゃないか」
どうせ、結ばれない恋なのだから。
一緒にいても、好きでいたとしても、
それは“愛”じゃなく、“恋”じゃなく、ただの“友達”。
「お前の顔なんて二度と見たくない」
これは、僕が自己満のために放った言葉で。
「会いたくない・顔も見たくない」
絶対に、そんなはずはなくて―――。
ただ、君に会えば切なくなるから、
別れを悔やむことになるから、言ったことで。
大好きだから、君を愛していたから、それを言っただけで。
もう、戻ることはできないのかな?
君に片思いをしていたあの頃に―――。
もう、戻ることはできないのかな?
君と付き合いだしたあの頃に―――。
そんなことはできやしないのに、俺は前を向けずに今日を歩く。